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日銀に残された追加緩和策とは何か
https://diamond.jp/articles/-/206651
2019.6.25 木内登英:野村総合研究所 エグゼクティブ・エコノミスト ダイヤモンド・オンライン
フォワードガイダンスの
修正で「時間稼ぎ」の日銀
FRB(米連邦準備制度理事会)が、7月にも利下げ(政策金利引き下げ)に動くとの観測が強まるなか、日本銀行もそれに続くのではとの見方が出ている。
確かに、日本銀行が早ければ年内にも追加緩和に踏み切る可能性はそれなりに高まったと思うが、単純に米国に追随するというわけではないだろう。利下げ余地が2%以上ある米国とは異なり、利下げやその他追加緩和手段が限られるなか、日本銀行はできるだけ緩和カードを温存したいと考えているはずだ。
緩和カードを温存したい日本銀行にとって、そこまでのつなぎ、いわば時間稼ぎの施策として活用を検討しているのが、フォワードガイダンス(政策方針)の漸次的修正なのではないか。
4月の決定会合で日本銀行は、政策金利のフォワードガイダンスについて、「当分の間、現在のきわめて低い長短金利の水準を維持する」との文言に、「少なくとも2020年春頃まで」という文言を加えた。これによって、「当分の間」という曖昧な時間軸をより明確化させたのである。
この時間を明示したフォワードガイダンスは、将来的には、正常化の局面で金融市場との対話を強化して、市場の安定を維持しながら正常化を円滑に進める手段として使うことが、意図されているのではないか。
しかし短期的には、一種の緩和手段として使うことができるだろう。たとえば、この先景気減速や円高が進む場合には、「少なくとも2020年春頃まで」という現在の時間軸を、「少なくとも2020年後半頃まで」などと延長することで、イールドカーブのフラット化を促し、円高をけん制することもできるだろう。
フォワードガイダンスの時間軸延長という手法は、日本銀行と同様に本格的な追加緩和策をできるだけ温存したいと考えるECB(欧州中央銀行)が、すでに採用している。今後は、日本銀行とECBとが時間軸の延長を競うような状況になるかもしれない。
追加緩和実施の
3つのきっかけ
いよいよこのような時間稼ぎでは済まなくなり、日本銀行が本格的な追加緩和策に踏み切る時期がやってくるとすれば、そのきっかけは何だろうか。
それは、第一に世界経済の後退局面入り、第2に、1ドル100円に接近する円高進行、第3に、政府による巨額の景気対策、の3点だと考えられる。この3つは、ほぼ同時に生じやすいだろう。
世界経済が後退局面に入ると、日本経済も相当悪化することが避けられない。その際には、円高が進みやすくなる。世界経済の悪化は日本の金融機関のリスク回避傾向を強め、彼らは為替リスクがある外貨建て資産を圧縮して、リスクの低い国内資産に移すという、国内回帰傾向が強まるためだ。
また、こうした局面では、政府は巨額の景気対策を実施しやすい。それは、10月の消費増税による景気悪化懸念があるためだ。政府はすでに2兆円の消費税対策の実施を決めているが、景気情勢が悪化した場合には、その規模を何倍かに拡大する可能性がある。そしてその場合には、日本銀行に対して協調策として追加緩和策を求めるだろう。いわゆる政府の景気対策に巻き込まれる形で、日本銀行が追加策を強いられるのである。
さて、そうした場合、日本銀行はどのような追加緩和措置を実施するのだろうか。日本銀行には有効な緩和策は残されていないとの指摘も多いが、彼らにとって政策効果についてはもはや重要ではないだろう。景気情勢の悪化に対して、政府と協調しながら追加緩和策を実施したという、いわば証拠づくりがより重要となる。
日本銀行は、2016年9月に、4つの追加緩和の選択肢を示していた。これは、現在でも引き続き有効なのだろう。それは、(1)マイナスの短期金利の引き下げ、(2)10年金利目標値の引き下げ、(3)ETF(指数連動型上場投信)などリスク資産の買い入れ増額、(4)マネタリーベースの増加ペースの加速、の4つだ。4番目は、国債とマネタリーベースという「量」に、再び高い目標を設定することを意味している。
日銀のメインシナリオは
マイナス短期金利の引き下げか
以上4つの選択肢は、その順番が優先度を示していると考えられる。その点からも、日銀が現在想定しているメインシナリオは、第1のマイナス短期金利の引き下げではないか。
短期金利を引き下げた場合には、地域金融機関の収益見通しにはさらなる悪影響を与えてしまうが、それは十分に覚悟した上での決定だ。ただし、その場合でも、地域金融機関の収益への悪影響を多少なりとも軽減することは可能だ。この金利引き下げは2%の物価安定目標達成のための措置というよりも、経済・金融情勢の急激な悪化を受けた緊急措置と位置づけ、状況が改善すれば比較的早期に−0.1%までは戻るという観測を市場に醸成させるのである。
その場合、地域金融機関の収益に大きな影響を与える3〜4年の金利水準を大きく下げることが回避できる。このゾーンの金利が重要なのは、地域金融機関が保有する国債の平均年限や貸し出しの平均期間がこのあたりだからだ。他方、短期金利とこのゾーンの金利との金利差が拡大することで、利鞘を増加させる効果も部分的に生じる。
しかし、2016年のマイナス金利導入が社会不安を招いたことを記憶する政府は、短期金利のさらなる引き下げという措置を望まないのではないか。むしろ、国民が痛みを感じにくい、第4の手段を日本銀行に要求するかもしれない。
しかし、仮に日本銀行がこれを受け入れれば、過去3年弱に及ぶ国債買い入れ減額という事実上の正常化措置は、台なしになってしまう。さらに国債市場の流動性が極度に低下し、市場のボラティリティ(変動率)が著しく高まるリスクが生じるだろう。最悪の場合、グローバル金融危機の引き金となる可能性さえあるのではないか。
以上は、日本銀行の追加緩和策についての筆者の見通しであるが、あらゆる追加緩和策はその副作用が効果を上回っており、その実施に筆者は強く反対したい。少なくとも、日本銀行が第4の「最悪の手段」を選択しないことを強く願っている。
(野村総合研究所 エグゼクティブ・エコノミスト 木内登英)
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