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ジオングに脚をつけたがる日本企業が、中国企業に後れを取る理由
https://diamond.jp/articles/-/203027
2019.5.22 長内 厚:早稲田大学大学院経営管理研究科教授 ダイヤモンド・オンライン
日本の経営者とダブる
ジオングの脚にこだわる「偉い人」
アニメ『機動戦士ガンダム』に登場するモビルスーツ、ジオング。脚がないのが特徴的。写真は「ガシャポン HG シャア・アズナブル コレクション」(バンダイ)のジオング ©創通・サンライズ Photo:DOL
唐突だが、筆者と同世代の人ならガンダムが好きだったという読者が多いのではないだろうか。今回は中国のIT産業と日本のジャパンディスプレイ(以下、JDI)の話なのだが、出だしはガンダムから始めさせていただく。いや、もう40〜50代のガンダム世代に向けて書いているといってもいい。
現在でもさまざまなガンダムのアニメが制作されているが、ガンダムシリーズの第1弾、いわゆる「ファーストガンダム」では、地球連邦軍のアムロ・レイとジオン軍のシャア・アズナブルという2人の登場人物の成長と戦いが、物語のメインになっている。主人公である連邦のアムロが搭乗・出撃する「モビルスーツ」(ガンダムに登場する架空の戦闘ロボット)としては、ガンダム1機のみが物語を通して登場している。
もう一方のジオン軍のシャアは、ザク、ズゴック、ゲルググといった新型モビルスーツに搭乗し、アムロと対峙する。次々と新しい機体を開発する技術力を誇示しつつも、上層部の内紛などにより結果的には戦略レベルで連邦に負けてしまうジオン軍は、まるで日本の製造業のようでもある。
ファーストガンダムの終盤、劇場版3部作でいえば『めぐりあい宇宙』編では、シャアが最後に搭乗するジオングというモビルスーツが出てくる。シャアは初めてジオングを見たときに、脚がなく80%の完成度だと聞いて、整備士に不安を吐露する。それを受けて整備士は、「あんなの(脚)飾りです。偉い人にはそれが分からんのですよ」と、脚がないモビルスーツでも性能は100%引き出せると自信を示す。名シーンである。
このジオングの脚にこだわる「偉い人」は、日本の経営者ともダブるように筆者には見える。
深セン滞在中に体験した
イノベーションのレベル
話は変わるが、イノベーション研究者としては遅ればせながら、最近中国の深センを訪れた。検索や地図にはGoogleやYahoo!ではなくBaidu(百度)を、チャットにはLINEではなくWeChat(微信)を、支払いにはSuicaではなくWeChatPay(微信支付)を使った。
実は、外国人がWeChatPayを使うにはかなりの苦労を伴う。中国の銀行口座と紐付いていないと、電子マネーが原則チャージできないからだ。そして、中国の銀行口座を外国人が開設するのもとても難しい。中国人による不正な外貨持ち出しを防ぐための措置なのだろうが、外国人には不便なことこの上ない。
とはいえ、いろいろと調べていくと、外国人でもWeChatPayにチャージをする手段があることがわかったので、深セン滞在中に商店、レストラン、地下鉄などさまざまなところでWeChatPayを使ってみた。
BaiduもWeChatもWeChatPayも日本で有名な中国のITサービスであり、深センをはじめとする中国のIT業界の先進性を示す代表例として挙げられることも多いが、実際使ってみた印象は「どれも80%の完成度」という感じだ。
Baiduも、中国語を母国語としてないからという理由もあるかもしれないが、検索エンジンはGoogle、Yahoo!のそれと比べて優秀とはいえない。地図アプリも悪くはないのだが、Googleやアップルより良いかといわれると、それほどでもない。
そもそもの地図データの精度でいえば、やはり日本のゼンリンには敵わない気がする。WeChatも中国では、日本におけるLINE同様にとても便利なコミュニケーションツールであるが、デザインや操作性などはLINEに比べると洗練されているとはいえない。
WeChatの一部のサービスとして提供されているWeChatPayも同様だ。支払いには店舗側のQRコードを読み取るか、こちらのQRコードを表示させて店舗側にスキャンさせるかの2通りがあるが、QRコードの読み取りと表示では異なるメニュー操作から入っていくので、シームレスで一体的な操作感はない。
