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日韓貿易戦争になれば、中国に「漁夫の利」を与えるだけで終わる理由
https://diamond.jp/articles/-/208237
2019.7.10 5:45 長内 厚:早稲田大学大学院経営管理研究科教授 ダイヤモンド・オンライン
日本政府の韓国に対する輸出規制は、日韓貿易戦争への発展が危惧されている。しかし、アジア全体で見るともっと大きな課題がある Photo:123RF
日本の対韓輸出ルール変更が
正確に報じられていない背景
日本政府は7月4日、半導体や有機ELパネル製造に必要な3品目の材料について、韓国に対する輸出ルールを変更した。ここであえて「輸出規制」と言わずに回りくどい言い方をしたのには、わけがある。一部の海外メディアや韓国政府高官は、今回の日本の措置を「ban」(輸出禁止)と過激に表現しているが、日本政府は現時点で韓国に対して、輸出禁止はしていないし、厳密にはWTOに抵触するような輸出規制もしていないといえるだろう。
少し法律的な話になるが、日本には武器の転用や開発につながる物の輸出を規制する、外為法に基づく輸出貿易管理令という安全保障貿易のルールがある。日本の輸出した製品が輸入国、あるいは輸入国を経由した第3国で武器転用につながらないようにする制度であり、これはGATT(関税と貿易に関する一般協定)で認められた安全保障のための輸出規制である。
輸出貿易管理令に基づく規制輸出品は原則、個別審査を必要とし、不許可とすることも認められている。ただし、輸出を行っても安全保障を脅かさないという信頼関係が構築された国に対しては、輸出業務の包括認証を認める「ホワイト国」という制度がある(これも規制を緩めるというだけでしかない)。
今回、日本政府が行ったのは、このホワイト国リストから韓国を外したということである。これは、日本が中国や多くの諸外国に対して行っている「通常の通関業務」と同じ扱いにするというだけの話だ。
日本は現在、中国をホワイト国リストに入れていないが、今回韓国を対象にした3品目は、中国にも個別審査を経て輸出している。それと同じ状態に韓国をしただけに過ぎない。ホワイト国のルールは、両国の信頼関係の上に特別待遇を認めるという、日本国が決められる事項だ。
つまり、輸出審査の仕方を変えただけで、個別審査は先に述べた中国をはじめ多くの国に対して行っている通常の通関業務なので、今回の措置によって輸出が禁止されるということはなく、諸外国同様に個別審査によって輸出も行えるということが話の前提になる。
ではなぜ、韓国はこれがWTOに違反すると主張しているのか。それはWTOの定めた最恵国待遇のルールと混同しているのではないだろうか。最恵国待遇とは、日本が通商上相手国に対して最も有利な条件で待遇するという制度である。現在、日本が特定の国に最恵国待遇を与えた場合には、全てのWTO加盟国に同様の最恵国待遇を与える義務がWTOで定められている。
しかし、この最恵国待遇の話とホワイト国リストの話は全く別の話だ。ホワイト国リストが最恵国待遇同様に全てのWTO加盟国に認められるようであれば、ホワイト国リストそのものの意味がなく、安全保障貿易は成り立たない。
つまり、今回の問題において日韓関係で考えられる今後の展開の1つ、韓国が日本を相手取ってWTOに提訴することは、日本にとって大きなリスクとはいえない。 ではなぜ、韓国はこれがWTOに違反すると主張しているのか。それはWTOの定めた最恵国待遇のルールと混同しているのではないだろうか。最恵国待遇とは、日本が通商上相手国に対して最も有利な条件で待遇するという制度である。現在、日本が特定の国に最恵国待遇を与えた場合には、全てのWTO加盟国に同様の最恵国待遇を与える義務がWTOで定められている。
しかし、この最恵国待遇の話とホワイト国リストの話は全く別の話だ。ホワイト国リストが最恵国待遇同様に全てのWTO加盟国に認められるようであれば、ホワイト国リストそのものの意味がなく、安全保障貿易は成り立たない。
つまり、今回の問題において日韓関係で考えられる今後の展開の1つ、韓国が日本を相手取ってWTOに提訴することは、日本にとって大きなリスクとはいえない。
開けっ放しにしていた
水道の蛇口に手をかけただけ
