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原発事故 「被害」と「加害」に引き裂かれた私
50年の歴史を演劇「福島三部作」で問う
谷 賢一 劇作家・演出家・翻訳家
論座 2019年08月14日
福島原発の半世紀の歴史を考え、演劇を通して語る大型企画に、気鋭の
劇団が取り組んでいる。原発事故を足元から見つめようと2年半かけて
取材した成果を劇化した三部作の一挙上演だ。作・演出した谷賢一さん
がつづる。あの事故はなぜ起きたのか。それは私たちとどうつながって
いるのか。
■母は浪江町出身、父は原発でも働いた技術者
演劇界ではときどき「三部作」という事件が起きる。
かつては蜷川幸雄が演出したギリシャ悲劇をもとにした『グリークス』や、新国立劇場が上演したシェイクスピアの歴史劇『ヘンリー六世』など、一本約2〜3時間の作品を3連続、休憩なども入れると8〜10時間かけて上演するという事件が。
今年、私は『福島三部作』と銘打って、1961年から2011年まで、50年にわたる福島県と原発の歴史を概観する「福島三部作事件」を自ら起こしてみた。
私はもともと福島県の生まれだ。そしてもちろん、強い郷土愛を抱いている。
3・11後の原発事故で母親の実家のあった浪江町は全町避難になってしまったから(今は解除)、事故当時のショックと憤りには大変なものがあった。
しかし私は、母の血筋では原発事故の被害者側に立っているが、父親はかつて原発でも働いていた電気技術者であり、父の血筋で言えば加害者側に立っているとも言える、やや複雑な背景を持っている。小さいころ父親からは何度も、原発ってのは大きくて、ピカピカしてて、日本の技術の粋を尽くした最先端の施設であり……と自慢話を聞かされたものだ。実際、高校生になってチェルノブイリ原発事故(86年)を知り、東海村JCO臨界事故(99年)などに触れるまでは、原発に危ないイメージなど全く持っていなかったというのが正直なところだ。
加害者ということで言えば、あの事故は「東京電力」福島第一原発が起こした事故であり、経営主体であった東電のみならず、東京都民全員がうっすらと加害者であったと私は言いたい。
原発事故の被害者と加害者、二つの立場に足をかけている身として、原発を取り巻く複雑さについてはずっと問題意識を持ち続けてきた。原発は、もちろんまず安全性の面で大きな問題があるが、それ以上に政治的・経済的に根深い問題を数多くはらんでおり、それらを明らかにするような芝居を作りたいと考えた。
なぜ演劇でと思われるかもしれないが、演劇とは立場の違う人間同士がお互いの価値観をぶつけ合う芸術である。様々な立場の人間の価値観が絡み合う原発問題を描くには、うってつけなのである。
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福島三部作の第一部『1961年:夜に昇る太陽』=田子和司氏撮影
■フィクションのような事実をつづる
まず第一部『1961年:夜に昇る太陽』では、なぜ東京に電気を送るための原子力発電所が福島県の浜通り地方なんていう片田舎に作られることになったのかという、原発誘致の裏話を描いた。
「私は広島の出身」だからこそ「原発は安全」だと言い張り誘致を進める佐伯という東電社員、登山客風の格好に変装して県内を測量して回る酒井という県職員など、いかにもフィクションらしい怪しい人物たちが出てくるが、すべて実在の人物であり記録にも残っている。そして当時の相場の20倍近い金額、現在の価値に換算すると約3億円にもなる大金をちらつかされて土地の買収工作が行われる……と、このように実に奇妙な道筋を辿って福島県に原発は誘致されたのだ。
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福島三部作の第一部『1961年:夜に昇る太陽』=田子和司氏撮影
第二部『1986年:メビウスの輪』では、原発反対運動の元リーダーだった主人公・忠が、原発推進派の町長として担ぎ上げられ、チェルノブイリ原発事故を体験した後、かえって「日本の原発は安全です」と安全神話に手を貸すに至る心理の変化を描いた。
これも実在の岩本忠夫という双葉町長の変化・転身をモデルにしている。貧しい地方都市にとって原発のもたらす経済的恩恵はあまりにも大きく、雇用・財政・町のすべてが原発依存に陥っていき、どうあっても後戻りできなくなっていく様を描いたが、これも事実だからこそ恐ろしい話である。
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福島三部作の第二部『1986年:メビウスの輪』=白土亮次氏撮影
第三部『2011年:語られたがる言葉たち』では、いよいよ舞台が2011年・震災の年となり、あの地震と津波と原発事故が福島県内にどんな傷跡を残したのかが描かれている。
■福島の悲鳴を刻んだ「第三部」
第三部の大きなテーマは「分断」だ。
これは私も実際に現地取材に通わなければ気づかなかったことだが、原発事故により福島県は細かく分断されてしまった。原発立地自治体である双葉町の男は家族と故郷を失い深く傷ついているが、その隣町に住む夫婦は原発事故を起こした双葉町のことを憎んでおり、さらに別の村に住む男は原発から30キロメートル以上離れているのに避難させられた自分たちが一番の被害者だと思っている。
県民同士で憎み合い、嫉妬し合い、差別し合う様子がはっきりと描かれており、県外の人間が知らない福島の悲鳴が数多く台詞に刻まれている。これらは私が実際に福島県内を手広くフィールドワークして集めた言葉たちだから、どれもシンプルだがリアルで切れ味がある。
なぜ今、福島三部作なのか?
