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2019年4月3日 西岡純子 :三井住友銀行 チーフ・エコノミスト
財政拡張の「新理論」は物価目標実現が遠のく日銀の「助け舟」か
「Modern Monetary Policy(現代貨幣理論、MMT))をはじめ、金融、財政を一体として政策を遂行することを是とする「新理論」をめぐる論争が活発だ。
来年の大統領選挙を控えた米国では、民主党などの候補予定者らが、欧州では欧州議会選挙を前にポピュリズム政党が、それぞれ拡張財政を求めていることが背景にある。
世界経済の変調がいわれるなかで、主要国の中央銀行が次の景気後退期に利下げの幅が限られることも、こうした拡張財政を支持する声を後押しする。
どこの中央銀行よりも明らかに政策の限界に直面する日本銀行にとって、こうした「新理論」が、景気安定や物価目標実現などの“助け舟”になるのか。
緩和期待が再浮上
注目される「現代貨幣理論」
先月(3月14-15日)の日銀金融政策決定会合では、事前の予想どおり、金融政策は「現状維持」で据え置かれた。
だが、直前には、「当分の間は現在の低金利水準を維持する」というフォワードガイダンス(政策の先行きに関する指針)について、緩和をより長期化させる方向に修正するのではないかという期待も市場にはあった。
しかし、フォワードガイダンスの修正程度では緩和強化には効かないと判断したからなのか、あるいは追加緩和の効果を最大化させるタイミングを図ってのことなのか、フォワードガイダンスの変更はなかった。
日銀にとって問題は、これからである。
直近の日銀短観(3月調査)では、製造業の業況感が大幅に悪化した。
雇用や営業・生産用設備の不足感はなお強いとはいえ、マクロ的な需給バランスはすでに緩みつつある。
内閣府が推計するGDPギャップは、昨年後半は小幅マイナスに転じてしまっている。
これまで、日銀が強気な物価見通しの拠り所としてきたマクロの需給バランスが緩み、今春闘でも企業は賃上げには及び腰だった。
さらに4月から始まるとみられる日米の物品貿易協定交渉(TAG)でドル高是正にかかわるような圧力が米国から及ぶ可能性がある。
こうしたことを考えると、小手先の政策調整では、市場がリスクオフ(リスク回避)の動きを強めた時には、緩和効果は掻き消されかねないというのが、日銀の懸念だろう。
また市場の方も、日銀の思惑を先読みして、日銀はさらなる異次元の金融・財政政策に踏み出すのでは、と考える。
その材料や根拠になりそうなのが、今、米国などで論争になっている「現代貨幣理論(MMT)」である。
財政も物価にコミット
財政赤字を正当化
昨年も、インフレ目標達成を巡って、プリンストン大学のシムズ教授が「Fiscal Theory of the Price Level(物価水準の財政理論、 FTPL)を提唱し、日銀の金融政策を補完する「新理論」として話題になった。
FTPLを発端に、「統合政府論」や政府の永久債発行と日銀直接引き受けによるヘリコプターマネーなど、異次元の財政・金融政策を強める理屈やアイデアが、リフレ派の論者らを中心に議論された。
シムズ理論は、金融政策が物価を決定するという標準的な考え方に対し、物価水準の決定メカニズムに財政政策のコミットも加わるという点で新しい。
財政と金融政策が組み合わされ、互いに連携して、完全雇用などの政策目標を達成しようとする一般的なポリシーミックス よりも、中央銀行が政府の財政への従属を約束させられることで、中央銀行には政策面の自由度がなくなる、という違いがある。
この理論が日本で注目を浴びたのは、シムズ教授が「消費税率の引き上げ時期をインフレ目標の達成と維持に明示的に結び付けるべき」と、日本への提言として述べたことにもある。
いわば、財政政策も物価目標にコミットし、財政政策でも市場や民間のインフレ期待などをコントロールすることを提唱した。
一方で、このところ、米国で論争になっているMMTは、もともとは政府の通貨発行権に着目したものだ。
政府は家計や企業と違って、自国通貨を発行して債務を返済できるので、財政拡張について、総需要が落ち込んだ時など、一時的、例外的なものと位置づけ従来の伝統的な考え方を否定し、財政赤字についても肯定する。
ただし、政府が野放図に財政を拡張すると、インフレが止まらなくなるので、高インフレにならない限り、物価も金利も低位にあるのであれば、公共部門はさらに借金をして投資をすることで経済を安定させるべき、との考えが基礎にある。
実際、いまの米国は、FRBによる大規模な米国債買い入れや大型減税でもインフレ率は落ち着いたままだ。
実際は、物価が上がりにくくなっているのは、ITなどの情報関連技術の向上などが背景にあるが、政治的には、拡張財政を進めたい民主党などの「大きな政府」志向の勢力の理論的なバックボーンになり始めている。
