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2019年4月11日 野口悠紀雄 :早稲田大学ビジネス・ファイナンス研究センター顧問
5人に1人が就業不安、減量経営が生む低賃金労働者の膨大な「供給プール」
零細小売業やサービス業には低賃金の就業者がおり、しかも、企業の減量経営で人員削減の対象とされている。
これらの労働者が、他の部門に雇用され、低賃金労働の供給源になる。
その数を推計してみると、法人企業統計がカバーしていない零細企業や個人事業も含めれば、狭く考えても1260万人だ。つまり、総就業者の5人に1人だ。
広く考えれば、2800万人と推計される。すなわち、総就業者6600万人のうち、実に42%だ。
「減量経営企業」で解雇される人々が
低賃金労働者となる
一般に、つぎのような人々が低賃金労働の供給源になると言われている。
第1に高齢者。とくに、定年退職後に、低い賃金で再雇用される人々だ。
第2に女性労働者。とくに、これまで専業主婦だった人がパート等の形態で雇用される場合。
そして、第3が外国人労働者だ。
本コラムでこれまで指摘したのは、このほかにもう1つの重要な低賃金労働の供給源があるということだ。
それは、小売業、飲食サービス業などの零細企業で働いている人々だ。
企業の経営が難しくなって減量経営を行なうため、これらの労働者が解雇されるからだ。
経営が難しくなる原因としては、売り上げが伸びないことや原価の高騰などがある。
ところで、このような状況は、小売業や飲食サービス業に限定されたものではない。
では、経済全体を見た場合に、そうした条件に直面している就業者は、どの程度いるだろうか?
この推計は、簡単な課題ではない。
以下では、「減量経営企業」としてつぎのような2つの概念を設定し、そこに雇用されている人員の数を調べる。
ここで、「減量経営企業」とは、これまで人員削減を行なってきたか、将来行なう可能性が強い企業である。
第1は、狭義の減量経営企業だ。これは、売上高が停滞ないしは減少する、あるいは原価の上昇率が高い業種の零細企業である。
第2は、広義の減量経営企業だ。これは、零細企業だ。
「どの業種であるかにかかわりなく、規模が小さいと減量経営せざるを得なくなるので、人を削減する」と考えられるからだ。
ただし、人員が顕著に増えている業種は除くことにする。
法人企業統計の範囲では
狭義で383万人、広義で827万人
(1)狭く捉える場合
まず、法人企業統計がカバーしている範囲で、上で書いたような就業者数を推計する。
最初に、狭義の減量経営企業を見る。これは、具体的には、製造業、小売業、物品賃貸業、宿泊業、飲食業における資本金が1000万円以上2000万円未満の企業だ。
ここに就業している人員の合計は、図表1に示すように、2018年10〜12月期で、383万人だ。
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(2)広く捉える場合
つぎに、広義の減量経営企業を見る。
人員が顕著に増えている業種とは、具体的には、医療介護、その他のサービス業、生活関連サービス業、教育、学習支援業だ。
そこで、これらの業種を除いた資本金1000万円以上2000万円未満の企業が広義の減量経営企業であると考えよう。
ここに就業する人員の計は、図表2に示すように、18年10〜12月期で、827万人である。これは、狭義の場合の人員数の2倍を超える。
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法人企業の範囲外に
就業者はどのくらいいるか?
以上は、法人企業統計がカバーしている範囲内の企業や就業者だが、これは企業や就業者のすべてをカバーしているわけではない。法人企業でカバーしていない部分がある。
まず、それがどの程度の規模なのかを見ておく。
図表3に示すように、労働力調査によると、就業者の合計は6656万人だ。他方で、法人企業統計での人員計は3667万人だ。
この差は約3000万人だ。
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このように、法人企業統計における人員計は、労働力調査における総就業者の55%しかカバーしていていないことになる。
図表3のB/A欄に示すように、法人企業統計のカバー率は、産業によってかなりの差がある。
情報通信では、法人企業統計は労働力統計の99%をカバーしている。製造業では86%だ。これらの業種では、カバー率はかなり高い。
他方で、カバー率は、建設業では62%、卸売業、小売業では76%などと低くなる。宿泊業、飲食サービス業では47%しかカバーしていない。
労働力統計では、業種を図表3で示す以上に細かく分割できないのだが、仮にさらに分割して、「卸売業、小売業の中の小売業」や、「宿泊業、飲食サービス業の中の飲食サービス業」だけを見れば、カバー率はもっと低くなっていると思われる。
法人企業統計外での供給源
狭義で860万人、広義で2000万人
法人企業統計でカバーされていない企業は、どのような企業か?
