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人生100年時代に追いつかない生活者の心構え
博報堂生活総研の「トレンド定点」(第22回)
2019.3.25(月) 三矢 正浩
先の長い100年人生、見通しは立っているのか。
(三矢 正浩:博報堂生活総合研究所・上席研究員)
私の在籍している博報堂生活総合研究所は、1981年の設立から現在に至るまで、「生活者発想」に基づいて生活者の行動や意識、価値観とその変化をみつめ、さまざまな研究活動を行っています。
前回に引き続き、世の中で生じている事象に対して、研究所に蓄積された研究成果やそれらに基づく独自の視点により考察を加えてまいります。読者の皆様にとって、発想や視野を広げるひとつのきっかけ・刺激となれば幸いです。
もはや「老後」はなくなった?
最近さまざまなニュースや国の政策、企業の情報発信などを通じて「人生100年時代」という言葉を耳にする機会が多くなりました。この言葉が世に出たきっかけは、2016年に発売された書籍『LIFE SHIFT』(日本語版2016年10月発行、東洋経済新報社)。上述の「人生100年時代」をキーワードとして、これからの人生設計や生活のあり方について問うたもので、今でも根強く売れ続けている大ヒット書籍です。
博報堂生活総研の「生活定点」では生活者のさまざまな意識や行動、価値観の変化について継続的に調査しています(首都圏・阪神圏の20〜69歳男女 約3000名に聴取、調査概要は記事末尾に記載)。そのなかで、「人生100年時代」というキーワードが広まったことが影響したのでは? と考えられるスコアの変化があります。
●「老後のことを考えた生活をしている」
1992年33.3% → 2018年21.6%(過去最低)
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聴取をはじめた1992年から緩やかな低下傾向にはあるのですが、2016年から2018年にかけて、やや急なかたちでスコアを落としています。
スコアは全年代で低下しているのですが、変化を牽引しているのはやはり50〜60代。50代では2016年から2018年にかけて35.9→27.8%、60代では53.9→44.2%と、それぞれ10ポイント弱減少しました。上述『LIFE SHIFT』はちょうど2016年調査と2018年調査の間に日本で発刊されており、上記変化に関係している可能性があります。
1990年代であれば、まだ「現役」と「リタイア後」の境界がはっきりとしたライフプランを描きやすかったのかもしれません。しかし、日本社会が「高齢化社会(高齢化率7%超)」→「高齢社会(同14%超)」→「超高齢社会(同21%超)」へと急速に変容するのにあわせて、世の中のムードは変わってきました。
政府のスローガンをみても、2010年代に入ってから「一億総活躍」や「70歳定年制」の議論など、流れはどんどん「生涯現役」の方向に進んできたことが分かります。そこにきて『LIFE SHIFT』が打ち出した「人生100年時代」のインパクト。「もはや、人生に“老後”はないのだな・・・」という認識がいやが応でも強まったのではないでしょうか。生活者に希望するリタイア年齢について聞いてみても、
●「希望リタイア年齢」
60〜64歳でリタイア:2010年30.1% → 2018年24.5%(過去最低)
65〜69歳でリタイア:2010年28.7% → 2018年29.5%(ほぼ横ばい)
70歳以上でリタイア:2010年24.9% → 2018年35.3%(過去最高)
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2010年から聴取したこちらの項目は、しばらくあまり大きく変化していませんでしたが、やはり2016年から2018年にかけて、やや急なかたちで「60〜64歳」が減少し「70歳以上」が増加しています。生涯現役に向けて“腹をくくった”生活者が少しずつ増えているように思われます。
「人生100年時代」を迎えるための意識は・・・?
『LIFE SHIFT』のなかで説かれていたのは、「人生100年時代」に向け、人生の早いうちから“準備”をはじめることの大切さ。心身の健康はもちろんのこと、自分の能力や知識、人間関係、お金など、有形・無形の“資産”を蓄え、マネジメントすることが重要だと語られていました。
では、きたる「人生100年時代」に向けた“準備”について、生活者の意識や状況は、以前と比べてどんなふうに変化しているのでしょうか? こちらも「生活定点」の長期時系列データをいくつかご紹介しましょう。
(1)「人生100年時代」と健康意識
まずは、長い人生を送るうえで何より大事だと思われる健康についての意識をみていきます。
●「自分の健康状態は、いつも自分で把握していたいと思う」
1998年58.1% → 2018年39.0%(過去最低)
●「健康に気をつけた食事をしている」
1992年56.7% → 2018年34.2%(過去最低)
●「ちょっとした体調の変化も気になる方だ」
1992年33.2% → 2018年20.5%(過去最低)
●「健康のための努力は惜しまない方だ」
1998年14.9% → 2018年 8.1%
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スコアは1990年代と比較して軒並み低下し、直近が最低のものが目立ちます。生活者は全体としてあまり健康を意識しなくなっているようです。解釈の仕方によっては「昔と比べてみんな健康になっており、ことさら健康を意識する必要がなくなった」という読み解きも可能ではありますが・・・ちょっと無理がありそうです。
(2)「人生100年時代」と自己研鑽意識
続いて、学びやスキルアップなどの自己研鑽に関する意識。「生涯現役」を貫いたり、本業以外でも「二足のわらじ」で稼いでいこうと思ったりすれば、生涯を通じた学びは欠かせません。それらの意識はどうなっているでしょうか。
●「いくつになっても学びたいことがある」
1998年53.2% → 2018年36.1%(過去最低)
●「学校では学べない、暮らしの知恵や技術を学ぶ場がほしい」
1998年43.2% → 2018年28.9%(過去最低)
●「社会人が気軽に学べる場がもっと増えるべきだと思う」
1998年41.2% → 2018年25.6%
●「知識・教養を高めるための読書をよくしている」
1998年29.3% → 2018年16.7%(過去最低)
