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米金融当局が想定のバランスシート拡大、ウォール街の期待にとどかず
Rich Miller
2019年9月30日 15:05 JST
• 当局と市場との見解の隔たりで10月FOMCは危険をはらむものに
• 「自律的」拡大を想定の米金融当局、QEとの違いの強調に腐心
金融アナリストは、米連邦準備制度がバランスシートを拡大し、短期金融市場の混乱のリスクを減らすには、米国債約2000億−5000億ドル(約21兆6000億−54兆円)相当を購入する必要があると指摘する。
これほど多額のオペとなれば、金融当局者の多くが現在話しているバランスシートの「自律的」拡大を大幅に上回ることになると考えられる。
ワシントンのFRB本部
それはさらに、金融当局が先の金融危機の際に活用し、トランプ大統領が肯定的に語っているような量的緩和(QE)プログラムとの類似点を想起させるのは確かだろう。
https://assets.bwbx.io/images/users/iqjWHBFdfxIU/iWjOgG_j6JXk/v2/pidjEfPlU1QWZop3vfGKsrX.ke8XuWirGYh1PKgEw44kE/-1x-1.png
金融当局者はこれに対し、資産購入を再開することになっても、経済規模の拡大に伴う通貨および流動性需要の増大への当然の対応だとして、QE再開に当たるとの考えを否定しようとしている。
連邦準備制度理事会(FRB)のパウエル議長は18日の記者会見で、「バランスシートの自律的な拡大をいつ再開させるのが適切か、われわれは点検する方針だ」と述べるとともに、10月29、30両日の次回連邦公開市場委員会(FOMC)会合の際にこの問題を議論すると話した。
こうした議長の発言は今後1年間の米国債購入が約1000億−2000億ドル相当となることを意味し、問題であるとアナリストは指摘。10月の次回FOMC会合後にウォール街が発表を期待している額を大きく下回るからだ。
「それがメッセージ上もしくは政治的意味合いを持たないのであれば、まとまった額の米国債をざっくばらんに購入するのが明白な選択肢となるだろう」と、ライトソンICAPのチーフエコノミスト、ルー・クランドール氏は電子メールでコメント。「ただ、FOMCにそのような意欲があるか、全く分からない」と記した。
さらに、「これにより、10月の会合は市場にとって危険」をはらむことになり、金融当局が利下げを見送る場合は特にそうだと付け加えた。
JPモルガン・チェースの米国担当チーフエコノミスト、マイケル・フェロリ氏もこれに同意する。金融当局がずっと小規模なバランスシート拡大に着手するなら、投資家の失望は「極めて大きい」ものとなる恐れがあるとの見方を示した。
フェロリ氏は、金融当局が10月に今年3回目となる利下げに踏み切ると予想。ただし、投資家にはそれほど確信はない。フェデラルファンド(FF)金利先物市場の取引を踏まえると、投資家が織り込む10月利下げの確率は5分の2程度となっている。
原題:Fed Backs Organic Balance Sheet Rise, Wall Street Wants Whopper(抜粋)
https://www.bloomberg.co.jp/news/articles/2019-09-30/PYMNZW6JIJUO01?srnd=cojp-v2
NY連銀総裁、銀行の準備金増やす必要も−レポ金利高騰受け
Simon Kennedy
2019年9月30日 20:22 JST
ウィリアムズ総裁はNYT紙とのインタビューで語った
シカゴ連銀のエバンス総裁はCNBCのインタビューに応じた
ニューヨーク連銀のウィリアムズ総裁は米紙ニューヨーク・タイムズ(NYT)とのインタビューで、短期金融市場が最近見舞われたような混乱を繰り返すリスクを抑えるため、将来的には銀行の準備金を恐らく増やす必要があるだろうとの認識を示した。
同総裁は「システム内には多額の準備資金があるが、動いていない」と指摘。「こうした環境では流動性が容易に動かないことをわれわれは目の当たりにしている。つまりわれわれが狭い範囲内に金利を自律的にとどめたいのであれば、それを支えるだけの準備金の量を確実にしておく必要があるということを意味している」と語った。
ニューヨーク連銀は今月、レポ金利の急騰で約10年ぶりに翌日物システムレポの実施を余儀なくされた。ウィリアムズ総裁は連邦準備制度が新たなツール、いわゆる常設翌日物レポファシリティーを始動させる可能性があるとも述べた。
シカゴ連銀のエバンス総裁は30日、ニューヨーク連銀が行ったレポは「うまく設計されたプラン」を備えた「強力なプログラム」だとCNBCとのインタビューで評価。「タームレポは極めて有益だ。最も重要なのは潤沢な準備金の提供だ」とコメントした。
