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経済大国化するベトナム、日本の最重要パートナーに…“日越同盟”が日本経済を大きく左右
https://biz-journal.jp/2019/08/post_115246.html
2019.08.26 文=浜田和幸/国際政治経済学者 Business Journal
経済発展が続くベトナム・ホーチミン市(ロイター/アフロ)
去る6月に大阪で開催されたG20首脳会議では、米中貿易対立の行方に世界の注目が集まった。しかし、同会議に参加した37の国や国際機関のトップのなかで、フットワークの軽さではベトナムのフック首相の右に出る人物はいなかった。
何しろ、2日間の首脳会議の合間を縫って、大阪とハノイを往復しているのだから。まさに片足を大阪に置きながら、もう片足をハノイに置くという離れ業を見せてくれた。G20の会場で各国首脳との会談や日本の経済団体との懇談をこなしていたと思ったら、ハノイではEUベトナム自由貿易協定の調印式に臨むという離れ業だ。大阪滞在中も和歌山に足を運び、東京でも安倍晋三首相との会談のみならず、1500人の日本人ビジネスパーソンを前に講演するなど、実に精力的な動きを見せていた。
このところベトナムの経済成長は著しく、7.8%の成長率は他を圧倒している。昨年は海外からの投資額が3500億ドルを超えた。すでに3000社を超えるスタートアップ企業が躍進を続け、上場企業による資金調達額でもシンガポールを追い抜いた。農業分野でも医療、観光、不動産開発といった分野でも海外からの関心や投資が高まる一方だ。いうまでもなく、日本からの企業進出数もうなぎ上りである。
人口1億弱のベトナムでは平均年齢が28歳と若く、インターネットショッピングも急拡大中で、昨年は330億ドルのオンライン決済を記録した。再生可能エネルギーの導入も進んでおり、総発電量に占めるクリーンエネルギーの割合は毎年10%増加している。
日本が進める高度人材の受け入れ事業においてもベトナムは筆頭株である。いわゆる「技能実習生」や留学生の数でもベトナムは断トツのナンバーワン。日本で学ぶ外国人留学生のうち、4人に1人はベトナム人だ。日本企業の7割がベトナムへの進出や投資を検討しているとの調査もあり、そうした日本企業で働きたい希望を持つベトナム人が多いのもうなずけよう。
そうした背景もあり、ベトナムで日本語を学ぶ学生数は急増中だ。日本語を学ぶ国民の比率が世界でもっとも高い。ベトナムから日本を訪れる観光客も昨年31万人に達し、5年間で4倍に増えている。日本の商品やサービスに惹かれるベトナム人は増える一方である。
実は、イオンモールはベトナムで4カ所の大型店舗を経営しているが、日本の商品を売るだけではなく、ベトナムの商品を毎年3億ドル近く日本に輸出している。また、高島屋も上海の店を閉め、ベトナムでの事業を拡大することを決めた。要は、米中貿易摩擦が激化すればするほど、「チャイナ・プラス・ワン」の代表であるベトナムは「漁夫の利」を得ることになるだろう。
共産主義の国であるが、このところ国営企業の民営化も盛んで、インフラ分野から製造業に至るまでベンチャー精神がみなぎっている。そうした動きを象徴するかのように、2019年にはベトナム初の国産自動車メーカー「ビン・ファスト」がデビューした。また、バイクや自動車の相乗りサービスも盛んである。「ファスト・ゴー」と呼ばれるアプリ提供会社は発足間もないが、アメリカや韓国の投資家から資金を集め、ベトナム国内に限らず東南アジア全域、そしてアメリカやブラジルにまでサービス範囲を広げる計画を進めている。その促進役を果たしているのも地元企業の「ビナキャピタル」という投資会社にほかならない。
彼らの発想は大胆で前向きだ。「アメリカ発のウーバーを追い抜け! アジアで先行するシンガポールに負けるな! 競争相手に挑戦することで、われわれも成長する。われわれの強みは資金力だけではなく、戦略にある!」。具体的には、ファスト・ゴーでは運転者からコミッションを取らない。その代わり、1日の売上が一定金額を上回った場合に、少額のサービス利用代金を受け取る仕組みとなっている。ラッシュアワーにも追加料金を請求せず、利用者のチップを期待するというわけだ。すでに東南アジアでは破竹の勢いを見せている。アジアの若い消費者を取り込む戦略は着実に成果を上げているようだ。
