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日立製作所、容赦ない主要子会社売却で製造業切り離し…果敢な巨額買収でソフト企業へ変貌
https://biz-journal.jp/2019/06/post_28350.html
2019.06.14 文=真壁昭夫/法政大学大学院教授 Business Journal
日立の看板(「Wikipedia」より/Gnsin)
日立製作所(日立)が構造改革を積極的に進めている。同社は、かつての重電などを中心とする重厚長大型の事業組織から、最先端のテクノロジーを駆使し、新しい発想やモノの創出を目指すソフトウェア関連企業に生まれ変わることを模索している。
日立が目指していることは、これまでにはなかった人々の動くライン(動線)を生み出すことだ。それは、人々の“生き方=文化”を生み出そうとする取り組みにほかならない。そのために日立はデータの収集・分析体制を整備し、コンサルティングなどに不可欠なソフトウェアの創出力を高めたい。
この考えに基づいて、日立は大規模に「選択と集中」に取り組んできた。主要な子会社を売却し、ソフトウェア関連の競争力向上に必要な資産を取得している。その取り組みには、常識にとらわれず、柔軟に変化に対応し、新しい発想の創出を目指す経営者の考えがある。
現在の日立を、製造業に分類し、モノづくりが根幹にある企業として議論することは適切ではない。日立はデジタル・テクノロジーを駆使し、社会全体のイノベーションを進める役割を発揮しようとしている。同社の経営陣がどのように意思決定を下し、戦略が執行されていくか、興味は尽きない。
■事業分野の選択と集中
日立は、大規模かつこれまでに例を見ないスピードで、事業ポートフォリオの選択と集中を進めている。その目的は、ソフトウェアを創出する企業を目指し、成長の持続力を高めることだ。それは、同社の買収と事業売却のヒストリーを見るとよくわかる。
2018年12月に日立は、スイスの重電大手ABBからパワーグリッド(送配電ネットワーク)事業を買収した。電力は、あらゆる経済活動に不可欠なエネルギーだ。送電データを分析することによって、日立は各国の個人や企業の活動に関する膨大なデータを手に入れることができる。データを分析することで、従来以上に効率的な送配電のシステムを開発・運営するなど、需要の創出が期待される。
買収額は7000億円とかなりの規模だ。一方、送電事業の収益の安定性に加え、ABBのパワーグリッド事業はシステム面にも優位性を持っている。収益と、経営戦略の両面において、日立にとってABBのパワーグリッド事業買収は重要かつ“良い買い物”だ。
4月24日に発表された米JRオートメーションの買収にも、ソフトウェアに関する競争力を高めたいという日立の狙いがある。JRオートメーションは、自動車、航空機、物流、医療と幅広い分野でのロボットソリューションを提供し、顧客からの評価も高い。
一方、日立は“製造業ビジネス”を切り離している。2012年以降、日立はハードディスク駆動装置事業、日立工機の売却など、“製造業”を事業ポートフォリオから切り離してきた。その上、中核の上場子会社である化学メーカー、日立化成の売却も固まった。年初来、アジアの化成品市況は相応に堅調だ。日立にとっては、ここがいい売り時なのだろう。
中核子会社を売却することで得られる経営資源を、日立の経営陣はソフトウェア創出力などに関する分野に重点的に再配分している。同社は選択と集中を通して、ソフトウェア創出力を軸に成長を目指す、新しいビジネスモデルの構築に取り組んでいる。
■人々の“ライフスタイル”の創出
見方を変えると、日立は、これまでにはなかった人々の“生き方=文化”を生み出したい。企業が需要を生み出すためには、新しい“動線”が必要だ。新しい動線を描くことは、人々の生き方=文化を生み出すことと同義である。
ソニーのウォークマンは、私たちに歩きながら音楽を聴くという“新しい楽しみ方(価値観)”を提案し、受け入れられ、ヒットした。これは、まさに新しい生き方の創出だ。それがCDやMDなどの開発につながった。ソニーはモノをつくりつつ、その根底では文化を生み出していたのである。
アップルは電話(iPhone)、パソコン、カメラ、音楽プレイヤーなど多・高機能のモバイル・デバイスに関するソフトウェアを創出した。1997年、アップルは経営破綻の危機にあった。それを救ったのは、スティーブ・ジョブズの考え(ソフトウェア)だ。アップルは製品の組み立て・生産を台湾の企業である鴻海(ホンハイ)精密工業傘下のフォックスコンに委託するなど、企業の活動にも大変革をもたらした。
日立は、こうした想像・創造力あふれる企業になりたい。それは、家電、重電分野で製品の改良を行ったり、顧客の要望に対応することとは、発想が異なる部分がある。日立が手に入れたいのは、ハード(製品)の機能(動き、役割)を生み出すソフトウェアを生み出す力だ。同社は、従来の延長線上にある発想から脱却し、ゼロから自力で新しい発想を生み出し、企業の経営(ビジネスモデル)や、個人の生き方に新しい価値観を提供することを真剣に目指している。
そのためには、これまでには知られていなかった人々の行動様式などを見つけなければならない。スマートフォンの普及に伴い、私たちの生き方に関する膨大なデータ(ビッグデータ)が日々蓄積されている。日立はデータ分析などを進め、新しい動線を描き、需要を創出することを目指している。現在の日立経営陣の頭の中には、製造業や非製造業、個人事業と法人事業という発想はないだろう。
■目指すは産業創出のプラットフォーマー
日立は常識を捨て、あらゆる産業・経済活動のプラットフォーム(基盤)になることを目指している。これは、社会全体に変革を起そうとする取り組みに等しい。
それを体現したビジネスがLumada(ルマーダ)事業だ。これは、生産やビジネスの現場と経営管理に関するデータをフルに活用して顧客の課題を解決し、新しい満足度(価値)を提供しようとするプラットフォームビジネスである。同社は顧客への新しい価値創造のために、ルマーダのコンサルティング力、データ分析力、シミュレーション力の向上をビジネス上の最重要課題に位置付けている。
ABBのパワーグリッド事業、米JRオートメーションの買収が産業プラットフォームであるルマーダと融合することは、日立の戦略に一言では言い表せないほどの深みと広がりをもたらす。送電データを分析することで、顧客企業のオペレーション改善提案を行い、それをオートメーションテクノロジーと融合することで、従来にはない生産プロセスが確立できるだろう。
また、家計の送電データを分析することで、家族が家の中にいる時間を把握することもできるだろう。企業にとって、人々が家の中に引きこもってしまうのはマイナスだ。外出する楽しみの有無が、消費意欲に大きく影響する。それが企業の収益を左右する。
日立は、データの分析、それを活かしたシミュレーションを通して個人と企業の新しい動線を引き、需要を創出したい。それは、日立だけでなく、社会の発展にとっても重要だ。この発想に、製造業と非製造業、個人と法人という発想は当てはまらない。
日立は、デジタル・テクノロジーを駆使した社会イノベーターとしての役割をさらに強化するだろう。それに伴い、同社の事業ポートフォリオも、さらなる変革を遂げることが期待される。一連の改革を支えているのは、経営トップの感性と決断力だ。
足許では、わが国経済の先行き不透明感が高まっている。日立のイノベーションが多くの企業や個人を刺激し、新しい発想の創出に向けた取り組みが増えることを心から期待する。
(文=真壁昭夫/法政大学大学院教授)
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