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日本は平和ボケで自滅!?日本人が知るべき米中戦争「アメリカの本気」
北野幸伯:国際関係アナリスト
国際・中国 ロシアから見た「正義」 “反逆者”プーチンの挑戦
2019.9.30 5:35
トランプ大統領(左)と握手する習近平(右)
戦闘行為こそ行われていないが、米中の関税引き上げ合戦は、れっきとした「戦争」である Photo:AP/AFLO
いわゆる「米中戦争」が始まってから、1年以上が経過した。これは、ただの「関税引き上げ合戦」ではない。世界の覇権をかけた、米国と中国の真剣な戦いである。しかし、「平和ボケ」している日本政府は、米中対立の本質が理解できない。それで日本は、また「敗戦国」になる可能性がある。(国際関係アナリスト 北野幸伯)
米中覇権戦争のきっかけは
15年の「AIIB事件」
まず、米中戦争が始まった経緯について知っておこう。
この戦争が始まったのは、2018年7月とされている。米国は18年7月6日、中国からの輸入品340億ドル分に25%の関税をかけた。同年8月23日、160億ドル分に25%、9月24日、今度は2000億ドル分に10%の関税をかけた。
ペンス副大統領は同年10月4日、「ハドソン研究所」で「歴史的」ともいわれる演説をした。激しく中国を非難するこの演説を聞き、世界中の多くの専門家は、「米中冷戦時代が始まった」と判断した。
18年7月以前に何が起きたかも、書いておこう。筆者は、15年3月の「AIIB事件」がきっかけで米中戦争が起こったと見ている。
「AIIB事件」とは、英国、フランス、ドイツ、イタリア、スイス、オーストラリア、イスラエル、韓国など親米諸国群が、中国主導の国際金融機関「AIIB」への参加を決めたことを指す。米国は、親米諸国に「AIIBに入らないよう」要求していた。ところが彼らは、米国を完全に無視して、AIIB参加を決めた。
これは、米国の没落を象徴し、中国が覇権一歩手前まで近づいていることを示す歴史的大事件だったのだ。
これでオバマは、生まれ変わった。彼は、大統領就任後、08年から始まった「100年に1度の大不況」対策で多忙だった。危機を克服した後は、主敵の定まらない外交をしていた。
11年、リビアを攻撃。
13年8月、シリア攻撃を決意するが、翌月変心して戦争をやめ、世界を仰天させた。
14年3月、クリミア併合で、プーチン・ロシアが最大の敵に浮上する。
14年8月、ISの暴れ方があまりにもひどいので、空爆を開始した。
このように、オバマの主敵は、頻繁に変わってきた。しかし、15年3月以降は、中国を最大の敵と定め、熱心にバッシングするようになった。
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核兵器の登場で戦闘をしない「戦争」の時代に
核兵器の登場で
戦闘をしない「戦争」の時代に
17年1月、トランプが大統領に就任する。彼は選挙戦中、中国を厳しく批判してきた。ところが、17年は金正恩の暴走がひどく、トランプは習近平の協力を必要としていた。それで、米中関係は17年、比較的良好だったのだ。
しかし、18年になると、トランプは「習近平は、北朝鮮問題を解決する気が全然ない」ことに気がついた。同年6月、シンガポールで金正恩と直接会談。中国抜きで、核問題を「沈静化」させ、翌7月から本格的な「米中関税戦争」を開始したのだ。
米国と中国は、武器を使った戦闘行為をしていない。だが、これは世界の覇権をかけた戦争なのだ。
日本人は、核兵器の登場で、戦争の形態が変わったことを自覚していない。米国とソ連は、共に相手国を破滅させるのに十分な核兵器を保有した。それで、両国の大規模な戦闘がないまま、冷戦は終結した。
米国と中国の関係も、米ソ関係と本質は変わらない。両国共に核大国なので、破滅を恐れて大規模な戦闘には発展しづらい。その代わりに、さまざまな形の戦争が行われる。
「米中戦争」と聞いて、まず思い出されるのは、「米中関税引き上げ合戦」や「ファーウェイ排除」などだろう。しかし、注意深く観察していると、他にもさまざまな形態の戦いが起こっていることがわかる。
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ウイグル問題、香港デモ…米国による「情報戦」が活発に
ウイグル問題、香港デモ…
米国による「情報戦」が活発に
たとえば最近、「中国政府は、ウイグル人100万人を強制収容所に入れている」という話が、突然盛り上がってきた。
<国連、中国政府がウイグル人100万人拘束と批判
BBC NEWS JAPAN 18年09月11日
中国政府が新疆ウイグル自治区でウイグル人を約100万人、テロ取り締まりを「口実」に拘束していると、国連は懸念を強めている。
国連人種差別撤廃委員会は8月末、最大100万人のウイグル人住民が刑事手続きのないまま、「再教育」を目的とした強制収容所に入れられているという指摘を報告した>
もちろん、これは残酷な事実である。しかし、中国政府によるウイグル族弾圧は、18年に始まったわけではない。もっと昔から行われていたことだ。だが、米中戦争が始まったので、突然クローズアップされたのだ。つまり、ウイグルにおける中国の悪事は、「情報戦」に使われているのである。
さらに、中国政府が「香港デモの黒幕は米国」と考えていることをご存じだろうか?
