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JDI、倒産も現実味…日本政府の産業政策失敗で韓国へ技術流出、日本企業の衰退招く
https://biz-journal.jp/2019/06/post_28418.html
2019.06.19 文=真壁昭夫/法政大学大学院教授 Business Journal
月崎義幸ジャパンディスプレイ社長記者会見(写真:毎日新聞社/アフロ)
最近、経営再建中のジャパンディスプレイ(JDI)の今後の展開について、一段と不透明感が強まっているようだ。もっとも重要なポイントは、これから同社がいかにして成長を目指すか明確な方針が見えてこないことだろう。
JDIの業績悪化は市場参加者の想定を超えている。同社経営陣のなかでも、ここから先どの程度業績が悪化するか読めないという部分があるかもしれない。2019年3月期決算は1094億円の最終赤字に陥った。世界経済が相応の安定を維持し、中国のスマートフォンメーカーなどが成長を遂げるなかで、JDIが5年連続で赤字に陥ったことは軽視できない。同社は価格競争の激化という環境の変化に適応できず、操業を続ければ続けるほど経営が悪化する状況に直面している。
JDIは筆頭株主であるINCJ(旧産業革新機構)の支援を得て台中3社連合との資本業務提携に望みをつなげた(台湾TPKはすでに離脱を表明)。それは、目先の資金繰り確保には重要だ。ただ、米中の通商摩擦が長期化する可能性が高まるなど事業環境が悪化するなか、JDIがビジネスモデルを再構築することは容易ではないだろう。
■JDI経営悪化の原因
JDIの業績がここまで悪化した原因に関して、さまざまな指摘がある。根本的な原因は、日本の産業政策の失敗だろう。この問題は1980年代の日米半導体摩擦にまでさかのぼって考える必要がある。ポイントは、日本が米国からの圧力を回避するために台湾や韓国の企業に技術を供与し、結果的に海外企業の急成長を許してしまったことだ。
1980年代半ば、日本の半導体産業は世界の50%程度のシェアを誇っていた。1985年、米国では半導体メーカーがこの状況を問題視し批判し始めた。その主な主張は、「日本の市場は閉鎖的であり競争原理が働いていない」「日本のメーカーはその環境を生かして、設備投資を進め半導体のダンピング(不当廉売)を行っている」「米国の企業は競争上不利な状況に置かれている」、といったものだった。
1986年、米国の圧力に屈し、日米半導体協定が締結された。締結によって、日本は国内市場における外国製の半導体シェアを高めることなどを受け入れた。この時、国内の電機メーカーは韓国の半導体産業に技術を供与することによって、間接的に自社のシェアを維持しようとした。この結果、韓国のサムスン電子などが日本の技術を吸収し、政府からの優遇も取り付けて急成長を遂げた。
その後、日本企業は円高圧力などを回避するために台湾への技術供与も進めた。この結果、日本のエレクトロニクス産業の凋落とは対照的に、韓国、台湾の半導体・液晶パネルのシェアが急速に拡大した。
こうしたなか、日本企業はかつての成功体験に浸り、ディスプレイなどの研究開発から生産までを自社内で行うことにこだわった。一方、台湾メーカーなどは低コストを武器にして、受託生産などのビジネスモデルを構築し成長した。さらには、中国のディスプレイメーカーの台頭も加わり、価格競争に拍車がかかっている。
■行き詰まる“日の丸液晶”
この状況に対応することを念頭に、JDIは政府主導で設立された。ただ、大企業のディスプレイ事業を統合し日本の液晶産業の覇権強化を目指す“日の丸液晶”の発想は、想定された通りの効果を発揮できていない。
2012年にJDIは旧産業革新機構の主導によってソニー・東芝・日立製作所のディスプレイ事業を統合して発足した。この背景には、政府の危機感があった。海外企業が台頭し日本企業の存在感が低下するなかで、政府は官民ファンドの下に国内の液晶技術を束ね、産業を守ろうとした。ただ、経営統合という判断が、日本の経営風土を重視した上での決断だったかはよく考えなければならない。理論的に考えると、異なる組織を統合する意義は、経営資源の効率的な配分に加え、テクノロジー開発などに関する議論を活発化させてイノベーションを目指すことにある。
一方、日本企業は、社内の調和を重視してきた。それが、日本企業の“経営風土”だ。各企業の従業員の多くが、新卒でその企業に入社し、年功序列の考えに基づいて昇進や昇給を重ねてきた。加えて、各企業の人事管理も異なる。企業固有の経営風土にどっぷりと漬かってきた人々が、新しく経営統合された一つの組織の中で生き生きと活躍することは容易ではない。加えて、国策企業であるために、意思決定も遅い。
2013年度の最終損益が黒字になった以外、JDIの通期決算は赤字続きだ。事態はかなり深刻だ。同社は台湾と中国の企業連合と資本業務提携を結ぼうとしたが、5月に入っても台中勢は姿勢を明確にできなかった。それだけ、JDIへの出資にはリスクがある。
5月下旬、状況を憂慮したINCJは有機ELパネルの生産を手掛けるJOLEDの株式受け取りと引き換えにJDIへの債権を相殺することを決めた(代物弁済)。加えて、重要顧客である米アップルも債務返済の猶予を認めた。これによりJDIは台中企業連合からの出資に望みをつなぎはしたものの、同社の経営内容は依然として楽観できない。
■難航が予想される経営再建
このように考えると、国策企業であるJDIは、各企業の利害や政府の後ろ盾という甘えの意識に浸り、競争力を自ら高めることができなくなっているといわざるを得ない。組織の実力とは、人員数×集中力によって決まる。つまり、一人ひとりが自社の目標を理解し、やるべきことがわかっていることが大切だ。経営者は大きな方針を経営戦略として示し、各人が向かうべき方向を示してあげればよい。
現状、JDIの経営陣からは、この根本的な方針が見えてこない。経営陣の目線は、目先の資金繰り確保に向かってしまっている。同時に、アップルのiPhoneの販売不振からJDIの白山工場(石川県)は生産を3カ月間休止する可能性がある。アップルが債務返済を待ってくれるからといって安心できる状況ではない。むしろ、工場の休止によるフリー・キャッシュフローの落ち込みを補うために、固定費などの削減が必要だ。
当面、JDIは費用の削減を進めることによって経営を続けることになるだろう。ただ、いつまでも資産の売却などを続けることはできない。売却などを続けていくと、最終的に企業そのものがなくなってしまう。
もし台中の企業連合が出資を決定したとしても、狙いは技術の取得にある。現時点で、海外企業との提携がJDIの経営再建と収益力の向上につながるとはいいづらい。米中の貿易戦争が一段と激化してiPhoneをはじめ世界全体でのスマートフォン販売が一段と減速し、海外企業がJDIへの出資を早期に引き上げることも考えられる。
JDIの先行きは前途多難だ。日本企業は同社の教訓を生かさなければならない。生かすべき教訓とは、経営者が組織全体の向かうべき方向を明確に示し、それに向かって従業員一人ひとりが自らの能力を発揮しやすくすることだ。そのためには、新しい発想や多様な人材を積極的に取り入れ、組織全体でチャレンジしていくことが欠かせない。
(文=真壁昭夫/法政大学大学院教授)
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