FTPLとMMTは、各種の経済政策で物価が跳ね上がらないのであれば、民間の代わりに政府が資金を使うことで有効需要を創り出すことができるのではないか、という問題意識で共通している。
これまで、中央銀行が政府から独立することで、政府の放漫財政に対して監視役としての機能を事実上、果たしてきた。それに対して、仮に「新理論」が適用されると、放漫財政へのタガが外れてしまうことを意味する危険な政策だといえよう。
日本で有効性は疑問
政府債務残高が大き過ぎる
「新理論」は日本の現状にどの程度、有効なのだろうか。
筆者の結論は、残念ながら景気や物価に対する「助け舟」にはならないというものだ。
日本の財政状況はそれを許す域を優に超えた劣悪な状態であるからだ。
しかしながら、景気後退の足音が聞こえてきた中、マクロ政策の「次の一手」として市場では取り上げられやすい時間帯に入っている。
政府(財政)と一体となった金融政策への是非を巡って、市場が日銀に催促しては日銀がそれを否定する、という、発展性のない掛け合いが繰り広げられそうだ。
日本では、2000年代以降は家計、民間企業の民間部門が資金過剰で、一般政府と海外部門が資金不足という対極的な構図が定着している。
国内部門に限定すれば、一般政府の資金不足を民間部門がファイナンスしている状態である。ファイナンスしてもなお余剰資金は残り、それが銀行部門の預貸ギャップの拡大として表現されるわけだ。
このことは確かに資金が有効活用されていないようには見える。
ただし公的部門の財政赤字問題は看過できない。
税収は2010年をボトムにゆるやかに増加し、財政赤字は30兆円台前半まで減少してきている。しかし、言い方を変えれば、戦後最長ともいえる息の長い景気拡大が続いているのにもかかわらず、まだ財政赤字は解消していないのだ。
一般歳出の最大の支出である社会保障の根本的な改革が先送りされ続けているのが主因だ。
結局、政治リスクをかけて消費増税を実施しようが、インフレ政策で税収を水増ししようが、一般歳出が減らない限り、政府の財政収支が解消に向かうことは考えにくい。
それでも、財政再建は一時的に棚上げし、FTPLやMMTによる政策を検討する余地があると主張する人はいるかもしれない。
追加財政を発動すれば、瞬間的には需要は創出されるため、現在の副作用付きの緩和政策よりは妥当との評価もありそうだ。
しかし、例えば公共投資にしても予算全額が計画通りに使われ、かつ、生み出された所得が次の消費や投資につながっているかといえば、そうはなっていないのが実態だ。
銀行部門の預貸ギャップが拡大していることを考えると、むしろ、生み出された所得は貯蓄されており、やはり効果が十分に出ているとはいいにくい。
では、低金利政策の恩恵を受け続けていることで、政府が赤字国債を財源に、追加財政策を講じることができるかというと、それも難しくなってきている。
政府の債務残高が膨らんでしまっているので、低金利でも政府が支払う利払い費が増え始めているからだ。
公債残高が900兆円レベルまで増大しており、国債費のなかで利払い費が一般歳出全体の1割近くまでに達している。
経済への負荷がメリット上回る
日銀は「財政従属」に陥る恐れ
こうした状況で、拡張財政のファイナンスを日銀による国債購入など、金融政策で行うことが恒常化すると深刻な事態になる。
政府は財政再建を放棄したと市場からみなされ、ソブリン格付けが断続的に下がり、それと同時に国内銀行の格付けも引き下げられる。そうなると、結局、国全体としてのクレジットコストは急速に高まる。
そのことが国内経済に及ぼす負荷は、拡張財政によって享受されるメリットを大きく上回るだろう。
金利の急騰や通貨の急落といった市場の急変が経済危機や破綻につながっていくのは、ソブリン危機に直面した諸外国の例で既に確認済みだ。
FTPLやMMTといった「奇策」は、政府債務がそれほど大きくなく財政制約がない国や、米国のような基軸通貨国では、その時々の政策思想を反映する形で実施が検討され得るのかもしれない。
しかし、少なくとも日本では、財政状況から考えるとあり得ない議論である。
これに対する反論として、
(1)日銀は2013年の量的・質的緩和政策の導入と同時に銀行券ルール(国債の市中からの買入量を銀行券発行額以下に抑制)を廃止したことで、すでに財政ファイナンスへの防御壁を自らなくしている。
(2)国債保有残高増を維持し続けることは政府発行の永久債を保有し続けることと同義である、といった点を理由に、日銀はすでに実質的に財政ファイナンスを行っている。
という主張がある。
“実質的に”というのは、便利な言葉で、確かにそうなのかもしれない。
しかし、現行政策は、日銀が独立性を維持して自らの決定事項として行っていることに意味がある。FTPLやMMTのような財政・金融政策で、中央銀行が政府の政策に依存する体制となってしまうこととは大きく異なる。
