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消費増税を予定通り行うリスクと延期するリスクは、どちらが深刻か
https://diamond.jp/articles/-/206496
2019.6.24 愛宕伸康:岡三証券 チーフエコノミスト ダイヤモンド・オンライン
今言えることは、消費増税を予定通り行った場合のリスクと増税を延期した場合のリスクを、冷静に比較考量する必要があるということだ(写真はイメージです) Photo:PIXTA
消費増税まで3ヵ月あまり
予定通り実施されるとどうなるか
政府は腹をくくったようだ。6月11日に発表された「経済財政運営と改革の基本方針2019」(骨太の方針)の原案に、「10月には消費税率の8%から10%への引き上げを予定している」と明記された。よほどのことがない限り、増税は実施される方向だ。前回、増税を延期したときと同じように、今回も一部の政治家、学者、エコノミストたちから「増税延期論」が巻き起こったが、政府はそれに乗らなかった。
むろん、10月の増税まで3ヵ月あまりある。まだ何が起きるかわからない。しかし、今のところ政府が腹をくくったように見えるのは、それなりの理由があるように思われる。
一方で、世界景気が鈍化し、米中貿易戦争がエスカレートしている中で消費増税を行えば、日本が景気後退に陥りかねないという増税延期論者の懸念もわからなくはない。1つ言えることは、政府の周到な対応策を含め、消費増税を予定通り行った場合のリスクと増税を延期した場合のリスクを、冷静に比較考量する必要があるということだ。
まず、消費増税を行った場合の消費に与える影響から整理しよう。消費への影響には、増税前の駆け込みと反動減を発生させる「代替効果」と、増税で物価が上昇し所得が実質的に目減りすることによって消費が減少する「所得効果」がある。2014年4月の消費税率引き上げ(5%→8%)時には、もちろんどちらの効果も大きかったのだが、特に所得効果の大きさが多くのエコノミストの想定を超え、その後の消費低迷の長期化につながった。なぜそうしたことが起きたのか簡単に解説した上で、今回もそうなるのか考えてみたい。
ポイントは、増税分の価格転嫁を増税のタイミングに合わせてフルに行うという、わが国特有の価格転嫁方法にある。実は、1989年の消費税導入当時、中小企業が増税分を価格に転嫁できなかったとの反省から、価格転嫁を促すための法的措置がとられ、1997年4月の増税時には価格転嫁が一斉一律に行われた。
2014年4月も「転嫁対策特別措置法(消費税の円滑かつ適正な転嫁の確保のための消費税の転嫁を阻害する行為の是正等に関する特別措置法)」が整備され、転嫁を阻害した企業を実名で公表するといった厳しい対応によって、強力にフル転嫁が促された。その結果、2014年4月以降、消費者物価指数(CPI)は前年比3%台後半まで一気に跳ね上がることとなった(図1参照)。
小売店などではもともとマーケティングの一環として、食料品などの「値ごろ帯」を把握している。価格が「値ごろ帯」を上回ると需要が激減し、「値ごろ帯」を下回ると採算がとれなくなる。2014年4月になると消費増税分を価格にフル転嫁しなくてはならないため、多くの小売店では転嫁後の価格が「値ごろ帯」を上回らないよう、予め価格を引き下げるという調整を行った(図2参照)。こうしたことが価格弾性値の高い商品で行われたため、駆け込み需要を余計に誘発し、その後の反動減も大きくなったと考えられる。
2014年増税時、所得は目減りし
消費は長期にわたって低迷した
また、賃金低迷によって日銀の「物価安定目標」であるCPIの前年比2%すら実現しないわが国で、3%台後半という激しいインフレが生じたのだから、当然、所得は実質的に大きく目減りし、消費は長期にわたって低迷することとなった(図3参照)。
そもそもわが国の消費はインフレに弱い構造であり、2%や3%という増税幅は一度の引き上げ幅としては大きすぎる。消費課税国の先輩である欧州諸国では、もっと小幅な増税に抑えるケースが多く、価格への転嫁も企業に委ねられているため、増税時に物価が跳ね上がるということもほとんど起きていない(図4‐1、図4-2参照)。このため、駆け込みや反動減、所得効果による消費低迷もほとんど見られないのが普通だ。
前回の反省を踏まえ
10月のCPI上昇率は抑制される
政府はこうした2014年の反省を踏まえ、「消費税率引上げの前後において、事業者のそれぞれの判断によって柔軟な価格設定が行われるよう、諸外国の例等を踏まえ整備した『消費税率の引上げに伴う価格設定について(ガイドライン)』の周知を進める」(骨太の方針)としている。
その昨年11月28日に出されたガイドラインには、@「10月1日以降○%値下げ」や「10月1日以降○%ポイント付与」などの表示を認めること、A中小・小規模小売事業者にはポイント還元といった新たな手法などによる支援を行うことにより需要に応じた柔軟な価格設定の幅が広がること、B大企業においても消費税率引上げ後に自らの経営資源を活用して値引きなど自由に価格設定を行うことに何ら制約はないこと、などが明記されている。
以上の対応もあって、今年10月時点でのCPIの上昇率はかなり抑制されたものになると予想される。