では、今回の事態が韓国で大きな騒ぎになっているのはなぜか。1つは、包括承認から個別審査へ変更になったことで、短期的に日本からの3品目の輸出が遅れる可能性があるということ。これはすでに現場で生じている事態だというが、これまでが信頼関係の下に成り立つ特別待遇であっただけで、中国などの諸外国と同じ扱いになったことによる短期的な現象といえる。もう1つの理由は、個別審査いかんによっては、審査の長期化や不許可の可能性があるからだ。
つまりたとえ話としては、今まで日本は韓国に対して、水道の蛇口を開けっぱなしにしていた状態だったが、今回の措置によって蛇口に手をかけたということになる。今後、どのように蛇口を開け閉めするかは、実際の通関業務の運用次第ということになる。
もし、運用上通関業務が長期的に滞る、あるいは不許可になるということがあれば、そこで初めて実質的な輸出規制が始まるわけだ。しかし、それも直ちにWTO違反になるというわけではなく、その妥当性は輸出貿易管理令に則った判断であるかどうかにかかってくる。
こうした前提で、もし仮に日本が今後本当に輸出規制をした場合、日本と韓国にどのような影響があるのかを考えてみよう。
結論から言えば、日韓のハイテク産業は国境の枠を越えて1つのエコシステムを形成しているので、経済的には両国にとって長期的なリスクを生じさせる。それは、中国が日韓と同様のハイテク産業の内製化を目的とする「中国製造2025」を計画しているのに対して、日本、韓国、台湾など中国以外のハイテク産業の諸地域は、手を組んで対抗していかないと勝ち目がないからだ。
しかし、もう少し短期的な話として、日本が韓国に放った規制がブーメランとなって帰ってくるという意見もあるが、それはあまり正しくない。日本は韓国に部材を輸出することで利益を得ているし、韓国はそれを使って半導体や有機ELパネルを製造することで利益を得ているので、両者に痛みがあることは間違いないが、韓国が受けるダメージに比べると日本が受けるダメージは軽微であると考えられる。
輸出停止でも韓国が被るほど
日本の損害は大きくない
今回、問題となっている3品目は、有機ELパネル製造などに使われるフッ化ポリイミド、半導体製造に使われるレジストとフッ化水素(エッチングガス)である。韓国聯合ニュースが報じた韓国貿易協会のデータによると、3品目における韓国の日本からの輸入依存度は、フッ化ポリイミドが93.7%、レジストが91.9%、フッ化水素が43.9%であるのに対し、日本の韓国への輸出依存度は、フッ化ポリイミドが22.5%、レジストが11.6%、フッ化水素が85.9%となっている。それぞれの製品の韓国以外の輸出先は、台湾や中国である。
つまりフッ化水素を除けば、台湾や中国などの輸出国の割合の方が大きく、輸出が停止したとしても日本の損害は少ない。もちろん、フッ化水素については大半を韓国に輸出しているので、日本のフッ素系化学製品専業メーカーにとっては大きな痛手になる。一方、韓国側は多くの材料を日本からの輸入に依存しているので、その影響はさらに大きい。
他にも、日本と韓国の違いがある。日本のGDPに占める製造業の割合は15%弱であるのに対し、韓国のGDPに占める製造業の割合は30%ほどあり、両国のマクロ経済に与える影響も韓国の方がインパクトが大きい。
また、ハイテク産業の中心となる大企業への依存度も日韓で異なる。韓国は中小企業が少なく、財閥系大企業中心の社会で、上位10社の売り上げだけで同国のGDPの45%程度になり、サムスン電子だけでも14%を占める。一方、日本ではトヨタですらGDPの5%程度を占めるだけであり、また日本の企業の約70%は中小企業であることから、日本は中小企業が経済を下支えしている、多様性のある企業構造になっていることがわかる。
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半導体や有機ELパネルを製造するのはサムスン電子やLG電子、SKハイニクスなどの大企業であり、これらの企業の損失は直接、韓国経済への打撃になる。
これは、韓国ハイテク企業が急成長した理由でもある。韓国では財閥系大企業に効率よく事業を集中させ、規模の経済性による利益を得てきた。また、これらの企業は基礎研究よりも直接的に製品を開発するための応用・開発研究に注力してきたため、基礎となる科学技術基盤が弱い。そのため、原材料や製造装置などの技術を日本に依存しなければならない構造になっている。ある意味で、効率化のツケといってもいい。
