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各地で電力使用制限、一体なにが起きているのか?
12月21日未明に、中国・広東省の広州、東莞、深圳、仏山、珠海などの都市で予告なく1時間ほど停電した。街灯への電源供給も絶たれ、街は漆黒の闇に包まれた。一部ではウォーターポンプの電源が切れたため水道が止まり、通信基地局も停電したのでスマートフォンやインターネットもつながらなくなった。病院や養老院、学校の宿舎などが深刻な影響を受けたという。
市民たちは、こんな大停電はこの十数年経験したことがない、と不安に駆られた。SNS上には、市民が撮影した漆黒の街の写真がアップされ、その原因をささやき合った。
公式発表では「送電線の故障」ということだが、ちょうど浙江省、湖南省、江西省の発展改革委員会当局が「電力制限」政策を通知したばかりだったことから、本当の原因は故障ではなく、広東でも電力使用制限を導入しようとしており、その導入前に反応を見るためではないか、という見方もあった。
それにしても、中国でなぜ急に電力供給が不安定化しているのか。それは何を意味しているのだろうか。
企業に電力使用制限を通達
この停電が起きた12月21日の午後に、北京の国務院新聞弁公室が「新時代の中国エネルギー発展白書」発表の記者会見を行った。記者たちの質問は、南方三省の限電(電力制限)と広東の広域停電問題に集中した。
中国では12月中旬に入って浙江、湖南、江西、そして陝西などの多くの地方で「電力利用の優先順位」について通達が出された。特に浙江、湖南、江西の南方3省では明確に電力使用制限という形の通知が企業、生産現場に出されている。
理由はさまざまだ。たとえば湖南省の発展改革委員会当局の通知によると、全省最大電力負荷が3039万キロワットと冬季電力の過去の記録を更新し、電力供給情勢がひっ迫している、と説明された。
中国ではこうした電力使用制限など10年以上はなかったので、これは一体どういったことなのか、と多くの人たちがいぶかった。
湖南省の場合、産業現場の電力使用制限は午前10時半から12時まで、午後4時半から8時半までという2段にわけてあり、工場など生産現場は電力使用ピークを外した夜間や週末に稼働させるよう通達があった。また長沙市では全市すべての空調を20度以下に設定し、電気ストーブや電気オーブンなど高電力消費の電気機器を使用しないよう市民にも通達された、という。
同様の通達は相次ぎ、前後して湘潭市、岳陽市、株洲市、常徳市などでも出ている。湖南省は南方のイメージがあるが、12月14日には初雪が降った。この冬の寒波は厳しく、風力発電機が凍り付いて動かないという状況も電力不足に追い打ちをかけたかもしれない。
中央のエネルギー政策の圧力
浙江省は「電力供給に問題はない」としつつも、省内の各レベルの政府機関、公的組織は年内は気温が3度以下になるまで暖房空調を使わず、暖房の設定温度を16度以下にすることとした。
浙江省の場合、電力供給不足を考慮したというだけでなく、エネルギー政策として中央から通達されている「双控」「減煤」工作と「エコ発展」要求に十分に応えられていないことからの対応だとも言われている。「双控」とは総エネルギー消費量とエネルギー強度を抑制すること、「減煤」とは石炭消費の総量を削減することで、習近平政権が打ち出す「生態文明思想」に基づくエコ政策の中心にある。
習近平は国際社会において気候変動対応のリーダーになるべく、2060年前に中国のカーボンニュートラル実現を公言している。ちなみに現状では、中国の電力の7割が石炭を中心とする化石燃料で賄われているので、相当、経済や庶民生活は我慢を強いられることになる。
浙江省では2018年に『浙江省がさらに一歩エネルギー“双控”を推進しハイクオリティー発展を実施する方案(2018―2020)』を定めた。浙江省全省で単位GDP当たりのエネルギー消費率を年平均3.7%以上減少させ、エネルギー消費全体の増加率を年平均2.7%以下に抑え、石炭消費を2015年比で5%減らすという目標などが掲げられていた。しかし、2020年が終わろうとしている今、その目標は達成されておらず、浙江省政府はあわてているようだ。
江西省の発展改革委当局は12月15日に、電力使用優先順位工作を始動した。その前日の12月14日、江西にはこの冬一番の寒波が襲来。午前11時21分の江西電網の総電力負荷は2547.5万キロワット、送電電力量は2631.1万キロワットと、ともに過去最高を記録した。
陝西省も2020年の冬季電力ピークを迎えるにあたって、省内の電力需要バランスをややきつくするとの通達を出した。現状では、今冬最大の送電用発電能力は「新エネルギー」を除いて約2920万キロワット。陝西省外に平均200万キロワットを送電するので、省内の最大発電能力は2720万キロワットだという。
「みんな震えて仕事しているよ」
インターネット上では、こうした電力使用制限に市民から怨嗟の声があふれていた。「浙江省の温州で気温5度の体感がどれほど寒いかわかるか? 気温10度以下で雨でも降った日には、みんな震えて仕事しているよ」「長沙市のビルではエレベーターがしょっちゅう停電するようになった。23階のオフィスまで這うようにして上っている」。
厳しいのは、中小零細企業や工場だ。浙江省義烏の工場は、規模によって、工場を3日稼働したら1日休む、2日稼働したら2日休むといった電力制限措置を受けている。
