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対中関税「第4弾」が引き金に、東アジア供給チェーン大再編の衝撃
https://diamond.jp/articles/-/204184
2019.6.3 三浦有史:日本総合研究所上席主任研究員 ダイヤモンド・オンライン
Photo:PIXTA
米中貿易協議の “決裂”を受けて、米国は10日、輸入中国製品2000億ドル分について、6月1日から、関税を10%から25%へ引き上げる制裁「第3弾」実施を発表。
さらに13日には計3805品目、総額3000億ドル分に、最大25%の関税をかける「第4弾」の発動を準備すると表明した。
第4弾の対象には、スマートフォンやパソコン、衣類、スポーツ用品など、生活必需品が多く含まれ、実施は6月下旬以降とされる。
通関統計では見えない米中戦争
部品の供給チェーンに波及
「第4弾」が実施されれば、中国からの全輸入品に制裁が広がることになるが、その影響は米中経済だけにはとどまらない。
他国から調達した部品などの中間財分を除き、自国で上乗せした付加価値分に着目した「付加価値貿易」の視点からは、米中貿易戦争がつきつけるもう一つの課題が浮き彫りだ。
米中貿易戦争をめぐるは米中の折衝は、一時は合意近しとみられていたが、劉鶴副首相を迎え、9〜10日にワシントンで開催された協議でも折り合えず、米中貿易摩擦は最悪のシナリオに向かって動き始めた。
関税引き上げの応酬は、米中両国間の貿易を停滞させ、経済成長の下押し圧力となる。それはどの程度のインパクトがあるのか。
しばしば引用されるのが、相手国向け輸出がGDPに占める割合である。
米国政府の貿易統計からそれぞれの割合を求めると、2018年で、米国の対中輸出は米国のGDPの0.6%、中国の対米輸出は中国のGDPの4.4%となる。
関税引き上げの影響は米国よりも中国への影響が大きく、中国が不利とされるゆえんでもある。
しかし、この貿易統計は通関ベースであり、必ずしも相手国向け輸出の実像を正しく捉えているとはいえない。
iPhoneのサプライヤー
中国企業は1割強
「世界の工場」である中国の輸出には、中国以外の国・地域から調達した部品などの中間財が多用されているからである。
こうしたグローバル・バリュー・チェーン(GVC)の仕組みを象徴する事例として頻繁に引用されるのがアップルの製品である。
例えば、iPhoneは中国で組み立てられた後に世界に輸出されているため、“made in China”とされているが、部品は世界中から調達されている。
したがって、中国の対米輸出に含まれる中国由来の付加価値はそれほど多くない。
事実、同社の2017年のサプライヤーリストに掲載されている200社を本社の国籍別に分けると、中国は27社に過ぎず、台湾(51社)、日本(43社)、米国(39社)を下回る。
iPhoneに限ってみれば、米国の制裁関税がかけられて、価格が上がって売れなくなったりする影響は、中国よりも、台湾、日本、米国の方が制裁関税の影響が大きいといえそうである。
この問題を定量的に把握できるのがTiVA(Trade in Value Added)と呼ばれる経済協力開発機構(OECD)の付加価値貿易統計だ。
TiVAは部品などの中間財が最終消費地に届くまでに複数の国を跨ぐことよって生じる「二重計上」の問題を解消し、国境を越えて取引される財・サービスの付加価値が、どこの国・地域のどの産業に由来するかを明らかにしている。
「第4弾」の打撃
台湾、韓国など東アジアに
米中両国の相手国向け輸出を付加価値ベースで捉え、自国由来の付加価値に限定したうえで、対中制裁関税「第4弾」が実施された場合の影響をみてみよう。
関税が10%から25%に引き上げられた場合、国連貿易開発会議(UNCTAD)が指摘するように、輸出の9割は「貿易転換効果」が働き、関税率が低い第三国によって代替される。
これを前提に「第4弾」が発動された影響をみると、中国はGDP比3.2%、米国は同1.1%に相当する輸出を失う可能性がある(図表1)。
中国への影響は通関ベースの統計で考えられるより小さく、米国への影響は大きくなる。これは、中国の場合、自国でつけられる付加価値がまだ多くはないということが原因だ。
一方で、米国による関税引き上げは、中国を対米輸出の最終輸出拠点とする周辺アジア諸国・地域にも大きな影響を与える。