また今回、現地のスマートフォン本体と現地の通信会社の通信SIMカードを利用したのだが、IT先進都市深センでも意外と圏外や電波の弱いところが多く、そうしたところではWeChatPayを使った決済ができなかったり、時間がかかったりする。日本でFeliCa技術を使ったSuicaや楽天Edyなどの非接触IC電子マネーを使い慣れていると、スマートさは感じないし、むしろじれったい思いをすることも少なくなかった。
中国の決済システムは
80%でも十分な完成度
アプリやシステムの完成度という意味では、日本のそれらに比べるとまだ80%くらいなのかもしれない。ただし、だからといって「日本のほうが完成度が高い」「すごい」「さすが日本だ」などというつもりはない。80%で十分な完成度だからだ。
それよりもWeChatPayと、同様のアリババのサービスAlipay(支付宝)が、深センだけでなく中国のあらゆる都市で、コンビニや商店はおろか交通機関から露天商まで、あまねく使える決済インフラになっていることのほうが、アプリの完成度よりも利便性を高めている。
操作性、デザイン、セキュリティなどを考えれば、日本の非接触IC電子マネーの技術であるFeliCaと、それをベースとしたSuicaや楽天Edyなどのサービスのほうが、機能的には勝っている。しかし、ビジネス的にはどうであろうか。
QRコード決済を初めて実用化したのは中国企業である。加盟店はスマホかタブレットさえあれば、QRコード決済を導入できる。ユーザーは、NFCなどの技術が搭載されていなくても、カメラさえスマホについていればサービスが利用できる。加盟店がサービスを導入するためのイニシャルコストが格段に安いし、決済手数料も安いので、少額決済事業者にも導入しやすい仕組みになっている。
一方、FeliCaは加盟店側が高額のカード読み取り機を導入する必要があり、スマホの側でも非接触IC対応でなければならない。楽天Edyはかつてソニーグループのビットワレットという会社であったが、加盟店数の伸びとともに設備投資費用がかさみ、収益を産み出せなかった。コンビニなどの大手小売店のカード読み取り機の導入コストを、ビットワレットが肩代わりしていたためだ。
今でこそ、各電子マネー対応の共通端末が登場し、日本でもさまざまな流通の現場で各種電子マネーを使えるようになったが、中国のQRコード決済の裾野の広さと比較すれば、十分に普及しているとはいえない。
中台企業連合の傘下に入った
JDIにも「ジオングの脚」問題
話は再びガンダムの世界観に戻るが、冒頭で述べた、ジオングに脚をつけたがる日本企業は、100%の使い勝手、デザイン、セキュリティを求めすぎて、かえってビジネスモデルとしてのバランスを崩していないだろうか。
ファーストガンダムの前半では、戦闘の主力兵器は人型ロボットであるモビルスーツであった。しかし中盤以降になると、人型の形態にこだわらない「モビルアーマー」という兵器が登場する。宇宙戦争の主力が人型のモビルスーツによるものという思い込みのある既存の軍幹部にとっては、人型という形態は過去の成功体験であり、思い込みであり、惰性でもある。新しいタイプの機器に対する理解が追いつかない、非連続なイノベーションが起きていたと考えられる。
翻って、冒頭の若い整備士はモビルアーマーという新兵器をよく理解し、人型であることにこだわらない。だから「モビルスーツか、モビルアーマーか」という形態の違いにこだわらない、若く新しい発想ができていたのだろう。ちなみに、コアなガンダムマニアの間でも、ジオングはモビルスーツなのかモビルアーマーなのかで議論が分かれる。余談であるが――。
それを考えると、国際競争で劣勢になって久しいといわれる日本企業も、既存の技術開発の経験や技術力だけで市場を切り開いてきた過去の経験が、ジオングに脚をつけたがらせているのではないだろうか。新技術は常に正しいもの。技術は価値を産み出すもの。機能や性能はないよりもあったほうがいいもの――。そういう思い込みが、日本の技術開発にコストやビジネスプラン抜きの「技術優先シナリオ」をもたらしているように思える。
もう1つの例を挙げたい。最近、中台企業連合の傘下に入る方向で調整が続いているジャパンディスプレイ(JDI)のケースについても、「ジオングの脚問題」が垣間見られる。
JDIは既存の液晶技術を磨き上げ、有機ELとも張り合えるだけの液晶技術を有していたが、産業革新機構が歴代送り込んだ経営者は、同社の液晶技術とそのビジネスの可能性を正しく理解していたとはいいがたい。