義烏には、国内および全世界に向けた春節向けの雑貨を生産するような零細工場が多いが、それらが納期の迫る12月に電力使用制限を受けて、中には納期を守れない工場も出ているという。「納期が守れなかったら、商品が売れないだけでなく、違約金も支払わされる。たまらない」という頭を抱える工場主や、もう工場が運営できないからといって、出稼ぎの工場従業員を全員農村に返した、という工場もあるという。比較的余裕のある工場はディーゼル発電機を購入して対応しようとするので、ディーゼル発電機の奪い合いも起きているそうである。
オーストラリアとの関係悪化の影響は
こうした中国の電力使用制限の背景にあるのは、習近平の「生態文明思想」だけではなく、深刻な石炭不足が起きて電力供給がひっ迫している、という見方もある。
本当に石炭が不足しているとしたら、中国とオーストラリアとの関係が悪化し、11月以降、オーストラリアからの輸入石炭に対し実質、禁輸措置をとっていることと関係があるのではないか、と誰もが思うはずだ。
ABC(オーストラリア放送協会)のニュースサイトによれば、今年(2020年)10月以降、中国は非公式にオーストラリアからの石炭輸入を禁止し、数十隻の石炭コンテナ船が中国の港湾口で通関を待機しているという。11月には、中国当局者も「環境問題」を理由にオーストラリアからの石炭の通関を遅らせていることを認めている。
12月12日、中国当局は国内発電企業に対し、オーストラリア以外の国からの輸入石炭使用の制限緩和を許可し「石炭購入価格の安定を図る」と通達したという。だが、その目的は中国の火力発電用石炭のオ―ストラリア依存を脱却するためだと言われている。
オーストラリア紙「ザ・オーストラリアン」は、IEA(国際エネルギー機関)の2019年のデータに基づき、オーストラリアは中国の発電用石炭の57%、鉄鋼精錬用のコークス石炭の40%を提供していると報じている。
中国社会科学院世界経済政治研究所世界エネルギー研究室の王永中主任は、中国メディア上で「中国とオ―ストラリアの関係は悪化し続けており、オーストラリアは徐々に中国市場を失っていくだろう」とコメントしており、中国市場からのオーストラリア産品排除が政策として進められていることを裏付けている。ほかにも、オーストラリアのワイン、大麦などに高額関税をかけるなどしている。
ちなみにニューヨーク・タイムズに対して中国当局者は、電力使用制限とオーストラリアの石炭禁輸に関連性はない、中国の輸入石炭は全石炭消費量のわずか8%だ、とコメントしていた。オーストラリアメディアの報道か、匿名中国官僚のコメントか、どちらを信じるかはお任せする。
市民を不安にさせる当局の「心配ない」
12月21日の「新時代の中国エネルギー発展」白書発表記者会見の話に戻れば、趙辰マ・国家発展委員会秘書長は「湖南と江西の電力は不足しているが、浙江の状況は湖南や江西と完全に違い、浙江の電力供給は十分に需要を保障でき、電力不足問題はまったくない」と説明。浙江省は「CO2削減」を促進するために、電力消費制限措置をとるのだ、と説明した。
また、湖南と江西の電力制限措置の理由として、「石炭運搬距離が比較的長く、電力供給能力にずっと制限を受けていた。だがこの数年、工業生産が高速成長していること、また最近、低温の気流が流れ込み、気温が下がって暖房を使うようになったことなどの要素が重なって電力不足ぎみになっている」という。「石炭の値段がちょっと高くなった」ともいう。しかし民用の電力需要は「電力使用に優先順位をつけて、一部の工場、企業への電力を圧縮すれば確保できる」と強調した。
電力使用制限の理由がオーストラリア石炭の禁輸措置の影響であれ、あるいは習近平のエコ政策実現のためであれ、習近平政権が経済や国民の生活よりも政権の対外的なメンツや野望を優先しているということは言えそうだ。
そして、その結果起きている電力不足は、当局が「心配ない。電力供給は足りている」「民生には影響しない」と強調すればするほど庶民を不安にさせるのだ。なにせ新型コロナ肺炎だって発生初期は、「人から人への感染はない」「安心せよ」とアナウンスされていたのに、結果は今の状況だ。
中国はいち早く新型コロナを制圧した。経済はV字回復だ。5Gもいち早く実用化した。カーボンニュートラルを目指している──。そんな報道を信じて疑わない人も多いだろう。だが、寒波襲来中も暖房が使えず、エレベーターがあっても動かず、民営企業はバタバタ倒産し、失業者は増え、突然ネットが不通になり、その不満をSNSで語ると「デマを流すな」と当局から恫喝される社会でもある。
文革時代、世界は中国が素晴らしい革命を遂行中だと信じ、「紅衛兵の目はキラキラと輝いていた」と中国研究者たちが讃えていた。実は大衆を巻き込んだ毛沢東の血なまぐさい権力闘争を10年間、誰も止めることができなかっただけなのだ。その不満を言葉にして他人に言うと、自分が粛清されるから言えなかっただけなのだ。
広東の大規模停電は夜中にわずか1時間ほどであったが、市民の動揺は大きかった。「これは何かの前触れではないか」「もう一度、計画停電が日常だった計画経済時代に戻るのではないか」といった不安を口にする人もいた。
12月21日夜の漆黒に包まれた広東の街の様子は、中国が、かつての暗黒時代に回帰するのではないか、と思わせるほど、不気味であったのだ。
2020.12.24(木)
福島 香織
JBpress
https://jbpress.ismedia.jp/articles/-/63410
- 豪州:中国政府、豪州産の一般炭を正式に輸入禁止と中国共産党系メディアが報道 (石炭資源情報) パイプライン 2020/12/25 23:51:52
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