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クルド人を追い出したその後は......思慮も展望もないエルドアンの戦争
https://www.newsweekjapan.jp/stories/world/2019/10/post-13292.php
2019年10月30日(水)19時10分 スティーブン・クック(外交問題評議会上級研究員) ニューズウィーク
エルドアンがシリアに仕掛けた攻撃の目標は極めて曖昧で複雑だ Murat Kula/Presidential Press Office/REUTERS
<シリア北部に侵攻したもののそこで何を成し遂げたいのかは分からないまま>
国際的な非難も顧みずにシリア北部に侵攻したトルコのエルドアン政権は、ひたすら自らの言い分を伝えることに固執している。
トルコ側に言わせれば、今回の「平和の泉」作戦は対テロ作戦で、トルコ人に対し、そしてクルド人を含めたシリアに対して安全を提供するものだ。さらにトルコ軍が攻撃しているシリアのクルド人民兵組織・人民防衛隊(YPG)は、トルコ国内でクルド人の独立国家建設を目指す武装組織クルド労働者党(PKK)と一体のテロ組織であり、後者の実態はテロ組織ISIS(自称イスラム国)と変わらないという。
国際的な怒りと圧力がどれほど高まっても、トルコはこの主張を一歩も譲らない。だが長期的に見て、トルコはシリアで何を成し遂げたいのか。その点が見えてこない。
シリア領内に軍を派遣することで、トルコは4つの目標を達成しようとしているように見える。シリアでのクルド人国家の樹立を阻止すること、レジェップ・タイップ・エルドアン大統領の人気を高めること、YPGの解体、そしてシリア難民の再定住だ。
シリア北東部にクルド人国家を築くことは、もはや考えにくい。支持率が6カ月連続で下落していたエルドアンが今回の侵攻で恩恵を受けたことは明らかだ。
しかし、残りの2つの目標はもっと複雑だ。YPGの解体とシリア難民の再定住に向けたトルコ政府の戦略は明らかではないし、そもそも存在するかどうかさえ疑わしい。
トルコはシリア側の国境沿いに南北約30キロ、東西約440キロの安全地帯を設置したいとしている。トルコ軍にはYPGを追い出す力がある。しかし安全地帯を管理・運営できるかどうかは別の話だ。
エルドアンは1万4250平方キロの安全地帯に、トルコ国内にいる約350万人のシリア難民を再定住させたい考えだ。だが対象となる住民が数十万人でも移動は困難を極め、多くの問題が噴出する。
シリアのアレッポから逃れてきた人々は、おそらくアレッポに戻りたいだろう。故郷とは呼べず、縁もゆかりもなく、治安が悪化している土地に移りたくはないはずだ。
■トルコに「天罰」を望む国
シリア人を母国に定住させるために地域の安全と安定を確立するというなら、トルコ軍はシリアを「占領」しようとするかもしれない。トルコ政府に、そうした事態を回避する計画があるのだろうか。
トルコ軍はシリアで動きが取れなくなる恐れがあるというのに、エルドアンには将来の計画がないようだ。計画もなくシリアに居座れば、軍は標的となる。
YPGがPKKと一体なら、いまトルコ軍がシリアで戦っている相手は、1984年以来トルコ国内で断続的に戦ってきた敵ということになる。どれほど軍事的な成功を収めていても、YPGとPKKは領土を支配するための軍隊ではない。彼らはこれまでやっていたことを続けるだろう。シリアではトルコ軍にゲリラ攻撃を仕掛け、トルコの諸都市ではテロ活動を行う。
中東の大国との軋轢や、シリア侵攻が長期化する可能性はどのような影響をもたらすのか。それらの点をトルコがどこまで見据えているのかも、はっきりしない。
エジプト、サウジアラビア、アラブ首長国連邦(UAE)、イスラエルは、平和の泉作戦の代償をエルドアンに払わせるために単独か連携プレーでYPGを支援できる。
天罰が下ればいいと、4カ国はトルコに対して思っている。トルコ政府はエジプトの現政権を敵視し、サウジアラビアの皇太子の権威を無視し、UAEの敵対勢力を支援し、パレスチナ・ガザ地区を実効支配するイスラム系過激派組織ハマスを援護するために手を尽くしてきた。利害が錯綜した結果、この反エルドアン同盟にはシリアのバシャル・アサド大統領も加わった。
■プーチン依存が強まる
10月22日にロシアのウラジーミル・プーチン大統領とエルドアンはロシア南部のソチで会談し、シリア北部の安定化に向けて10項目の覚書を交わした。だが果たしてトルコは、ロシアの狙いを十分に考慮しているだろうか。
エルドアンが欲しがっているのは、シリア北部の勢力圏だ。一方でプーチンの目的は、シリア全土でシリア政府の権限を再構築することにある。今回の合意では、トルコとロシアは共にシリアの領土保全を尊重するとしている。トルコは一方でYPGの崩壊を望んでおり、合意には両政府がシリア北部であらゆるテロを撲滅するために共闘することも盛り込まれた。
注目すべきなのは、モスクワにはYPG系の民主連合党(PYD)の事務所があり、トルコがシリアを侵略した際の最前線には、トルコ政府以外のほぼ誰もが過激派と認める反政府武装勢力が加わっていたことだ。こうした重大な食い違いは、いずれほころびを見せる。
ロシアがシリア紛争の新たな局面でどんな手でも使ってくる可能性を、トルコは考えているのだろうか。確かにプーチンは、前向きな態度でトルコと対話しているように見え、エルドアンは抜け目のなさで知られる。しかし米軍が撤退した今、トルコは目標達成が困難になるほどプーチンの力が必要になってくる。
軍事行動に伴う最大のリスクの1つは、結末が不透明なことだ。紛争はいったん始まれば、独り歩きして複数の目的が絡み合い、戦闘は往々にして長引く。
イスラエルは1982年にレバノンに侵攻した際、明確な目標を掲げていた。だが2000年にイスラエル軍が撤退したとき、両国の政治情勢は完全に行き詰まっていた。サウジアラビアのイエメンへの軍事介入は3カ月程度で終わると予測されていたが、現在に至るまで4年間続き、多くの死者が出ている。
平和の泉作戦はどのような結末を迎えるのか。イスラエルやサウジアラビアの二の舞いは避けられるとしても、隣国への侵略はトルコが思い描くものとは違う形で終わる可能性が大きい。
From Foreign Policy Magazine
<本誌2019年11月5日号掲載>
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