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世界潮流を読む 岡崎研究所論評集
迫りくる台湾をめぐる米中危機
2019/03/12
岡崎研究所
台湾をめぐる米中の対立は、本欄でも何度も指摘してきた通り、高まる一方である。こうした事態に懸念を示す、最近の論説、社説の中から、米外交問題評議会のリチャード・ハースによる2月15日付け論説を中心にご紹介する。同論説の要旨は、以下の通り。
(Plateresca/Oleg Mishutin/bymandesigns/imannaggia/iStock)
米中外交は、米国は「中国は一つであり台湾は中国の一部であるという中国の立場」を認識する(acknowledge)とする、3つのコミュニケ(1972年、1978年、1982年)を基礎としている。1979年の台湾関係法には、米国の台湾へのコミットメントが明記されている。3つのコミュニケと台湾関係法が相まって、米国の「一つの中国政策」の基礎をなしている。
この構造は、勝利の方程式となってきた。中国は世界第二の経済大国にまで発展し、台湾も経済発展と民主化を遂げた。米国は、地域の安定、中台双方との緊密な経済関係により利益を得ている。
問題は、時間が尽きつつあるのではないかということだ。長年、米国の政策立案者は、台湾が独立その他、中国に受け入れられないことをしないか、懸念してきた。台湾の指導者は理解しているように見える。ただ、彼らは「一国二制度」による統一を拒否している。
しかし、今や、安定は米中双方により危機にさらされている。中国経済の鈍化は習近平を脆弱な立場に置き得る。習が、国民の目を経済成長の鈍化から逸らすために外交政策、とりわけ台湾問題を使うことが懸念される。習は今年1月、台湾併合を目指す考えを繰り返し、そのために武力行使を排除しないと述べた。
米国も、過去40年間機能し続けた外交的枠組みを守らないようになってきている。ジョン・ボルトン安全保障担当補佐官は、就任前、ウォール・ストリート・ジャーナル紙に、「一つの中国政策を見直す時だ」とする論説を寄稿している。トランプも、米大統領(あるいは同当選者)として、1979年以来初めて台湾の総統と直接話をした。
最近、5人の共和党上院議員が、ナンシー・ペロシ下院議長に、蔡英文総統を米議会に招くよう求める書簡を送った。そんなことをすれば、米台間の非公式の関係と矛盾し、中国の強い反応を招く。
政府内外の多くの米国人が中国に強いメッセージを送ることを望み、そうすることで失われるものはほとんどない、と信じている。
この計算が正しいかどうか、全く明確ではない。中国の経済制裁、軍事力行使が行われるような危機が起これば、2300万の台湾人の自治、安全、経済的繁栄が危機に瀕する。中国にとり、台湾危機は米国および多くの近隣諸国との関係を破壊し、中国経済にダメージを与えるだろう。
危機により、米国は台湾への支援を求められ、それは新冷戦あるいは中国との紛争に繋がり得る。といって、台湾の自助努力に全て任せるという判断は、米国の信用を損ね、日本の核武装、日米同盟の再考に繋がりかねない。
関係者全てにとり、リスクが高くなっている。相手にとって受け入れられないような象徴的な一歩を避けるのが最善だ。現状維持には欠点があるが、一方的な行動、きちんとした解決策の伴わない状況打破の企てよりは、はるかにマシである。
出典:Richard N. Haass,‘The Looming Taiwan Crisis’(Project Syndicate, February 15, 2019)
https://www.project-syndicate.org/commentary/looming-taiwan-crisis-over-one-china-policy-by-richard-n--haass-2019-02
上記論説でハースが言っていることは、3つのコミュニケと台湾関係法に基づく「一つの中国政策」が40年間機能してきたのだから、今後ともそれに従って各当事者が自制すべきである、ということである。
フィナンシャル・タイムズ紙も、2月19日付け社説‘Taiwan tensions call for restraint from big powers’において、米国による台湾への武器売却、米海軍艦艇による台湾海峡の通過、台湾への武器売却の継続と当局者の交流を求める「アジア再保証イニシアティヴ法」など一連の米国の動きを「中国は刺激的だと見ている」とする一方、中国の台湾併合への熱意はこれまでになく高まっている、として各当事者に自制を呼びかけている。
自制は重要だが、米国の「一つの中国政策」の枠組みが今後も有効であるのかは、検討を要する。中国が台湾を併合する意思は一貫しているが、今や、中国は軍事大国であり、台湾併合のために武力行使を排除しない、と明言している。米中双方が危機を作り出しているというが、やはり中国の責任が重いのではないか。米国が強い態度をとり中国を抑止することの方が「現状維持」に資すると思われる。米国の最近の対中強硬姿勢は止むを得ないと言うべきであろう。上記フィナンシャル・タイムズ社説が挙げているような、米国による台湾支援強化の措置は、ますます強化されると考えられる。ちょうど、2月下旬にも米海軍の艦艇が台湾海峡を通過したばかりである。