2015年に同社のCEOに就任した本間充氏は元三洋電機の電池事業に従事した人物、2017年にCEOに就任した東入来信博氏は有機ELパネル開発を行うJOLEDの社長であり、JDIの方向性を中途半端に液晶と有機ELの間でブレさせた(これは後述するが、JDIの経営者だけの責任ではないことをお断りしておく)。パネルメーカーとしての浮沈がかかっているときに「ヘルメット用ヘッドアップディスプレイだ」「BtoCだ」と言い出したのも、謎としかいいようがない。
常に新しい技術に
目移りしてしまう日本企業
近年、大型テレビでも中小型パネルのスマートフォンでも、有機ELが新技術として登場し、もてはやされてきた。さらなる製品技術の革新、機能性能の向上を常に良しとする日本企業は、既存技術に立ち止まることを知らない。「新技術が常に良いもの」という信仰に囚われている日本人は、ビジネスの全体像と技術とのマッチングを考えるよりも、常に目新しい技術に目移りしてしまう。
有機ELパネルにしても液晶パネルにしても装置産業であり、規模の経済が効き、大規模でスピーディな意思決定と設備投資をしたものが勝てるビジネスである。仮に製品技術として80%の完成度であったとしても、生産工程を磨き上げ、歩留まり良く大量生産を行なえば、そうした製品が普及し利益を生み出すのが、現代の国際分業化したエレクトロニクス産業である。
JDIの規模を考えれば、中途半端に液晶と有機ELに二股をかける余裕はなかったはずである。また、有機ELも万能ではなく、熱に弱いなどの問題があるため、車載用途などではまだまだ液晶が主流になり続けると見られる。
こうしたビジネス環境の中で、なぜ、ただでさえ制約の大きい経営資源を分散させてしまったのだろうか。確かに液晶は既存技術であり、有機ELには液晶に勝るメリットもある。しかしその差が、大きなビジネスの差に本当になっているのだろうか。日本で売られているスマホの多くは高級機種であり、ハイエンドの氷山の一角を見ているに過ぎない。グローバルな市場では、こなれた生産を実現している液晶パネルを搭載した低価格スマホが市場を下支えしている。
早くから有機ELに投資を始めた韓国企業が、有機ELに熱を上げるのはまだわかる。しかし、中小型有機ELパネルに強いサムスン電子に対して、大型テレビ向け有機ELパネルが得意なのは、同じ韓国企業でもサムスンのライバルのLG電子である。こうした状況で、サムスン電子はテレビ事業に関しては戦略的に有機ELに力を入れていない。
当然のことである。経営学者のマイケル・ポーターを持ち出すまでもなく、相手企業が有利な市場で戦うのは避けるべきである。サムスンほどの体力のある企業でも、自社に不利と思えば戦略的に既存技術に留まることがあるのだ。
一方のJDIはどうだったであろうか。2015年頃から実用化が進んでいた同社のフルアクティブ技術を用いた液晶パネルは、フレキシブルな形状の実現や狭額縁など、有機ELが得意としていた特徴を液晶でも実現していた。その頃から大胆かつ迅速にフルアクティブ技術の量産に向けた開発投資、生産設備投資を行っていたら、その後の状況は大きく違っていたのではないだろうか。
ちなみに、現行のアップルのiPhoneの3モデルのうち2モデルは有機ELパネルだが、1モデルはJDIのフルアクティブパネルである。見る人が見れば違いはわかる。だが、多くの人はその差を感じないだろう。80%の完成度でも多くのユーザーは気にしないのだ。
日本の経営者に求められる
要らないものを捨てる力
常に新技術に取り組むというのは必ずしも正しくなく、新技術開発の必要性はそれがより大きな収益を期待できるときに限られるべきである。また、日本は製品そのものの技術開発は得意だし、好んで行うものの、既存技術の生産工程技術を磨き上げるという地味な革新は軽視されがちである。
JDIの失敗は、液晶パネルの現場を知らない「偉い人」が、より新しくキャッチーな技術に目移りした結果でもある。日本の経営者に求められるのは、「ジオングの脚」を切り捨てられる大胆な意思決定者であろう。
JDIの内外にいたはずの
ジオングに脚をつけたがる人々
JDIの場合、ジオングに脚をつけたがる「偉い人」は必ずしも企業内部の関係者だけではなかった。JDIに出資をしていた産業革新機構(その後のINCJ)にしろ、INCJの上にいる経済産業省にしろ、現場を知らない「偉い人」だったかもしれない。JDIの有機ELへの投資については、大臣会見でも度々出てきた話だ。