これは、資本金が1000万円未満の法人企業と個人企業である。
これらの企業は、売り上げなどの状況について、法人企業統計で見た資本金1000万円以上2000万円未満の企業と同じか、それよりもさらに厳しい状況に直面していると考えるのが、自然だ。
ここで、法人企業統計でカバーされていない企業を、つぎの2つのグループに分けて考えることにしよう。
(A)賃金が高い業種の企業:製造業、建設業、運輸業の企業。これらの企業の就業者の合計は、図表3のA−B欄から390万人だ。
(B)賃金が低い業種の企業:農業、卸売業、小売業、宿泊業、飲食サービス業、生活関連サービス業、娯楽業、医療福祉、サービス業(他に分類されないもの)。
これらの企業の就業者の合計は、図表3のA−B欄から1793万人だ。
法人企業統計では、Bのうち、生活関連サービス業と医療福祉以外が、人員を減らしている業種だ。
そして、これらの業種の企業が、上で書いた狭義の減量経営企業であり、潜在的な低賃金の供給源になっていると考えられる。
その業種の従業員の総数は、つぎのとおりだ。
1793万人−932万人(医療福祉+生活関連サービス業)=861万人
まとめれば、法人企業統計でカバーされていない範囲で、減量経営企業での就業者数は、狭義で考えても、およそ860万人だ。
広く考えれば、法人企業統計との差である約3000万人から、医療福祉と生活関連サービス業の合計約1000万人を除く、約2000万人ということになる。
以上をまとめて概数で示すと、図表4のようになる。
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全体で言えば、狭く捉えても1260万人。つまり、総就業者の19%、5人に1人の人たちが、低賃金労働の潜在的供給源になる。
広く捉えれば、2800万人となる。すなわち、総就業者6600万人のうち42%だ。
ここで見た低賃金労働の供給プールは、狭く捉えたとしても、普通言われる低賃金労働の供給源、すなわち冒頭で述べた、高齢者、女性、外国人と比べて、圧倒的に大きい。
外国人労働者の増加が、賃金上昇の足を引っ張ると、しばしば指摘される。
そうした効果があり得ることは否定できないが、賃金が上昇しない原因としてそれより重要なのは、経済全体の成長率が低いために、ここで述べたような供給源が存在することである。
業種別と規模別を考慮することで
はじめて見える問題
ここで「減量経営企業」と呼んだ企業の就業者の賃金が非常に低いことは、よく認識されている。
しかし、彼らは、低賃金であるだけでなく、就業状況が不安定なのである。
企業の減量経営のために解雇される(個人事業の経営者であれば、廃業せざるを得なくなる)危険に直面しているのだ。
そして、過去6年間を見ると、法人企業統計におけるこれらの部門の就業者は、実際に減少している。
ただし、日本経済全体は人手不足に直面しているために、放出された労働者は、失業することはない。他の企業で雇われるのだ。
だが、前の職場より賃金が上昇することはまずないだろう。このようにして、日本全体の平均賃金が伸び悩むこととなる。
以上のような事実は、これまで明確には認識されてこなかった。
こうした人々の存在は、ここで行なっているように、業種別と資本金規模別の両方を考慮することによって、初めて見えてくるものだ。
なお、ここでは、地域別の分析は行なっていない。仮に、業種別、資本金規模別の他に地域の区分を考慮すれば、さらに詳細な現実の姿が浮かび上がるだろう。
売り上げ不振のために現業経営を余儀なくされる企業は、大都市よりも地方部において比較的多く存在することが、おそらく分かるだろう。
(早稲田大学ビジネス・ファイナンス研究センター顧問 野口悠紀雄)
https://diamond.jp/articles/-/199368
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