よく尋ねられる質問だが、私はこう答える。
「今だからこそ」福島三部作なのだ。
年月は我々の認識を変える。震災から8年の月日が経った今だからこそ、ようやく我々は生傷としてではなく歴史的事件の一つとして東北の大震災を振り返ることができるようになった。
しかし同時に年月のために、我々は震災を忘れつつあるのも事実だ。首都圏ではもうほとんど話題にさえ上らない。先日の参議院議員選挙においても、原発問題は主だった争点にすらならなかった。しかし結局、原発問題について何の政治的結論も決着もついていないのに、なあなあにしたまま、ぬけぬけと「復興五輪」だなどと言い放って、お祭り騒ぎに向かっていくのは、全くもって無責任であり、原発事故の死者に対して礼を失した態度のように思えるのだ。
「原発事故の死者」という言葉にギョッとした方もいるかもしれない。福島原発の事故で人は死ななかったのでは? 世間ではそう思われているが、そんなことはない。
第三部『2011年:語られたがる言葉たち』劇中の台詞(せりふ)を引用しよう。
「……あんたたちはもう忘れてるかもしんねけんちょ、福島でもう農
業はできねえと悲観して、自殺した農家がいた。おらは死なねえ、こ
うして飲んだくれるだけだ、だけんちょ気持ちはよくわかる。娘と牛
たちがいねかったら死んでたかもしんね。
原発事故で、人は死んだんだ。自殺した農家。避難のストレスで
死んだ老人たち。放射能っつわれていじめられた美月だって、下手
したら死んでたかもしんね」
原発事故の「災害関連死」、つまり上記の台詞にあるような形で直接・間接的に死に追いやられた人の数は1600人に上ると言われている。原発事故で人は死んだのだ。この事実はもっと多くの人に知られてよいだろうと思う。
劇中にはこんな台詞も出てくる。
「――正しく語るということは、部屋を整理することに似ている」
正しく福島を語ることで原発に関する知識や情報を整理し、我々が今現在どんな場所に住んでいるのか見つめ直してみたいのだ。それは過去を振り返ることであると同時に、未来の我々の身の振り方を見つめることにも繋がる。
3部作・計6時間と言えばたいそうな長編にも聞こえるが、50年にわたる福島と原発の歴史を一望できると思えば実にコンパクトにまとめた短編である。ぜひ劇場でこの「事件」に立ち会って頂きたい。
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福島三部作の第一部『1961年:夜に昇る太陽』=田子和司氏撮影
劇団 DULL-COLORED POP
福島三部作 第一部『1961年:夜に昇る太陽』
第二部『1986年:メビウスの輪』
第三部『2011年:語られたがる言葉たち』
東京
池袋 東京芸術劇場シアターイースト
2019年8月18日まで第三部上演
23〜28日 一〜三部通し上演
各部=前売り4200円、学生3500円、高校生2000円
当日は4500円(一律)
大阪
浪速区 インディペンデントシアター2nd
8月31日〜9月2日 一〜三部通し上演
各部=前売り3800円、学生3300円/当日は4500円
通し券10000円(2日は通し券のみ販売)
福島
いわき市 いわき芸術文化交流館アリオス 小劇場
9月7、8日 第三部上演
3000円、高校生以下1000円
https://webronza.asahi.com/culture/articles/2019081300008.html
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