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金融庁「老後資金2000万円不足」報告書の根底にある政府の大きな問題点 https://diamond.jp/articles/-/206035 2019.6.19 室伏謙一:室伏政策研究室代表・政策コンサルタント ダイヤモンド・オンライン 写真はイメージです Photo:PIXTA 金融庁が6月3日に発表した報告書が「炎上」状態となっている。「30年間で約2000万円の金融資産が必要となる」との内容が批判の対象となっているのだが、むしろ、問題なのは、この報告書の根底に流れる政府の基本的な考え方である。(室伏政策研究室代表、政策コンサルタント 室伏謙一) 大きな批判を呼んでいる 老後「約2000万円の金融資産」 金融庁が6月3日に発表した報告書が話題となっている。夫婦世帯の老後の生活収支で月額約5万円が不足することになり、保有する金融資産を取り崩さなければならなくなるが、そのためには30年間で「約2000万円の金融資産が必要となる」との内容が大きな批判を呼んだ。 野党は国会でこれを激しく追及、ついには与党内からの反発も強まって、当該報告書を受け取らないという異例の結果となった。しかし、それでも事態は収まらず、野党は7月の参院選も念頭にさらに攻勢を強めている。 確かに、「老後に2000万円の金融資産が必要だ」とか、「2000万円の金融資産を老後に確保できるように早くから資産運用を行っておくべきだ」とか言われても、収入も減少傾向、退職金も以前と比べて減っており、貯蓄ができない世帯も増えている。「老後に備えて資産運用をしておけ」などというのが、そもそも困難というより無理な話である。 1円投資すれば1年後には100万円になって戻ってくる…というような特別な金融商品でもあれば話は別だが、そんなものはこの世に存在しないし、実際には起こりえない以上、「全く現実を見ていない話である」としか言いようがない。 生活するのにいっぱいいっぱいで、将来にも不安を抱えている国民が反発するのも無理はない。 そうした強い反発を押し切ってまで「報告書のとおりにしろ」などとは、政府は言えないわけであって、対応の是非はともかくとして、報告書を実質的に引っ込めざるをえなかったのは自明の理だろう(一方で、「報告書はもうない」との説明は合点がいくものではない。火に油を注ぎたいのだろうか?)。 報告書の根底に流れる 政府の基本的な考え方 さて、この報告書、正式名称は『金融審議会市場ワーキング・グループ報告書「高齢社会における資産形成・管理」』。その名のとおり、金融庁の金融審議会の下に設けられた市場ワーキング・グループで、昨年10月から行われてきた「高齢社会における金融サービスの在り方」についての議論の結果が取りまとめられたものである。 具体的には、長寿命化や高齢者の保有する金融資産の伸び悩み等を背景として、「資産寿命が生命寿命に届かない」リスクや「老後不安による過度な節約」リスク等を回避するために、高齢社会における金融の目指すべき姿や、金融庁、金融機関等の今後の取り組みについて議論が行われたもの。 あくまでも「老後の資金不足に備えた金融資産形成」という観点から論じられたものであって、年金や老後の生活の在り方そのものについて直接的に論じられたわけではないようである。 これは金融庁の審議会であるから、ある意味当たり前である。従って、この報告書自体をターゲットとして批判し、金融庁を攻撃したところで埒(らち)は明かないだろう。 まさに暖簾(のれん)に腕押しである(ところがその後金融庁幹部は、自民党の財政金融部会で「猛省している」とまで発言したようで、ついには14日、衆院財政金融委員会で金融庁の企画市場局長が謝罪するに至った。本音としては、「不本意な猛省」をさせられ、謝罪をさせられたといったところなのだろう。政府・与党は、金融庁を人身御供として差し出して、とにかく早くこの件を鎮火させたい意図が見て取れる)。 そうしたことよりも、この報告書に端を発する問題に関して重要であり、かつ非難され、少なくとも懸念されるべきなのは、この報告書の根底に流れる政府の基本的な考え方である。 それは、「公助」から「自助」への流れを是とし、「自助」の充実を図っていくことが必要であるとする考え方、それが老後の不安の解消につながるのだとする考え方である。 「自助」とは、分かりやすく言えば、すなわち「自分のことは自分でなんとかしろ」という話であり、完全にゼロというわけではないが、「公助」つまり「国からの財政支出に頼るな」ということを意味する。 こうした考え方は、この議論の冒頭から示されており、ワーキング・グループの事務局が提出した資料にも記載されている。 