同総裁は「適切な金融政策に必要なフェデラルファンド(FF)金利目標の正しい水準について、予断を持つことは決してない」とも言明した上で、経済ファンダメンタルズ(基礎的諸条件)は引き続き良好だが、脆弱(ぜいじゃく)性も高まっていると分析。「われわれがすでに実施したことは十分かもしれないが、データを見極める際、われわれにはもっと必要かもしれないという示唆に対して私はオープンマインドだ」と話した。
原題:Fed’s Williams Sees Need for More Reserves After Repo Spike (1)、Evans Is Open-Minded About Right Level of Fed Funds Rate: CNBC (抜粋)
https://www.bloomberg.co.jp/news/articles/2019-09-30/PYMZXVT1UM1O01
為替フォーラム2019年9月30日 / 16:24 / 9時間前更新
コラム:米レポ金利高騰、その意味を探る=井上哲也氏
井上哲也 野村総合研究所 金融イノベーション研究部主席研究員
5 分で読む
[東京 30日] - 米国でレポ取引(国債等を担保とする短期資金の取引)の金利が高騰した。そのタイミングが、折り悪く金融政策を決定する9月の連邦公開市場委員会(FOMC)と重なったこともあって、現地の市場で様々な波紋を呼んでいる。
その直接的な理由については、既に幅広く報道されているように、連邦政府による税金の収納と国債発行に伴う資金決済が重なった点にある。これらはいずれも、連邦準備銀行(FED)に置かれた民間金融機関の当座預金から、連邦政府の当座預金への資金の振り替えを伴うため、民間銀行による資金繰りに使用できる資金の量が減り、金利に上昇圧力がかかった訳である。
しかし、レポ金利が最初に高騰した9月中旬の時点で、民間金融機関は1.4兆ドル弱の超過準備(預金準備の制約を受けることなく裁量的に運用しうる資金)を抱えていただけに、上記のような要因だけで金利の高騰を招くというのは奇妙でもあるし、しかも連邦政府による資金の引き上げは、十分に予見できた点とも整合的でない。
筆者は9月の最終週にニューヨークを訪問したが、その際に現地の市場関係者が共通して指摘した理由は、世界金融危機後の規制強化に伴う影響であった。
1つ目の要因は、米国でも既に導入されている流動性比率規制(LCR)に関連する。LCRの下では、余裕資金を銀行間市場で運用するよりも、中央銀行であるFEDの当座預金に置いておく方が規制上の比率は好転する。
2つ目には、自己資本比率規制の中で「グローバルな金融システムで重要な金融機関(G─SIFI)」に課される付加的な自本資本賦課(Capital surcharge)の算定においても、同様に銀行間市場での運用は不利に扱われる。
つまり、これらの規制による諸比率を集計する各四半期末にかけて、民間金融機関にはデータを良く見せるべく、余裕資金をFEDの当座預金に抱え込んだままにするインセンティブが強く働く訳である。
加えて米国の大手金融機関は、いわゆる「ドット・フランク法」の下で自己勘定によるマーケットメイクには総じて消極的になっている。こうした結果、市場全体では巨額の超過準備が存在しても、実際に取引される金額が少額になることで金利に上昇圧力が生ずることになる。
<連邦準備銀行の対応>
もちろん、FEDもこうしたメカニズムを十分に理解していると思われる。実際、パウエル議長も9月のFOMC後の定例会見において、短期的な要因な要因だけでなく、構造的な要因に関しても流動性比率規制に言及するかたちで説明した。
もっとも、FEDが9月の最終週を中心に実際に講じた対応は、レポ市場での数百億ドル規模という巨額のレポオペ(資金供給)を連日実施することであり、とりあえず10月初めまでこうした措置を継続することが表明されている。FEDはいわば対症療法のみで対応しており、市場の資金調節を専門的に担当するニューヨーク連邦準備銀行のウイリアムス総裁は、こうした対応で十分との考えを再三にわたって強調している。
確かに構造的な要因が金融規制の強化にあったとしても、それだけの理由で金融規制を修正することは現実的とは言えず、FEDがまずは対症療法に依存せざるを得ないことにも仕方がない面がある。
一方で、四半期末ごとに短期金利が高騰するリスクが存在し続けることは、金融システムの安定の観点からは、決して望ましいこととは言えないし、起点が米国内の金融市場であったとしても、日本を含む海外のプレーヤーにとって、ドル資金調達の場である為替スワップの利回りも含めて、裁定を通じて幅広い金融市場に影響を及ぼすことも考えられる。
