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ジョブズとクック、まったく異なる仕事の流儀
https://www.newsweekjapan.jp/stories/world/2019/04/post-11921.php
2019年4月2日(火)19時40分 竹内一正(経営コンサルタント) ニューズウィーク
ジョブズ(右)とクック、どちらがすごいのか?(写真は10年07月の本社での記者会見) Kimberly White-REUTERS
<「アップルショック」以降のアップルの未来を、『アップル さらなる成長と死角』の著者でアップル勤務経験もある経営コンサルタントの竹内一正氏が解説するシリーズの第2回。ジョブズとクックの経営哲学はこんなに違う!>
◇ ◇ ◇
■こんなに違った2人の経営者
スティーブ・ジョブズは感性の経営者であり、完璧主義者だった。デザインにこだわり、未来の姿を予見し、不可能とも思えるゴールに向かって部下の尻を叩き、ひた走った。
それに対してティム・クックは合理性を重んじる経営者だ。物流や在庫管理の「オペレーション」で実績を上げたクックは、スプレッドシートの細部にまで目を配る。矛盾点を洗い出し、万全の手を打つ現実主義者だ
2人は対照的だ。それは地球環境問題への対応にも表れていた。
■地球環境問題に正面から立ち向かうクック
アップルは製品にばかり目が行くが、地球環境問題でもその先進的な取り組みに世界の注目が集まっている。それは、クックがCEOになった2011年8月以降の変化だ。
アップルのデータセンターは2014年にはすでに100%再生可能エネルギー対応となり、2018年4月には世界中のアップル直営店からオフィスから全てのアップル施設の電力が100%再生可能エネルギーで賄われるようになった。
本社のあるシリコンバレーの「アップル・パーク」は17MW(メガワット)の屋上太陽光パネルや4MWのバイオガス燃料電池などの9種類のエネルギー源を組み合わせ、100%再生可能エネルギーで電力が供給されている。
■サプライヤーも巻き込め
クックはアップル本体だけでなく、サプライヤーに対してもアップル製品の生産工程を100%再生可能エネルギーで賄うよう働きかけ、資金も人も出してこれを進めた。2018年時点で総計23社のサプライヤーがこれに参加している。
アップルは、2020年までに4GW(ギガワット)以上のクリーン電力をサプライヤーと共に生み出す計画で、この値はアップルの製造全体における2017年の「カーボンフットプリント」の30%に相当する。
このカーボンフットプリントとは、原材料の調達から生産、廃棄、リサイクルまで企業活動の全ての取り組みをCO2排出量で示す数値だ。2015年には3840万トンだった数値を、2017年には2750万トンにまで削減した。
ところで、グーグルも再生可能エネルギー100%を推し進めているが、グーグルは製品を作っていないので製造工場はなく、あるのはデータセンターだ。その点がアップルと大きく違う。アップルの取り組みは、自社の施設やデータセンターに加え、サプライヤー、そして製品にまでと実に広範囲に及ぶ。
■外注先企業の労働問題まで改善する
クックはオペレーションの効果でムダをなくし、在庫回転率を上げ、財務体質を強化した。サプライヤーの現場に張りつき、細かく目を配り、部品サプライヤーの在庫管理にまで口を出して、納期通りに iPhone を出荷してきた。
またアップルはサプライヤーにあれこれ口を出すだけでは終わらず、サプライヤーの労働問題や、環境保護にまで口を出す企業となっている。
毎年発表する「サプライヤ−責任」という報告書は「労働・人権」などの観点から細かく評価を行っている。
強制労働、勤務時間の改ざんなどの違反を遠慮なく告発し、仕事の斡旋業者から多額の手数料が搾取されたことが判明すれば、サプライヤーに命じて斡旋業者から労働者に手数料を払い戻させた。2017年では約1億9000万円相当が従業員の手に戻った。
■危機を契機に
このようにサプライヤーでの労働問題や、地球温暖化への対応においてアップルは世界をリードしている。
だが、最初から積極的だったわけではない。それどころかアップルは、当初、知らん顔を決め込んでいた。
アップルがサプライヤー企業での劣悪な労働環境に目を向けたのは、中国での自殺事件と世間の批判からだった。
2009年、鴻海(ホンハイ)精密工業の中国製造子会社フォックスコンで、アップルに送る予定のiPhoneの試作品を、1人の中国人従業員が紛失した。結局、その若者は深夜に飛び降り自殺してしまう。それから14人の従業員が次々と自殺を図るという異常事態が起きた。彼らの年齢は17歳から25歳と若かった。
ついに世界は問題に気づき、鴻海だけでなくアップルにも批判の矛先を向けた。
これをきっかけに、アップルは180度方向転換して、サプライヤーの労働問題改善に積極的に取り組んでいくようになった。クックがCEOになるのと同じ時期だった。
環境問題では、中国に展開する欧米企業のサプライヤーで周辺環境の悪化が進んでいるという報告が中国の環境NPOによってなされたことが契機だった。
この環境NPOが欧米企業29社に環境問題の情報開示を求めた時、回答したのは28社で、アップルだけがこれを拒否した。
「アップルのもう1つの顔」という報告書をこの環境 NPOは発表してアップルを糾弾し、その結果、話し合いのテーブルにやっとアップルが着くようになったのが2011年から2012年のタイミングであった。これもクックがCEOに就任するタイミングだった。
■どっちのCEOがすごいのか?
ジョブズは周りの意見を聞かず、自分の道を進む「唯我独尊」の経営者だった。自分の気に入らないことは無視するCEOでもあった。
一方のクックは周りの意見を聞き、最善解を引き出す経営者だ。自分の気に入らないことでも、向き合って解答を見つけようとするCEOだ。
ジョブズが「衝突」を恐れない経営者とすれば、クックは「調和」を重んじる経営者と言える。
どちらが優れているかどうかという議論は、的外れだ。その時の社会と時流によって答えは変わるからだ。
もしジョブズが健在で、現在もアップルCEOならば、人種差別主義者と言われるトランプ大統領には喧嘩を売り、独裁者の習近平(シー・チンピン)国家主席を罵倒しただろう。その結果、iPhone販売は減少し、アップルの業績が悪化した可能性は高い。
地球環境問題に後ろ向きなジョブズに対して環境団体は非難を連発しただろうし、サプライヤーの人権問題を放置したとして人権団体はジョブズ糾弾を繰り広げただろう。
クックはイノベーションを生むことはジョブズより上手くないかもしれないが、今の時代と社会の流れを考えれば、クックの方が時代には合っている。忘れてならないのは、いかなる経営者も時代の流れに逆らって栄光を手にすることは出来ないことだ。
[筆者]
竹内一正(経営コンサルタント)
ビジネスコンサルティング事務所「オフィス・ケイ」代表。著書に『スティーブ・ジョブズ 神の交渉力』(経済界)、『イーロン・マスク 世界をつくり変える男』(ダイヤモンド社)ほか多数。最新刊『アップル さらなる成長と死角』(ダイヤモンド社)が2019年3月に発売。
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— ニューズウィーク日本版 (@Newsweek_JAPAN) 2019年4月2日
触ってみたい!これ欲しい!って魅力はなくなったけどねー
— Tsubasa Kogoma (@tbskgmj) 2019年4月2日
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