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日本人に襲いかかる「経済的不安」の正体とは? 日本よ、ありがとう!崩壊国家ベネズエラ人の肉声
http://www.asyura2.com/19/hasan131/msg/308.html
投稿者 うまき 日時 2019 年 2 月 28 日 15:17:41: ufjzQf6660gRM gqSC3IKr
 

日本人に襲いかかる「経済的不安」の正体とは?

迷走する日本の「働き方改革」への処方箋(5)
2019/02/28

立花 聡 (エリス・コンサルティング代表・法学博士)

 日本人が望んでいるのは、「均貧」(均しく貧しい状態)でも「格差」でもなく、「均中」(全員中流)なのだ(参照:鳩山元首相が憧れたブルネイの正体)。その「均中」状態の維持は、資源の存在や持続的成長を前提としているだけに、今の日本は残念ながらこれらの条件をほとんど持ち合わせていない。では、ブルネイはどうだろうか。


iStock / Getty Images Plus / oxinox
ナウル共和国はなぜ崩壊したのか?
 ブルネイが今日にも「均中」状態が維持できているのは、ひとえに湧き出る石油と天然ガスのお陰にほかならない。その資源が枯渇した日、あるいは代用エネルギーがほかに見つかった日、ブルネイはどうなるのか。

 ブルネイはある意味で、ラスベガスよりも産業構造・基盤が脆弱である。賭博産業はギャンブル客が消えない限りいつまでもやっていけるが、石油や天然ガス資源はいずれ枯渇する。

 ナウル共和国は好例だ。国家規模や経済総量、社会構造がブルネイと異なるものの、類似した参考事例として見てほしい。南西太平洋に浮かぶナウルは、リン鉱石の採掘によって富を成した島国だった。世界で最も高い生活水準を享受し、税金なし、医療・教育無料、年金保障をはじめとする手厚い社会福祉を国民に提供していた。これは今のブルネイに大変似ていた。

 しかし、20世紀末にナウルの鉱石資源が枯渇した。基本的なインフラ維持も困難になるほど同国の経済は崩壊し、近隣国のオーストラリアやニュージーランド、そして日本に援助を求めるほか活路はなかった。

 そこから注目に値する展開になった。中華民国(台湾)と国交を持っていたナウルは2002年7月にその国交を断絶し、中華人民共和国と国交樹立。そこで中国から1億3000万ドルの援助を引き出した。しかし僅か3年後の2005年5月に中国と国交を断絶し、台湾と復交した。翌年、台湾の援助を手に入れた。

 ナウルは中台の政治・外交駆け引きのカードに自ら成り下がった。国家崩壊に陥ったナウルの教訓に学べるものは多い。資源が枯渇する以前、ナウルでは国民のほぼ全員が労働の義務から解放され、リン鉱石の採掘も外国人労働者に任せきり、国民全員が資本家となった。リスクを取って事業を興す意味が見出せず、ガツガツ働くことも美徳とされなくなった。そうなれば、人間は勤労意欲を失う。

 ナウルはあまりにも極端なケースで、そのままブルネイと比較するには必ずしも妥当とは言えないが、共通している部分は、国民の勤労意欲の低下・喪失である。国民は勤労生活をもって自らの手によって富を創出し、それを政府の財政に貢献する一方、政府が相応分の恩恵や保護を国民に与える。国民国家の本来あるべき姿がいつの間にか消え去り、気がつけば国民が国家の被扶養者になってしまった。そうなれば、国民は食わせてもらっている以上、政府に強くものを言えなくなり、政府の家父長制化とともに支配者や特権階級への強権や富の集中が進む。

収入が途絶えたときの退路とは?
 ブルネイは資源枯渇の危機を意識していないわけではない。現に国家を支えてきた石油と天然ガス資源に対する依存からの脱却を図ろうと、産業の多様化に取り組んできた。太陽光発電やメタノール、アンモニア、さらにはハラール食品の製造流通ハブ化など様々な努力もなされてきた。だが、明らかな成果はまだ見られていない。原因は多様だが、国民のやる気のなさがその主因の1つではないだろうか。

