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景気回復が「実感できない」理由を考えてみた
https://headlines.yahoo.co.jp/article?a=20190402-56319775-business-bus_all
日経ビジネス 4/2(火) 17:00配信
医療費、教育費……出ていくお金は減っていくばかり。(写真=Sakarin Sawasdinaka)
政府は2019年1月29日の月例経済報告に関する関係閣僚会議で、2012年12月に始まった景気拡張局面は今年1月に戦後最長を更新した可能性が高いという認識を確認した。しかし、3月7日に発表された景気動向指数速報では一致CI(コンポジット・インデックス)の落ち込みがきつく、基調判断はすでに景気が後退している可能性が高いことを示す「下方への局面変化」に下方修正された。
もっとも、景気動向指数がこの基調判断になっても、その時の景気の落ち込みが条件を満たさず、後退局面とは認定されなかったケースも過去にはあり、2月分以降のデータの蓄積が待たれる状態になっている。
●テクニカル論議とは違う世論調査結果
こうした景気局面に関するテクニカルな論議とはほぼ無縁のまま、いずれにせよ景気回復の実感は乏しいままだという内容になっているのが、マスコミ各社が実施している世論調査の結果である。
◆NHK(2月9〜11日実施) 〜 景気回復を「実感している」8%、「実感していない」66%、「どちらともいえない」20%
◆日本経済新聞(2月15〜17日実施) 〜 現在の景気回復について「実感している」16%、「実感していない」78%
◆朝日新聞(2月16〜17日実施) 〜 景気回復の「実感がある」16%、「実感はない」78%、「その他・答えない」6%
◆共同通信(3月9〜10日実施) 〜 景気の回復を「実感している」10.1%、「実感していない」84.5%、「分からない・無回答」5.4%
◆産経新聞・FNN(3月16〜17日実施) 〜 景気回復の「実感がある」9.8%、「実感はない」83.7%、「他」6.5%
景気回復の実感がない人は、共同通信の3月の調査で84.5%に達した。景気動向指数の悪化に関する上記のニュースも影響して「実感はない」派が増えた可能性もある。
世論調査に回答した人々の多くはなぜ、景気回復の実感を持ち得ないのだろうか。どのような情報をもとにしてそのように回答したかは、人それぞれだろう。判断の基準になった情報の入手源としては、経済に関するマスコミ報道、株価や金利の水準、SNS経由の情報、口コミ情報、自分や身近な人が所属する会社の業績や賃金動向、直感といったものが考えられる。
いずれにせよ、景気回復の実感が人々の間で伴わない理由を1つだけに限定するのには無理がありそうなので、ここでは筆者が考えているものを3つ、並べておきたい。
(1)企業主導の景気回復であり、しかも労働分配率が低下しているため
人口減・少子高齢化を背景に、大企業は海外収益への依存度を高めており、内需の将来の拡大にベットした事業展開がしにくくなっている。さらに、配当など株主への還元を重視する米国流の考えが広がった結果、国内従業員への大盤振る舞い的な給与の上積みは期待し難くなった。
法人企業統計調査で試算すると、労働分配率は長期低落傾向を脱していない。時事通信の集計によると、業績が伸び悩む中でも企業は株主還元に積極的で、19年3月期決算上場企業の配当総額は前期比9%増の11兆6700億円(6年連続で過去最高)になるという。上場企業が過去最高益を更新しても、国内従業員の賃金など待遇面でもたらされるメリットは、限定的なものにとどまっている。
海外への展開で活路を開きにくく、しかも人手不足・後継者難の内需型の中小企業の従業員の場合には、景気回復の実感はなおさら乏しいだろう。停滞しているローカル経済圏の住人にも、そうしたことは当てはまるように思う。
(2)「バブル経済」を知っている人は、「あの頃」と今をどうしても比べてしまうため
これは、比べる対象(「景気回復の実感がある」と答えられるスタンダード)にそもそも無理があるのではないかという見方である。うがった見方だと思われるかもしれないが、意外にこうしたケースが少なくないのではないかと、筆者は考えている。
むろん、バブル経済の「偽りの輝き」の後に待っていたのは、「暗く長いトンネル」や「マリアナ海溝のような深い落ち込み」だったわけであり、仮にそうした時期と比べるなら、足元の景気回復には「実感がある」という回答が多くなるはずである。
●条件反射に「不景気」回答?