TiVAから中国の対米輸出に含まれる中国以外の国・地域の付加価値額を求め、「貿易転換効果」を加味して、そのGDP比を算出した。
すると、台湾が最も高く1.3%となり、以下、韓国・マレーシア(0.6%)、シンガポール(0.5%)、タイ・フィリピン(0.4%)と続き、日本の0.2%を大幅に上回る(図表2)。
日本では、3月の景気動向指数からみた景気の基調判断が約6年振りに「悪化」に転じ、摩擦激化に対する不安が広がっている。
中国の輸出減、生産減の影響を受けたとされるが、東アジア全体に視野を広げれば、日本は、台湾や韓国などに比べると、影響は相対的に小さいといえる。
電気・電子産業に集中
GVCの再編が動き出す
「第4弾」が発動されると、東アジアの国・地域の対中輸出は日本以上に停滞し、その影響は電気・電子産業に集中的に表れるとみられる。
中国の対米輸出に含まれる中国以外の国の付加価値の産業別内訳をみると、その9割が製造業であり、製造業のなかでは電気・電子産業が5〜8割と非常に高い割合を占めるからだ(図表3)。
東アジアの電気・電子産業が「第4弾」の影響を受けるのは、同産業のGVCが東アジアを中心に発展を遂げてきたことの裏返しでもある。
このGVCは安価な労働力を大量に有する中国を最終的な輸出地とすることで順調に拡大し、中国を含む東アジア各国の経済成長や世界貿易の拡大を支える役割を担ってきた。
しかし今後は、米中の貿易摩擦の激化を受け、GVC再編の動きが顕在化すると思われる。
再編は、対米輸出の最終拠点として圧倒的な存在感を示してきた中国の地位を相対化する方向で進むとみられる。
中国は、(1)2030年頃に米国のGDPを上回る可能性が高いこと、(2)IoTに不可欠な通信規格5Gやスマートフォン用半導体で米国を脅かす存在になりつつあるこことから、米国の対中警戒感が弱まるとは考えにくい。
そうであれば、6月のG20大阪サミットの際に来日するトランプ大統領と習近平主席の首脳会談が行われて、仮になんらかの「合意」に至ったとしても、周辺諸国にとって中国を対米輸出の最終拠点にするリスクは低くはならない可能性が高い。
そのため、中国に生産拠点を設ける企業は、摩擦の長期化を前提とし、中国に代わる対米輸出拠点を模索せざるを得ない。
例えば、iPhoneの組み立てを手掛ける台湾の鴻海精密工業(ホンハイ)はインドとベトナムに、和碩聯合科技(ペガトロン)はインド、ベトナム、インドネシアに、それぞれ新たな組み立て工場を設けると伝えられている。
それらの工場が世界輸出の拠点となるなら、そこに部品を供給する企業にも中国から工場を移す誘因が働くだろう。
ベトナムなどに分散化
中国地場企業も「相対化」
中国に集中した生産拠点を分散化させる「チャイナ・プラス・ワン」は、今に始まったことではない。
日本では、2005年の中国における大規模な反日デモを契機に分散化の必要性が叫ばれてきた。
今後見込まれる「チャイナ・プラス・ワン」が従来のそれと異なるのは、最終組み立てを担う企業だけでなく、部品を供給する企業も分散化を進めると見込まれることだ。
アップルのワイヤレスイヤホンを生産する台湾の電子機器大手歌爾声学(ゴーテック)は、2018年10月、生産拠点の一部を中国からベトナムに移管する方針を明らかにした。
こうした動きは中国地場企業にも波及し、広東省など電気・電子産業が集積する地域では空洞化が起こる可能性がある。
分散先の有力候補とみられるベトナムの2019年1〜4月の対内直接投資をみると、中国の投資が前年同期比116%増の13億ドルと、日本やや韓国を抑えて初めてトップになった。
これは東アジアのGVCにおける中国の相対化が、中国地場企業によって進められ始めた嚆矢(こうし)といえるのではないか。
(日本総合研究所上席主任研究員 三浦有史)
対中関税「第4弾」が引き金に、東アジア供給チェーン大再編の衝撃 #SmartNews
— ヨシ つぶやきます (@x16UkxUXHC6ekyY) 2019年6月3日
日中以外の東アジアへの影響がデカイんだ…
東南アジアや台湾は生き残りを賭けて再編に臨んでくるだろうね^_^韓国?さぁ… https://t.co/jl4Tu3O3zc
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