 ブルネイと近隣諸国の関係は実に微妙なものだ。筆頭に言及すべきは、マレーシア。ブルネイの国土はマレーシアのサラワク州に囲まれる飛び地で、どこよりもマレーシアとのつながりが強いはずだ。私もこれを信じ、ブルネイの視察旅行にはマレーシアリンギットしか持っていかなかった。しかし、ブルネイを代表するいわゆる7ツ星のエンパイヤホテルでもブルネイドルへの両替を拒否された。市中心部の指定銀行店頭や両替店でしか両替できないという。

 驚いた。ブルネイから1000km以上も離れたシンガポールの通貨シンガポールドルが、ブルネイドルと等価に固定されており、ブルネイ国内でそのまま流通・使用されているのに、すぐ隣のマレーシアの通貨は両替さえ制限を受けている。

 距離のことを言ったら、もっと面白いことがある。ブルネイ本土からわずか50km足らずの沖合に浮かぶマレーシア連邦領のラブアン島(Labuan)。このラブアンは、1990年にマレーシア連邦政府がオフショア会社法を制定したことで、オフショア金融センターに指定され、国家規模の一大金融事業として発足した。現在はマレーシアのオフショア金融センターないし租税回避地として、東南アジアや中東の注目を集めている。言ってみればマレーシアのケイマン諸島のような存在である。

 将来的に資源の枯渇したブルネイが転身してオフショア金融を目指すとなれば、先発優位性をもつラブアンが強力なライバルとなるだろう。マレーシア政府の意図的な戦略か、偶然か定かではないが、結果的に先制効果を狙うものとなった。ブルネイにとっては、退路がひとつ減った。いや、マレーシアがブルネイのためにひとつの退路を作ったという見方もできる。

 第二次世界大戦終結後、ボルネオは日本軍の手から離れイギリスによる直接統治領になったが、1957年に先立って独立したマラヤ連邦の呼びかけに応じ、63年にシンガポール、サラワク、サバの英国領植民地が統合してマレーシア連邦が発足する。その当時、ブルネイだけが連邦に参加せず、英国植民地のまま残った。その主因はブルネイ沖の海底油田の利権であり、これをめぐって利害関係者たちにどのような思惑や打算があったのだろうか。

 前述の通貨協定をはじめ、今日のブルネイとシンガポールの関係は緊密である。ブルネイ国王がシンガポールにホテルを所有し、シンガポールで高度な医療を受けるブルネイ国民の定宿として機能している、という話を聞いたことがある。国王一族がシンガポールという国際金融センターを活用して資産を運用することも十分に考えられるだろう。

 その時間軸の延長線上で考えると、ブルネイの資源が枯渇した場合、シンガポールやマレーシアが何らかの形でブルネイを飲み込むことも不可能ではない。そう考えると、国王や政府から与えられた富で安定した生活を送っているブルネイ国民の運命は、すでに他者に握られていると言っても過言ではない。

怠惰なブルネイ人と勤勉な日本人
 一方、日本人は勤勉で努力家で頑張っている国民である。日本は非資源国なので自力で活路を見つけないと、直ちに餓死してしまう。だから、ブルネイとは事情が違う。しかし、果たして本当にそうだろうか?

 戦後の日本人は勤勉さで早くも復興を果たし、その後も経済成長の道を順調に歩んだ。多くの国民は頑張りさえすれば、明るい将来が待っていると信じていたし、それは事実でもあった。国民全員にほぼ平等に未来へ通じる軌道が敷かれていた。言ってみれば、ブルネイはエネルギー収入という「現金」を平等に国民に分配しているのに対し、日本は、未来に通じる軌道という「約束手形」を平等に国民に与えていたのだ。

 財貨の分配形態は異なるものの、平等分配という原則は変わらない。唯一の違いは、支給条件である。ブルネイは無条件支給、国民であれば誰もが基本的に「現金」の平等分配を受けることができる。勤勉だろうと怠惰だろうと関係ない。これに対して、日本は勤勉要件を課している。勤勉でさえあれば、将来という「約束手形」が保障されている。基本的に個人の能力とは関係ない。

