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“見せかけの緩和強化”を続ける日銀を待つ、本当の「修羅場」
https://diamond.jp/articles/-/215349
2019.9.20 5:15 ダイヤモンド編集部 西井泰之
米国は追加利下げ実施
日銀は“口先緩和”で手詰まりを露呈
欧米の中央銀行が相次いで金融緩和に転換するなか、日本銀行は 19日の金融政策決定会合で緩和策の「現状維持」を決めた。
声明では、必要な際は「躊躇なく、追加的な金融緩和措置をとる」と、前回7月の決定会合の表現を踏襲したが、黒田総裁は「前回より緩和に前向きになった」。
“口先緩和”で、利下げはできるだけ「温存」する構えだ。
だが思惑通りにいくのかどうか。
米中貿易戦争やブレグジット混迷などによる景気後退のリスクを、金融緩和で抑える「緩和競争」の様相が強まるなか、異次元緩和からの金融正常化ができないまま、「打つ手」の限られる黒田日銀の修羅場が近づく。
声明文では、景気の現状を、企業の収益や設備投資、雇用が高水準で維持され国内景気の基調は「ゆるやかに拡大」としたが、輸出は軟調で、「海外経済の減速の動きが続き、その下振れリスクが高まりつつあるとみられる」とした。
黒田総裁は会見で声明文を読みながら、「物価安定に向けてのモメンタムが損なわれる恐れが高まる場合は躊躇なく、追加的な緩和措置をとる」。
さらに、貿易戦争長期化などによる海外経済の減速の動きをあげ、「モメンタムが損なわれる惧れについてより注意が必要な情勢になりつつあると判断している」と、力を込めた。経済・物価見通しを作る次回会合で改めて下振れリスクなどを点検する考えを示した。
緩和策の「現状維持」を決めながら、「金融緩和について前回(決定会合)より前向きかと聞かれれば、その通り」と答え、会見などの発言で「緩和強化」に積極的な姿勢を市場に印象づけようとする“口先緩和”の姿勢は今回も同じだった。
欧州中央銀行(ECB)が12日に3年半ぶりの利下げや資産買い取りの再開を決め、18日には米国準備制度理事会(FRB)が0.25%の追加利下げを決めたなかで、円高回避のためにとりあえず緩和方向で足並みをそろえる形を作ったが、「修羅場」はこれからだ。
トランプ大統領が仕掛けた“緩和競争”
FRBの「予防利下げ」で加速
今回の世界的な緩和局面への転換の特徴は、「史上最長の景気拡大局面」にある日米に象徴されるように、一部の国を除けば実体経済はまだそれほど悪化していないにもかかわらず、各国が緩和に踏み出したことだ。
米中貿易戦争の長期化で先行きの不透明感が強まっていることや、来年の大統領選を控えるトランプ大統領が、自ら仕掛けた貿易戦争の国内経済への影響を和らげる思惑で、「ドル安」をかかげFRBに執拗に利下げ圧力をかけ続けていることがある。
FRBがトランプ大統領に配慮したかのように、「予防的利下げ」という形で、7月末、10年半ぶりに利下げを決めて以来、緩和の流れが一気に加速した。
これまでに利下げをしたのは、主要17ヵ国・地域。利下げによって、投資をしやすくし国内景気を支えると同時に、自国通貨安になり輸出が増える効果が期待できる。逆に金利をそのままにすると、通貨高になって輸出が減り景気減速が本格化する懸念があるため、各国中銀が緩和の流れに乗り遅れまいということになっている。
だが、金融正常化ができずにきた日銀には、利下げの余力は限られている。
銀行は収益悪化、生保は運用難
マイナス金利深堀りは「劇薬」
「イールドカーブコントロール(長短金利操作、YCC)」を中心にした金融政策の枠組みで、(1)銀行が日銀に預けている当座預金(政策金利残高)のマイナス金利の拡大や、(2)10年物国債金利の誘導目標(0%程度)引き下げが主要手段になる。
だが、長期の金融緩和が続いてきたうえ、景況感の悪化から長期金利までもマイナス化か進み、イールドカーブがフラット化してしまっている。
短期資金を調達、長期の融資で利ザヤを稼ぐ銀行は、貸出先が少ない地銀などを中心に利ザヤがとれなくなり、また生保や年金も長期金利のマイナス化で運用難に陥っている。
