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トルコ軍、トランプが見捨てたクルド人勢力に地上攻撃を開始 駐留米軍は危機、IS捕虜は逃亡の可能性も
https://www.newsweekjapan.jp/stories/world/2019/10/post-13164.php
2019年10月10日(木)19時30分 ジェームズ・ラポルタ ニューズウィーク
シリア北東部ではトルコの軍事攻撃が始まり、国境地帯の町ラス・アルアラインではクルド人住民が脱出を開始したRodi Said-REUTERS
<トルコの侵攻を事実上容認したことで、シリア駐留米軍も窮地に。ISと勇敢に戦い土地を奪還したクルド人がいなくなれば、ISの元戦闘員が勢力を盛り返す可能性もある>
トルコは10月9日、シリア北東部への軍事作戦を開始した。ターゲットは、これまで米軍が支援してきたクルド人勢力。この地域に駐留し、クルド人を支援してきた米軍が巻き添えをくう危険性も高まっている。シリア駐留米軍にはIS (イスラム国)掃討作戦を打ち切るよう命令が下っており、再び混乱が拡大しかねないことが本誌の取材で明らかになった。
トルコのレジェップ・タイップ・エルドアン大統領は9日、ISの残党と米軍が支援するシリアのクルド人部隊に対し、シリア政府軍と合同で軍事攻撃を開始するとツイッターで宣言した。ドナルド・トランプ米大統領は、トルコが軍事作戦に踏み切ればトルコに制裁を科し「トルコ経済を完全に破壊する」と脅したが、今更言っても遅過ぎた。
トルコは長年、国内とシリアとの国境地帯のクルド人を敵視し、米軍がIS掃討のために軍事・資金援助を行なってきたシリアのクルド人部隊に「テロ組織」のレッテルを貼ってきた。
米国防総省の上級職員が9日午後に本誌に明かした話によると、シリアにおける米軍の対IS作戦は完全に打ち切られた。それに伴い、ISの捕虜の扱いなどもトルコの手に委ねられたという。
「捕虜になったISの戦闘員が1人も逃亡せず、どんな方法や形であれ、ISが再編成されないよう保証する責任は、今やトルコにある」と、トランプは9日に声明を出した。トランプは、トルコの軍事作戦は「悪い考え」で、アメリカは攻撃を支持しないと述べているものの、これまで米軍と共に戦ってきた忠実で勇敢なクルド人部隊には最近まで一切言及しなかった。
本誌が7日に伝えたとおり、トルコの軍事攻撃を控えて米軍はシリア北部から撤収したが、シリアから全面撤退はしていない。北部から撤収した部隊には、特殊部隊と偵察部隊も含まれる。
国防総省の上級職員によると、クルド人戦闘員の間では、米軍に裏切られたという怒りが高まっており、撤収する米軍を直接攻撃することはないにしても、何らかの形で妨害を行う可能性はあると見ており、現地の米軍指揮官は警戒しているという。
■共和党議員も批判
クルド人部隊はもはや、米軍が緊急に結集を呼びかけても応じず、米軍の戦闘部隊のための情報収集にも協力しない可能性がある。上級職員の話では、今のところ米軍の交戦規定は引き続き自衛を中心にしたもので、国防総省はまだシリアからの全面撤退を命じていないという。
米軍は目下、クルド人を主体とするシリア民主軍が運営する刑務所から、特定の重要なIS戦闘員の身柄を引き取ろうとしている模様だ。
上級職員が話したことは、IS掃討作戦の打ち切りを除いて確かだと、シリアに駐留する米軍の情報筋も認めた。いずれの情報筋も、匿名を条件に取材に応じた。本誌は国防総省にコメントを求めている。
本誌が7日に伝えたように、トランプは6日、エルドアンとの電話会談で、シリア民主軍が収監しているざっと2000人のIS戦闘員について米軍は責任をとりたくないと述べた。ホワイトハウスは6日の声明で、トルコがISの捕虜の身柄を引き受けることになると発表している。
トランプが突然、シリア北部からの撤退を決めたことに、米議会の共和党も民主党も猛反発している。
「トランプ政権に恥知らずにも見捨てられた我らがクルド人の盟友のために祈ろう」と、共和党のリンゼー・グラム上院議員は9日にツイートした。「これにより、ISは確実に息を吹き返すだろう」