仮に、そうした奇策に踏み込めば、中央銀行は財政従属に陥り、金融政策を動かす「ギア」を失うことになる。
黒田総裁は、先週の決定会合後の定例記者会見で、MMTの議論の妥当性について質問を受けた際、「整合的に体系化された議論ではない」、「極端な主張」、「広く受け入れられた考えではない」、「政府が中長期的な財政再建について信頼を得ることが必要」と答えた。
この発言は、評価が定まっていない理論に何らかの明確な答えを出したくないというメッセージではなく、日本の現状なども踏まえた、中央銀行として王道の正しい回答であったと考える。
物価目標の柔軟化
他国が言い出せば「助け舟」に
MMTなどの「新理論」に傾聴の価値があるとすれば、物価に財政がコミットすべきかどうかよりも、むしろ金融政策が物価偏重の判断で運営されていることに疑義が唱えられていることではないか。
昨年、FRBのパウエル議長は、経済の稼働状況に対するインフレ率の感応度が下がってきていることを指摘した上で、金融政策をルールベースから、中央銀行がその時々の状況に応じて判断する裁量や、政策の自由度を重視した実務ベースへ修正することに関心を持っているような発言をした。
何が何でもインフレ目標の達成を最優先する硬直的な政策運営の姿勢に対する警鐘だろう。
イノベーションの拡大で、企業の営業利得全体に占める雇用者報酬のウェイトは米国でも下がってきている。競争の激化とともに、ネット販売の拡大で価格の比較をすることが容易となったことで、汎用品を中心に価格の上昇圧力は構造的に限られる。
こうした構造変化を考えても、日本のコアインフレ率が日銀の掲げるように2%目標を安定的に達成することは難しい。
ただ、日本が先陣切って物価目標の柔軟化を主張すると、いまの超緩和政策の修正と市場に受け止められ、円高になる可能性もあり、それは日銀にとっては困難なことだ。
FRBなど他の中央銀行が、ルールに基づいた物価目標ではなく、いくばくか柔軟な運営に変わるということがあるとすれば、それこそが、日銀にとっての「助け舟」になるだろう。
(三井住友銀行チーフエコノミスト 西岡純子)
https://diamond.jp/articles/-/198634
【第108回】 2019年4月3日 深田晶恵
年収850万超は来年から負担増、会社員の「隠れ増税」はもう始まっている
年収が100万円アップしても
手取りは64万円しかアップしない?!
新年度の4月を迎え、昇進などに伴い給与がアップする人もいることだろう。うれしい気持ちでいっぱいの中、水を差すようで恐縮だが、額面収入がアップしたとしても、昇給した金額と同じだけ「手取り収入」が増えるわけではないので注意が必要だ。
額面収入から所得税・住民税と社会保険料を差し引いたものが「手取り収入」で、実際に使えるお金のことだ。FPの教科書には「可処分所得」と表記されている。
たとえば昨年の年収700万円の人が、管理職に昇格して今年の年収が100万円アップするとしよう(税務上の扶養家族は妻)。額面年収700万円の手取りは537万円、800万円の手取りは601万円だ。
額面100万円アップに対して、手取りは64万円のアップに過ぎない。えっ、64万円!と目を疑うのではないだろうか。
同じだけ手取りが増えないカラクリは、所得税の税率アップによるもの。年収がアップすることで、累進課税である所得税の税率が上がるため、税金の負担が重くなり、手取りを押し下げている。
このように手取りを知らずに額面年収だけで家計プランを立てると、絵に描いた餅になる可能性が大。手取り計算は重要なのだ。
FPになって数年経った頃、手取りが大きく減る制度改正が相次ぎ、「これからは手取りが減ることはあっても、増えることはないだろうな」と思い、2002年から毎年1月に年収・属性別のパターン別に手取りを試算し、一覧表にまとめている。当コラムでも1月に「今年の手取りはこうなる!」と題して試算結果をお伝えしている。
数年前に「そろそろ試算データが蓄積してきたのでグラフにしてみよう」とグラフ化したのが次の図だ。
https://diamond.jp/mwimgs/2/4/650/img_24c708b50515885dec312fd970251c7383845.jpg
グラフだと、手取り収入が試算をはじめた翌年から見事に下がり続けているのが一目瞭然だ。額面収入700万円の手取りは、15年間で50万円も減っているのである。
先日、ある朝のテレビ番組に出演した際にこのグラフを使ったところ、翌日同じ時間帯の情報番組から「グラフを使わせてほしい」と依頼があった。わかりやすくインパクトがあるようで、他からも同様の依頼が相次いでいる。このグラフはとても人気者だ。
ちなみにグラフだけが一人歩きするのは本意でないため、私自身の出演やコメント解説付きの依頼がある場合のみ受けるようにしている。メディアの方々、この点についてどうぞご了承ください。
高収入会社員の増税は
すでにはじまっている!