 これは日本社会特有の感情的な人間平等主義と「能力差の認知回避」願望にぴったり一致するので、都合が良かった(参照:「同一労働同一賃金」が格差を生むワケ)。さらに戦後復興や朝鮮特需といった外部要因が加わったことで、日本の経済成長は加速した。そして経済成長が続く限り、国民に平等に与えられた「約束手形」の現金化・現物化も保障されている。そこで「安全」や「安心」が善とされ、日本人の普遍的価値観が形成された。

 しかし、時代は変わり、状況も変わった。「約束手形」制度を作り出した当時、当てにしていた将来の分配に供される資源はどんどん目減りしている。同時に分配を受けようとする人がどんどん増えてきた。予定通りの現金化が難しくなってくると、「約束手形」の不渡りリスクが高まる。それがいまの日本人に襲いかかった「不安」の正体なのである。

<第6回へ続く>

連載:迷走する日本の「働き方改革」への処方箋
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http://wedge.ismedia.jp/category/hatarakikatakaikaku


 

WEDGE REPORT

日本よ、ありがとう!崩壊国家ベネズエラ人の肉声を聞く

2019/02/28

風樹茂 (作家、国際コンサルタント)

 マイアミを訪れているときに、トランプ大統領がフロリダ国際大学を訪れ、ベネズエラ向けの演説をした。ベネズエラ、キューバ、ニカラグアなどのラテン系の票を確保するのが狙いだった。けれども、「社会主義の腐敗が国を崩壊させる」という内容はすべて事実であり、かつ、ベネズエラ人ではなくては知りえない、故チャべス大統領を皮肉る言葉などを入れ、彼らの琴線に触れるものだった。では当のベネズエラ人は最近の祖国の緊迫した情勢をどう思っているのだろうか? マイアミから報告する。


マイアミのベネズエラコミュニティで演説したトランプ大統領(AP/AFLO)
アメリカがクーデターを画策してほしい
 イシドロ・パテーニョ(40代前半)は、2008年〜13年にかけて筆者と同じ釜の飯を食べた同僚であり、ベネズラのカラボボ州のバレンシアの政府系企業、プエルト・カベージョ港、カラカスのマイケティア空港で、当局と難しい交渉に当たってきた。いまだベネズエラ国内に留まる僅かな友人の一人である。昨年から何度か対話を試みている。

 「インフレはどうなっている?」

 「ひどい。アリーナ・パン(主食のアレパを作るトウモロコシの粉)は、統制価格だと740ボリバレス、つまり昔の7億4000万ボリバレスのことだけど、それも手に入らないから闇で買う。すると、25万バリバレスだ。以前のお金では250億ボリバレスさ、もう気違い沙汰だよ。君が持っている1万ボリバレスは記念品の意味しかないね。ハハハハ。配給? 月に2、3回だよ。それに、知っているだろう。メキシコの件…」

 配給品の食品の一部はメキシコから輸入していたが、その中に期限切れのものが多く入っていた。すなわち政府の担当者が実際価格よりも安価に購入し、書類上では正規の価格を記入し、その鞘を抜いていたのだ。ベネズラでは、腐敗した役人の常套手段。メキシコでもスキャンダルとなった。

 「港の利権は副大統領のタレク・アイサミが継承した?」

 「ああ、この付近はすべて彼が取り仕切っているよ。アラブ系ばかりになった。薬品、食、金、銅、鉄、石炭、みな彼らが商売をして、この国の富を根こそぎにしているよ」

 プエルト・カベ―ジョ港は昔、やはりシリア系のコカインマフィアであるワリド・マクレッドが取り仕切っていたが、彼がコロンビアで収監されたあと、港は軍の管轄になり、そして別のコカインマフィアであるレバノン・シリア系のタレク・アイサミが利権を手に入れた。アイサミは諜報機関であるSEBINの長でもあり、反対派を刑務所に送ったり、殺害する命令を発している。
 
 「コカインの利権も3人で分け合っているのか?」

 「そのとおりだ。アイサミ、マドゥロ、ディサード・カベ―ジョだ。もっとも麻薬はベネズエラはただの通過点、つまり中継貿易の拠点で入って出るだけだけど。国内で麻薬を入手したい人間はもう高くて手が出ない。なにせ、ベネズエラ人が優先するのは、いかに朝飯と夕飯を食べることができるかということだから。悲しい話だ」

