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ビジネス2019年3月8日 / 13:31 / 6時間前更新焦点:
経常収支でも進む黒字減少、稼げる産業の再構築が急務
Reuters Staff
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[東京 8日 ロイター] - 2018年の経常黒字が、3年ぶりに20兆円を割り込んだ。貿易黒字の大幅減少が主因だが、安定的な所得収支の黒字を理由に、マーケットではこの動向を懸念する声はほとんどない。しかし、20年代後半に超高齢化による貯蓄減少が顕在化して経常赤字に転落するとの試算もある。
市場混乱を避ける「軟着陸」を図るには、先端技術を駆使した新ビジネスの創出が欠かせないと専門家は指摘するものの、足元で起きている貿易黒字の急速な収縮は、「稼ぐ力」の衰退の象徴だと指摘する専門家の声もあり、光明はなかなか見えない。
<貿易より海外投資で稼ぐ時代>
「経常収支は、ライフサイクルと一緒。現役時代に働いて得た貿易黒字は、高齢化すれば減少し、海外で築いた資産からの貯蓄と利子で切り盛りしていくことになる」──。
経済財政諮問会議の民間議員の1人、慶應義塾大学の竹森俊平・経済学部教授は、日本経済の現状を家庭の状況にたとえ、「一家の働き手」が引退しつつある状況であり、貿易黒字より経常黒字が重要になってきていると指摘する。
18年の経常黒字19兆円の構成をみると、海外投資からの配当・利子などの第1次所得収支が21兆円の黒字なのに対し、貿易収支はわずか1兆円の黒字にすぎない。
2011年の東日本大震災以降はエネルギー輸入が膨らみ、15年まで貿易赤字が継続。その間、日本は2000年代半ばから着々と投資してきた海外資産からの所得収益を増やしてきた。16年以降、貿易黒字が復活したが、もはやその規模は所得収支に遠く及ばない。
<20年代には国内貯蓄減少、海外頼みで経常赤字に>
しかし、経常黒字も、団塊世代が75歳以上となって超高齢化社会が現実になる2022年以降、その規模が徐々に減少し、赤字に転落する可能性があるとの見方が民間エコノミストの間では多い。
実際、経常黒字額の大部分を占める所得収支の黒字を支える対外資産残高は、ピークの14年末から3年連続で減少。18年末に回復したものの、14年比で20兆円程度減少している。
ニッセイ基礎研究所の試算では、国内貯蓄の減少に伴い、経常収支は27年度ごろから小幅赤字に転落する。
その試算によると、家計貯蓄率が24年以降、高齢化の影響でマイナスが恒常化。企業の内部留保も、20年代後半には設備投資増加や金利上昇、円高による付加価値減少などが予想され、減少傾向をたどる。
慶大の竹森教授は「当面は所得収支で経常黒字が確保できるものの、貿易赤字が巨額となってくれば、経常黒字維持は難しくなる」と指摘。「貿易赤字拡大を防ぐには、輸出競争力が重要であり、そのためにも先端産業の強化が欠かせない」とみている。
<経常赤字の先に見える危険なシナリオ>
国内の貯蓄が減少して経常赤字に陥りかねないという状況は、単に国際収支上の問題にとどまらない。日本経済全体の状況が大きく変化しかねない危険をはらむ。
立正大学の池尾和人・経済学部教授は「国内の貯蓄があるから、金融機関や日銀を通じて大量の国債が消化されている。財政の持続性への信頼が保てるか否かは、貯蓄がもつかどうか次第」だと解説する。
そして「20年代に入れば、貯蓄が減少して様相が変わる。金利が上昇し始めたら、そこでどれだけ増税できるか、また歳出をカットできるか次第で、財政への信頼が失われることもある」と警告する。
日本総研の湯元健治副理事長の試算によると、20年代の超高齢化社会では医療・介護といった社会保障費が膨張。その不足財源を全て消費税でカバーする場合、17%への消費税率引き上げが必要となる。
それができなければ財政状況は一段と悪化し、日銀のテーパリングが始まる時期と相まって、長期金利の急上昇リスクが一段と現実化しかねないとみている。
巨額の債務残高が積み上がっている日本において、金融市場で低金利が維持されている背景には、経常黒字の存在やその背後に存在する巨額の対外純資産の存在がある。
また、8%と他の先進国と比べて低い消費税率の水準が、今後の引き上げ余地の大きさとして海外投資家の目に映り、財政改善期待が辛うじて残存しているということもある。
しかし、自動運転、AI(人口知能)、ビッグデータを使ったビジネスモデルの転換、プラットフォーマーに代表される収益率の高いビジネスモデル構築など、最先端のビジネス現場で、日本企業は米国などに大幅に後れを取っている。
ある民間エコノミストは「先端技術を駆使したビジネスが育たず、このまま高齢化を迎えると、持続的な財政運営が難しくなるだろう」と指摘。足元で国債現物が品薄になっている短期的な市場環境とは正反対の状況が、いずれやってくるリスクに警鐘を鳴らしている。
中川泉 編集:田巻一彦
https://jp.reuters.com/article/zipair-idJPKCN1QP0UC
ビジネス2019年3月8日 / 14:41 / 5時間前更新インタビュー:
物価2%の勢い低下、日銀は追加緩和模索へ=山口元日銀副総裁
Reuters Staff