さて、2003年から毎年続いた手取り減少は、ようやく今年で一段落した。手取り減少の要因となる所得税・住民税、社会保険料の制度改正は2019年にはないからだ。2019年は昨年とほぼ同じ手取り額となりそうだ。
ただし、高収入の人の増税はすでにはじまっていて、この先も税金の負担増になることが決まっている。1000万円を超えるような高収入の人は、全体から見ると少数であるため、新聞や雑誌などのケースとして取り上げにくいという。
昨年2018年実施の配偶者控除の改正では、額面年収1120万円超で受けられる控除額が縮小、1220万円超になると控除は一切受けることができない。なかなか厳しい改正だ。
特筆すべきは、来年、2020年には額面850万円を超える人も増税対象となることだ。仕事をがんばって昇給したとしても、増税になるとその恩恵はわずかしか受けることができなくなるのである。
増税の要因となるのは、「給与所得控除の頭打ち」だ。会社員の給与収入には、「給与所得控除」といって「一定のみなし経費」が設けられており、収入そのものが所得になるわけではない。
税金の話でよく出てくる「控除」とは、「非課税枠」のことだと覚えておこう。控除額が多いと、その分所得が減るので、かかる税金は少なくなる。わかりやすいものだと、「扶養控除」や「医療費控除」がある。給与の非課税枠は「給与所得控除」であり、もちろん多いほうがいい。
給与所得控除は、給与収入に応じて一定率をかけて求めるもので、収入が増えるほど控除額は増える。2012年までは上限額は設定されていなかったのだが、2013年より額面年収1500万円を超えると、控除額が頭打ちになる税制改正が実施された。
給与所得控除の上限設定の改正は、すでに次のように段階的に実施され、2020年には年収850万円超の人も対象となる。
◆2013年:額面年収1500万円超で控除額245万円が上限
◆2016年:額面年収1200万円超で控除額230万円が上限
◆2017年:額面年収1000万円超で控除額220万円が上限
◆2020年:額面年収850万円超で控除額195万円が上限
控除額の推移を年収別にまとめてみたのが図(2)である。年収が高いほど、給与所得控除の上限引き下げの影響が大きいことがわかるだろう。
https://diamond.jp/mwimgs/1/0/650/img_10cb5b1f2b86a2c6f1d7840cfced273e66728.jpg
読者のなかには「年収が1000万円を超えることはないから、関係ない」と思う人もいるかもしれない。しかし、私が高年収の人向けのこのネタをあえて取り上げるのは、多くの会社員に関心を持ってもらいたいからだ。
給与所得控除の縮小については、なぜか税制改正案のニュースのなかで大きく取り上げられない。このため、会社員は気がつかないうちに増税になっているのが現状だ。
上限引き下げは年収850万円超まで迫ってきているし、数年先の税制改正でさらに控除が縮小する可能性がある。
すでに決まっている税制改正により、2020年から給与所得控除は一律10万円縮小になる。ただし、年収2600万円以下の人は基礎控除が10万円拡大するので、差し引きゼロで影響はない。2021年以降の改正案は見逃せない。仕組みを知って、関心を持とう。
最後に年収900万円〜1500万円までの手取り収入推移のグラフを掲載する。額面年収と手取り年収とのかい離が大きい点に注目してほしい。
https://diamond.jp/mwimgs/2/3/650/img_23137c33c21d99e9bda06df4f22f0b45101192.jpg
(株式会社生活設計塾クルー ファイナンシャルプランナー 深田晶恵)
https://diamond.jp/articles/-/198636
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