<香港のデモは「米国の作品」、中国が指弾
CNN.co.jp 8/1(木) 19:15配信
香港(CNN) 中国の華春瑩報道局長は8月1日までに、「逃亡犯条例」改正案の撤回を求めるデモなどが過去2カ月間続く香港情勢に触れ、「誰もが知っているように、米国の作品である」との見解を示した>
<香港情勢に関連し、中国政府当局者による米国の介入への直接的な指弾では最も強い表現となっている。中国国内ではここ数カ月間、香港のデモの背後に西側勢力の工作があるとの臆測が流れていた。
香港の抗議デモの一部では過去に参加者が米国国旗を掲げる場面も見られた。
中国の国営メディアも、香港の混乱を米国の責任とする社説などが再三取り上げられている。
国営紙の環球時報は最近、香港の民主主義勢力の指導者と西側政府との間に前例のないレベルの接触があったとも報道。「逃亡犯条例改正案に抗議する勢力は米国の支援を受けていることは香港で公然の秘密」とも断じていた>(同前)
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オバマも認めたウクライナ革命への関与
オバマも認めた
ウクライナ革命への関与
これについて、日本人なら普通、「中国政府が血迷ってウソをついている」と考えるだろう。しかし、実をいうと、米国が独裁国家の民主勢力を支援していることは、研究者の常識である。
たとえば、03年の革命で失脚したジョージアのシェワルナゼ元大統領は、こんなことを言っている。朝日新聞03年11月29日付。
<前大統領は、議会選挙で政府側による不正があったとする野党の抗議行動や混乱がここまで拡大するとは「全く予測しなかった」と語った。
抗議行動が3週間で全国規模に広がった理由として、「外国の情報機関が私の退陣を周到に画策し、野党勢力を支援したからだ」と述べた>
また05年の革命で失脚したキルギスのアカエフ元大統領は、以下のように発言している。 時事通信05年4月7日付。
<「政変では米国の機関が重要な役割を果たした。
半年前から米国の主導で『チューリップ革命』が周到に準備されていた」>
11年12月、モスクワで大規模なデモが起こった時、プーチンは米国を非難した。
<ロシアのプーチン首相、デモを扇動と米国を非難
CNN.co.jp 11年12月9日
【モスクワ(CNN)】ロシアのプーチン首相は8日、先の下院選をめぐる不正疑惑に対する抗議デモを米国が扇動していると非難した>
さらに、オバマは、米国が14年2月のウクライナ革命を主導したことを認めている。「ロシアの声」15年2月3日付から。
<オバマ大統領 ウクライナでの国家クーデターへの米当局の関与ついに認める
昨年2月ウクライナの首都キエフで起きたクーデターの内幕について、オバマ大統領がついに真実を口にした。
恐らく、もう恥じる事は何もないと考える時期が来たのだろう。
CNNのインタビューの中で、オバマ大統領は「米国は、ウクライナにおける権力の移行をやり遂げた」と認めた>
「YouTube」で「Obama admits he started Ukraine revolution」を検索すると、オバマの発言が確認できる。
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香港デモ支援の裏にある米国の思惑とは?
香港デモ支援の裏にある
米国の思惑とは?
というわけで、米国が香港デモに絡んでいたとしても、何の不思議もない。もし香港デモの背後に米国がいるとすれば、同国は、香港情勢をどう利用しようとしているのだろうか?
