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2023年4月23日 12時00分
https://www.tokyo-np.co.jp/article/245635?rct=world
日本のフェミニズムをけん引してきた社会学者の上野千鶴子東大名誉教授が、中国でブームとなっている。約20冊の著書の翻訳が出版され、ネット上では上野氏との対談動画が約300万回も再生された。動画を巡っては、対談相手への激しい批判が上がるなど波紋も大きい。なぜ今、「上野千鶴子ブーム」なのか。上野氏本人の言葉などから背景を探ると、中国の女性が置かれた苦境が見えてくる。(中沢穣)
◆書店に著書ずらり 女性読者「構造的差別教えてくれた」
中国の書店では数年前から、上野氏の著書がずらりと並ぶ風景が珍しくない。上野氏と作家の鈴木涼美さんとの共著「往復書簡 限界から始まる」は昨年、書籍や映画のレビューサイト・豆瓣ドウバンで「ブックオブザイヤー」に選ばれた。翻訳・出版された著書は昨年だけで7冊に上る。
主な読者は、日ごろから性差別に直面している若い女性だ。上野氏の著書を数冊を読んだことがあるという北京在住の30代の女性会社員は「なぜ女性は男性よりも仕事を探すのが大変なのか、結婚して出産するとキャリアへの影響が避けられないのか。そうした日々の疑問に対し、構造的な差別があることを教えてくれた」と話す。
この女性は、同書が結婚や家庭など生活に密接に関わる話題に触れているため「読み始めるのに、ハードルが低い」と語る。一方で、フェミニズムへの入門書にもなっているといい、「上野氏の著書を通じて『家父長制』という言葉を初めて理解した読者も多いのではないか」と推測した。
こうした見方は、上野氏自身の分析とも一致する。上野氏は同書が「日本よりも話題になりました」と苦笑いし、中国の女性が置かれた状況は世代間で大きく変化してきたと指摘する。
「改革開放以前は共産主義的な平等思想が持ち込まれ、女が男と同じことをやるという形での男女平等が強制的に実現した。一方、改革開放以降は市場化によって男女の格差が開いた」。上野氏はこうした変化を「自由なき平等」から「平等なき自由」と説明する。その上で「今の若い世代は、自分たちの経験を説明してくれるボキャブラリーを求めている最中なのではないか」と話した。中国には近代以降、欧米の文化や学問を日本経由で取り入れてきた伝統もある。
◆「中国自身が題材なら出版難しい」 言論統制と表裏なすブーム
ブームは中国で強まる言論統制と表裏一体でもある。女性に関する問題に取り組んできた中国のNGO関係者は「格差や差別など政権批判につながる話題は、当局にとがめられかねない。家父長制などへの批判も、中国自身が題材であれば出版は難しい」と訴える。中国では、性暴力被害を告発する「#MeToo」運動も、欧米発であることなどから抑圧され、現在はほぼ下火となった。この関係者は「上野氏の著書は日本が題材だが、読者は中国を想定して読んでいる。日本は欧米よりも文化的に近いのも利点だ」と解説する。
上野氏が中国で注目を集めるきっかけとなったのは、2019年の東大入学式の祝辞だ。中国語訳の字幕が付いた祝辞の動画がネット上で拡散し、特に「頑張っても公正に報われない社会が待っています」というフレーズが共感を呼んだ。上野氏は「中国は激しい競争社会。不公平感や不平等感を強く持っている人が多いと感じた」と振り返る。
◆批判にさらされた対談相手 「私にはなすすべがない」
さらに今年2月には、北京大学出身の30代の女性3人との対談動画が話題となった。その1人は中国のSNS「微博ウェイボ」で、約35万人のフォロワーを持つインフルエンサー全嘻嘻ぜんききさんだ。約30分の動画は約300万回も再生され、ブームの広がりを印象づけた。