蔡英文の米議会への招聘については、ワシントン・ポスト紙のジョン・ポンフレット元北京支局長が2月18日付の論説‘China’s Xi Jinping is growing impatient with Taiwan, adding to tensions with U.S.’で、中国を怒らせるとする専門家の見解と、それほどでもないとする専門家の見解を紹介している。
米国の対応で、むしろ最も心配すべき点は、トランプ大統領が、台湾問題が米中の間でカードとなり得ると解釈され得るような発言をしてしまうことであろう。トランプは、そういう不用意な発言をする傾向があるので、注意を要する。
http://wedge.ismedia.jp/articles/print/15556
トランプにはしごを外された金正恩、想定外だった米朝の「物別れ」
2回目の米朝首脳会談を振り返る(前編)
2019/03/11
礒ア敦仁,澤田克己
ハノイで行われた第2回米朝首脳会談(写真:ロイター/アフロ)
率直に言って、トランプ米大統領と金正恩国務委員長による2回目の首脳会談の結果は想定外のものだった。もちろん完全な破綻であれば「ありえる」結果ではあったけれど、会談は決裂するが交渉自体は破綻していない、という状況はとうてい考えが及ばないものであった。完全な核放棄につながる具体的な措置を北朝鮮が取る見返りに米国が国交正常化と制裁解除を約束するというビッグディールは期待できなかったろうが、寧辺の核施設への査察受け入れと南北経済協力の容認というようなスモールディール、あるいは中間のミディアムディールにはなるのではないかというのが一般的な見立てだった。内政で苦しい状況に追い込まれたトランプ大統領と、トランプ政権の間に成果を挙げたい金正恩委員長の双方が、「成果」を必要としていると考えられたからだ。
ところが、ハノイで2月末に行われた会談は具体的な文書の合意に至らず、事実上の決裂に終わった。従来の積み上げ型の外交ではなく、トップダウンの「新しい方式」による交渉は大きな妥結を引き出す可能性を秘めていたが、薄氷を踏むような過程でもある。事前の「準備不足」が指摘される中で開かれた会談は、結果として悪い方向に進んでしまった。今後の展望は次回に回し、今回はこの想定外の結果に対する評価をまず考えたい。
金正恩政権は成果を出す自信を見せていた
北朝鮮側は、昨年6月のシンガポールでの第1回首脳会談で米朝間の関係改善がうたわれたのに経済制裁解除のような実利を得られないことに強い不満を抱いた。そのため同9月頃からは第2回首脳会談の実現を目指し、対米交渉にオールインする姿勢を見せてきた。今年元日に行われた恒例の金正恩委員長による「新年の辞」では、これまでになく対米関係に時間を割き、初めて自ら「完全な非核化」を口にした。「新年の辞」は、北朝鮮の全国民が徹底して学ぶものだけに、その意義は大きい。しかも今年に入ってから金正恩委員長は、一度も農場や工場に行っていない。経済を重視する姿勢を明確にしているにもかかわらず、である。それだけ対米戦略を練るのに時間と労力を要したということだ。
そして、北朝鮮が今回の会談で一定の成果を得られると考えていたことは間違いない。『労働新聞』や朝鮮中央テレビなどの北朝鮮メディアが金正恩委員長の平壌出発から大きく報道したことは、北朝鮮側のこうした見通しに基づくものだ。北朝鮮国内向けの報道で事前に首脳会談開催を知らせたことは、制裁解除へ向けた国民の期待感を高めただろう。北朝鮮メディアの論調は、今回の米朝首脳会談が国家の経済的繁栄につながるものとのニュアンスを醸し出していた。
シンガポール会談以降、昨年9月までは韓国が提案した「終戦宣言」に乗り気だった金正恩政権だが、米国がそれに応じないと見るや、要求事項を経済制裁の緩和に切り替えた。北朝鮮は「経済制裁に効果は無い」と主張し続けてきたが、その頃から金正恩委員長自身が経済制裁への非難を強めていた。経済制裁が強化されたことで北朝鮮経済が混乱に陥るというような事態にはなっていないものの、影響はじわじわと拡大しているということであろう。首都平壌は安定しているように見えるが、地方都市は相変わらず停電に悩まされている。外貨獲得の手段が狭まったことに加え、原油や石油精製品の輸入が制限された打撃も大きい。いわゆる瀬取りと呼ばれる手法での密輸もあるが、コスト面での負担増は避けられない。
「制裁の部分解除」と「全面解除」は認識の違い
初日に開催された1対1形式の膝詰め会談の冒頭で、金正恩委員長は「全ての人が喜ぶ、素晴らしい結果をつくり出せると確信し、そうなるように最善を尽くす」と述べていた。2日目の拡大会合の冒頭では、非核化について「その意思がなければここに来ていない」と述べるとともに、米国の連絡事務所設置について「歓迎すべき」とまで言及した。