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[東京 8日 ロイター] - 元日銀副総裁の山口広秀・日興リサーチセンター理事長は、ロイターとのインタビューに応じ、日本経済が減速する下で、日銀が掲げる物価2%目標に向けたモメンタム(勢い)は低下してきているとし、金融政策運営は「追加緩和を模索する方向にならざるを得ない」との見解を示した。
大規模な金融緩和の長期化によって副作用に対する懸念が強まる中、金融政策の適切な遂行と金融システムの安定確保は「車の両輪」と述べ、効果と副作用を検証しながら漸進的に金融政策を進めていく重要性を強調した。インタビューは7日に行った。
詳細は以下の通り。
−−日本の経済・物価見通しについて。
「内需は、個人消費も設備投資も緩やかに回復している。一方、輸出はこのところ頭打ち感がはっきりと出ている。輸出が下を向くと経済全体の足が引っ張られがちであり、現状の景気は全体として減速している」
「先行きは海外経済の動向に依存するが、輸出の下振れが大きくなれば、企業の収益・マインドの悪化を通じて設備投資にブレーキがかかり、経済の減速度合いが強まる可能性がある。景気後退のリスクも小さいとはいえない」
「物価については、需給ギャップの動きが影響して、下押し圧力が働くとみている。消費者物価の前年比上昇率はじりじりと低下していく方向だろう」
−−先行きの日銀の金融政策運営をどうみるか。
「目標の2%の物価上昇率に向けたモメンタムは、むしろ少しずつ低下してきており、日銀としては追加緩和を模索する方向にならざるを得ない。ただ、使える手立てはかなり限られており、小さな変化に直ちに対応するというよりは、大きく景気が減速し、物価上昇のモメンタムもかなり低下したときに、何らかの手を打つことになるのではないか」
−−追加緩和の手段は。
「より長いタイムスパンで考えれば、金融政策の正常化が大きな課題だ。追加緩和といっても、長い目で考えた正常化のプロセスと極力矛盾しない政策は何かを考える必要がある。すでに日銀のバランスシートは相当に大きくなっており、バランスシートにできるだけ負担をかけない政策手法を見出していくことになるのではないか」
「資産買い入れは、緩和の枠組みの中でも、削減できるものがあれば、削減してもいい。一方、金利の追加的引き下げの可能性が、全くないわけではないだろう」
−−正常化のプロセスと求められるコミュニケーションは。
「FRB(米連邦準備理事会)は、非常に早い段階から出口の議論を開始した。これによって市場に無用の混乱を与えずに、出口に向けて動き出すことができた。日銀も、市場が当面の緩和継続を想定しているような状況においてこそ、出口ないし正常化の方法論を議論し、市場に提示していくことが必要だと思う」
−−大規模緩和長期化の金融システムへの影響は。
「金融政策の適切な遂行と金融システムの安定確保は、日銀にとって車の両輪だ。金融政策の運営に当たっては、金融システムや金融機関経営の健全性を確保していくことを、同時にしっかりと考えていかなければならない」
−−金融機関は、どのように対応していくべきか。
「現在の金融緩和を続けるだけでも、金融機関収益面には厳しいインパクトが及ぶ。特に地域金融機関への影響は大きい。こうした状況を克服するために、金融機関同士の合従連衡を模索していくことも必要になるかもしれない」
−−物価2%目標の位置づけをどのように考えていくべきか。
「長い目でみて2%目標を維持しながらも、先行き消費者物価が前年比プラスの領域で動いていくと判断できる状況になれば、政策の方向を(現在の緩和から引き締め的に)変えるといった対応があってもいい。2%目標をひたすら厳格に追及する必要はないとの議論も、一時よりは強まっているように思う。日銀として柔軟に考えてもいいのではないか」
−−黒田東彦日銀総裁の下での異次元緩和の評価と課題。
「それまでデフレを克服することができなかった環境の中で黒田総裁が登場し、大胆な緩和政策に踏み切ったことは、全く理解できないわけではない。ただ、2%目標は実現できないまま6年がたとうとしている」
「大胆な緩和の結果、国債市場の機能が低下し、株式市場のゆがみも指摘されている。金融機関の収益基盤も毀損(きそん)されるなど副作用が蓄積している。この6年間の政策についてポジティブな評価はしにくい」
−−金融政策運営における白川方明前総裁との大きな違いは何か。
「効果を明確には読めない政策については、漸進的に進めるというのがそれまでの政策運営だった。効果と副作用がはっきりしなくとも、必要であれば大胆に進めていくのが黒田総裁のスタンスだと思う」
「しかし、そうした大胆な政策には、実験的な要素が必ずある。事前に予測できない効果と副作用を検証し、GRADUAL(漸進的)に進めていくことが大事だ。GRADUALに進めることで極端な政策に陥らずに済むし、いつでも方向転換ができる。こうした政策運営が基本だ」
−−中銀の独立性は、どのように変化したか。
「(この6年間は)政府の経済政策との連携がかなり意識されていたようにみえる。もう少し独立性を大事にしたほうがよかったと思う。厳しい財政状況と限られた金融政策発動余地の中で、今後、追加緩和や出口ということになると、これまで以上に財政政策と金融政策の連携を意識せざるを得なくなるのではないか」
*内容を追加しました。
伊藤純夫 木原麗花 編集:田巻一彦
https://jp.reuters.com/article/interview-financial-policy-idJPKCN1QP0FH
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