>>13. >このスレッドが立てられたのには背景がありそう。更に、続き。 日本原子力学会 シニアネットワーク連絡会の記事では、 欧州放射線リスク委員会(ECRR)が「福島事故により10万人のがん死亡が発生する」など、低線量被ばくの危険性の重要な論拠とした「スエ―デンのトンデル博士論文」について、 それが後にトンデル博士自身によって「明白な、そして期待したような直線的な被曝とがん発生の関係は見出されなかった」と修正された経過が、バズビー支持派の皆さんに突きつけられています。 -- トンデル論文のその後 / 日本原子力学会 シニアネットワーク連絡会 http://www.aesj.or.jp/~snw/media_open/document/nhk_tondel130809.pdf トンデル論文のその後 2013年7月22日 斎藤修 トンデル氏はスウエーデン北西部のがん増加がチエルノブイリ事故で地上に沈着したセシウムが原因であるとした2006年の論文を自ら修正する新論文を発表している。 トンデルの旧論文は従来考えられていなかった僅か4ミリシーベルトの低線量でがんの増加が認められたことを証明したとして関係者に大きな衝撃を与えた。 さらに欧州放射線リスク委員会(ECRR)は彼らが以前から主張していた低線量放射線によるがん発生論を裏付ける証拠として取り上げ、トンデル論文のリスク値を基にして福島事故により10万人のがん死亡が発生するとする資料を作成し世界中に喧伝した。 福島事故後来日したECRRの宣伝マンC.バズビーは福島をはじめ国内各地で彼らの主張を宣伝し放射線恐怖症の種をばらまいた。 しかし彼の主張が正しければ増加する筈のスエーデンのがん増加は起こらず、彼の推測が間違いであることが明らかになり、このためトンデル氏は旧論文を修正する論文を出さざるを得ない状況に追い込まれた。 この新論文発表は2011年でやや旧聞になるがマスコミであまり取り上げられていないので、トンデルの新旧論文及びその周辺情報について紹介したい。 - 1.トンデル旧論文(2006年) チエルノブイリ事故により大気中に放出されたセシウムが風によりスウエーデン北西部に流された後、降雨により地上に沈着し、スウエーデンの北西部8郡の地上の線量が増加した。線量の高かった同地方の住民1,137,000人についてがん発生が調査された。 調査当初の1988-1991の期間に有意ながん増加があり、トンデル氏はこのがん増加はチエルノブイリ事故によりもたらされたセシウムが原因の可能性があるとした。彼の論文ではセシウムは1987―88年当時で最大年間4ミリシーベルトの被曝をもたらすとしている。 しかし被曝とがん発生の関係についてはチエルノブイリ事故後の経過時間が通常のがん発生における潜伏期(固形がんの場合10年)に比して短すぎるため、被曝を直接原因とはせずにがん化の第2段階である「促進」(腫瘍が悪性化する段階、この段階を経て本当のがんになる事が判明している)作用があったとしている。 (説明) がんは次のような原因物質の多段階の作用により発症するとされている。 ・「初発」最初の作用により起きた遺伝子の変化を初発といい通常腫瘍ができる。この段階では良性腫瘍)。 ・「促進」初発により変化した遺伝子が追加の作用を受けて悪性化する段階を言う。 初発の段階ではがん源物質の追加の作用を受けなければ腫瘍は自然消滅するが、追加作用を受けて促進の段階に進むと、原因を取り除いても自律的にがんは進行する。 通常多くのがん源物質は「初発」、「促進」の両方の作用があるとされている。放射線も両方の作用がある事が認められている。 彼の論文により、年間僅か4mSvの被曝でがんが増加したことが疫学調査で証明された(統計的に有意に増加している)として関係者に大きな衝撃を与えるとともにICRPの表明しているリスク値との乖離の大きさは、世界各国の放射線規制のもととなっているICRPの勧告の正当性について疑いの念を齎すものとなった。 - 1988年から1991年の放射線線量とがん発生率の図 (2006年の論文より) 横軸は地表の放射線線量(時間当たりの吸収線量で表示) 縦軸は10万人当たりに換算した年間がん発生率、中心点を示す黒点の上下の線は誤差範囲を示す、誤差範囲が横軸をまたいている場合は統計的に有意でないとされる。最初の2点は統計的に有意ではないが線量が大きくなると統計的に有意で、しかもほぼ直線的に右上がりの傾向を示している。 調査対象の他の期間につてはこの図のような明確な右上がりの統計的に有意なデータはみいだされていない。 - 2.欧州放射線リスク委員会(ECRR)の論文利用 欧州環境派のグリーンピースが設立した欧州放射線リスク委員会(ECRR)は従来から極低線量によるがんが発生すると主張している。たとえばセラフィールドの原子力施設周辺の白血病増加は同施設からの放射能が原因であるとECRRは主張している。 しかし政府が招集した第3者が構成する調査委員会でその主張は認められなかったのでECRR側委員は別委員会を作り別報告を作成した。