16年1月のマイナス金利導入時から、日銀では、銀行の日銀当座預金に対する付利を、基礎残高(金利0.1%)、マクロ加算残高(同0%)、政策金利残高(同マイナス0.1%)の「三層構造」にし、マイナス金利の適用は最小限に抑えてきた。
「緩和強化」をいいながら、実際は金融機関の収益に配慮もしてきたが、マイナス金利を拡大するとなると、金融機関の一層の収益悪化は避けられない。
プラス金利の基礎残高を増やしたり、マクロ加算残高の一部の金利を引き上げたりすることで、銀行収益への影響を“中立化”することも考えられるが、銀行の資金調達の中心である預金の金利をマイナスにすることは事実上、難しいから、マイナス金利の深堀りはいずれ壁にぶつかる。
欧州では、一部の金融機関は大口預金などに「口座維持手数料」をとる形にしてマイナス金利を適用することで、利ザヤを確保しているところもある。
だが日本の場合は、預金のウェイトが高いうえ、預金にマイナス金利を適用することには社会的な反発が強い。他国に比べ日本は家計などで現金を使うことがまだ多く、預金がマイナス金利になるとなれば、一斉に現金で引き出され、金融システム不安にもつながりかねないことにもなる。
日銀がマイナス金利で銀行に資金を供給することも議論として出ているが、こうした収益支援は「銀行への補助金」として新たな批判を生みかねず、一方では、借り手の企業側がより低利での融資を求めて、結局は、銀行の収益は改善されないことになる。
また長期金利の誘導目標引き下げも、すでに15年の長期金利も含めて“マイナス化”が進んでおり、いずれ壁にあたることが目にみえている。
現在、誘導目標の上下0.2%としている変動幅を柔軟化することも、拡大の幅を拡げるほど、YCCの形骸化につながるだけに限界がある。
円高圧力への効果読めず
「国債買い取り増」も形だけ
そもそも金利をさらに下げたところで、企業の投資が増えるとは限らず、むしろ銀行などの収益悪化を加速させ、金融仲介機能自体を壊してしまう負の影響の方が大きくなる可能性が強い。
米国との金利差は大きくないなかで、円高圧力をどの程度、弱められるかもわからない。逆にトランプ大統領から「円安誘導」との攻撃を受け、「為替操作国認定」をちらつかせられて、新たな重荷を背負うことになりかねない。
この日の会見でも、黒田総裁は「預金金利がマイナスになる可能性はない」「金利以外にもさまざまな政策オプションを組み合わせれば、緩和の余地はあると考えている」と、強気を装ったが、政策コストが大きすぎる「劇薬」しか残っていないのが実情だ。
国債買い入れを増額し量的緩和を拡大する可能性もなくはない。
YCCの導入後も、「年間80兆円」の国債買い増し枠は維持されてはいるが、実際の買い入れは20〜30兆円台に落ちている。この買い入れ額を再び増やし「量」の面でも緩和強化を演出する狙いだ。
だが、このことはYCC導入前の枠組みに事実上、戻ることになり、金融正常化の「出口」から遠くなる。
それで為替や国債市場がどう反応するかは読めないし、国債買い入れで日銀から供給された資金が、融資に回らず銀行の日銀当座預金に積み上げられてきたこれまでの経緯を考えれば、形だけの緩和強化に過ぎない。
「利下げ温存」の思惑
4回目利上げあれば潮目変化
為替や株式市場はECBの緩和転換や18日のFRBの追加利下げの後も大きな動きはなかった。
市場関係者の話では、7月末からの米国の緩和転換や中国に対する制裁関税第4弾の発動方針や「為替操作国」認定などの事態を織り込んだ形で、円ドル相場も一時、1ドル=104円台をつけた以降は落ち着いている。
FRBの追加利下げも予想された幅でとどまり、パウエル議長も、経済のファンメンタルズは堅調との見方を示した。FOMCメンバーの19年末の政策金利の見通しも、「さらに0.25%の利下げ」と「据え置き」、逆に「0.25%の利上げ」の3つに分かれている。
現状では、「米国が景気後退に陥る可能性はない」(黒田総裁)と、日銀は長期金利のマイナス幅拡大を容認しながら、10月の消費増税後の消費の状況や為替の動きをみながら、円高が1ドル=100円に迫る事態までは利下げは温存する姿勢だ。
それまでに景気変調の兆しが出た時も、フォワードガイダンス(先行きの指針)の強化やETFの買い入れを柔軟化するといった、「形だけの緩和強化策」でしのげるとの思惑だ。
