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「おもてなし日本」の欺瞞…世界幸せな国ランク58位、「寛容性」は世界92位
https://biz-journal.jp/2019/04/post_27377.html
2019.04.05 文=篠崎靖男/指揮者 Business Journal
ノイシュバンシュタイン城(「Getty Images」より)
イチローが引退しました。彼がオリックス・ブルーウェーブ(現オリックス・バファローズ)から、米シアトル・マリナーズに移ってプレーを始めた2001年は、ちょうど僕がアメリカに渡って仕事を始めた年です。そのため、イチローの快進撃が、多くのアメリカ人を魅了していたのを実際に見ていました。
イチローが引退を発表した日、アメリカ版のCNNのサイトを見ていると、イチロー引退のニュースが大きく出ており、彼のアメリカでの大偉業に、日本人として誇りを感じました。シアトル出身で、今はフィンランドのオーケストラのコンサートマスターをしている友人から話を聞いたのですが、「イチローは、その人間性、考え方も素晴らしい」と、人格的にも尊敬されているようです。
さて、CNNのサイトを見ていると、ひとつの記事が目にとまりました。今回、国連の諮問機関「持続可能な開発ソリューション・ネットワーク(SDSN)」が発表した、「2019年度世界幸せな国ランキング」です。昨年に引き続き、僕の第2の音楽的故郷であるフィンランドが堂々の1位を勝ち取りました。
このランキングは、所得、自由、信頼、健康寿命、社会的支援、寛容性という6項目を「幸せの指標」として、世界156カ国を毎年比較しています。ちなみに、ドナルド・トランプ大統領擁するアメリカは、今年はひとつ順位を下げて19位。所得は10位にもかかわらずランクを下げた原因は、保険制度をはじめとした社会的支援が37位と低いだけでなく、自由度61位が押し下げたことです。アメリカは“自由の国”というキャッチフレーズの国だけに、自由度61位は手厳しい評価です。
では、我が日本はといえば、昨年54位でした。これでも不名誉な話なのですが、今年はさらに4つも下げて58位。先進国のなかでも低いランクに入ってしまいました。この敗北理由は、所得でも健康寿命でもありません。健康寿命は2位という高ポイントを稼いでいるのにもかかわらず、7年前にこの調査が始まってから一度も40位を上回ったことがない大きな理由は、“寛容性”がとても低いことにあります。今回の調査でも寛容性は92位で、順位に大きく響いています。
寛容性とは、つまりは他者に対しての寛大さや、思いやりといっていいと思います。特に思いやりは日本人の美徳であるといわれ続けていますから、これこそ高得点を稼ぐはずなのですが、むしろ足を引っ張っていることに驚きました。しかし、考えてみると、たとえば、英国やオーストリアではよく目にした、バスに乗ろうとしている母親が押している乳母車を、ほかの乗客が当然のようにバスに引き上げるといった光景を、日本では見たことがありません。
「お・も・て・な・し」の言葉で、2020年の東京オリンピック開催を引き寄せた日本の面目丸つぶれです。とはいえ、「おもてなし」は思いやりとは違う言葉です。普通に道を歩いていて、他者からの思いやりを受けることがあっても、おもてなしを受けることはありません。つまり、おもてなしは寛容性として、国連の機関にカウントされることはないのです。
■国王をもてなし、格別な待遇を受けたワーグナー
おもてなしの意味は、もてなす。つまり、客人に応対する扱いの意味なのですが、これを音楽で壮大に取り入れたのが、ドイツの代表的オペラ作曲家のリヒャルト・ワーグナーです。彼は、その一生変わらない莫大な浪費癖から、債権者から逃げて夫婦でロンドンに密航したり、せっかく母国ドイツのドレスデン・ザクセン王立劇場の指揮者に就任して収入が安定したにもかかわらず、その後、政治犯としてお尋ね者となり、スイスに命からがら亡命したりしています。
波乱万丈で、ちょっと親戚にいると困るタイプだったのですが、彼にもひとつの転機が訪れました。それは、当時統一していなかったドイツの大国のひとつ、バイエルン王国の国王ルートヴィヒ2世が以前からワーグナーの音楽に心酔しており、スイスに亡命中のワーグナーを必死で探していたことでした。その結果、突然、ワーグナーは首都ミュンヘンに招待され、それからは国王の大きな庇護を受け、存分に、かつ浪費癖もそのままに音楽活動ができるようになったのです。
彼は、国王に対して感謝を表すために、大作オペラ『パルジファル』を作曲したばかりでなく、国王ひとりのためだけに、歌手、オーケストラ、舞台装置を総動員して自作のオペラを上演しました。このお金はすべてバイエルン王国の国庫から出ているわけですが、心酔しているワーグナーから、このような「おもてなし」を受けた国王は、すっかり舞い上がり、ワーグナーの理想のオペラ劇場をつくってあげるくらい熱が入ってしまいました。
国の財政などお構いなしの国王は、ワーグナーのオペラシーンを部屋の壁に描かせた壮大なノイシュバンシュタイン城を建築しながらも、気が向けば、ほかの場所に宮殿をいくつもつくるといったことを繰り返し、ついには「バイエルンのメルヘン王」というあだ名まで付けられ、バイエルンの国庫を空っぽにしてしまいました。最後は重臣たちによって退位させられ、その後、湖で謎の死を遂げています。
皮肉なことに、この狂った国王のおかげでノイシュバンシュタイン城は、ディズニーランドのシンデレラ城のモデルとなったほど、世界的に有名な城となりました。また、国王がワーグナーのオペラだけのためにつくったバイロイト祝祭劇場は、夏の音楽祭の期間中、今もなお世界中からやって来るワーグナーファンでドイツの小都市バイロイトを一杯にします。そして、そこでの名演が、ドイツの珠玉の音楽文化として、世界中に発信されるのです。150年以上前にワーグナーが国王に行った「おもてなし」の恩恵を、ドイツ国民と、世界中のワーグナーファンが享受しているわけです。
(文=篠崎靖男/指揮者)
●篠ア靖男
桐朋学園大学卒業。1993年アントニオ・ペドロッティ国際指揮者コンクールで最高位を受賞。その後ウィーン国立音楽大学で研鑽を積み、2000年シベリウス国際指揮者コンクール第2位受賞。
2001年より2004年までロサンゼルス・フィルの副指揮者を務めた後、英ロンドンに本拠を移してヨーロッパを中心に活躍。ロンドン・フィルハーモニー管弦楽団、BBCフィルハーモニック、ボーンマス交響楽団、フランクフルト放送交響楽団、フィンランド放送交響楽団、スウェーデン放送交響楽団など、各国の主要オーケストラを指揮。
2007年にフィンランド・キュミ・シンフォニエッタの芸術監督・首席指揮者に就任。7年半にわたり意欲的な活動でオーケストラの目覚ましい発展に尽力し、2014年7月に勇退。
国内でも主要なオーケストラに登場。なかでも2014年9月よりミュージック・アドバイザー、2015年9月から常任指揮者を務めた静岡交響楽団では、2018年3月に退任するまで正統的なスタイルとダイナミックな指揮で観客を魅了、「新しい静響」の発展に大きな足跡を残した。
現在は、日本はもちろん、世界中で活躍している。ジャパン・アーツ所属
オフィシャル・ホームページ http://www.yasuoshinozaki.com/
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