とはいえ、地域によっては依然として発展途上国の厳しい生活を余儀なくされている。そのため、このギャップを早急に埋めなければ、ベトナムの未来は地雷原を進むことになりかねない。ベトナムは今や中国を抜き、日本のODA(政府開発援助)の最大の受け入れ国となり、アジアではもっとも親日度の高い国である。首都ハノイの空港にも、空港と市内を結ぶ陸橋「日越友好橋」にも日本からの支援を感謝するプレートが随所に掲げられている。今後は日本による開発援助をいかに地方に行き渡らせるかが、ベトナムの未来を左右するといっても過言ではない。その意味では、ベトナムの未来は日本とのパートナーシップを通じて一層輝くものになりそうだ。
■米中対立で「漁夫の利」を得るベトナム
さて、大阪のG20サミットでも関心を集めたが、米中貿易対立の行方には世界が注目している。5Gに代表されるように、中国ファーウェイの進める技術覇権戦略に対し、全面戦争もいとわない姿勢を見せるトランプ政権である。そんな米中対立の激化から「漁夫の利」を得ようとしているのがベトナムだ。
ベトナム人の耐久力の強さは歴史が証明している。フランスの植民地から脱却し、中国との国境戦争にも負けず、ベトナム戦争では「世界最強」とうたわれたアメリカ軍を追い出し、独立を勝ち取ったことは記憶に新しい。
何しろ、米中貿易戦争の煽りで、アメリカから中国製品が締め出される恐れが日に日に大きくなっているため、中国に進出していた外国企業やアメリカ市場で大儲けしていた中国や香港の企業が相次いでベトナムに製造拠点を移し始めている。サプライチェーンが大きく変動するなかで、「チャイナ・プラス・ワン」の代名詞ともなったベトナムの占める役割は拡大の一途である。
ベトナムの強みは政権の安定と経済成長路線にほかならない。2019年のGDP予測は6.7%と高く、インフレ率も失業率も4%を下回る。しかも、地方の少数民族の貧困は問題ではあるが、国全体で見れば貧困率は1.5%にすぎず、周辺の東南アジア諸国とは大違いである。
特に注目株といわれるのが冒頭に触れたビン・グループであろう。ベトナム最大手の不動産開発やショッピングモール、病院、学校経営で知られる企業だが、昨年、ベトナム初の国産自動車製造会社ビン・ファストを立ち上げ、2019年から販売を開始する予定である。また、同社はスマホ製造も開始し、韓国のサムスンへの最大の供給メーカーの座を獲得し、自前のブランドで国際市場へ打って出る準備を着々と進めている。
そんな活気溢れる若い国に魅せられ、米国のトランプ大統領はすでに2度も足を運んでいる。 日本は昨年、ベトナムとの国交樹立45周年を祝ったばかりで、安倍首相も「トランプ大統領に負けてはならぬ」と2度の訪問を実現させている。
日本では知られていないが、ベトナムの外交手腕は強かである。日本にとっては拉致問題が未解決のために国交正常化交渉が進まない北朝鮮とも、親密な関係を構築している。金正恩労働党委員長自らが「ベトナムに学べ」と大号令をかけているほど、北朝鮮におけるベトナムの存在は大きくなる一方である。本年2月に開催された2度目の米朝首脳会談も、ベトナムのハノイが舞台となった。
要は、アメリカとも、中国、北朝鮮とも、はたまたロシアや日本ともがっちりと手を握っている。それが未来の大国ベトナムの真骨頂といったところである。日本も大いに参考にすべきではなかろうか。
■急速にIT大国化
そんなベトナムが今、もっとも力を注いでいるのがIT産業の育成にほかならない
。2012年に「科学技術に関する国家戦略」を策定したベトナム。そこで掲げられた目標は「2020年までにGDPの45%をハイテク産業で生み出す」という野心的なもの。この方針の下、情報技術省が中心となり、国内のIT関連企業の育成が始まった。
もともと「新しいもの好き」の国民性で知られるベトナム人である。国内6000万人のネット利用者の大半にとって、フェイスブックとユーチューブが欠かせない。特にフェイスブックの利用者は急速に伸びており、5800万人に達し、世界では7番目となったという。