 ディオサ―ド・カベ―ジョは軍人上がりで、チャべス派が勝手に作り上げた制憲議会の議長。麻薬関係のカルテル・デ・ソ―レスを取り仕切っている。一方ベネズエラには選挙で選ばれた政治家たちの国民議会がある。その議長が暫定大統領を宣言したフアン・グアイドである。

 「PDVSA(石油公社)の生産はどうなっている?」

 「稼働率はせいぜい30%あるかないかじゃないかな。もはや車のガソリンもグリスも手に入れるのは難しい」

 「仮想通貨のペトロはどうなっている?」

 「そんな仮想通貨はない。誰も信じていないし、裏打ちがない。マドゥロがデノミをはじめとする経済政策の失政を隠すためにでっち上げた幻想さ。あれもこれも失政だらけだ」

 「キューバ人たちはどうなっている?」

 「もう普通のキューバ人たちはいない。残っているのはG2(キューバの情報機関)の連中で、諜報機関や軍隊に入り込んで指示を与えている。今ならクーデターは簡単だろうけど、まだ軍隊は動かない。国境の援助物資がどうなるか…。マドゥロは受け入れようとしないし、ディオサ―ドは銃弾を撃ち込んでやるといっているよ。ハハハハ」


 「コレクティーボ(チャべス派民兵組織)はどうしている?」

 「みんな軍服を着ているよ。奴らは平気で自国民を殺すし、支援物資を入れようとする人に襲いかかるだろう。彼らが寝返ることを望む」

 コレクティーボはオートバイを使うことが多く、後部座席に乗った人間が機関銃を持ち、自国民を襲う。いわゆる犯罪者の手口である。

 「ベネズエラの美人はどうしている?」

 「ほとんど国を出たよ。今コロンビアでは女の戦いがある。ベネズエラの娼婦がコロンビアの夫をとってしまう。コロンビアの妻は戦々恐々としているよ」

 「ミラフレーレス(大統領官邸)にはサンテーロ(黒魔術師)が来ているだろう?」

 「いや、ミラフローレスにマドゥロは住んでいないよ。住んでいるのはチャべスの娘たち、ローサ・ビルヒニア、マリア・ガブリエラ だよ。チャべスの時代はキューバからサンテーロが来て、ニワトリを殺して軍人たちと儀式をやっていたけど、今やっているのは豪勢な飲めや歌えやのパーティさ」

 チャべスの娘たちは官邸にプライベートの映画館やプールを設え、世界中の有名ミュージシャンを呼んで友人たちと豪勢なパーティ三昧だという。私の見るところ、チャべスの死の真相(公的にはベネズエラで死去。実際はキューバ)他、現政府の不都合な事実を多々知っており、口止め料もたんまりともらい、誰も逆らえないのである。マリア・ガブリエラは4000億円前後の資産を持つという。

 「君が防弾チョッキのようなものを扱っているのなら、マドゥロにプレゼントするのはXXXLだな。随分太ったからね。シャンゴ(アフリカのヨルバ系の戦いの神。最後は民心が離れ自殺する)の血で染まったものがいいな。ハハハ。ぼくの見るところマドゥロは今はプレッシャーで眠れないだろう。チャべスと同じ道を辿るよ」

 「アメリカには何を望む?」

 「こうなったら、アメリカがクーデターを起こすのをのぞんでいるよ。でもその前にディオサードがマドゥロを殺して、軍を統率するかもしれない。いずれにしろ、アメリカの一番の協力は、ベネズエラ政府の人権への罪、コカイン密売への罪を理由にクーデターを画策してくれることだよ。マドゥロと対話などできないことは誰もが知っている。でも、もし選挙をやるならば、その前に政治犯を釈放し、選挙委員会を解散し、新たな人員を専任することだ。それでなくてはいつもと同じインチキ選挙になるからね。でも、どれもこれも難しいな。軍次第だよ。トランプは軍人への制裁を緩めたし、彼らはコカイン他の腐敗で蓄財した金を守ろうとするだろうから、マドゥロから離れて行くはずだよ」

