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Washington Files
“シリア化”するベネズエラと米ロ対立
2019/04/08
斎藤 彰 (ジャーナリスト、元読売新聞アメリカ総局長)
(iStock.com/flySnow/Purestock)
シリア・アサド政権めぐり火花を散らせて来た米露両国が、今度は南米ベネズエラのマドゥロ独裁政権への対応めぐり対立を深めている。現体制批判を強め、軍事介入の可能性させちらつかせるトランプ政権と、先月、体制テコ入れのため急遽、軍用機で軍事顧問団を首都カラカスに送り込んだプーチン大統領―。このまま双方の駆け引きがエスカレートしていけば、同国の“シリア化”すなわち内戦も避けられない。
シリア情勢をめぐっては、去る2011年、民主化要求運動“アラブの春”に触発された反政府勢力が、アサド独裁政権打倒めざし各地で政府軍と衝突、内戦が勃発した。しかしその直後から、かねてから経済および軍事的協力関係を強めてきたロシアおよび、同じイスラム教シーア派のイランがアサド政権支援に乗り出したのに対し、アメリカ、フランス、イギリスのほか、イスラム教スンニ派のサウジアラビアなどが反政府軍支持に回った結果、一国内の問題にとどまらず、外国勢力を巻き込んだ複雑な対立と利害関係のからんだ深刻な国際問題にエスカレートしたまま今日に至っている。
首都カラカスで抗議する人々(Molina86/gettyimages)
そのシリア情勢に酷似しつつあるのがベネズエラだ。
世界有数の産油国として知られてきたベネズエラでは、2018年5月の選挙で、ニコラス・マドゥロ現職大統領が再選を果たしたものの、今年1月、野党指導者で国会議長だったフアン・グアイド氏が「選挙は正当性に欠け無効」として自らが「暫定大統領」就任を宣言、それ以来、軍事独裁体制を維持してきたマドゥロ大統領と民主化運動の指導者として高い人気を誇るグアイド氏の「二人の大統領」が国を分断統治するという異常事態が現出した。
しかし、ここまでは内政上の混乱にとどまるはずのものが、諸外国が双方に分かれて介入し始めたことから、一挙に国際問題としてクローズアップされてきている。
まず、最初に動いたのが、同国の石油資源に大きな関心持つアメリカだった。
ジョン・ボルトン大統領補佐官(国家安全保障担当)は1月27日、ツイッターを通じ「ベネズエラの民主的リーダーであるグアイド氏および国民議会に対するいかなる暴力や威嚇も法の支配に対する重大な違反行為であり、それに対してはアメリカはきちんとした対応をする」と述べ、現政権に警告を発すると同時に、グアイド支持を明確にした。同時にマドゥロ政府に対する経済制裁も発動した。
その翌日にはトランプ大統領がグアイド氏に直接電話を入れ、「アメリカは民主回復のためのグアイド氏の戦いを支えていく」としてより踏み込んだ介入意欲を示した。また、大統領は2月、米CBSテレビとのインタビューで「軍事介入も選択肢のひとつ」とさえ語っている。
これを受けて多くの中南米諸国はもとより、英仏独などの欧州同盟諸国そして日本など50カ国以上が同様に、グアイド暫定大統領支持の立場をあいついで明らかにした。
しかしBBC放送によると、3月23日、現地ベネズエラ人ジャーナリストの目撃情報として、ロシアがアメリカの出方に反発、現政権支援を意図したロシア軍用機2機が首都カラカス近郊のシモン・ボリバル国際空港に到着した。軍用機からは軍事顧問およびロシア軍兵士約100人が降り立ったほか、各種兵器類35トンが積み下ろされたという。ロシア国営ノーボスチ通信も、ロシア軍用機の到着を確認、その目的は、ベネズエラ軍側との「軍事協力の一環」と報じた。
ロシアは昨年12月にも、Tu-160長距離爆撃数機をベネズエラに派遣、合同演習に参加させたばかりだった。
また、ワシントン・ポスト紙報道によると、今回軍用機派遣とは別にその前日の22日には、ロシア国営石油会社「Rosneft」がチャーターしていたシンナーを満載した大型タンカーが同国湾岸に接岸、原油輸出のための援助に乗り出したほか、ベネズエラ国営石油会社「PDVSA」がモスクワに海外支部を開設する動きを見せるなど、両国間の経済面での関係強化が目立っている。
こうした露骨なロシアの干渉を受けて、ポンペオ米国務長官は25日、ただちにラブロフ露外相に電話を入れ「ロシアは非建設的行動をやめるべきだ」と抗議するとともに、国務省報道官によると、同長官は「アメリカおよび周辺諸国はロシアがベネズエラ情勢を悪化させようとしていることに対し座視しない」と強い姿勢でクギを刺したという。
浮き彫りになった米露対立