トランプは8日には、裏切り批判をかわすため「シリアから撤収する準備を進めているにしても、われわれはクルド人を決して見捨てない。彼らは特別な人たちで、素晴らしい戦闘員だ」とツイート。クルド人部隊には資金援助も武器の提供も行なっていると強調した。
<参考記事>エルドアンに「言いくるめられた」トランプ、米軍シリア撤退ならISが甦る
<参考記事>トルコ、シリア北東部への軍事作戦開始 クルド攻撃で民間人の死者5人
ISから奪還した土地にクルドの旗を立てる自由シリア軍兵士と米兵(シリア北部テルアビヤド) Staff Sgt. Andrew Goedl/U.S. Army
一方で国防総省も、トランプがマーク・エスパー国防長官にも、新たに統合参謀本部議長に就任したマーク・ミリー陸軍参謀総長にも相談せずに、独断で撤収を決めたという報道を否定している。
本誌は7日、トランプの撤収宣言は国防総省にとって「寝耳に水」だったと報じた。米国家安全保障会議の情報筋(トランプとエルドアンの電話会談の内容を直接的に知っている人物だ)によると、トランプは「優柔不断」で、エルドアンに「言い負かされ」、アメリカがメリットを受けたように取り繕って、シリア北部からの撤収をのんだという。
国防総省はそうした報道を強く否定する。
「事実に反する誤った報道が続いているが、エスパー長官とミリー参謀総長はここ数日、トルコの軍事行動を前に、シリア北部に駐留する米軍を守るべく大統領と協議を重ねてきた」と、国防総省のジョナサン・ホフマン報道官は8日の声明で述べた。
■「最高司令官」失格
米陸軍士官学校の元助教で、複数の上院議員の顧問を務めたブラッドリー・ボーマンは8日、本誌の取材に応じ、撤収については現地の駐留部隊が真っ先に知るべきだったと語った。
「米軍の最高司令官(であるトランプ)が、最高司令官の役目を果たしていない」と、ボーマンは言う。「私の見るところ、それは国家安全保障プロセスがもはや破綻している証拠だ。米軍の将校は、こうした危険な地域に、武器を持った(クルド人の)戦闘員と共にいて、彼らが『おまえたちは敵か味方か』と疑い始めたときに、信頼をつなぎ止めなければならない。アメリカ人が身を置くには厳しすぎる状況だが、大統領はそれを少しでも楽にするどころか、窮地に陥れた」
ボーマンは現在、ワシントンのシンクタンク「民主主義防衛財団」傘下の軍事・政治力研究所の上級ディレクターを務めている。
「私もあなた方同様ニュースを追っているが、国防総省の大きな要素、米中央軍かもしれないし、シリアの駐留米軍かもしれないが、大統領のツイートに驚いたことを示唆する報道は多い。こういうことは今に始まった話ではない。ジョセフ・ボテル陸軍大将が議会で、駐留米軍の生死に直接的にかかわる可能性がある大統領の宣言について、自分は知らなかったと証言するのを私たちは目にしたはずだ」
US Troops Begin Withdraw from Syria
シリア北部から撤収を始めた駐留米軍部隊
ボーマンが言うのは、今年2月にジョセフ・ボテル前中央軍司令官が上院軍事委員会で、昨年12月にトランプがシリアの北西部からやはり米軍を撤収させると表明した際、事前の「相談はなかった」と証言したことだ。
「この発表については知らなかった。もちろん、彼が過去にイラクを去り、シリアを去りたいという願望なり意図を表明していたことは、われわれも知っているが」と、ボテルは証言した。ボテルは今年3月、シリア東部の村バグズでISの最後の拠点を壊滅させる作戦を成功させた後、退役した。
本誌が接触した国家安全保障会議の情報筋は、米軍の撤収とトルコの攻撃で、IS掃討作戦の成果が台無しになると危惧していた。
「ISの捕虜の少なくとも一部は、混乱に乗じて逃亡し、この地域に残るか、別の場所に移って戦列に戻るだろう」
昨年12月にトランプがシリア撤収を表明したことは、ジェームズ・マティス元国防長官を辞任に追いやる一因ともなった。マティスはトランプ政権内で「大人」と言われた数少ない側近の最後の1人で、シリア撤退に強く反対していた。
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