 「トランプのほうが追いつめられるのでは?」

 私が心配しているのは、国境で治安部隊に一般のベネズラ人が殺害されるだけで終わるという最悪のシナリオだ。トランプの「マドゥロについた軍人はすべてを失う」という言葉は、幻想に終わり、彼のほうがラテン票を失うことになる。だからといってアメリカが軍事侵攻するような真似はできないし、やるべきではないだろう。人命他のリスクが多過ぎるし、中南米諸国の支持を失ってしまう。

 「君が幻想に終わるといっても、多くのベネズエラ人はマイアミでのトランプの演説に勇気づけられているよ。22日(コロンビア国境でベネズエラ支援コンサートがある)か23日には何かが起こるとみな期待している。つまり軍がマドゥロを裏切ることを」

マイアミに移り住んで
 フロリダ州には40万人前後のベネズエラ人が住んでいる。今回たまたま仕事上出会ったのは、6年前の2013年に家族とともにマイアミに移住したスリア州、マラカイボ出身のベネズエラ人、オスカル・カスティーヨだった。もともとスリア州は社会主義や共産主義には親和感がなく、反チャべスで一貫していた。

 「ベネズエラでは何をやっていたんだい?」

 「マラカイボでは外資系の会社で石油採掘の仕事についていたよ。その後は船だよ。PDVSA(石油公社)の原油を輸出していた。ホセの港やプレルト・ラ・クルスからね。アジアは台湾の港に行ったことがあるよ」

 偶然、筆者と同じプエルト・ラ・クルスのPDVSAでも働いていたのである。彼は前日に日本政府がグアイドを支持する声明を出したことを、歓び、私に感謝した。

 そう、日本がグアイド暫定大統領を支持しているというニュースはインターネットでベネズエラほか国際社会を駆け巡り、何100万人のベネズエラ人が勇気づけられ、感謝の念を抱いている。思っているほど日本は小国ではないし、遠い南米にも影響する。

 「マイアミで住んで、働いて思うところがあるかい?」

 「これまで何度もマイアミに来ても旅行者の立場だったので、その内実を知ることはなかった。働いてみてベネズエラとは大違いだと気がついたよ。海外に出て働いているベネズエラ人がこの経験を本国に伝えることができれば、いいと思う」

 「国が崩壊したことの教訓があるということか?」

 「そのとおりだ。ベネズエラ人は国から与えられる、あるいは国から奪うことしか考えていない。とりわけ、社会主義になってから、国に与えられることに慣れてしまった。でもアメリカは違う。働いて税金を支払う。自ら行動しなければならない自立の精神がある。ところが、ベネズエラでは、たとえばひと月は働いても、鳥肉を買えるか買えないかだ。それだったら働くのではなく、国からの配給を待ったほうがよい。そんな考えになってしまった」

 今、彼や私が働いていたPDVSAでは月収10ドル前後なので、オフィスに出て来ない社員が続出している。知らぬ間に移住していたり、あるいはベネズエラに留まる社員は、闇商人になったり、ほかの私には想像もつかないことで、ドルを得ているのだろう。いまだ会社を辞めないのは、年金に期待しているからである。

 また誰かのレポートで政府関連組織で勤務する人間は、政府を支持している、という文面を見たことがある。まったくの間違いである。政府そのものといっていいPDVSAの同僚たちは、私に「あいつらは全員死刑にしてやりたい!」と明言していた。

 このような状態なのにプエルト・ラ・クルスとその隣のレチェリアでは、最近一層寿司屋が増えたという。金持ちはたくさんいるのだ。困ってもいない。政府関係者、麻薬密売者、他の犯罪者、以前からの資産家、海外からのドル送金があるものなど、むしろ自国通貨の下落で、モノが安くなり恩恵を受けることさえある。

 「結局仕事は何をやっている? 移民するベネズエラ人の多くは大卒で何かしらの専門性を持っている。でもそれを生かすのは難しいと聞いているが?」

 「そのとおり。専門を生かそうとしても、難しい。需要のある仕事をやるしかない。僕の場合は仕事を掛け持ちしている。この輸出検査官の仕事はアルバイト。船や油について知っているので、企業に登録できた。実は掃除の会社を持っているんだ。オフィスを中心に人を派遣している。ここでは、10時間、12時間と働いても、文句をいえない。もっともベネズエラのときと比べて私的な時間は全くなくなってしまった」

