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老後のお金の引き出し方 https://diamond.jp/articles/-/194913 2019.5.1 後藤順一郎:アライアンス・バーンスタイン株式会社 AB未来総研 所長 ダイヤモンド・オンライン Photo:PIXTA 前回はお金の話を離れ、長野県・小布施町を例にしながら、幸福論や“ワクワク”といった観点から今後の働き方についてお話ししましたが、今回は私の本業であるお金の話に戻りたいと思います。 最近、金融庁が主導していることもあり、老後に必要な金融の知識と老年学(ジェロントロジー)を組み合わせた『金融ジェロントロジー』という学際的な分野への注目度が高まってきています。そんな流れの中で、老後の資産運用方法についての議論も盛んになってきています。特に最近は、老後、どのように保有資産からお金を引き出すべきなのか(つまり、『定額引き出し』なのか『定率引き出し』なのか、そのときの額や率をどう設定するか)についての議論が盛んになってきているように思います。でも、個人的にはその議論よりも、どのような資産配分で運用すべきかがより大事だと思います。若年層向けのメッセージでも「とにかく積立投資をしなさい!」というメッセージはよく見ますが、どのような資産配分で運用すべきなのかなどの話はあまりされておらず、それと似た状況なのではないかと思っています。 とは言うものの、今は老後の保有資産からの引き出し方法に注目が集まっているので、今回はこのテーマにフォーカスします。老後の引き出し方法に関しては、アメリカでは4%の『定率引き出し』が最適な引き出し方法と言われているようです。でも、この4%の『定率引き出し』というのは日本人、もっと言えば万人に当てはまる正しい方法なのでしょうか?今回はこの方法の正当性を検証していくことにします。 老後の消費額は年齢とともに下がる 保有資産からの引き出し方法を考える前に、そもそも老後にどのように消費すべきかを考えてみたいと思います。当たり前ですが、老後は徐々に生存確率は下がっていきます。無事に65歳に達したオヤジが70歳まで生存する確率は93.6%ですが、80歳は71.1%、90歳だと28.9%と徐々に下がってきます(平成29年簡易生命表に基づく)。ずっと先の老後でしっかりと消費できるように今、節約しても、そのときまでに亡くなってしまったらまったく意味がありません(墓場までお金は持っていけない!)。したがって、通常は生存確率が高いうちに多くの金額を消費することで、老後の人生のQuality of Lifeを高めるというお金の使い方がスマートな消費スタイルになります。つまり、消費額は定年退職直後が最大で、それを徐々に減らしていくのが最適となるのです(ライフサイクル理論) 『定額引き出し』対『定率引き出し』 消費額が徐々に減少していくことが正しいならば、常に同じ金額を引き出す『定額引き出し』はこの考え方にはマッチしないと整理できます。一方、保有資産に対して常に一定の比率で引き出す場合(『定率引き出し』)には、資産の減少に伴って引き出し金額が減っていくため、この考え方にマッチしていると言えるでしょう。したがって、ライフサイクル理論を論拠とすれば、『定率引き出し』のほうが正しい引き出し方法になるわけです。 4%は妥当なのか? 次に引き出し率について考えてみます。すぐに疑問に思うのが、老後に必要な生活費やそれを賄う年金額、そして保有資産やリスク許容度などは個人によってまちまちなのに、なぜ4%が最適な引き出し率として使われているのか、ということだと思います。4%としている背景はいろいろあるようですが、普通に考えれば、最適な引き出し率は個人によって異なるというのは容易に想像できるでしょう。では、個人別に変えなければならない場合、何を考慮しなければならないのでしょうか?まず市場リスクに対する許容度が人それぞれであるように、長生きリスクに対する許容度も人それぞれであるため、それを考慮する必要があります。つまり、長生きリスクが心配な人は、若いときから消費額および引き出し額を抑えるのが適切になります。ただ、個人的にこれより大事だと思う要素は、終身年金をどのくらい受給できる状態なのか、ということです。より多くの公的年金を受給できる人は、長生きリスクの大部分が公的年金によってカバーされているため、保有資産で長生きリスクをカバーする必要がなくなります。ですから、このような人は引き出し率を高くすることで老後の若い時期に多くのお金を引き出し、充実した人生になるように消費してもよいのです。一方、公的年金の受給額が低い人は、公的年金では長生きリスクが十分にカバーされていないため、保有資産がなるべく長持ちするように、引き出し率を低くするのが最適となります。 人生のQuality of Lifeを高めるには 公的年金の金額により、最適な引き出し率は変わってくるため、4%が万人に当てはまるわけではない点には注意が必要です。では、より多くの金額を保有資産から引き出せるようにするには、どうしたらよいのでしょうか?答えは公的年金の受給額を上げることなのですが、「そんなことは今さらできないよ」と思うオヤジも多いかもしれません。そうではないのです。公的年金には繰り下げ制度があり、受給開始を65歳から最大70歳まで遅らせることができます。遅らせることで毎月0.7%の年金が増額されるため、5年の繰り下げで年金額が42%増額されます。長生きリスクへの対応は公的年金に任せて、保有資産は老後のQuality of Lifeの向上のために適度に使うというライフスタイルを送ることで、個人の満足度が向上するのみならず、消費を通じて日本経済の活性化にも貢献できる「オヤジ」になれるのではないかと思います。ぜひ、上手に繰り下げ制度を活用し、4%以上の引き出し率で、豊かな老後を送ってみてはいかがでしょうか?
(アライアンス・バーンスタイン株式会社 AB未来総研 所長 後藤順一郎) |
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