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大企業の間で、今年か来年の“リーマンショック級経済危機”到来への警戒高まる
https://biz-journal.jp/2019/05/post_27987.html
2019.05.22 文=鈴木貴博/百年コンサルティング代表取締役 Business Journal
リーマン・ショック(写真:AP/アフロ)
大企業によって多少は時期はずれたりするのですが、毎年5月というのは多くの大企業で今年度の事業予算計画が確定する時期です。どれだけの売上を予定し、どれくらいの投資を行うのか、そういった計画がこの時期にほぼ出そろいます。
それで本業が経営コンサルタントの私としては、守秘義務の関係であまり詳細はお話しすることができないのですが、今年、大企業の経営者たちが比較的共通認識として懸念しているあることについて、今回は書かせていただきたいと思います。
それは一言でいうと、
「今年か来年のどこかで、リーマンショック級のグローバルな経済不況がやってくるのではないか」
という懸念です。
この点については経済評論家の間でも意見が分かれるところで、最大の懸念事項はアメリカのトランプ政権が推進している過剰な保護政策が世界経済をどう停滞させるのかという点です。加えて、これまで世界経済をけん引していた中国の成長が本格的に止まりそうだという懸念や、EUから英国が離脱する政治的インパクトに関係する懸念など、グローバル市場における懸念材料があふれているという問題があります。
それらに関係したなんらかの引き金でパニック的な経済混乱が起きるリスクは、一定規模で存在するわけです。具体的なきっかけはアメリカの金利上昇かもしれませんし、中国やアメリカの有力企業と思われてきた企業が急に行き詰まるといったニュースかもしれません。
何がきっかけになるかわかりませんし、いつ起きるかもわからない。けれども今年か来年にそれが起きる可能性はある。だから経営計画にそのリスクを織り込んでおこうと大企業経営者たちが考えているという現実があります。
では、実際にリーマンショック級の経済恐慌は起こりうるのでしょうか?
■今回のケースの特徴
リーマンショックのときにはひとつ、具体的な火種が存在していました。それがサブプライムローンという返済不能な負債が莫大な金額におよび、かつそれが細かく証券化されて世界中の金融商品にばらまかれていたという火種でした。
平成初期に起きたバブル崩壊も同様です。火種としては大手金融機関が貸し付けてきた不動産融資が不動産価格崩壊とともに焦げ付いて、その不良債権規模が100兆円に及ぶ規模へと膨らんでいたという火種です。
それらの事態と比べると、今、私たちの目の前にある「リーマンショックの再来の危機」というべきものには、同じような火種は目に見えるかたちでは存在していません。起きる可能性があることはむしろ大きな経済停滞であり、これはリーマンショックのような破壊的な恐慌ではなく、5年から10年の間に1〜2回起きるような周期的な不況で終わる可能性も小さくはない。恐慌は起きないかもしれないというのが今回のケースの特徴ではあります。
とはいえ、火種はひとつ存在します。それは先進国の株式市場の価格がかつてないレベルにまで高騰しているという事実。そして、日本の場合は東京オリンピックに向けて首都圏の不動産価格がかつてないレベルにまで上昇しているという事実です。株価と不動産価格の上昇が経済成長の背景にある以上、それらが価格崩壊すれば少なくない投資家たちが巨大なダメージをうけ、それに応じて相応の不良債権が出現するはずです。
冒頭に申し上げたように経営コンサルタントとしての守秘義務がからんでくるので、大企業側の情報についてはあまりお伝えすることはできないのですが、私が大企業にどのようにアドバイスしているかはお伝えすることができます。それは、
「リーマンショックの3分の1ぐらいのインパクトのクラッシュがきても大丈夫なように備えておきましょう」
というアドバイスです。
何かが起きる可能性は小さくないが、その規模は過剰に想定するほどのことではないのではないかという分析です。あくまでひとつの見識として聞いていただきたいのですが、2008年頃の不気味な状況と比べると、そこまでの不安材料はないようにみえるというのが現時点での状況ではあります。
■経済の教科書には書いていない事態も
ただもうひとつ、読者である皆さんに対しては別のアドバイスがあります。それは今のままだといずれ、これからの10年の単位でみれば、どこかでもっと大きなクラッシュがやってくる可能性があるということです。
最大の懸念材料は国の借金の増加です。日本の借金が過去最大の1100兆円になったというニュースがありますが、今後、高齢化社会がさらに進んでいけば、医療費の問題や年金の負担で国家財政がさらに悪化するのは必定です。
そして、このような状態が近づいていてもまだ日本の財政が破たんしていない最大の経済学的な根拠は、ゼロ金利下ではそういった巨額の国の借金が維持できるという、未解明の経済学説通りに事が進んでいるという点にあります。もしその状況が崩れたらこの先どうなるのかは、経済の教科書には書いてはありません。
しかし、国の借金が日本の個人資産1500兆円を超える時期はいずれやってきます。もう国内の金融機関が国債を買い支える資金がなくなって、仮に海外の金融機関に国債を買ってもらわなければならない時期が来るとすれば、今の借金を正当化できる経済前提は崩れるわけです。
では、そのようなクラッシュが来たらどうなるでしょう。おそらくリーマンショックではなく、オイルショック的な経済恐慌が日本を襲うことになると思われます。リーマンショックの場合はあらかじめ資産を現金化しておけば恐慌をやり過ごすことができたのですが、オイルショックの場合は、狂乱物価が起きることで現金を持っていても資産は半分以下に目減りしてしまいました。
今回恐れられている経済クラッシュとは別に、日本経済は少子高齢化による縮小と政府財政の肥大という確実に来るであろう未来のもうひとつのリスクを抱えているのです。そのことも念頭におきながら、ここまでの経済成長が来年の東京オリンピックまで持つかどうか、微妙な未来を心配しながら今年一年を過ごすという考えが、多くの大企業における今年の年度計画の前提にあるのだということを今回はお伝えしておきます。
(文=鈴木貴博/百年コンサルティング代表取締役)
●鈴木貴博(すずき・たかひろ)
事業戦略コンサルタント。百年コンサルティング代表取締役。1986年、ボストンコンサルティンググループ入社。持ち前の分析力と洞察力を武器に、企業間の複雑な競争原理を解明する専門家として13年にわたり活躍。伝説のコンサルタントと呼ばれる。ネットイヤーグループ(東証マザーズ上場)の起業に参画後、03年に独立し、百年コンサルティングを創業。以来、最も創造的でかつ「がつん!」とインパクトのある事業戦略作りができるアドバイザーとして大企業からの注文が途絶えたことがない。主な著書に『ぼくらの戦略思考研究部』(朝日新聞出版)、『戦略思考トレーニング 経済クイズ王』(日本経済新聞出版社)、『仕事消滅』(講談社)などがある。
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