 「マドゥロはどうなる?」

 「話しあいのときはもう過ぎた。アメリカが2、30人規模の秘密部隊を送れば、それでマドゥロは倒れるのでは」

扶助団体「マイアミのベネズエラ人」
 ベネズエラ人を扶助する団体の管理者とのやりとりである。
 
 「ベネズエラ人にとってマイアミでの生活は?」

 「マイアミにはベネズエラと違って食べ物はいくらでもある、エアコンもある、あらゆるサービスはある。でも故郷にいないと、孤独だし、失望することも多い。とりわけ最初は厳しい」

 「最初はどんな職に就く?」

 「普通、レストランで働く。掃除をし、ボーイやウエイトレスとして皿を運び、ときにそれを洗う。根をあげる人も多い。サイトで職を紹介しても時給9ドルでは安いと文句をいう。けれども、時給18ドル、20ドルは専門性のある仕事だ。困るのは、できるといって、できないものもいることだ。もちろん、中にはゼロから初めて起業化するものもいる。たとえば私たちはベネズエラのバルキシミエントで、アレパのレストランを持っていた。3カ月後にマイアミでArepa Express USAを開くつもりだよ。資本主義の人生は希望と克服がある」

 「トランプの演説には行ったかい?」

 「テレビでも見ていないよ。あそこを訪れるのは、インチキの亡命者さ。国を思っていくのではなく、写真を撮って、ツイッターやフェースブックで見せるために行くだけだ。われわれは、仕事を得る手伝いをし、助言を与え、弁護士を紹介し、もっと実践的なことをしている」

チリに移り住んで
 シルビア・メニーノ(20代中ごろ)はバレンシア大学を卒業し、弁護士の資格を持つ。未婚の母でもある。筆者は何度か取材のコーディネートを頼んだことがある。けれどもベネズエラでは法律はあってなきがごとしで、弁護士の資格を生かす道もなく、おばさんと屋台でアレパなどを売って生活費を稼いでいた。今はチリのビーニャ・デル・マルに住む。なおチリには70万人以上のベネズエラ人が移民し、外人の中では一番大きなコミュニティを擁している。

 「なぜ、母国を離れてビーニャに住むことにしたの?」

 「国内ではアレパを作る材料の入手も難しくなったの。それに薬もなく、犯罪者だらけの場所では子供を育てられないわ。チリに来たのはほぼ2年前ね。なぜ首都じゃないかって? ビーニャ・デル・マルに来たのは、大学の友人が先にここに来ていたから。でも彼女は家族がエクアドルのほうにいったので、そっちへ行ってしまったわ。ビーニャのほうが静かだし好きね」

 ビーニャ・デル・マルはヨーロッパから観光客が集まる海辺の保養地で、この時期には世界的歌謡コンクールがある。

 「一番難しいことは?」

 「チリで一番難しいのは、アパートを探すことだわ、外人にはやっぱり高い。二部屋で18万ペソ(3万円前後)。でもサンチャゴだとその値段で一部屋しか借りられない」

 「仕事は何をしている?」

 「最初はレストランでウィトレスをしていたけど、次は骨壺を売る仕事を見つけた。でも、半年前に不当解雇されたわ。訴える予定だけど、今は暫定ビザで無理。100ドル払えば市民権が取れるけど、そのお金を溜めるのも一苦労よ。今は火災保険とか自動車保険の会社で働いている。でも給与は280万ペソ(4万8000円前後)しかない。市民権をとれば、給与も上がるし、医療もただになるわ。チリ人と同じ扱いを受ける」

 「食事とかで苦労はしない?」

 「チリの食べ物は好きじゃない。味が薄すぎる。ああ、海産物? それはおいしいけど、私の給与では高い。アレーナ・パンはスーパーで売っているから、アレパは家で作れる」

 「チリで嫌なことは?」

 「言葉が汚いというか、きちんと発音しないし、罵倒言葉が多い。それと白人の国で、ハイチ人とかを差別しているわ(ベネズエラは肌の色による差別は少ない)。でも一番嫌なのは、ドラッグね。マリファナが解禁されているから、あっちらこちらで吸っているわ。子供がサッカーの練習に行くグランドのそばでも吸っていて、いい影響がない」