必要なのは所得を増やすか 不足分を埋める方法の検討 要するに、本報告書は「自助」、つまり「老後の生活を自分でなんとかできるようにする」ために金融資産の形成や運用をすることについて、金融機関等は何をすべきか、金融庁としてはそれにどう対応して制度的、政策的な手当てをしていけばいいのか、という内容を示したものであったということだ(「自助」を是とするところから出発してしまっているので、それが多くの国民の直面する現実とは著しく乖離(かいり)していようと、ワーキング・グループの委員としては純粋に、ある種クソ真面目に議論をしていたであろうことは想像に難くない)。 しかし、「年金だけでは老後の生活を支えるのに不十分」ということであれば、本来は、年金だけで十分にするには何をすればいいか、仮に金融資産を形成する必要があるとして、多くの国民がそれができるようにするにはどうすればいいか、そのための余裕資金を持てるようにするにはどうすればいいかがまず議論されるべきだ。その上で、安定的に運用できるようにするにはどうすればいいかといったことが検討されるべきである。 そして、そのために必要なのは、所得を増やすか、月額約5万円、30年で約2000万円というギャップを埋めるに足る財政支出をすることなのだから、その具体的な方法が検討されるべきだ。 確かに、一義的にはそれは金融庁の所掌の範囲外であり、そのことを金融庁の審議会で議論し検討することが困難なのは否めない。しかし、せめてそうしたことに言及する、注意を喚起する程度のことはすべきだったと思われるが、それすらなされなかったのは、「自助」や現在のわが国の経済状況が、金融庁のみならず霞が関では所与のものとなっているからだろう。 繰り返しになるが、退職金が減少傾向にあり、貯蓄ゼロ世帯も増えているところ、公助から自助などと責任放棄に等しい考え方であり、「足りない分は自分で運用しろ」など不適切極まりない。 公的年金だけで老後の生活が送れるようにすべきなのか?との論点が出されることもあるが、年金の給付水準の在り方をどうするか、どのような生活水準を考えるべきかという議論はあるにせよ、基本的には公的年金、すなわち公助によって不自由なく暮らせるようにするというのは当然目指すべき方向のはずである(金融資産形成や運用はその上での話のはずである)。 「100年安心」 今や「看板に偽りあり」 半面、これは皮肉を込めてであるが、「自助」を是とするという考え方を現政権・政府が持っているということをさらけ出したという点では、今回の報告書を巡る騒動にも意味があったのかもしれない。 また、今回の報告書問題、「年金100年安心プラン」とも紐付けられ、「100年安心はどこへ行ったのだ?」といった批判も出ている。 「年金だけでは老後の生活に足りない」と書いているのだから無理もない。 「100年安心」、かつてはそうだったのだろうし、もともとはそのつもりだったのだろう。しかしこの20年以上にわたる緊縮財政とデフレ、さらには株主資本主義の浸透により給与も減少、老後の資金として年金だけをあてにすることもできなくなってしまい、気がつけば安心はどこかへ行ってしまった。今や「看板に偽りあり」である(そのことは本報告書を待つまでもなく明らかであったといっていいだろう)。 さらに、今回の報告書は「それ(2000万円の貯蓄が必要)が嫌なら消費税増税に反対するな!」という趣旨で打ち上げられたものとの話もある。 事実であればとんでもない話であるが、最近では「人生100年時代」とまでいわれるようになり、それが正しいかどうかは別として、そうなると仮定した場合に、「財源はどうするのか?」という議論が必ず出て、現状では「だから消費税増税」という話になりがちなのが実情だ。 これは大きな誤りであり、増税すれば消費が冷え込み日本経済はさらに停滞し、結果的に税収も落ち込み、「財源をどうする?」スパイラルに陥りかねない。 そうではなく、デフレからの脱却を最優先に、必要な分、不足する分について、財源は国債発行によるべきであろう。自国通貨を発行できる国は財政破綻しないことは財務省も認めている。 結局こうしたことの責任は、デフレを放置し、デフレをさらに進める緊縮財政をずっと続けてきた政府にあり、途中政権交替があったことも考えれば、与野党問わず政治の責任であるということは明々白々。 そうであれば、この報告書問題を「政争の具」にして参院選まで引っ張る暇があったら、「自助」を是とする発想を転換する。もっと言えば、緊縮財政から積極財政に転換すること、そのことを、その具体的な中身を与野党で議論すべきであろうし、来るべき参院選の争点とすべきであろう。
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