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日産、西川社長解任は当然…不正に報酬水増しの一方、社員1万人削減&利益99%減
https://biz-journal.jp/2019/09/post_118462.html
2019.09.12 文=山田修/ビジネス評論家、経営コンサルタント Business Journal
日産、19年4-6月期連結決算発表 人員削減も公表(写真:つのだよしお/アフロ)
日産自動車の西川廣人社長兼CEO(最高経営責任者)の突然の辞任は、本人の本意ではなかった。詰め腹を切らされたかたちに至った直接の原因は、自らの報酬のかさ上げ問題だったが、西川氏への社内外からの批判は根強かった。
西川氏の挫折は、何よりカリスマだったカルロス・ゴーン前会長を放逐した後に、自らが十分な経営実績を残せなかったことにある。思わぬかたちで経営トップのバトンを受け取ってしまった側近型経営者は、過渡期に放り込まれた大企業の舵取りを取れなかった。では、その後任にどんな人材が登場するのか。日産の悩みと苦悩はまだ続くだろう。
■とどめを刺したのが報酬かさ上げ問題
日産は9月9日に記者会見を開き、西川社長の退任を発表した。9月16日付での辞任という形式になるが、9日の同社取締役会が西川氏にそれを要請した。実質的には日産経営陣の総意による更迭である。
前会長だったゴーン氏が金融商品取引法違反で逮捕されたのが2018年11月。西川氏はすでに17年4月から代表取締役社長兼CEOに就いていたが、実質的な立場としてはCOO(最高執行責任者)であり、ゴーン氏が真の経営トップとして君臨していた。
ゴーン氏の突然の逮捕劇で西川氏が急遽、経営トップの立場に立たされたわけだが、「思いがけず」という表現は当たらない。というのは、ゴーン氏を告発、放逐するのに大きな役割を果たしていたからである。
ところが、西川氏のCEOとしての立場はわずか2年半で終息することになった。今回、西川氏を退任に追い込んだのが、9月4日の監査委員会で報告されたゴーン氏らの問題に関する内部報告書とされる。西川氏自身も自らの報酬を不適切な手法でかさ上げした問題が指摘された。
これは、グレゴリー・ケリー前代表取締役が6月発売の月刊誌「文藝春秋」(文藝春秋)で告発していた。ケリー氏はゴーン氏とともに逮捕・起訴された人物である。ケリー氏としては自らを告発した西川氏に対して“You,too”という恨み節の暴露をぶつけたわけである。検察は西川氏を「嫌疑不十分」として不起訴としたが、都内在住の男性がその決定に対して検察審査会に不服の申立を行うなど、西川氏に対する批判も根強かった。
西川氏はそもそもゴーン氏が逮捕される直前までは「日本人としては随一の側近」という立場にあった。その「もっとも近かった側近」の「No.2経営者」がゴーン被告の日産や社会に対する不法行為を知らなかったはずはない、同罪ではないかという指摘もあった。逆に「知らなかった」とすれば自身がCEOとしてゴーン氏に対する監督不行き届き、つまりガバナンス上の責任が問われる立場だった。
ケリー氏が指摘していた西川氏の報酬不正問題とは、ストック・アプリシエーション権(SAR)に関するもの。西川社長は13年5月にSARに基づいた報酬を受け取る期日(権利行使日)を設定し、報酬を受け取る権利を行使した。その後、日産の株価が上昇した。西川氏は行使日を1週間ほど後ろにずらして権利を再行使し、当初定められたよりも約4700万円多くの報酬を受け取っていたのだ。業績連動型の報酬制度であるSARでは、一定の期間中に株価が事前に決められた水準を上回ると、差額部分が現金で支払われる。
本事案が9月4日の監査委員会で報告されたことで、西川氏は「差額は返納する」としていた。しかし、9日の取締役会ではそれでは収まらず、ある社外取締役は西川氏に対して「ただちに辞任すべきだ」と迫ったと報じられている。
■実績を示せなかったこと、経営者はそれに尽きる
しかし、私に言わせれば、西川氏の最大の蹉跌は、日産の経営者としてなんら顕著な経営実績を挙げられなかったことだ。それどころか、西川時代に入ってからの経営状況は大きく後退し、企業価値は毀損されてしまっている。
ゴーン氏が実質トップだった逮捕前の18年11月の日産の株価は、1020円前後だった。ところが、今月6日の終値は674円と、34%も下落している。企業価値(株式総資産額)としては、なんと約1兆4000億円も毀損している。日産の株主を中心としたステークホルダーとしては、これが西川経営の「1年間の決算」だとしたら憤激に絶えなかったのではないか。西川退陣の正式決定を受けて、9月10日の日産株価の終値は697円となり、市場はこれを歓迎した。