JDIはJDIだけで経営の意思決定ができる事業者ではなく、INCJや政府も発言力のあるステークホルダーとして経営方針に関わってきた。それが前述の「JDIの経営者だけの責任ではない」という話だ。
本間氏は本来、JDIを含む日本の液晶産業の再々編をミッションとしていたといわれるし(シャープの鴻海傘下入りで頓挫したが)、東入来氏も有機ELシフトをミッションとしてJDIの経営者になった。そこには、INCJや経済産業省の意向が働いていただろう。しかし、それはJDIという会社の現場の環境や資源を正しく理解した戦略とはいえなかったかもしれない。「新しい技術が突破口になる」という、安易な期待でしかなかったのではなかろうか。
JDIは母体こそ東芝・ソニー・日立の液晶開発チームという既存の巨大企業の事業部門だったが、JDI発足によって既存事業から切り離され、小ぶりながらも自分たちのビジネスだけに集中できるスタートアップ企業として生まれ変われたはずであった。しかし、通常のスタートアップと異なるのは、投入された資金の源泉が税金であったということだ。それが、スタートアップ企業として思い切った経営判断をすることができなかった要因である。
もちろん、税金の使途を「好き勝手に使っていい」と言える役所などあるはずがない。経済産業省もINCJも、自らの仕事を果たしただけである。しかし「正当な業務」としてのJDIへの関与が、結果としてJDIのスタートアップ企業としての優位性を損なわせたともいえる。
これを機に、経済産業省もINCJも、新しい技術開発だけが価値創造ではなく、80%の完成度の技術でも市場を支配できる戦略を構築するために、経営能力の総動員が必要であるということを理解してもらいたい。そして公的資金を使いながら、事業の独立性を高めてリスクを取ることを厭わない、スピーディで大胆な経営意思決定を行えるスキーム構築を考えてもらいたい。
(早稲田大学大学院経営管理研究科教授 長内 厚)
「ジオング」の脚に例えたこの話、
— 行政書士界の冴羽獠@知的資産経営コンサル (@koutan_effort) 2019年5月22日
めっちゃ分かり易い!
製造業に限らず、小売やサービス業も
同じことが言えるんじゃないかなぁ。
80%でいいのに、100%って自己満足。
顧客は誰か、
顧客にとっての価値は何か、
ドラッカーの問いかけに対して改めて
向き合う必要がある。 https://t.co/XNO5ZCxrER
確かに物作ってる人間からするとV2アサルトバスターなんていらねーだろ、ズゴックで充分じゃねーかと思う事が多々ある。
— だいす。 (@kool_boost_007) 2019年5月22日
他と違う特色とか付加価値とか、まず使ってから判断しろよとは思うけどねえ。https://t.co/XehzMXqg9T
的確な指摘と見事な表現。感服ですw
— 剱持知久/製造業編集長 (@kemmochi_1975) 2019年5月21日
「あんなの(脚)飾りです。偉い人にはそれが分からんのですよ」
ジオングに脚をつけたがる日本企業が、中国企業に後れを取る理由 | 長内 厚のエレキの深層 | ダイヤモンド・オンライン https://t.co/3R7I1YjfKB
https://t.co/MPJA3XBGss
— Hiro-chang (@Hirochang55) 2019年5月22日
いらない機能をゴテゴテにつけて、高く売りさばいて、セールに格下げされてずっこける。だから世界に負ける。余計なものをつけすぎなんだよね。
プロダクト開発を経験してきたからこそ言えるのが、Simple is Best。
— Takahiro Yajima(谷島 貴弘) (@yajima_dual) 2019年5月22日
100%良いものは最初からできないし、最初から大手に開発費や販路で勝てる訳がない。
スピード重視で、これだというポイントを創り、ABテストを繰り返すのが成功の近道。 #NewsPicks https://t.co/5r6rhnQHdH
無駄な機能をつけるばかりに完成が遅れ、時代の流れにおいていかれる。シンプルですね。
— fujiyan1516 (@fujiha5b) 2019年5月22日
ジオングに脚をつけたがる日本企業が、中国企業に後れを取る理由 | 長内 厚のエレキの深層 | ダイヤモンド・オンライン https://t.co/lXyzKvd6HV
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