ところが2日目の午後になると、ワーキングランチと署名式の中止が明らかになった。ただこの時点では物別れに終わったのだろうと推測できるだけで、いったい何が起きたのだろうかという状況だった。トランプ大統領の記者会見を聞いてようやく、経済制裁が焦点になったと分かったのである。トランプ氏によると、北朝鮮側は寧辺の核施設廃棄の見返りとして制裁の全面解除を要求。それに対して米国側は、制裁解除のためには寧辺以外の核施設廃棄も必要だと応じて全面解除を拒否したという。
北朝鮮側は翌日未明になってから、李容浩外相が宿泊先のホテルで記者会見を開いて反論した。韓国・聯合ニュースによると、李容浩外相は首脳会談での北朝鮮側の提案について「米国が国連制裁の一部、すなわち人民生活に支障をきたす項目の制裁を解除すれば、寧辺にあるプルトニウムとウランを含む全ての核物質生産施設を米国の専門家らの立ち会いの下、両国の技術者たちの共同作業で永久かつ完全に廃棄する」というものだったと表明。これまでに採択された国連安保理制裁決議11本のうち、2016、2017両年に採択された5本の「民需経済と人民生活に支障を与えている項目」をまず解除するよう要求したことを明らかにした。
両国の主張は完全に食い違っているように見えるが、そうでもない。北朝鮮に対する制裁は2006年10月の第1回核実験を受けて決議されて以降、現在までに11本ある。だが、当初は核・ミサイル開発に関連する特定の組織や人物などを対象とした制裁であり、北朝鮮にそれほど大きな痛みを強いるものではなかった。いわゆるターゲット型の制裁である。しかし、北朝鮮が2016年に核・ミサイル開発を加速させたことへの対抗策として、国連安保理制裁は北朝鮮の外貨収入や石油輸入を直撃する経済封鎖に近い形に強化された。2016、2017の2年間に採択された6本の制裁決議のうち5本が、こうした制裁だ。李容浩外相のいう「5本」はこれだろうから、米国側から見れば「ほとんど全面解除」になる。
北朝鮮側は寧辺の核施設廃棄によって大幅な制裁解除を狙う取引をしかけたが、米国側は「それ以外」の核施設廃棄を含めた非核化措置が必要だと応じた。この食い違いには、シンガポールでの第1回会談での合意に対する双方の認識の違いが反映された可能性がある。
シンガポールで署名された共同声明の骨格は、「北朝鮮の安全の保証(朝鮮語原文は「安全の担保」)」と「朝鮮半島の完全な非核化」のディールである。この場合の「安全の保証」は金正恩体制に対して与えられるものであり、北朝鮮の立場から言えば、体制を温存したままでの経済制裁の完全解除や米国との関係正常化が必要条件となる。その考えに従うなら寧辺核施設の廃棄という部分的措置に見合うのは、完全な「安全の保証」の手前となる民生部門への制裁解除だったのかもしれない。ところが米側は「制裁の全面解除」を要求されたと受け止めたから、それでは釣り合わないと拒否したという構図だ。そうであるならば、スモールディールないしミディアムディールをしようとした北朝鮮に対して、米国がビッグディールで対抗したことになる。
金正恩にとって大きなマイナスではあったが……
トランプ大統領は記者会見で、北朝鮮での拘束から解放されたものの昏睡状態で帰国し、亡くなったオットー・ワームビア氏の件について「(金正恩委員長は)関知していなかったと思う」と述べた。さらに強制収容所の存在を肯定するような発言を続けた。米国の大統領とは思えないような人権感覚の欠如を物語る発言だった。
これから数十年は政権を担うつもりの金正恩委員長は、人権に関心を持たないトランプ大統領の任期中にできるだけ多くの果実を得たいはずだ。退任までに北朝鮮核問題で明確な結果を出せなくても自身にとって死活的問題にならないトランプ大統領とは違う。それを考えると、今回の結果は金正恩委員長にとって大きなマイナスであった。
しかも、今回の会談決裂により、昨年9月の南北首脳会談で文在寅大統領から取り付けることのできた開城工業団地と金剛山観光の再開も実現から遠のいてしまった。金正恩委員長は、元山葛麻観光地区や温泉観光地区の開発を急ピッチで進めているが、それも韓国から外貨が入るという見込みがあってこそのことだ。トランプ大統領にはしごを外された結果となり、大きく失望したことは間違いない。
ただ、北朝鮮にとって核・ミサイル開発を再び加速させるという選択は簡単ではない。金正恩委員長はなんとか交渉で巻き返そうとしてくるはずだ。北朝鮮が核廃棄に応じる可能性は依然としてあるだろうが、その大前提は「隠せるなら隠そうとする」ことである。最終的に核廃棄に応じるとしても、そこにいたるまでには激しい駆け引きが展開されるだろう。一方でトランプ大統領の交渉術も一般の外交交渉とは違い、いったん席を立つことがむしろ支持率アップにつながると考えた可能性が高い。
今回の会談結果は物別れであり、原因は双方の誤算にあった。それは特に金正恩委員長に大きかっただろうが、あくまでも途中経過だと考えた方がよいようにも思われる。これからの動きも、予断を持たずに注視していく必要がありそうだ。
*後編へ続く(近日公開予定)
http://wedge.ismedia.jp/articles/print/15592
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