金融政策に焦点を絞った場合にも、FEDが市場金利を適切にコントロールし得ないようであれば、利下げの効果が意図通りに波及し得ないことになる。
上記のようにFEDは、レポオペによる資金供給を機動的に行うとしているが、市場関係者からは、今回の対応が後手に回ったことに加えて、金融政策の正常化を開始した時点から生じていた短期金利の上昇圧力を軽視してきたとの批判も含めて、FEDの対応に不信感を示す向きもみられる。
<望ましい対応>
こうした状況を踏まえ、FEDは「定期的な資金供給」を行うべきとの議論が市場で強まっている。具体的には、一定額の国債買い入れ復活による資金供給を想定する向きが多い。
実は、FEDも今年3月のFOMCでバランスシート縮小を今年9月末に停止することを決定した際に、こうした対応を検討しており、この点はFOMCの声明文(バランスシートの運営方針)から明らかである。
しかし、市場関係者のこうした議論にも留意が必要だ。なぜなら、今回のような市場金利の高騰は資金の総量が不足しているためというよりも、民間金融機関による資金の抱え込みによるものだからである。国債買い入れによって資金を供給しても、民間金融機関はそれによって調達した資金をさらに抱え込むだけで、実際に市場で運用される資金の量には、大きな改善が生じない可能性が残る。
もちろん、FEDは資金供給の規模をさらに増やして、民間金融機関による資金需要が飽和する状況を作り出すことは可能であり、そうなれば市場での資金取引が活性化し、金利形成が安定化することも考えられる。
しかし、それはもはや市場金利の安定化のための技術的な資金供給ではなく、大規模な量的緩和そのものである。実は、市場関係者はなし崩し的な量的緩和の復活を期待しているのかもしれないが、少なくとも現在の米国経済の堅調さを考えると適切とは言えない。
しかも、上記のようにFEDが定期的で比較的少額の国債買い入れの復活を示唆したのは、銀行券に対する需要の伸びが想定以上に強いことに対応する面も強いとみられる。つまり、これは長期的な問題への対応として議論されている面が強く、今回のように四半期末ごとに生じうる問題への対応としては、間接的に有用であったとしても、的を射た対応とは言えない訳である。
これらの検討から明らかなように、今回のような市場金利の高騰を抑制する上では、民間金融機関が抱え込んでいる余裕資金について、より円滑に融通されるようにすることが、最も抜本的な対応である。そうした状況さえ実現できれば、現状よりもはるかに少額の超過準備の下でも、FEDが市場金利を安定させることができる。
そのことは、金融危機前の超過準備の水準が、20億ドルを下回るケースが一般的だったことからも明らかである。
そのためには、直接的には金融規制の修正が考えられ、例えば民間金融機関がFEDに保有する当座預金については諸比率の算定上で上限を設けるとか、capital surchargeの算定を四半期末でなく期中の平均にするといった対応がありうる。ただ、本来の金融システム安定との関連で慎重な検討が必要であろうし、いずれにしても時間を要する。
こうした点を考えると、FEDとしては資金供給のやり方に工夫を加えて、例えば、市場での裁定取引に対する制約の少ない主体に資金が回るようにオペの対象先を柔軟に見直すとか、常設のレポ・ファシリティのように民間金融機関に発動のオプションを付与する資金供給の仕組みを導入するといった対応をまず進めることが望ましい。
今回の問題は、金融危機の際と様相は異なるが、市場機能の低下という点では共通している。従ってFEDには「市場機能の最後の担い手(Market Maker of Last Resort)」としての役割が再び求められている。
*本コラムは、ロイター外国為替フォーラムに掲載されたものです。筆者の個人的見解に基づいて書かれています。
井上哲也氏
*井上哲也氏は、野村総合研究所の金融イノベーション研究部主席研究員。1985年東京大学経済学部卒業後、日本銀行に入行。米イエール大学大学院留学(経済学修士)、福井俊彦副総裁(当時)秘書、植田和男審議委員(当時)スタッフなどを経て、2004年に金融市場局外国為替平衡操作担当総括、2006年に金融市場局参事役(国際金融為替市場)に就任。2008年に日銀を退職し、野村総合研究所に入社。主な著書に「異次元緩和―黒田日銀の戦略を読み解く」(日本経済新聞出版社、2013年)など。
(編集:田巻一彦)
https://jp.reuters.com/article/column-tetsuya-inoue-idJPKBN1WF0LN
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