http://www.asyura2.com/19/china13/msg/351.html
Tweet |
国家安全を優先させる習政権 そのねらいは/宮内篤志・nhk
2024年03月12日 (火)
宮内 篤志 解説委員
https://www.nhk.or.jp/kaisetsu-blog/100/492444.html
中国の習近平政権が内向き志向を強めています。
これまで共産党が最重要課題としてきた「経済成長」よりも、一党支配の維持を重視する「国家の安全」を優先させる方向へと舵を切り、統制を強化しているのです。
全人代=全国人民代表大会を通じて見えてきた政権のねらいを読み解きます。
中国の北京では11日まで、1年間の重要政策を決める全人代が開かれました。
例年どおりですと、最終日に李強首相が記者会見を行うはずでしたが、ことしは行わず、来年以降も当面行わないことが発表され、波紋が広がっています。
中国の首相による会見は、1993年以降、毎年行われるようになったとされます。
ちょうど、中国が改革開放に本腰を入れ始めた頃と重なり、海外からの投資を呼び込むためにも、オープンな姿勢を示そうとしていたことがうかがえます。
海外メディアにとっても、「竹のカーテン」と呼ばれる秘密のベールに包まれた中国の指導者の肉声に触れることができる貴重な機会となっていました。
私が北京に駐在していた当時、温家宝首相が首相としての最後の会見で、およそ3時間にわたって熱弁をふるい、「まだ多くの仕事が終わっていないし、うまくできなかったものもあり、遺憾だ」と、率直な気持ちを吐露していたのが印象に残っています。
今回、会見が取りやめとなった理由ははっきりとは示されていませんが、専門家などの間では、主に2つの見方が出ています。
1つは、習主席への権力集中が進むあまり、首相の地位が低下したという見方です。
中国の首相はかつて「江沢民・朱鎔基体制」、「胡錦涛・温家宝体制」などと、国家主席と肩を並べて表現されることもありました。
しかし、共産党のトップでもある習主席は権力を掌握する過程で、むしろ政府に対する党のコントロールを強化したため、相対的に政府の弱体化につながりました。
さらに李首相は習主席の地方勤務時代に秘書を務めていたこともあり、その力関係は明白です。
「習一強」の中では、首相といえども対外的に発言する権限はないのかもしれません。
もう1つは、政権に不都合な情報が出るのを避けたのではないかというものです。
不動産市場の低迷をはじめ、「ゼロコロナ」政策終了後の景気回復の勢いは鈍く、若者の失業率も高止まりが続いています。
さらに去年相次いだ外相や国防相の解任についても未だに具体的な説明はありません。
こうした問題に質問が及ぶことをおそれた可能性があります。
いずれにしましても、会見を取りやめたことにより、国際社会からは「透明性の低下」や「説明責任の放棄」といった懸念が強まることになりそうです。
世界との意思疎通を避けようとする姿勢は、習政権の内向き志向を象徴しているといえるでしょう。
では、習主席が、そこまでして優先させたいものとは何でしょうか。
それは「国家の安全」、つまり共産党体制の維持です。
これまで共産党は、一党支配を正当化するための根拠として、「経済成長」を掲げてきました。
「国民を豊かにすることができるのは共産党であり、だから国を統治するのだ」というものです。
ところが、その成長に陰りが見え始めると、習主席は体制の維持そのものを目的化させます。
「共産党の統治によって国が安全であればこそ、経済成長も可能なのだ」という理屈です。
そこで警戒しているのが、アメリカなど西側諸国が掲げる「自由」や「民主主義」、「人権」といった価値観が国内に浸透し、体制の存続が脅かされることです。
これを防ぐため、「総体的国家安全観」という考え方を打ち出し、社会の隅々まで統制を強化する方向に突き進んでいます。
去年の改正で中身が強化された「反スパイ法」はその典型的な例といえます。
「国家の安全」を名目にした統制の強化は、全人代でも裏付けられています。
初日に李強首相が政府活動報告で言及した一文に注目が集まりました。
「新時代の『楓橋(ふうきょう)経験』を堅持し、発展させる」と述べた部分です。
「楓橋経験」とは、1960年代に浙江省の楓橋と呼ばれる農村で導入された治安維持の手法です。
当時、急速に進められていた社会主義化に反対する人たちを、当局ではなく、住民が団結して摘発したというもので、毛沢東も称賛したとされます。
しかし、その実態は住民どうしの密告や相互監視を奨励するもので、こうした手法はのちの文化大革命で全国に広がり、政治的な迫害や凄惨な暴力行為を生むきっかけとなったともいわれています。
去年9月、習主席がこの地を視察に訪れたことで、中国では今、「楓橋経験」を持ち上げるキャンペーンが展開されています。
経済大国となった中国が、再び文化大革命の時代に逆戻りするといった心配は杞憂かもしれませんが、改正された「反スパイ法」では国民による密告も奨励されているだけに、危うさも感じさせます。
ただ、多くの国民にしてみれば、高い経済成長を実現していたからこそ、共産党の統治も受け入れることができたわけで、今のように経済が低迷し、若者の就職難が続く状況では、不満は募る一方でしょう。
こうした不満を抑え込もうとするかのように、「国家の安全」を担う治安機関の存在感は着実に高まっています。
とりわけスパイの摘発などを行う国家安全省は、異様なほど発言力を強めています。
去年12月、共産党はことしの経済政策を決める「中央経済工作会議」を開き、「『中国経済光明論』を鳴り響かせる」との方針を打ち出しました。
これについては、「楽観的な情報を流すだけで、景気は回復するのか」といった懐疑的な意見が国内外で相次ぎました。
ところが国家安全省は直ちにSNSでメッセージを発信。
この中で、「中国経済をおとしめる様々な常套句が後を絶たないが、その本質はうそを並べて『中国衰退』という言説の罠を作り上げる企てだ」と断じたうえで、中国経済への批判を厳しく取り締まると警告したのです。
しかし、治安機関が経済に口出しをするような状況では、中国政府が発表する経済統計やデータなども簡単には信用されなくなるでしょう。
国内だけでなく、外交戦略の根底にも「国家の安全」につながる考え方が流れています。
全人代の首相報告にも盛り込まれましたが、中国がこのところ盛んにアピールしている「人類運命共同体」という構想です。
テーマは「地球上であらゆる民族や国家の運命は密接につながっているのだから、ともに繁栄しよう」という聞こえのよいもので、中国も積極的な役割を果たすとしています。
ただ、中身を見ると、他国によって政治体制が脅かされることがないよう、体制維持のための「内政への不干渉」などがはっきりと打ち出されていて、中国にとって都合のよい言説を広める狙いがあるのは明らかです。
こうした構想は、西側の価値観を押し付けられるのを嫌うロシアや一部のグローバル・サウスの国々にとっては受け入れやすいとみられ、中国がアメリカ中心の国際秩序に対抗するうえでも、その影響力は軽視できるものではなさそうです。
習政権による統制の強化は、経済活動、とりわけ外国企業の投資意欲を冷え込ませているとされます。
こうした懸念を習主席本人が自覚しているのかどうかは分かりませんが、先行きは楽観できそうにありません。
「国家の安全」に危害を与えたなどとして日本人も相次いで拘束されているだけに、中国の現状はひと事ではなく、習政権の姿勢に厳しい目を向けていく必要があると思います。
最新投稿・コメント全文リスト コメント投稿はメルマガで即時配信 スレ建て依頼スレ
スパムメールの中から見つけ出すためにメールのタイトルには必ず「阿修羅さんへ」と記述してください。
すべてのページの引用、転載、リンクを許可します。確認メールは不要です。引用元リンクを表示してください。