また、メッセージ送信アプリのザロはベトナムでは3500万人が利用しており、中国のテンセントの傘下にあるWeChatやフェイスブックが運用するWhatsAppより人気が高い。そうした外国のアプリに依存するのではなく、ベトナム独自のソーシャルメディアを広める方向をベトナム政府は打ち出した。「2022年を目標に国産のIT技術でソーシャルメディア市場の70%を押さえる」ことが決定。
今後ビジネスの主流に躍り出るに違いないネット販売の分野でも、自国企業を支援する考えを鮮明に打ち出している。そのため、この分野では圧倒的なシェアを誇る中国のJD.comが、ベトナムのローカル企業のティキへの投資を決めたほどである。
そうしたなか、ベトナム最大の民営企業であるビン・グループも新たな動きを見せ始めた。人工知能(AI)とソフトウェア開発を専門にする新会社を立ち上げるというのである。その名は「ビンテック」。アメリカのシリコンバレーのベトナム版を目指すという触れ込みである。ビッグデータの活用を主眼とし、関連するハイテク分野を先導するとの方針が発表された。こうした動きは明らかにベトナム政府の標榜する「2020年国家戦略」に沿ったもの。実は、こうした国家戦略を立案、推進する要役を果たすのが情報技術省であり、そのトップに就任したのが元ビエッテルの社長のフン氏。ビエッテルといえばベトナム最大のテレコム会社で、その影響力はミャンマーなど周辺の途上国に広く及んでいる。
彼らの意図する戦略はグーグルやフェイスブックに流れている莫大な広告収入を、ベトナム企業に引っ張ろうとするものである。SNSが急速に拡大するベトナムでは毎年、3億7000万ドルの広告収入が発生している。しかし、現状では、これらの収入はすべてアメリカ企業に流れているため、なんとしてもその流れを変えたいということだ。
■日本と共に「第4次産業革命」
とはいえ、これはベトナムが国家を挙げて推進するIT革命の一端にすぎない。まだまだ新たな新規事業が目白押しである。医療や教育の分野もしかり、農業や観光の分野もしかりである。そんな実験国家でもあるベトナム。どこまで未来への夢が実現できるのか。また、そのなかで日本がどのような役割を担えるのか。
日本はベトナム産の農産物の輸出拡大に欠かせない検疫や食の安全検査を改善するために、12億円の資金援助も約束した。それでなくとも、経済的に豊かになったベトナムでは消費者の健康志向が強まっている。農薬や化学肥料を使わない日本式の無農薬、有機栽培の食材への関心と需要は今後、大きく伸びるに違いない。安全安心を売り物とする日本の食材は現地消費者の間では高い評価を得ている。
ベトナムでは昨年末に実施された世論調査で、消費者の82%が「2018年は個人所得が増えた」と回答し、63%が「2019年はお金を使うには良い時期だ」と述べている。それだけ、懐具合に自信を抱いているというわけだ。もっともお金を使う予定の品目は何かと聞くと、40%の回答は「健康増進に役立つもの」という。ベトナムでも日本人の健康長寿ぶりはよく知れ渡っている。日本製の健康食材や健康グッズは化粧品と並んで売れ筋である。この分野での日本ブランドは圧倒的な強みを発揮し続けるだろう。
日本への熱い期待と信頼を寄せるベトナム。2018年には新規株式上場による資金調達額でシンガポールを抜くという快挙を達成した。この「未来の大国」との関係をより深化させることが、日本の未来を大きく左右するに違いない。ベトナム航空では日本路線にボーイングの最新鋭大型機を投入し、人的・経済的結びつきを強める上で一役買っている。
機を見るに敏なベトナム人。日本と共に「第4次産業革命」を進める計画も明らかにした。頼もしいパートナーといえるだろう。急成長を遂げるアジア市場のダイナミズムを取り入れる上でも親日国ベトナムとの連携は欠かせない。
(文=浜田和幸/国際政治経済学者)
●浜田和幸
国際政治経済学者。前参議院議員、元総務大臣・外務大臣政務官。2020東京オリンピック招致委員。米ジョージ・ワシントン大学政治学博士。
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