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いずれの項目も1998年からの調査ですが、4項目中3つが過去最低に。今ほど生涯現役への切迫感が強くなかった20年前のほうがむしろ、学びに対して前向き・貪欲だったという結果となりました。
(3)「人生100年時代」と趣味意識
(2)については「今や趣味や遊びも仕事に生かせる時代。真面目な学びだけがすべてじゃない!」という見方もあるかもしれません。ということで長期的な趣味意識の変化もみてみます。
●「一年を通して楽しんでいる趣味がある」
1998年60.2% → 2018年49.1%(過去最低)
●「一生を通じて楽しめる趣味を持っている」
1998年47.9% → 2018年33.2%(過去最低)
●「人に教えられる趣味やスポーツがある」
1992年23.5% → 2018年19.4%(過去最低)
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こちらも長期的には減少傾向。もちろん「まったく趣味がない」ということではないとは思いますが、「一生を通じて楽しめる」「人に教えられる」レベルの趣味の持ち主は、経年でみると少なくなっているようです。
(4)「人生100年時代」と人間関係意識
『LIFE SHIFT』では人間関係も重要な“人的資本”として位置づけています。そんな人的資本形成=人付き合いに関わる状況・意識はどうなっているでしょうか。
●「参加しているグループ・団体がある」
1992年59.6% → 2018年37.6%(過去最低)
●「人づきあいは面倒くさいと思う」
1998年23.2% → 2018年33.2%(過去最高)
●「自分はいろいろなネットワークを持っている方だ」
1994年21.2% → 2018年14.1%
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こちらは1990年代と比較してグループへの参加やネットワーク力への自信は低下し、反対に人づきあいが面倒という意識が過去最高となりました。生活者は人的資本形成に対して、あまり前向きに捉えてはいないようです。これもあるいは「人に頼らなくても大丈夫」という自信が裏にあるという読み取り方もできなくはないですが、果たしてどうでしょうか。
(5)「人生100年時代」とお金意識
最後にお金について。結局「人生100年時代」を生きるためには、自分が頑張ることはもちろん、「お金にも頑張ってもらう」=資産運用がこれまで以上に重要になってきます。ではお金に対する意識や状況はどうなっているかというと・・・。
●「毎月、決まった額の貯金をしている」
1992年59.9% → 2018年31.1%
●「金融機関や金融商品は目的に応じて使い分けている」
1998年22.6% → 2018年12.3%(過去最低)
●「いろいろな投資情報に関心がある」
1992年19.2% → 2018年11.0%
●「金融商品の良し悪しについて、自分なりに判断できる」
1998年21.9% → 2018年10.6%
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リーマンショック以降、比較的市場環境が落ち着いてきたこともあり、直近では横ばい傾向が続いているものの、1990年代の生活者と比べると、今の生活者は貯金や投資に関してあまり積極的ではないようです。
これは、「財テク」がもてはやされ、生活者の所得状況も今より良好だった90年代から経済環境が変わってしまったことの影響もあり、仕方がない部分もあるのかもしれません。また、バブル崩壊等の際に大きく資産を毀損した経験がある人は「もうこりごりだ」と資産運用に後ろ向きになってしまった可能性も考えられます。
いかがでしょうか。
『LIFE SHIFT』で説かれていた「人生100年時代」へのさまざまな準備。これまで確認してきた「生活定点」データをみるかぎり、どうも生活者はあまり積極的ではなさそうだぞ・・・と、そんな結果になりました。
理想論、モデルケースのなさを指摘する声も
以上の結果をどんなふうに捉えればよいのでしょうか。
60代の同僚研究員に聞いてみると、
「『人生100年時代』というキーワードによって、頭では、生涯現役の時代になっていく覚悟はできた。でもだからと言って、みんなが急に自分の行動を変えたり、生活を変えたりできるわけではない」
「シニア世代でも暮らしの状況はまちまち。一日の多くの時間を“老老介護”状態で親の面倒をみていて、『目の前の現実でいっぱいいっぱいだよ・・・』という人も少なからずいる。少し『理想論』すぎる部分があるのかもしれない」
と、そんな反応が返ってきました。
また別の50代男性に聞いてみると、
「日本の高齢化は現在進行形で進んでいて、『人生100年時代』のモデルケースがまだまだ少ないことも関係しているのでは。“スーパーマン”とか“絵に描いたような成功”とかではない、100年時代の“普通の生活像”の生き方イメージが描けない。強いイメージがないと、そこに向かう意欲も高まりにくいし、つい日常のいろんなことに流されてしまうのかも」
との意見。
「趣味などなくても一日中スマホを見ているだけで楽しく過ごせる」という声を聞いたこともありますが、ネットでさまざまなコンテンツに触れることができるなど、特に先のことを考えずとも、毎日を楽しく過ごせてしまう環境が(良くも悪くも)整っている事も、少なからず関係しているのかもしれません。
4月からは新年度が、さらにその1カ月先にはいよいよ新元号がスタートします。これを自分にとっての転換点と考えて、これまでと生活を変えてみたり、新しく何かをはじめたりと、まさに「ライフをシフトする」良い機会として生かしてみるのも一手かもしれません。
「人生100年時代」とその準備。
皆さんはどんなふうにお感じになったでしょうか。
【参考情報】
○「生活定点」調査概要
調査地域:首都40Km圏、阪神30Km圏
調査対象:20〜69歳の男女3080人(2018年・有効回収数)
調査手法:訪問留置法
調査時期:1992年から偶数年5月に実施(最新調査は2018年5月16日〜6月15日)
○「生活定点」ウェブサイト
https://seikatsusoken.jp/teiten/
http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/55833
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