ところが、全さんら3人は動画の公開直後からネット上で激しく批判を浴びた。批判も含めて関連する書き込みは累計5億8000万回も閲読され、一時は微博の話題ランキングの上位にも登場した。対談動画は転載を繰り返して今も視聴できるが、批判を受けた全さんは1週間ほどで自身のアカウントから動画を削除した。このとき全さんはこんな謝罪の声明を出した。
「動画が引き起こした議論が大きく広がり、私にはなすすべがない。フェミニズムの知識やインタビュー手法について私は無知で愚かだった」
◆ファンからは「失礼」と非難 エリート経歴に反発も
ネット上での全さんへの批判は主に2種類ありそうだ。一つは熱烈な「上野ファン」から上がったものだ。全さんの上野氏への最初の質問は「(上野氏が結婚しないのは)男性に傷つけられたことがあるからか、それとも生まれ育った家庭の影響か」。これに対し、ネット上では「質問が失礼で、フェミニズムへの理解が足りない」などと非難の声が上がり、結婚や出産など身近な問題に終始したことも批判の的となった。
上野氏によると、動画への出演は「出版社からプロモーションとして依頼された」という。学生寮での会話のようなカジュアルな雰囲気が演出され、パジャマ姿の全さんら3人が上野氏に質問していく形で展開した。こうした演出もファンから「礼儀に欠ける」などと批判を受けた。
もうひとつは全さん自身の華やかな経歴と関係がある。全さんは中国の学歴社会で頂点に立つ北京大学を卒業した。現在はネット関連企業の幹部でもある。一方、対談動画では結婚して6年目で子どもが1人いると明かす。別の投稿では、出産後5日で仕事に復帰したことや、家事や育児は夫の母親に任せていることなども赤裸々に語っている。
上野氏は、対談が身近な話題に終始したことについて「東大女子も北京大女子も、偏差値が高いだけの普通の女子だ。結婚や出産など女性の普通の悩みを持っていることはあたりまえ」と理解を示す。一方で「(全さんら3人は)競争を勝ち抜き、仕事も家庭もすべて手に入れたエリート女性。そうした女性への反発があったのではないか」と推し量る。
中国で女性差別を巡る活動に関わってきた20代の女性は上野氏と同じように、全さんが「家庭の外で職業的な成功を収める一方、(夫の母という)一つ上の世代の女性に家事育児を任せ、家庭内労働の問題を解決した勝ち組女性」だと指摘し、批判を浴びた一因とみる。
◆「正しいフェミニズムと間違ったフェミニズムはない」
中国でも男女の役割分担など家父長制の影響が色濃く残り、多くの女性が結婚や出産を避ける要因となっている。加速する少子化の一因ともいえる。結婚を選ぶ女性と拒む女性の二極化が進み、ネット上では両者が互いに批判の言葉を浴びせる場面も少なくない。
この女性は「(全さんが)家父長制などの構造的な要因から、結婚や出産をしないという選択肢を選ぶ女性への理解が欠けていた」と解説する。
対談で印象に残る場面について、上野氏は「正しいフェミニズムと間違ったフェミニズムはないと言ったら、3人はあっけにとられたようだった」と笑う。結婚するかしないか、化粧するかしないか、軍隊に参加するかしないかなど「フェミニズムにとって正しいか正しくないかを分ける教条主義が、日本でもかつてあった」と振り返り、「フェミニズムは多様で、唯一の正解が出てくる回答マシンではない」と強調する。
このブームは今後も続くのだろうか。先のNGO関係者は「影響力の拡大は当然、当局の警戒を引き起こす。すでに出版業界では自己規制が始まっており、今年中に変化が起きる恐れもある」と憂慮する。
◆デスクメモ
最近、日本は外交や安全保障面で、中国は価値観の異なる権威主義の国だと、とかく線を引きがちだ。だが、経済発展や少子化の中での男女格差という観点で眺めると、同じような課題や悩みが浮かんでくる。当局の今後の対応を含め、中国での上野ブームの行方がとても気になる。 (北)
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