 「トランプの演説は聞いた?」

 「トランプの演説は聞かなかったわ。ちょうど、オスカル・ペレスの母親が出ているところはテレビで見たけど」

 オスカル・ペレスは元警官でヘリコプターで最高裁に手投げ弾を投下した反政府組織のリーダー。カラカス郊外の密林の中の隠れ家に仲間といるところを治安警察に囲まれ、ハチの巣のように撃たれ、殺害された。

 「今後、ベネズエはどうなる?」

 「2月22日にはコンサートもあるし、23日には、援助物資が入る。結局マドゥロは亡命するしかない。じゃなければ刑務所入りか、殺されるか。その後、選挙管理委員会を新たに作って、それで選挙よ。暫定大統領になってから30日以内に選挙日を決める必要があるの。でもグアイドは法律上、候補になれない。出てくるのは、今刑務所にいるレオポルト・ロペスとか、カプリ―レスとか。チャビスタは出ても票が集まらない」

 「政権が変わったらベネズエラに戻る?」

 「むずかしいわ。戻っても住むところもない。母親たちはコロンビアのメディジンに移ったし、おばさんたちはサンチャゴよ。それにベネズエラに行ってもタクシーやバスも機能していない。部品もないし、ガソリンもないから、動く手段がないわ。それに、チャビスタのおかげで犯罪者だらけだし、国がまともになるのには何年もかかるわ。行くとしても休暇でせいぜい1カ月くらい訪れるとか。いずれにしろこの時期は商店の略奪があちらこちらで起こるようになる。危険よ。一人で住んでいる祖母が心配。前1万ペソ(1700円前後)を送ったけど、今はそれでは肉も買えない。配給に頼るしかない。ドルがないと生活できない」

チリのサンチャゴに移り住んだオタクのシステムエンジニア
 ホセ・マルティーネス(30代後半)とは5年前にカラカスでのオタクのイベントで知り合った。数カ月前にサンチャゴに移民したが、生活には満足しているという。

 「仕事は簡単に見つかったし、給与も悪くない。食事も4ドルか5ドルで安い。ベネズエラ人もたくさんいるから、ベネズエラ食に不自由はしない。困ることはないよ。貯金をしてカラカスに残っている家族に仕送りをして、日本に行くお金を溜めるよ」

 「トランプの演説は見た?」

 「ニュースで見たけど、ベネズエラにかかわることは、本当だし、見て見ぬふりをするのではなくて国際社会はできることをやってもらいたい。トランプについてはいいところと悪いところがある」

 「ベネズエラには戻る?」

 「政権が変わってもベネズエラ経済がすぐに好転するとは思えない。この政権で悪の道に染まった人間も多いし、人が変わらなければ、国は良くならない。でも、行き来するのはずっと自由になるだろうけど。今は、お金を溜めて日本に行くのが夢だよ。漢字もほら、雑誌、新聞、学生、先生、会社員、椅子とか覚えた」

ベネズエラにも日本ファンはたくさんいる。

日本は明確にグアイド支持をもう一度打ち出すべきである
 危惧していたとおり、援助物資はチャべス派の治安部隊に阻止され、あるいは焼かれ、国内にはなかなか入らない。また国境では数人がベネズラの治安部隊、いやむしろ民兵組織のコレクティーボに殺され、何百人と負傷した模様である。

 軍や政府は腐敗しているがゆえに逆に強い。誰も国家反逆罪で刑務所送りになったり、国民のリンチにあって殺害されたりしたくないのだ。

 そんな中、日本にいるベネズエラのイシカワ大使は、日本がグアイド氏を支持したことを非難し、「日本政府はグアイド氏を法的に承認するわけではなく、マドゥロ政権とは引き続き協働するとの説明を受けた」と語っている(2月21日 日経新聞)。
これではまどろっこしい。

 どのみち日本政府がマドゥロの政府と話し合いを持つようなことはありえないのだから、日本政府は、グアイド暫定大統領を法的にも承認するともう一度明言したほうがいいだろう。
http://wedge.ismedia.jp/articles/print/15477  