けれども、日本のことわざにある通り、「喉元過ぎれば熱さを忘れる」という傾向が人間にはある。さらに、非常につらかったはずの日々がいつの間にか記憶の中で美化されて、それなりに良い思い出に変わっていることは、そう珍しいことではないのではなかろうか。
(3)厳しい時期が続いた影響で、半ば条件反射的に「回復していない」と考えてしまうため
先ほど情報源を並べた際、最後に「直感」を挙げた。状況を頭の中で整理して世論調査に回答するのではなく、直感というか、かなりの程度まで条件反射的に「実感していない」と回答している人々がいるのではないかという、筆者の仮説である。
心理テストの一形態に、質問者が発するキーワードに対して、間髪を入れずに頭に浮かんだことを口にするものがある。「景気」と言われた際に「悪い」と口にしてしまう人は、「良い」とか「回復」と言う人よりも、かなり多いのではないか。
むろん、(2)にせよ(3)にせよ、世代が大きく入れ替われば、世論調査の回答分布もまた、大きな影響を受けるかもしれない。実体験としては「バブル経済」を全く知らず、景気停滞・超低金利が自分たちにとっては「ノーマル」な状態である世代では、雇用情勢さえしっかりしており、(少数派ゆえに大事にされて)給与もそれなりに増えていけば、世論調査に景気回復を「実感している」と回答する向きが増えていってもおかしくない。
その一方で、終身雇用制が完全に崩壊して雇用の流動化が進み、給与体系も信賞必罰の色彩を一層濃くし、IT分野で起業して富裕層の仲間入りをする人などと相対的に低い賃金の労働に従事する人との間で世代内の所得格差が大きくなれば、現在の若年層の世代でも景気回復を「実感していない」と答える人の割合が高止まりするケースも考えられる。
人間心理の微妙なアヤも絡んでくる面がある「景気回復の実感」というテーマについては、今後もいろいろと思考を巡らせる余地があるように思う。
最後に、このコラムを読んでいる方のうち恐らく何人かが今抱いているはずの「筆者個人に景気回復の実感はあるのか」という、素朴な疑問にお答えしたい。率直に言って、個人的には景気回復の実感はほとんどない。
むろん、エコノミストとして職業人的な立場からはさまざまな経済指標をもとにしっかり考えるわけで、ひところに比べると景気は間違いなく回復している。「リーマン・ショック」による落ち込みから各種の政策努力ではい上がってきた世界経済全体の回復や、為替の円安地合いなどを背景に、日本企業の収益水準が高くなった中で、政府が労働組合に味方して賃上げを強く要請するという異例の「官製春闘」が何年も繰り返されてきた結果、1人当たりの名目賃金の水準が切り上がった。食品やガソリンといった身近な品目の価格上昇などで購買力は目減りしており、実質ベースでは1人当たり賃金に伸び悩み感があるものの、数年前の水準から減っているわけではない。
けれども、金融業界に関して言えば、まぎれもなく「構造不況」の様相を呈している。産業としてのありようが、IT普及や人口動態などによって、根底から揺さぶられている。
しかも、筆者が所属しているのは証券会社であり、相場のボラティリティー(変動率)が大きくならないと売り上げ・収益が増えてこない体質である。日銀の金融政策は粘り強い金融緩和(要するに勝算が立たないままの持久戦長期化)のフェーズに入っており、景気や物価が下振れても、金融政策は現状維持が基本線である。
円高・ドル安が1ドル=100円ラインに届くほど進まない限り、政策変更(追加緩和)は期待し難いというのが、筆者の予想である。そうなると国内債券市場はこのまま「なぎ」の状態が続きやすく、ディーラーが収益を稼ぐ機会が生じにくい。株式についても、下値は日銀のETF(上場投資信託)買いによって需給面から「漢方薬」的に下支えされている。このため、日本の株価にはダイナミズムが出てきにくい。
●手にしたお金は出て行く一方……
付け加えると、このところの出版不況である。筆者が書いたり監修したりした書籍はかなりあるのだが、電子書籍を含めて部数は以前よりも出にくくなった印象が強い。最大の原因はSNS(交流サイト)の普及である。生活時間が有限である中、筆者自身もそうだが、SNSに振り向ける時間が増えると、読書に費やす時間は必然的に減少する。けさ始発で出勤する際に同じ車両の乗客を観察したところ、スマホいじりが7割、睡眠中か何もしていない人が3割くらいで、本や新聞を読んでいる人は皆無だった。
働いて手にすることのできるお金が増えにくい一方で、支出の方は教育や医療を中心に歯止めがかかりにくい。そんな収支状況の世帯主である筆者の場合には残念ながら、景気の回復はこの先も当分実感できそうにない。
上野 泰也
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