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「放射線測定から見た復興」
(東京大学大学院総合文化研究科助教・小豆川勝見 JSTAGE 2017/4)
https://www.jstage.jst.go.jp/article/tits/22/4/22_4_40/_pdf/-char/ja
■ 2 Bq/kgのリンゴ
「ここに2 Bq/kgの放射性セシウムが含まれている福島県産のリンゴがあります。希望者に
は差し上げます。講義で得た知識を踏まえて、家族や友人たちと議論してみてください」──
これは私が共同で展開している放射線の講義「放射線を科学的に理解する」の最終回で受講
している学生(東京大学の学部1、2年生)たちに投げかけた言葉である。この講義は、2011
年の秋以降、基本的な放射線の知識を習得してもらう目的で、多くの教員のご協力を頂きなが
ら毎年開講し続けているものであるが、開講の動機が福島第一原子力発電所事故であることは
言うまでもない。
原発事故発生当時、その多くが中学生だった受講生にとって、放射性物質とは「よく分から
ないがメディアで騒いでいるもの」という思いが主流だったようだ。講義では従来の教科書に
あるような定義の解説に留まらず、実生活と関連させてきた。たとえば、食品中の放射性物質
であれば、事故直後から現在までの推移、放射線の測定、流通上の規定、被ばく量など科学的
視点から得られる知見について多角的に取り上げ、それらが有機的に繋がるよう工夫しながら
展開してきた。「測定」の項目で取り上げれば、「事故直後に2 Bq/kgを測定できる事業所は限
られていたが、測定機器の急激な普及で徐々にこのレベルまでの測定が全国的に可能になっ
た」とか「流通の可否を判断する測定レベル(スクリーニングレベル)なら、2 Bq/kgは
まず検出されることはない」などといった科学的事実を紹介した。それらを踏まえた上で、
生産者と消費者がどのような議論をするのか、想定してみようと提案した。
「一般食品の基準値は100 Bq/kgであるから、リンゴの2 Bq/kgはそれの2%である。被ばく
量を計算(このリンゴを成人が1個食した場合、放射性セシウムからは約0.007 μSvの被ばく量
を受けることになる)しても、人体に与える影響はごく僅かである。だから購入し、食べる」
という学生もいれば、また逆に、「リンゴなら他の地域で生産され、放射性セシウムが2 Bq/
kgよりももっと低い選択肢もあるので、わざわざ購入することもない。それにこのリンゴは
2 Bq/kgと分かっているが、購入時にこのような記載があるものを見たことがない。だから購
入しないし、食べない」という意見もあった。彼らが放射線の知識を得た上で判断したことで
あり、どちらの意見も尊重されるべきであると同時に、両者の意見の間に正解も不正解もない
と私は考えている。
しかし、ここで取り上げた大学内の講義のように、じっくりと時間をかけて放射線の科学的
知見に触れ、議論ができる場は極めて理想的な環境といえよう。汚染が発生してしまった現場
では、生業、避難、除染、賠償、復興といった、放射性物質が原9となった諸問題ではある
ものの、そこから派生した目前の課題に事故が発生したその日から常に心を削られる状況にお
かれ続けている方が多数いる。そのような方々にとって、改めて放射線の科学的知見という原
点に立ち返ることは、相当な勇気や想いが必要であることは間違いない。そのためか、時とし
て、放射線に対して明らかに科学的に誤った理解をしているが故に、状況をより悪化させてい
る例もあった。同時に、事故後に策定された新たな放射線に関する規則や基準値が、放射性物
質の諸問題を普く解決するものではないことも6年間で経験的に感じている。
私自身の経験では、震災以降、福島県内の公立学校も含め、これまでにのべ6,000名を対象
に放射線のセミナーを行ってきた。そこで得られたことは、地域の背景や状況を共有できてか
ら初めて測定値に向き合うことができるということであり、測定や規則ありきではないことだ。
放射能は時間と(もに自らの半減期に則って減衰する性質がある。しかし、放射性物質に起
因する問題は、それと同じように時間とともに自然と解決するものではない。
■ 食品の検査態勢の維持は必須
原発事故から6年が経過した現在、一般的に流通する食材に含まれる放射性物質は、国が定
めた基準値を遙かに下回る水準である。特に福島県内では徹底した出荷体制がこれを担保して
きたといえる。
たとえば、福島県の南部、いわき市の農作物の例を取り上げたい。いわき市内で生産され
た出荷用の農作物について、2011年9月20日食品の検査態勢の維持は必須から
2016年8月31日までに市が測定した検体数は32,247件に及ぶ1。そのうち、基準値(100 Bq/kg)を
超過した農作物は36検体、率にして約0.1%である。その一方で、検出下限値(10 Bq/kg、
ただし2012年3月までは20 Bq/kg)以下の農作物の割合は96.6%を占めている。
このように農作物中の基準値超過の割合が極めて低いことは歴然たる事実である。しかし、
ここで挙げた数値は測定された農作物が「出荷用」であること、すなわち市場に流通させる農