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コメント
1. 2019年2月28日 15:57:15 : OO6Zlan35k : L3FGSWVCZWxFS3c=[1] 報告

>ブルネイは無条件支給、国民であれば誰もが基本的に「現金」の平等分配を受けることができる。勤勉だろうと怠惰だろうと関係ない。
>これに対して、日本は勤勉要件を課している。勤勉でさえあれば、将来という「約束手形」が保障されている。基本的に個人の能力とは関係ない。
>これは日本社会特有の感情的な人間平等主義と「能力差の認知回避」願望にぴったり一致
>「約束手形」の不渡りリスクが高まる。それがいまの日本人に襲いかかった「不安」の正体

まだ日本は勤勉であるだけマシではあるが

厳しい競争に勝ち抜いたものが報われるという面が不十分であり

そこが現在の低迷の根源でもある

ただし社会の安定というメリットは大きく、競争原理で豊かになったとしても

人々の幸福度の総量が、どの程度上昇するかは疑問


一部の優秀な若者は、海外で挑戦し、大多数の国民は、貧しくはなっていっても、

格差が小さいことを受け入れる方が、日本人にとっては適している可能性はある

ただし、いずれは強大化した周辺国に、侵略・搾取されることは覚悟しておく必要はある

>ベネズエラ人は国から与えられる、あるいは国から奪うことしか考えていない。
>社会主義になってから、国に与えられることに慣れてしまった。でもアメリカは違う。働いて税金を支払う。自ら行動しなければならない自立の精神がある

ダメになる国の共通点は、自立していない国民が多数派を占めること

米国が強かったのは、この自主独立とフェアな競争の精神が比較的強かったからだが

貧困移民やプア―ホワイトの増加などで、既に、国内格差は取り返しがつかないレベルまで拡大している

日本や欧州同様、今後は衰退していく確率が高いだろう

2. 2019年2月28日 19:01:35 : o4ZxWSpuaU : cmp4OUZBQlJQcUU=[135] 報告
骨がない 資源に頼る 経済は
3. 2019年3月01日 22:45:27 : Xco4FvmdnE : YVo3Qkg3Q0FxeDI=[1] 報告
グアイドなるアメリカの操り人形を支持するベネズエラ人は富裕層だろな。

>>社会主義になってから、国に与えられることに慣れてしまった。でもアメリカは違う。働いて税金を支払う。自ら行動しなければならない自立の精神がある


ところが大金持ちは働かない。
彼らは資産運用が「仕事」だからな。

4. 2019年3月01日 22:49:25 : Xco4FvmdnE : YVo3Qkg3Q0FxeDI=[2] 報告
>米国が強かったのは、この自主独立とフェアな競争の精神が比較的強かったからだが

競争というのは必然的に格差を生む。
その結果、

>貧困移民やプア―ホワイトの増加などで、既に、国内格差は取り返しがつかないレベルまで拡大している

こういうことになる。
要するに競争社会も永遠には続けられない。
どこかの段階でそれをガラガラポンして再出発する必要がある。
日本の場合それは敗戦とその後の経済改革(農地解放)だったんだが。

ちなみにアメリカでは若い世代の半分が「アメリカを脱出したい」と思っているという調査が出た。
その第一の理由が、「社会保障・福祉制度の未整備」である。

5. 2019年3月02日 01:14:11 : Xco4FvmdnE : YVo3Qkg3Q0FxeDI=[4] 報告
>>社会主義になってから、国に与えられることに慣れてしまった。でもアメリカは違う。働いて税金を支払う。自ら行動しなければならない自立の精神がある


外国の軍事力による介入を期待する人物が偉そうなこと言えたものかな?

6. 2019年3月02日 15:43:24 : z0SQdjEyNM : WUxPTXhZaFdKYWM=[15] 報告
日本が勤勉によって復興したというのは違う。
戦前よりずっとましな国になったのだから。
制度が根本から変わったので息を吹き返したというのが正しい。

戦争に負けて70年、自民党のたゆまぬ努力が実り
今や制度は逆戻り、我ら貧民の首は絞められ続けている。
貧民が困窮すればいずれ自分等も困ることも知らず。

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