現在(2019年4月)、CPIの総合指数の伸び率は前年比0.9%、ざっくり言って1%だ。今回の増税分がフル転嫁された場合、CPIは1%程度押し上げられる計算になるため、このまま10月になって消費税率が10%に引き上げられると、CPIの前年比は2%程度になる。
もしこの程度のインフレで消費が落ち込み、景気後退になるというのなら、そもそも日銀の「物価安定目標」も2%にすべきではない。実際は、前述のガイドラインの効果も期待できることから、増税のタイミングでフル転嫁ということにはならないと見られ、加えて教育無償化や携帯電話通信料の引き下げなどもあるため、10月のCPI前年比は2%どころか、1%台前半に止まる可能性が高いと思われる。
さらに、「今回は、前回2014 年4月の引上げ後に景気の回復力が弱まったという経験を十分にいかし、需要変動の平準化に万全を期す」(骨太の方針)として、ポイント還元やプレミアム付商品券、すまい給付金、住宅ローン減税の拡充など2.3兆円の追加対策も実施される。
増税を延期した場合のコストも
思いのほか高くつく可能性
こうして見てくると、今回の消費増税に対する政府の並々ならぬ本気度がうかがわれ、予定通り消費税率を引き上げても、駆け込みと反動減ならびに所得効果による消費の低迷は、増税延期論者が懸念するほど大きくはならないと思われる。
他方、10月に増税を延期した場合のコストはどうだろうか。まずは、新年度に入ってしまっているというこのタイミングだ。すでに国も地方自治体も19年度予算に突入している。もし執行中の予算に歳入欠陥が生じた場合、国は補正予算を組んで国債を増発し、補填することが可能かもしれないが、地方自治体はそれほど簡単ではないかもしれない。
また、軽減税率の設定などで複数の税率が並存する企業などでは、すでにシステム手当てを進めている。「消費税軽減税率対策費補助金制度」への申請件数を見ると、5月中旬段階ですでに10万件を超えており、官民とも相当なコストが発生している。今さら増税延期となった場合の混乱は避けられないだろう。
また、日本国債の格下げリスクに対する意識も必要だ。現在の日本の長期国債に対する格付けを見ると、たとえばS&PではA+、ムーディーズではA1である。欧米の投資家の間ではA等級を投資基準とする先が多いことから、多くの日本の企業や金融機関にとってはA等級を維持できるかどうかが、特にドルやユーロといった外貨を調達する際には、極めて重要になる。
もし、日本国債の格付けが一段階でも引き下げられると、日本の多くの企業や金融機関の格付けは国債の格付けより下になるケースが多いことから、A等級を維持できなくなる先が出てくることが想定される。そうなれば、外貨繰りのタイト化は避けられない。S&Pやムーディーズが日本を現在の格付けに引き下げたのは、15年10月に予定していた消費増税を見送ったのが原因だ。
むろん、今回増税を延期したからといって格付け機関が格下げに踏み切るかどうかはわからない。しかし、そうなるリスクが高いのは間違いない。
景気に悪影響が出ないわけはないが
簡単に増税を延期するほうがリスク
以上、「増税を予定通り実施した場合のコスト」と「増税を延期した場合のコスト」を見てきたが、前者を決める景気下押しリスクに関しては、論者による主観が入り混じることから話がややこしくなる。筆者もこのタイミングで消費増税を断行し、景気に全く悪影響が出ないなどとは考えていない。10-12月期の見通しは、多くのエコノミストと同様にマイナス成長を予想している。
しかし、それで景気が腰折れするとは見ていない。景気が鈍化しセンチメントが悪化している状況では、事態を悪い方向に見がちになるものだ。前回、増税延期を決めた2016年6月がまさにそうだった。
しかし、増税を予定していた2017年4月頃の日本経済は、グローバル景気とともに回復していた。当時の判断は明らかに間違っていた。
万が一、景気が腰折れするようなら、補正予算を組んで対応すれば良い。政府も骨太の方針で「海外発の下方リスクに十分目配りし、経済・金融への影響を迅速に把握するとともに、リスクが顕在化する場合には、機動的なマクロ経済政策を躊躇なく実行する」と言明している。長い目で見た場合、社会保障改革の先送りによって将来世代が抱え込まされているリスクの方が大きい。簡単に増税を延期し、将来を担う若い世代に「やはり自分たちのことなど考えてもらっていない」と思われることの方が深刻だ。
(岡三証券 チーフエコノミスト 愛宕伸康)
増税を行った場合のコスト
— snuddle (@snuddle3) 2019年6月24日
・「代替効果」増税前の駆け込みと反動減
・「所得効果」増税で物価上昇→所得が目減り→消費減少
増税を延期した場合のコスト
・執行中の予算に歳入欠陥が生じる
・軽減税率の対応ですでに相当なコストが発生している
・日本国債の格下げリスクhttps://t.co/vRvBBWsSZX
アクロバティック!
— くじらやFPオフィス (@kujiraya_fp) 2019年6月24日
「簡単に増税を延期し、将来を担う若い世代に「やはり自分たちのことなど考えてもらっていない」と思われることの方が深刻だ。」
消費増税を予定通り行うリスクと延期するリスクは、どちらが深刻か | DOL特別レポート | ダイヤモンド・オンライン https://t.co/GInnhv34w2
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