日産の直近の19年度第1四半期(4〜6月)決算をみてみると、売上高は2兆3724億円で対前年同期比12.7%減。トヨタは同3.8%増、ホンダが同0.7%減だった。日産の2桁減収というのは「一人負け」ということだ。
利益の推移はもっと悲惨だ。営業利益は16億円で、同98.5%減となった。前年同期に1091億円あった利益を、西川経営によってすべて失ってしまったということだ。当期利益も同94.5%減と悲惨なものだった。
9月9日に日産は、「ゴーン被告によって不当に支出された金額は総額約350億円。これに対して賠償の訴訟を起こす」と、発表した。この数字を皮肉に読むと、次に解釈できる。
「ゴーン被告に350億円持っていかれても、彼がそのまま経営を続けていれば1000億円強という利益が19年度第1四半期にあったかもしれない」
西川氏の経営によって日産が失った利益の規模は、これほどにも大きいのだ。「経営者は結果がすべて」という言葉が正しいとすれば、西川経営の通信簿は赤点だけが目立つ。
■人員削減をして自分は……
ゴーン氏が去り、西川氏が真に総帥権を持つようになってからのこの1年、日本を代表してきた名門企業に、大きな良いニュースは聞こえてこなかった。売上は2桁以上の減収で、車種別の売上順位は下がるばかりで、話題をさらった新車の発表も記憶にない。新技術の開発や新しい製造拠点の開設、新ビジネスモデルの話題もあっただろうか。
日産が7月、23年3月期までに日産グループ全従業員の1割に当たる1万2500人もの従業員を削減すると発表。その一方、「社長だけ不正に4700万円過分に報酬をもらっていた」ということだ。
日産のステークホルダーである株主、社外取締役、社員すべてが“アンチ西川”となり、西川氏は四面楚歌に陥っていた。そんな西川氏に、経営者としての資質があったのだろうか。
この疑問に答えるためには、「トップ経営者と側近経営者」という概念を持ち込むとよいだろう。西川氏はゴーン氏というカリスマ経営者の下で、志賀俊之氏(17年まで副会長)に続いて「日本人側近のNo.1」となった。ゴーン氏が日産に着任した1999年の翌年、欧州日産から帰国した時はまだ購買企画部の部長という任にあった。その後、ルノーとの協業を推進するポジションをこなしたことでゴーン氏の目に留まり、とんとん拍子で経営の階層を上り、13年にCCO、17年にCEOに就任した。
西川氏が日産のCCO、CEOとなった後にも、実質的な最高トップとしてはゴーン氏が君臨していたわけで、西川氏が重用されたのはひとえにゴーン氏を補佐する幹部経営者、あるいは側近経営者としての要素だったと私は見ている。
当然、トップとNo.2ではその責任もプレッシャーも大きく異なる。ゴーン氏が逮捕により日産の経営現場から退場してから、西川氏の経営実績として報道されたのは、日産の資本政策や取締役人事をめぐるルノーとの交渉だった印象が強い。
側近経営者というタイプは、組織内での調整や組織内交渉に長じているのではないか。西川氏も自分に興味があること、つまりパワーポリティクス的なルノーとの交渉ごとに傾注するあまり、ビジネスの伸長や新技術の開発、社員のモチベーション向上などに力が入らなかったのではないか。1年間の業績と日産のステークホルダーの反応を見ると、トップの器としての西川氏の鼎の軽重が今回問われ、その放逐は致し方のないことだったのだろうと思ってしまう。
■次期社長は真のリーダーシップを
西川氏の辞任を受けて、日産では指名委員会が後任の選定に入っているという。10月には決定する意向で、すでに100名程度のロング・リストから10名程度のショート・リストに絞り込み、候補者のなかには日産の関係者も含まれるという。どんな後継経営者が登場するのか見当もつかないし、大いに興味がある。当然ながら、ゴーン氏や西川氏を反面教師として選考していることだろう。
トップ経営者としてのリーダーシップがある人なら、日本人に限る必要はない。ルノー側から来てもいいではないか。現にゴーン氏も当初は立派に再生経営者の責を果たし、カリスマ経営者として名声をほしいままにしていた。
シャープが経営問題により台湾・鴻海精密工業(鴻海)に実質吸収され、戴正呉氏が会長兼社長として送り込まれてきたとき、いったいどうなることかと日本人は皆心配していたが、戴氏は劇的にシャープを再生させてしまった。
日産は現在、不調に沈んでいる状況だ。こんな状況の会社をV字再生させるには、従来のやり方を繰り返す「経験再生の方策」をとりがちな日本人よりも、ゴーン氏や戴氏のように、しがらみのない新しい経営手法を導入できる外国人のほうがいいかもしれない。
日産の指名委員会が素晴らしいプロ経営者を招聘することを大いに期待したい。
(文=山田修/ビジネス評論家、経営コンサルタント)
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