作物ということは注目すべきである。そこで、「出荷用」とは別枠の測定である、出荷や販売
を目的としない自家消費用の農作物に限った測定の統計によると、いわき市では基準値超過の
割合が約9.4%となる(28,099検体中2,653検体が基準値超過)。作物別では、自家消費用のシ
イタケは1,001検体中766検体が基準値を超過していて、率にすれば76.5%である。このほか、
コウタケは95.0%、ユズは5.4%であった。
出荷用と自家消費用の農作物の生産方法が明確に区分される体制がとられているからこそ、
出荷用農作物の基準値超過の数は抑え込まれている。それを最終的に保証するのが、現行の測
定体制である。しかし、出荷用農作物の測定値が低いことを理由に、現行の測定体制を緩和し
てしまうと、基準値超過の割合が上昇する可能性がある。このことは、単純に統計上の問題に
留まらない。消費者から見れば、ほとんど忘れかけていた基準値超過の農作物が流通後に発見
されるようなことになれば、購買欲の低下、測定体制の信頼性を大きく損なう可能性もある。
137Cs(放射性セシウムのひとつ)の半減期が約30年である以上、この問題は世代を超えて
続くことが予想される。有効な対策は、自家消費用農作物が生産される背景を現場で継続的に
最善策を考え続けることであり、少なくとも現在以上の測定体制を維持することは必須である。
■ 「外れ値」の存在
水産物の基準値超過に至っては、農作物よりもさらに割合が低くなる。いわき水揚げの
水産物では、基準値超過は0.03%である(3,332検体中1件。調査期間は2012年5月21日から
2016年8月31日まで)。2013年に1件の基準値超過が確認されただけで、直近3年は0件が続
いている。いわき市に留まらず、太平洋側で水揚げされた水産物でこの傾向は同様である。
しかし、ごく稀ではあるが、突飛な例が存在することも事実である。我々の研究グループで
は、2016年に静岡県沼津市で水揚げされたアオザメを調査していたことがあった。アオザメ
は行動範囲が広く、サメの中では比較的深い水深を移動する特徴がある。ある1匹から取られ
た可食部(白身)中の放射性セシウムを測定したところ、基準値を約7倍超過する707 Bq/kg
を確認した。検出された放射性セシウム.特徴から、その全量が福島第一原子力発電所由来と
判断された。大型魚の場合、放射性セシウムは0.1〜10 Bq/kgの範囲に収まることがほと
んどであり、水産物の基準値超過する割合は、農作物の基準値超過の比を遙かに下回ること
が統計上の常識であった。水産庁、静岡県のご協力2により、このアオザメは伊豆沖で捕獲
されていることが聞き取り調査の結果明らかになった。国立保健医療科学院が運営する「食品
中の放射性物質検査データ」3によれば、2012年4月9日から2017年2月16日までのアオザメ
の調査は静岡、東京、宮城、岩手の各都県で合計69件行われており、最大値は宮城県で水揚
げされた36 Bq/kgであった。この統計からも該当のケースはアオザメの中でも極めて稀であ
ることが分かる。
経年的に放射性セシウムが下がる傾向にあっても、基準値の7倍もある水産物が伊豆沖で確
認されたことは、ほとんど全ての水産物から放射性セシウムが検出されない状況下でも、いわ
ゆる「外れ値」が存在することを示した。農作物の例でも示したように、基準値超過がほとん
どないことを理由に測定体制を終了する、という考えは、同時に、外れ値の検体を発見する確
率を下げることに直結する。外れ値の統計数が少ない故に「なぜ」そのような値のアオザメが
存在したのか、という問いに十分に答えるだけの知見は集積しきれていないが、生態や捕獲時
期に注意しながら、放射性セシウム濃度に関心を維持し続ける必要がある。そのため、水産物
に至っても農作物同様、全国的な測定体制は維持しなければならない。
■ 事故後6年で得た教訓とこれから
陸上における放射性セシウムの環境中における動態(動き方)は、各方面の精力的な研究に
よって、おおよそのことが明らかになっているものの、各地域の局所的な環境に適用できるほ
ど知見が集積されたわけではない。そのため、6年間で得られた知見からの将来予測と、現場
におけるきめ細かい対応の挟み撃ちが、今後の農作物を中心とした食品中の放射性物質の推移
には効果的と考える。
水産物については、廃止措置(廃炉)中の福島第一原子力発電所の各号機からの直接的な漏
洩は相当抑え込まれているものの、発電所周辺からは3H(トリチウム)が継続して滲出してい
ることを少なくとも2015年より確認しており4、現在行われている汚染水対策は完全ではない。
あってはならないことではあるが、万一に備え、引き続き厳重な監視体制を維持することが求め
られている。
放射線問題の立場からみたとき、理想的な復興とは、広く飛散してしまった放射性物質が原
子炉内の燃料棒に全て戻った状態にすることである。しかしながら、それは現代の科学力では
現実的ではない。事故を経て得られた科学的知見とともに、各地域・年代に応じた最適化され
た柔軟な対策を取っていくことが肝要と考える。基準値+適合するか否かといった単純な二
元論だけでは、長期的には何も解決したことにならない
注 ----------------------------------------------------------