他方で、日本の化学メーカーは、多くの部材を台湾や中国などの他のマーケットに振り分ける余地も残されている。フッ化水素についても、これまであまりにも韓国依存度が高かったので、これを機に台湾の半導体産業などに対する営業を強化してもいいのではないか。
サムスン電子がヒントになる
日本メーカーのテレビ戦略
これらは日本の化学メーカーの話であるが、日本のエレクトロニクスメーカーにとってはどうであろうか。有機ELパネルはスマホ向けの小型はサムスン電子、テレビ向けの大型はLGディスプレイのシェアが圧倒的に高く、両社で有機EL市場の約90%を握っている。日本メーカーの有機ELテレビは100%LGディスプレイ製のパネルである。だからといって、これが日本メーカーのビジネスにとって大打撃になるとはいえないのではないか。それはサムスン電子のテレビ戦略がヒントになる。
5月初めの韓国経済新聞の報道によると、大型有機ELパネルはLGの独占的状況となっているため、サムスン電子はあえてLGと同じ土俵で戦わず、液晶テレビに特化して商品を強化していく方針だという。それでも、サムスン電子のテレビのシェアはLGよりも高い。つまり、なにも有機ELがなければ商売が成り立たないわけではない。
日本メーカーの製品は有機ELが
なくてもやっていける
日本のテレビメーカーもハイエンドを有機ELにだけ依存しているわけではない。ソニーは液晶のハイエンドモデルと有機ELのハイエンドモデルを用意して地域ごとに展開しており、有機ELがなければ絶対的に製品ラインアップが成り立たないわけではない。
有機ELパネルは価格の問題に加えて、色の視野角や寿命、熱に弱いことなど、液晶に比べてまだまだ弱点も多く、普及させるかどうかはメーカーが「有機ELは次世代の優れた技術」ですと訴求するか、サムスンのように無視するかにかかっている。
また、LGの有機ELが白色有機ELにカラーフィルターをかぶせる「なんちゃってカラー有機EL」なのに対し、中国や日本の一部のパネルメーカーなどは印刷方式によるフルカラー有機ELの開発を進めており、韓国の有機ELパネルビジネスの停滞はこうしたコンペティターにとって有利に働く。さらにテレビ用液晶パネルでいえば、すでに中国が韓国を追い抜いている。
サムスンが得意な小型パネル領域では、さらに有機ELのデメリットが大きく影響する。大きく需要が見込まれる車載用途は今後も液晶パネルが中心であり、その技術がすぐに消えるわけではない。シャープやJDIなどの日本の液晶パネルメーカーが、韓国の有機ELパネルの代替として食い込めるチャンスがあればいいが、中国メーカーによる小型有機ELパネル開発も進められるのと同時に、中国国内向けスマホ用液晶パネルの生産も伸長が目覚ましい。
より問題が大きいのは、半導体だろう。サムスンやSKハイニクスはDRAMやフラッシュメモリの大手メーカーであり、これはスマホやPCなど様々な製品に必要な基幹部品である。これらのメーカーの生産が滞れば、世界中でメモリ不足、メモリ価格の高騰が起きる可能性もある。とはいえ、フラッシュメモリで韓国勢に追い抜かれた東芝メモリにとってはシェア拡大のチャンスかもしれない。
もう1つ、世界の半導体製造1位は台湾のTSMCであり、半導体を製造する能力は高いが、DRAMはサムスン電子やSKハイニクスなどのIDM(垂直統合型メーカー)に独占されており、高付加価値製品に特化しているTSMCは現在のところ、利益率の低いDRAMの主要プレーヤーではない。台湾半導体産業が伸びることは友好関係にある日本にとっても望ましいことだが、現実を見るとDRAMの国内生産に力を入れているのはむしろ中国だ。
日本は韓国へ関係改善のための
メッセージを送っただけ
結果的に見ると、今回の3品目の輸出が規制されたとしても、日本が受けるダメージの方が比較的軽微といえるものの、長期的に考えると、中国メーカーを利するだけかもしれない。
とはいえ、今回のような措置をとらなければ、日本企業と韓国企業との取引が安定して継続できるかといえば、そうではない。そもそも事の発端は、韓国側が、日本企業に対する請求権訴訟によって解決済みの徴用工問題を蒸し返したことに起因している。それにより、日本企業にとって韓国への投資や取引のリスクが従来より高まっていることが、今回の措置の原因であることも忘れてはいけない。