セラフィールド以外にも幾つかのケースについて高い放射線リスクを設定し、放射能が原因であると主張しているが関係者が構成する団体により公式に認められていない。 トンデル論文はECRRの主張を裏付ける数少ない材料であり、ECRRは早速トンデル論文を取り上げ世界中に喧伝するとともに、新たに彼の論文を利用して福島事故について事故後の10年間で10万人ががんで死亡するという資料を作成し、世界各国に発信した。 ECRRの宣伝部長のC.バズビイは日本国内でも週刊誌を始め多くのマスコミにこの資料を喧伝して歩いた。NHKの一部の人が作成したテレビ放送ではバズビイの宣伝が、国際放射線防護委員会(ICRP)誹謗の材料として使用された。 - 3.新トンデル論文: その後調査を継続したトンデル氏は、「スウエーデンにおける地上ガンマ線とがんリスクの関係」という表題の新論文を2011年に公表した。彼はその中で「明白な、そして期待したような直線的な被曝とがん発生の関係は見出されなかった」としている。 新論文のその他の主な記述 ・すべての被曝区分において統計的に有意な危険度の指標の増加がみられた。ただし、もっとも高い被曝区分における甲状腺・白血病については明白な関係はなかった。 彼はすべての被曝区分で有意なリスク増加がみられたとしているが、もっとも線量の高い区分でリスクとの関係がなかったことは、彼の指摘しているリスクの増加は放射線以外の要因により生じているのではないかという疑いが持たれる(交絡因子の存在)。実際彼は2006年の論文でスウエーデンにおけるがん発生の要因として最も大きいものは地域における人口密度の増加であると述べている。 もともと彼の2006年の主張は、次のような点からかなり疑問視されていた。 @被曝の時期とがん発生時期が近く、通常認められている潜伏期(白血病3年、固形がん10年)よりも短い期間内に発生したがんについて被曝が原因としている事は不合理である A時間の経過とともに地上に沈着したセシウムによる被曝線量は増加するので彼の主張が正しいとすれば、がん発生も時間とともに増加する筈であるが(セシウム-137の半減期は約30年であり、1〜2年では容易に減衰しないのでセシウムによる被曝線量の集積値は年数の経過とともに増加する)、現実には線量に比例した増加が認められたがん発生は当初の4年間のみでありその後は特別な増加を示していない。 トンデル氏もスウエーデンにおけるがん発生の実態から放射線被曝に関係ありとする彼の主張を維持できなくなったのであろう、新しい論文では2006年の主張を修正している。 彼の意見修正によりECRRの主張はその論拠を喪失した。評価の不明確な論文を取り上げて低線量被曝の発がんリスクを訴えようとしたNHK報道の論拠も同時に失われてしまった。 ICRPを批判しているECRRの主張に依存したと思われる2011年12月のNHKの放送の過ちは明白になったと言うべきであろう。トンデル氏の論文修正の事態を受けて、NHKは大々的に取り上げた放送の重要な論拠の修正についても当然報道すべきである。「一旦放送した後は我関せず」という態度は公共放送であるNHKとしての取るべき態度ではないと考えるが、如何に。 - 2.国連科学技術委員会(UNSCEAR)の福島事故の健康影響検討結果 国連科学技術委員会は2012年5月ウイーンで60カ国からの専門家を集めて福島事故に関する検討会を開催し中間報告をまとめて総会に報告した。同年5月31日のプレスリリースでは事故の健康影響について次のように述べられている。 「多数の人の被曝は低く、ヨウ素による甲状腺被曝は数10mSvの範囲であり、セシウムの被曝は数mSv程度で、多くの人が自然放射線の範囲内である。今後多数のがん死亡が発生するとは考えられない。 作業者2万人のうち170人が100mSv、6人が250mSvを超えて被曝したが健康上特別な異常を示した者はいない。小児被曝については詳細を調査中であり、その結果は2013年末までに作成される報告に明らかにされる予定である」。 この委員会の中間報告に示されたように福島事故による一般住民の被曝線量は低く、トンデル氏の旧論文及びそれに基づいたECRRの主張しているような多数の住民のがん発生はUNSCEAR により否定されている。 チエルノブイリ事故についてのWHO・IAEA 等のまとめた健康影響についての報告においてもトンデル旧論文の主張は認められておらず実際彼の主張のようながんの増加発生も報告されていない。現在我が国の多くの人の放射線安全基準に対する認識は混乱しており、福島の事故後の復旧に大きな妨げの根源となっている。このような安全基準認識の混乱を導いた大きな要因の一つとして上述のような一部団体の論拠なき放射線リスクの誇大宣伝とそれを取りあげるマスコミの報道の態度が指摘されている。
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