ベネズエラ情勢の悪化を憂慮する国連でも、2月29日、安保緊急安保理が招集されたが、ここでも米露の対立が浮き彫りになった。
まず、米側はベネズエラ大統領選挙のやり直しとグアイド暫定大統領の国際的認知を求める決議案を提出したが、ロシアに加えて中国も反対したため、不成立に終わった。
一方のロシア代表はこのあと、メキシコ、ウルグアイ両国が提案していた「ベネズエラ与野党による対話開始」を軸にした決議案を提出して対抗したが、米英仏などの常任理事国の反対にあい、却下された。
このため当面、国連を舞台にした事態収拾のめどはまったく立っていない。
トランプ政権は当初、グアイド氏率いる反政府勢力の国民的支持とうねりに加え、アメリカはじめ西側主要国の同氏に対する後押しによって、マドゥロ政権がいずれ自壊し、民主政府の樹立が達成できるものと読んでいた。事実、ワシントン・ポスト紙報道によると、「ホワイトハウス高官たち」も最近まで、ベネズエラ国内経済状況の悪化などによって社会不安が頂点に達し、「マドゥロ大統領が退陣に追い込まれるのも時間の問題」との楽観的見通しを抱いていたという。
ところがここにきて、ロシアが急に軍事、経済両面で同政権維持の姿勢を明確にしたことや、中国もアメリカと袂を分かちロシア側につき始めたことなどもあり、国内ムードも、“無血クーデター”を引き起こすほどの一時の盛り上がりにやや陰りが見えつつある。
軍内部の動揺を鎮静化
とくに注目すべきは、軍の最近の動きだ。
去る1月、グアイド氏が暫定大統領就任を表明した当初は、ベネズエラ軍将校の一部に現体制からの離反の動きも見られたが、その後はやや落ち着きを取り戻しており、現地報道によれば、軍首脳部の大半はマドゥロ大統領への忠誠を表明していると伝えられる。
これに関連してロペス国防相は3月29日、テレビ放映を通じ、同国空軍内にロシア製軍用ヘリコプター・フライト・シミュレーション・センター開設を発表すると同時に、これに続いてロシア製スホイ輸送機用シミュレーション施設、ロシア製ライフル銃製造工場の建設計画も明らかにした。
ロシア軍部との強固な関係確立を誇示することによって、ベネズエラ軍内の動揺を鎮静化する狙いがあるものとみられる。
国連加盟国50か国以上がグアイド暫定大統領の正当性を支持する中で、ロシアが現体制維持にこれほどまでに固執する背景に、シリアでの“実績”があることはいうまでもない。
シリア内戦勃発当初、アサド政権は、反体制弾圧政策などに反対する欧米諸国の厳しい批判にさらされ、一時は体制崩壊の危機に直面していた。しかし、2015年、かねてから経済的、軍事的な関係を深めてきたロシアが全力を挙げてアサド支援に回ったことで、局面が変わり、今日ではアメリカが期待していた「レジーム・チェンジ」(体制変更)の可能性は遠のいてきている。
アメリカはオバマ前政権当時の2013年から2016年にかけて、アサド転覆を目指す反政府勢力支援のため、CIA部隊や米軍特殊部隊を派遣、約1万人のゲリラを対象に武闘訓練まで行ってきた。しかし、トランプ政権は2017年にはいって、これら米側支援部隊の「段階的撤収」方針を打ち出したほか、その後、アサド政権に対する態度もそれまでの「退陣要求」を封印したままとなっている。この結果、アサド独裁政権は国際的批判にさらされながらも、ロシアの力強い後押しに支えられて体制を維持し続けている。
ただ、ベネズエラの場合、今後、どこまでロシアのシナリオ通り事が進むかどうかは未知数だ。
ひとつは地理的な制約がある。ロシアにとって比較的近距離のシリアとは異なり、地球半周以上の距離もあるベネズエラにいつまでも大量の軍事物資や食糧を送り続けるわけにはいかない。かといってにわかに支援を見限れば、政権崩壊につながり、ひいてはロシア・プーチン体制の国際的威信を傷つけることになる。
さらにアメリカが経済制裁を発動した今年1月以来、ベネズエラ国内各地では停電、ガソリン、医療品などの生活必需品不足にあえぐ市民の数も少なくなく、ロシアとしては今後も、人道援助面でもコミットメントを継続せざるを得ない苦しい事情がある。
一方のアメリカは、今の時点で米軍部隊を投入しマドゥロ大統領強制排除に乗り出した場合、与野党勢力の激突と流血の大惨事に発展、ひいては“第二のベトナム戦争”にもつながりかねないだけに、悩ましいところだ。
結局当面は、米露両国の間で、ベネズエラの行く末をにらんで次の一手が読みにくい難しい“チェス・ゲーム”が演じられることになりそうだ。
http://wedge.ismedia.jp/articles/-/15852
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