たとえば7月8日の韓国中央日報は、サムスン電子の折りたたみ式スマートフォンに採用されている有機ELのパネルに住友化学が生産したポリイミドが使われているという。
文在寅政権は徴用工判決問題に関して「司法判断だから政治の介入はできない」という立場をとるが、本来ウィーン条約では26条で「合意は守られなければならない」原則が定められ、また27条では国内裁判所の判決も含めて、国内法を理由に国家が国際法上の義務を免れることはできないことが規定されている。
文在寅政権による現在の問題が放置された状態で、日本の戦前からの歴史を有する大企業が、韓国で安心して事業を営めるであろうか。その中で、ショック療法ではあるが、日本側が韓国へのプレッシャーと関係改善のためのメッセージを送ったものと理解することもできる。
今回、あえて日本政府が韓国に対する報復的輸出規制という名目ではなく、安全保障貿易上の問題としているのも、韓国との関係を最悪のものにしないための知恵であるかもしれない。もし、日本がこれを報復的な輸出規制だと宣言してしまえば、日本もまた保護主義貿易を認めることになる。その先には貿易戦争しかない。
日本のメッセージは、日本は自由貿易を尊重する、国際紛争は司法的な解決手段で平和的に行う、という2つだろう。これは日本が韓国に対して、徴用工問題での仲裁委員会の開催を要請しているのと同じことだ。日本はむやみに韓国を攻撃しているのではなく、韓国に関係改善のメッセージを送ったと見る方が妥当だろう。
韓国の保守政権時代は、政治と経済を切り離し、最低限の実務的交渉ルートを残し、両国が政治的対立を経済問題に波及させない努力をしてきた。せめてその頃の状況に日韓関係を戻すことはできないだろうか。
文在寅政権の一番の関心は北朝鮮問題であり、日本が嫌いというよりむしろ関心が薄いのではないかと思える。「嫌い」より恐ろしいのは「無関心」だ。
一方、日本の韓国に対する状況も「無関心」なのではないか。韓国の一部報道によると、「今回の日本の措置は参院選のためのパフォーマンスであり、選挙後に状況は好転するかもしれない」という読みがあるようだが、それは読み違いだろう。
日韓関係を元に戻さないと
中国を利することになる
韓国で反日が選挙の票になるのとは違い、日本の選挙では韓国はほとんど意識されない。「嫌韓」は一部の出来事であり、多くの日本人にとって韓国のことは「無関心」に近いのではないか。「無関心」は話し合いの断絶につながる。「嫌韓」より始末が悪いかもしれない。
今日、韓国国内での一番の問題は、雇用や年金などの経済問題でもあるはずだ。伸長する中国のハイテク製造業という共通のライバルがいる中で、いかに経済合理性で物事を判断できるか、そこに両国の製造業の将来がかかっている。国民の雇用と生活を守るのは、政府の基本機能だ。それを犠牲にしてまで両国の関係悪化を放置することが、韓国の国益にかなうとは思えない。
長期的に見れば、日本にとってもそうだ。「中国製造2025」が1つのマイルストーンかもしれない。製造業の中国以外のもう1つの拠点を、それまでにつくれるか。それには、日本や韓国、台湾といった、中国以外のハイテク産業が手を組むことが求められる。
(早稲田大学大学院経営管理研究科教授 長内 厚)
韓国は徴用工判決問題に関し「司法判断だから政治の介入はできない」とするが、ウィーン条約26条で「合意は守られなければならない」原則が定められ、27条では国内裁判所の判決も含め国内法を理由に国家が国際法上の義務を免れることはできないと規定。長内厚さんのコラム。https://t.co/rWsywtWyFD
— 石川一敏 (@ik108) 2019年7月9日
韓国は徴用工判決問題に関し「司法判断だから政治の介入はできない」とするが、ウィーン条約26条で「合意は守られなければならない」原則が定められ、27条では国内裁判所の判決も含め国内法を理由に国家が国際法上の義務を免れることはできないと規定。長内厚さんのコラム。https://t.co/rWsywtWyFD
— 石川一敏 (@ik108) 2019年7月9日
アジアの国は韓国だけではない。韓国ありきで話を進めること自体がナンセンスでこれまで韓国を甘やかし、今の現状を作り上げた原因。https://t.co/tBbOVFsSbS
— 壮太 (@souta67) 2019年7月9日
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