たとえば、香港デモが長期化し、中国が弾圧すれば、どうなるだろうか?米国は、「第2の天安門事件が起こった」と非難し、日本や欧州を誘って、中国に「経済制裁」を科そうとするだろう。「クリミア併合」後の「対ロシア制裁モデル」である。
また、デモが長期化することで、「世界の金融センター」としての香港の地位が低下する。中国にとって香港は、外国からの資金を集める「財布」だ。この「財布」を奪うことで、中国経済は大きな打撃を受ける。
習近平には、夢がある。12年11月29日に語った、いわゆる「中国の夢」だ。
<誰しも理想や追い求めるもの、そして自らの夢がある。現在皆が中国の夢について語っている。私は中華民族の偉大な復興の実現が、近代以降の中華民族の最も偉大な夢だと思う>
そして、もっと具体的な夢もある。それが、台湾統一だ。これを成し遂げれば、習近平は建国の父・毛沢東を超えることができる。彼は今年の年初、その決意をあらわにした。
<習氏、中台統一で軍事力行使を排除せず 「一国二制度」も迫る
【1月2日 AFP】中国の習近平(Xi Jinping)国家主席は2日、中国が台湾に平和統一を呼び掛けた「台湾同胞に告げる書」の発表40年に当たり演説し、台湾との「再統一」を確実にするための選択肢として軍事力の行使を排除しないと言明した。台湾は最終的に中国本土に統一されることになるとも強調した>
米国は、中国の台湾統一を阻止すべく、台湾への武器輸出を拡大している。トランプ政権は7月8日、台湾に100両を超える戦車や地対空ミサイルなど、2400億円分の武器を売却することを決めた。さらに8月16日、今度はF16戦闘機66機(約8500億円)を、台湾に売却することが決まった。
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日米同盟の重要性を理解していない日本政府
日米同盟の重要性を
理解していない日本政府
このように、米中対立の現状を見ると、
・関税引き上げ合戦
・ファーウェイ排除
・ウイグル問題を使った情報戦
・香港デモ
・台湾の防衛力強化
など、さまざまな戦いが行われている。まさに、米中は、「世界の覇権をかけた」戦いをしているのだ。
一方、日本は、どうだろうか?日本政府の動きを見ると、この戦いの切実さを理解しているとは思えない。たとえば日本は、米中戦争が公式に始まった18年、中国との関係を劇的に改善させた。つまり、米国が中国と戦い始めたまさにその時に、同盟国の敵に急接近している。
これは、米国から見れば、深刻な「裏切り行為」だろう。それで日米関係はギクシャクし、トランプも日米同盟の不平等さを頻繁に口にするようになってきた。
また米国は、6月にホルムズ海峡で日本のタンカーが攻撃されたケースなどを踏まえ、「タンカー防衛有志連合」結成を呼びかけた。日本は、友好国のイランに遠慮して、「自国のタンカーを防衛するため」に自衛隊を出すこともしようとしない。
つまり日本政府は、同盟国・米国と友好国・イランをほとんど同じレベルに見ていることになる。これはとても愚かなことだ。
尖閣有事の際、米国からのサポートがなければ、尖閣はほぼ確実に中国に奪われる。なんといっても、中国の軍事費は日本の5倍であり、向こうには日本を破壊しつくせるだけの核兵器がある。だから、米国との関係は、死活的に重要だ。
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日本が取るべき方針は、実にシンプルである
日本が取るべき方針は
実にシンプルである
ところで尖閣有事の際、イランとの関係は、何か役に立つのだろうか?
こう考えると、米国との関係は、イランよりもはるかに重要であることは、明らかだろう。しかし、「皆に好かれたい」日本政府は、結果的に同盟国を裏切る動きをし、日米同盟を傷つけている。
日本政府は、これからどうするべきなのだろうか?
まず第1に、世界情勢は現在、「米中覇権戦争」を軸に回っていることをはっきり自覚すべきだ。第2に、米国との関係をますます強固にし、米国の敵である中国やイランとは、距離を取るべきだ(わざと関係を悪化させる必要はないが)。
言ってみれば、簡単なことだ。しかし、激動の時代には、こんな簡単なことも難しいのである。
日本がナチスドイツの同盟国になったのは、第2次大戦が始まって1年がたった1940年9月27日だった。当時は調子がよかった「負け組」に参加することで、日本の敗北は決まった。
米中覇権戦争が始まって1年と2ヵ月が過ぎた。日本は、同盟国・米国と、その敵・中国を天秤にかけているようにみえる。日本は、ナチスドイツに付いて負けた過去の愚かさをはっきり自覚し、同じ間違いを繰り返さないようにするべきだ。
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モスクワに28年住み、アメリカや平和ボケした日本メディアとはまったく異なる、独自の路線で国際関係を分析し続けてきた筆者が、米中覇権戦争の深刻度と、日本政府が取るべき対策について解説しました。
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