FRBの「予防的利下げ」で関税引き上げなどの米経済の影響も緩和され、また10月以降、米中貿易協議で何らかの暫定合意に達し、市場の不安定が収まることを期待してのことだ。
だがそうした思惑通りになるのかどうか。
スマートフォンや玩具など、消費関連が大半の制裁関税第4弾が12月中旬に完全実施される見通しの中で、関税引き上げの影響でクリスマス商戦が不振に終わり、米国経済の減速感が強まる恐れがある。
景気の変調に金融市場が反応すれば、すでにレバレジッドローンなどの企業債務が積みあがっている状況では、株価急落を機に信用不安が高まり、消費や投資が一段と落ち込む悪循環に陥りかねない。
また米中貿易戦争での世界的なサプライチェーンへの影響が予想以上に大きかったり、景気の減速が強まっている欧州で新たな緩和措置が打ち出されるのを機に、ドル高を嫌ってトランプ大統領が利下げ圧力を強めたりする可能性もある。
「FRBも実体経済の悪化を示唆する指標が出ると、トランプ大統領の圧力で利下げをしたと受け取られる恐れがなくなるから、利下げを積極化する可能性がある。年内に予定される10月末か12月のFOMCのどちらかで3回目の利下げを決めるまでは『予防的利下げ』の範囲だが、4回目があったら、為替や株式市場の潮目も変わる可能性がある」と市場関係者は言う。
その時には、もはや「見せかけの緩和強化」ではすまされそうにない。
メンツにこだわり「先送り」のツケ
「やっている感」だけで漂流
16年9月に打ち出したYCCの枠組みは、「2%物価目標」を掲げて黒田総裁就任を機に始めた「異次元緩和策」が事実上、頓挫した後、再び金利を操作目標に戻し、表向きは緩和維持の姿勢を続けながら、金融正常化の「出口」を意識して続けてきたものだ。
長年の緩和政策の「負の効果」が看過できなくなってきたからだ。
金融機関の収益悪化による信用仲介機能の低下だけでなく、本来なら退場すべき企業が生き残るなど企業や産業の新陳代謝が進まない。超低利は預貯金や年金で老後の生活を送る高齢者が増えるなかで、消費が停滞する一因にもなっている。
また国債やETF買い入れを増やし続けてきたことで、国債は発行額の4割、株式も東証一部の時価総額の5%弱を保有することになり、資本市場も日銀による「管理相場」化してしまった。
YCCに切り替える前後から、これらの問題を「副作用」ということで認め、黒田総裁自身も、金利が一定程度まで下がると逆効果になる「リバーサルレート」の問題や、IT経済化で物価が上がりにくい「アマゾン効果」に言及し、軌道修正を図ってきた。
だが世界的な緩和転換の流れで、金融正常化の「出口」も封じられ、一方で効果のはっきりしない政策をまた続けざるを得なくなった。
「名目金利が0%になった状況では、金利を通じて投資や消費を増やす金融政策の効果はなくなっている。物価と金融政策の関係もかつてとは違ってきている。安倍政権のもとで無理やり飲まされた物価目標だったが、旗を降ろそうにも異次元緩和の失敗を認めることになるので、メンツにこだわってできないできた」。日銀OBの一人はこう話す。
日銀が国債の大半を買い取る財政赤字のファイナンスを事実上、担っている現状では、保有国債の減額を進めようにも、金利急騰(国債価格の急落)の引き金になり、金融機関の信用不安にもなりかねないため、「出口」を出ように出られないことになった。
リスクプレミアムを下げるという名目で進めてきたETFの買い入れを減額できないのも、株価急落が怖いからだ。
需給ギャップの改善が顕著だった2017年など、過去、利上げのチャンスはあったが、「執行部の一致」にこだわり、積極緩和を主張し続けるリフレ派の副総裁らを説得できないまま、緩和強化にみえるような仕掛けを入れたり、金融正常化に動ける余地を残したりと、どうにでもとれる玉虫色のパッチワークを続けてきた。
「効果があってもなくても『やっている感』を出すことがメインになってきて、金融政策がどっちを向いているのはわからなくなっている」(日銀OB)。その行き着いた先が今だ。
だがもはや「見せかけの緩和強化」ではすみそうにない可能性がある。かといって、マイナス金利拡大などに進めば、さらに「修羅場」が待っている。
(ダイヤモンド編集部特任編集委員 西井泰之)
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