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中国が現状変更試みか 金門島めぐる中台の攻防/宮内篤志・nhk
2024年03月29日 (金)
宮内 篤志 解説委員
https://www.nhk.or.jp/kaisetsu-blog/100/492912.html
台湾が実効支配する金門島をめぐって、中国と台湾の間の緊張が高まっています。
中国が漁船の転覆事故を口実に、現状変更を試みるような動きを見せているのです。
中台の「対立」と「融和」の歴史が複雑に絡み合うこの島をめぐって今、何が起きているのか。
台湾の新たな総統の就任まで2か月を切った中台関係の現状を読み解きます。
今回の対立の舞台となっているのが、台湾が長年、実効支配してきた金門島です。
周辺の小さな島もあわせると面積はおよそ150平方キロメートル、香川県の小豆島とほぼ同じです。
台湾本島よりも対岸の中国・福建省に近く、その距離は最短でわずか2キロ程度とされます。
きっかけは2月14日に起きた中国漁船の転覆事故でした。
台湾側が管轄する水域内に入ってきた中国漁船を、台湾当局の船が追跡したところ、漁船が転覆。乗っていた4人が海に投げ出され、このうちの2人が死亡しました。
台湾当局は、「取り締まりを逃れようと蛇行するうちに転覆した」としています。
しかし、中国政府は、「悪質な事件だ」として猛反発し、対抗措置として、周辺海域でのパトロールの強化を打ち出したため、緊張が高まっているのです。
そもそもなぜ台湾は、大陸に極めて近いこの島を実効支配しているのでしょうか。
背景には、この島が歩んできた複雑な歴史があります。
金門島は戦前、台湾本島とは異なり、日本の統治下にはありませんでした。
戦後、国共内戦に敗れた国民党は台湾に逃れますが、金門島はその際に残った拠点の1つです。
蒋介石政権が、再び大陸を取り戻すための「大陸反攻」を掲げる中、島はその最前線と位置付けられたのです。
これに対し中国は朝鮮戦争に兵力を割かれながらも、金門島に対して断続的に激しい砲撃を加えます。
1958年には44日間で47万発を超える砲弾がこの島に打ち込まれたとされます。
それでも、台湾側は当時、防衛条約を結んでいたアメリカの支援も得ながら、この島を守り抜きます。
その後、70年代にかけて中国がアメリカとの関係を改善させると、金門島に対する軍事的な圧力は弱まっていきます。
80年代後半からは大陸への墓参りや親族訪問が解禁され、民間交流を通じて、徐々に融和ムードが広がります。
こうした中、2001年には、この島を窓口として大陸との「通航・通商・通信」、つまり人・貨物・郵便などの往来を限定的に認める「小三通」が解禁され、中台間の交流は一気に加速しました。
金門島は、いわば中台の「対立」と「融和」を象徴する島ともいえるでしょう。
この島をめぐって今、懸念されているのが、中国による一方的な現状変更の試みです。
台湾側は周辺に、事実上の領海にあたる「禁止水域」や接続水域にあたる「制限水域」を設定し、中国側が許可なく進入することを禁止してきました。
それが中台双方のいわば「暗黙の了解」となっていたのです。
しかし、転覆事故の発生後、中国政府は「そもそも『禁止水域』や『制限水域』などというものは存在しない」として、台湾側の管轄権を否定し始めています。
中国海警局などの船をこれらの水域に進入させているほか、台湾の遊覧船に対する臨検も行っていて、こうした措置を「常態化させる」としています。
このような中国側の対応は、沖縄県の尖閣諸島周辺の日本の領海に中国船の侵入を常態化させる手法に似ています。
実際に中国側は、これまで尖閣諸島周辺に展開してきた海警局の大型船も金門島周辺に投入したとしていて、台湾では懸念が強まっています。
中国による台湾に対する現状変更の試みは、これ以前にも起きています。
おととし、当時のアメリカの下院議長だったペロシ氏が台湾を訪問したのをきっかけに、中国は、軍用機による台湾海峡の中間線越えを常態化させました。
中間線は、中台が正式に合意しているものではありませんが、金門島周辺と同様に「暗黙の了解」であり、軍どうしの偶発的な衝突を避けるための境界線として機能してきました。
中国としては、これを否定することで、台湾の事実上の防衛ラインを崩す狙いがあるとみられています。
では、金門島をめぐる中国の対応は、どこまでエスカレートするのでしょうか?
今、中国が見極めようとしているのが、ことし1月の台湾総統選挙で勝利し、就任まで2か月を切った頼清徳氏の新政権の出方です。
「中国は1つであり、台湾は自国の一部だ」と主張する中国は、かつてみずからを「台湾独立工作者」と呼んだ頼氏に強い不信感を抱いています。
選挙戦で頼氏は、こうした姿勢を封印し、蔡英文総統が掲げてきた「現状維持」路線の継承を強調してきましたが、5月20日に行われる就任演説で、対中政策についてどのような方針を示すのか。
中国を刺激する内容とならないよう、習近平政権は金門島への圧力も継続しながら、頼氏をけん制するものとみられます。
ただ、金門島をめぐっては、過度な圧力は逆効果との指摘もあります。
そもそも、この島は中国に融和的な国民党の支持者が多く、新型コロナウイルスの感染拡大前は大陸からの観光客でにぎわっていた場所でもあります。
習近平政権としては、親中的な島民感情を考えた場合、圧力にも一定の歯止めは必要だと考えている可能性があります。
実際、金門島周辺の「禁止水域」や「制限水域」への中国船の進入は、尖閣諸島周辺の領海侵入や中国軍機の中間線越えが常態化している現状と比べると、これまでのところ、その頻度は抑え気味のように見えます。
また、急速な軍備の増強を進める中国が、地理的に近い金門島を軍事侵攻する可能性はないのでしょうか。
これについて、中台の対立の歴史に詳しい防衛省防衛研究所の五十嵐隆幸専門研究員は、「もし中国が金門島を占領し、台湾本島から切り離されれば、民進党政権はそれを口実に『事実上の独立状態だ』と主張する可能性がある」と指摘しています。
つまり、中国は「1つの中国」という考え方を、みずから否定する形となってしまうのです。
そのうえで、「アメリカによる台湾の防衛強化にもつながりかねないため、習近平政権はかえって統一が遠のいてしまうと考えるだろう」と指摘し、直ちに侵攻するおそれはないとの見方を示しています。
金門島をめぐる対応では、中国による民進党政権への揺さぶりの度合いが、どの程度になるのかが1つのポイントとなりそうです。
一方、台湾側も新政権発足に向けた動きを活発化させています。
副総統に就任する蕭美琴氏が3月に入り、アメリカをはじめ、チェコやベルギーなどヨーロッパ各国を相次いで訪問したことが伝えられました。
中国を抑止するための防衛力の強化に力を入れ、台湾海峡の現状を維持する方針を強調することで、新政権に対する欧米諸国からの支持を得る狙いがあったとみられます。
頼氏の総統就任を見据えた中台の政治的な駆け引きはすでに本格化しているといえます。
1つの出来事を口実として現状変更を試みる中国。
その強硬姿勢は、東シナ海や南シナ海でも見られたように、エスカレートの可能性を常にはらんでいます。
それだけに、金門島をめぐる中台の攻防の行方を注視していく必要があると思います。
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