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新卒で年収600万円超も…薬剤師、ドラッグストアvs.調剤薬局の争奪戦激化
https://biz-journal.jp/2019/09/post_116599.html
2019.09.01 文=奥田壮/清談社 Business Journal
ココカラファインの店舗
好調な売り上げを背景に、まさに群雄割拠となっているドラッグストア業界。その覇権争いは激化しており、業界7位のココカラファインと同4位のマツモトキヨシホールディングスが経営統合に向けて協議を始めている。ココカラをめぐっては、経営統合の相手としてマツキヨと同6位のスギホールディングスの名前が挙がっており、いわば“ココカラ争奪戦”が繰り広げられていた。
そもそも、ドラッグストアは地域密着型のチェーン店が多く、これまでも出店の空白地域を埋めるためにM&Aは頻繁に行われてきた。しかし、今回のココカラをめぐる動きは、単純な規模拡大のために繰り広げられてきたM&Aとは異なるという。
薬局のM&Aに特化したコンサルティング会社・MACアドバイザリーの花木聡社長は「業界の大再編の始まり」と話す。
「ドラッグストア業界はここ数年で寡占化が進み、上位20社が市場の86.4%を占めています。今後はさらにM&Aが進み、将来的には4〜5グループに再編されると思います」(花木氏)
■ココカラファインがモテモテの理由
その大再編の先陣を切るのが、マツキヨとココカラの動きといえそうだ。この2社が組めば、一気に業界首位に躍り出る。また、ココカラとスギが組んだ場合でも同様にトップに立つとされていた。では、なぜココカラがM&Aの相手として人気なのか。その秘密は株主構成にあるという。
「ドラッグストア業界はオーナー色が強く、大株主に創業家の関係者がずらりと並ぶような会社が多いので、買収が難しい。その中で、ココカラの株はファンドや銀行の割合がかなり高い。つまり、資本の論理だけで言えば、TOB(株式公開買付け)で株価を上げれば買収が可能なのです」(同)
ココカラはセガミメディクス(大阪)とセイジョー(東京)の経営統合によって、2008年に誕生した。そのため、オーナー関係の持ち株比率が薄まっているのだ。
一方のマツキヨとスギは典型的な同族経営企業だ。マツキヨの創業者は店名の由来となっている松本清氏で、現在の会長は息子の松本南海雄氏が務めている。スギは創業者の杉浦広一氏が現在も最前線で指揮を執っているが、すでに2人の息子が経営の中核を担うまでに成長している。両社の安定した同族経営は、しばらく続きそうな気配だ。
マツキヨとスギのように、創業者一族の影響力が強い会社同士の統合は難しい。一方、明確なオーナーがいないともいえるココカラは、同族経営のマツキヨとスギからすれば、M&A先としては願ってもない存在なのだ。また、ココカラを手にするメリットはほかにもある、と花木氏は分析する。
「マツキヨは1994年から2016年までの22年間も業界の首位をひた走っていましたが、現在は4位に甘んじています。ココカラとのM&Aで、長らく定位置だった王座を奪回したいという思いが強いのも、ひとつの理由でしょう。愛知県が発祥のスギは関東・中部・関西に店舗が集中し、マツキヨがM&Aで拡大してきた全国展開とは一線を画します。どちらかと言えば、全国展開同士のココカラとマツキヨが統合したほうが、販売の連携や物流の効率化などで相乗効果は生まれやすいでしょう」(同)
■ドラッグストアのライバルは調剤薬局に?
ココカラ争奪戦の余波は、ドラッグストア業界のみにとどまりそうにない。
これまで、ドラッグストアのライバルはコンビニやスーパーと見られていた。ドラッグストアは安価な食品や日用品の品揃えを増やしてコンビニやスーパーの顧客を奪い、利益率の高い医薬品を売ることで売り上げを伸ばしてきた。しかし、今後はドラッグストアの最大のライバルは調剤薬局になりそうだという。
「長らくドラッグストアと調剤薬局は棲み分けされてきましたが、ひとつの理由として、ドラッグストアに就職する薬剤師が少なかったことが挙げられます。しかし、最近はドラッグストアが積極的に薬剤師を雇用しています。調剤薬局は大手でも新卒の給料は400万〜500万円程度ですが、人材の獲得競争が激しいドラッグストアでは新卒で500万〜600万円。さらに、地方ならそれ以上出すというケースもあります」(同)
また、近年「かかりつけ薬剤師」を増やしたい国の方針によって、調剤報酬が大幅に変更されている。大病院の前に並ぶ「門前薬局」の点数が抑えられ、駅前やロードサイドに店舗が多いドラッグストアのほうが調剤で稼げるようになった。
追い風に乗って、ドラッグストアは約7.8兆円の調剤薬局市場を切り崩すため、高給で薬剤師を確保し、調剤併設店舗を増やしている。ココカラは前身のセイジョー時代から調剤に力を入れており、その点も魅力だという。
一方で、攻めに転じたい調剤薬局の業界再編も活発化しそうだ。花木氏は「コンビニやスーパーが調剤薬局と連携する流れが加速している」と述べる。
「セブン&アイ・ホールディングスは調剤最大手のアインホールディングスの株を約8%持つ大株主です。セブンと小売業界のトップを争うイオンも調剤8位のメディカル一光の株を25%以上持っています。これまでの業界の壁を越え、小売店、ドラッグストア、調剤薬局が入り交じるような形で再編が進むでしょう」(同)
イオンは、ドラッグストア業界1位のツルハホールディングスと、2位のウエルシアホールディングスの筆頭株主でもある。今後の業界再編の中心になるのは間違いない。
スーパー、コンビニ、ドラッグストアの境界線はすでに曖昧だ。各社は激しい競争を繰り広げながら、虎視眈々と相乗効果が期待できる調剤薬局を狙う。ココカラをめぐる今回の動きは、小売業界全体を巻き込む大再編の幕開けにすぎないのかもしれない。
(文=奥田壮/清談社)
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