1
以下、いわき市における農作物、水産物のデータは、「いわき産農林水産物の放射性物質の
検査結果について」(いわき市農林水産部農業振興課)を引用している。
2
水産庁では検体試料のクロスチェック、今後の対応協議を行った。また静岡県は、本測定後に、
県内で水揚げされたアオザメに対して自主規制の体制を取った。
3
食品中の放射性物質検査データ http://www.radioactivity-db.info/
4
小豆川勝見, 堀まゆみ, 福島第一原子力発電所事故後の大熊
町夫沢地区の自噴井戸・湧水における放射性セシウムの経年変化,
温泉科学, accepted, 2017
--------(引用ここまで)------------------------------------
秋田放射能測定室「べぐれでねが」と共同で放射能汚染の測定を行なっている
東大・小豆川勝見助教の数年前の論文です。
はっきり言ってデタラメだらけの内容です。
まず、福島原発事故前の食品の放射能汚染は0.1Bq/kg以下であった事実を
しっかり認識する必要があります[1]。
2Bq/kgのリンゴも事故前とくらべれば数十倍の汚染であり、食べるべきではありません。
現在の100Bq/kgという汚染基準には全く科学的・医学的根拠はなく、毎日食べても
健康被害が出ないという保証はどこにもありません。
それどころか、毎日10Bq/kgの摂取でも体内に徐々に蓄積されていくことが、
ICRPによって示されています[2]。
原子力施設では、100Bq/kg以上の汚染物は黄色いドラム缶に入れて厳重に保管する規則に
なっています。
柏崎刈羽原発のように100Bq/kg未満でも厳重に管理している施設もあります[3]。
食品の安全基準が放射能廃棄物の保管基準と同じなのは、誰が考えてもおかしいと思うでしょう。
検査ではねられる食品が増えると巨額の賠償を支払わなければならないので、
ご都合で大甘に設定しているのであって、国民の健康を保証する基準ではないのです。
ですから、100Bq/kgを超えるものはわずかしか見つかっていないと言っても、
何の意味もありません。
「そこで得られたことは、地域の背景や状況を共有できてから初めて測定値に向き合うことができる
ということであり、測定や規則ありきではないことだ」
これも科学者にあるまじき発言です。
どんな社会的な背景があろうと、科学的に定められた安全基準は安全基準であり、それを超えたら危険です。
客観的に判断しなければならず、ご都合で勝手に安全基準や測定値がゆがめられてはなりません。
これは科学の基本です。
707Bq/kgのアオザメは極めて例外であるかのように主張していますが、
アオザメは食物連鎖の上位に位置する大魚であり、生体濃縮により汚染がひどいことは明白です。
例外ではなく、探せば同程度の汚染はいくらでも見つかるでしょう。
例によってセシウム134/137しか議論していませんが、セシウムの300倍危険であると言われる
ストロンチウム90やその他の核種についても測定しなければ安全性を議論できません。
以上、この論文はデタラメだらけであり、福島原発事故の汚染被害を矮小化しているとしか
思えません。
国立大学の研究者が、国民の安全や健康のために研究活動をしていると思ったら大間違いです。
彼らは、原子力推進の総本山IAEAのために働いています。
小豆川助教のページのフッターにもしっかり「IAEA」と書いてあります[5]。
研究の目的は、あくまでも原発再稼動のため福島原発事故の被害を過小評価することです。
原子力推進に不都合な研究には予算が下りません。
そんな偏向のかかった研究者の測定結果を信用していたら、いくつ命があっても足りません。
事実、政府や御用学者の言うことを信じて被ばく回避をして来なかった人が
次々にバタバタと倒れ、死んでいるのです。
(関連情報)
[1] 「原発事故前の食物汚染は0.1ベクレル/kg以下 現在は1000倍も汚染されたものを
食べさせられている」 (拙稿 2017/6/2)
http://www.asyura2.com/17/genpatu48/msg/194.html
[2] 「原子力推進団体ICRPの体内蓄積曲線からも100ベクレル/kgの食品汚染基準が危険なのは明らかだ」
(拙稿 2016/4/14)
http://www.asyura2.com/16/genpatu45/msg/482.html
[3] 「東電・柏崎刈羽原発では100ベクレル/kg以下の廃棄物も厳重管理している」
(拙稿 2016/7/1)
http://www.asyura2.com/16/genpatu46/msg/127.html
[4] 「沼津産アオザメからセシウム134/137合算で707ベクレル/kg検出!」
(拙稿 2016/6/10)
http://www.asyura2.com/16/genpatu45/msg/817.html
[5] 「『べぐれでねが」は疑惑だらけの「でたらめでねが』 他人の商品を詐欺レベルと批判する資格はない」
(コメント1番)
http://www.asyura2.com/19/genpatu51/msg/698.html#c1
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