http://www.asyura2.com/18/warb22/msg/524.html
Tweet |
ISIS・アルカイダの問題「むしろ悪化」 テロ首謀者殺害に喜べない理由
https://www.newsweekjapan.jp/stories/world/2019/01/isis-162.php
2019年1月28日(月)11時25分 ジェフ・スタイン ニューズウィーク
バダウィ(写真)が殺害されたニュースは、対テロ戦争におけるアメリカの苦境をあぶり出した PHOTO ILLUSTRATION BY GLUEKIT; SOURCE IMAGE COURTESY OF FBI
<2000年の駆逐艦「コール」事件の首謀者バダウィを米軍が空爆で殺害したが、今の中東にはアメリカの「友人」があまりに少ない>
元日のニュースとしては、かなり衝撃的だった。アメリカが長いこと行方を追っていたジャマル・アル・バダウィが、イエメンで米軍の空爆により死亡したという。
ドナルド・トランプ米大統領は1月6日、歓喜のツイートをした。「われらが偉大な軍隊は、駆逐艦コールへの卑劣な攻撃の犠牲となった英雄たちのために公正な裁きを下した」。バダウィは2000年10月、「アラビア半島のアルカイダ(AQAP)」が関与したとされる米イージス駆逐艦コールへの自爆テロ攻撃の首謀者の1人と言われる。
だが国防総省は慎重で、事実確認に1週間近くをかけた。これまで大物テロリストが死亡したと発表した後に、当人が公の場に現れたことがあったためかもしれない。しかし今回は数日後にAQAPのほうから、バダウィが米軍の空爆で「殉教」したとの発表があった。
死者17人、負傷者39人を出した自爆テロの首謀者に復讐できたことは確かだ。だが、この件は国防総省とCIA、FBIにとって、ほろ苦い勝利となった。
バダウィは2003年と2006年にイエメンの刑務所から脱獄。2007年にはテロ活動に二度と関与しないことを条件に釈放されていた。
「私も長年、バダウィの行方を追ってきた」と、元FBI捜査官のアリ・スーファンは言う。彼は2001年、拷問を使わずに巧みな話術でバダウィから自白を引き出した。バダウィが脱走したり釈放されたりするたびに「捜索と逮捕を繰り返す羽目になった」が、「これでもう脱獄できなくなった」と言う。
テロ事件捜査に携わった元当局者たちは、時間は要したもののバダウィ殺害は勝利には違いないと言う。「報道されなくなって久しい犯人を捕らえることには意味がある」と、オバマ前政権で国務省のテロ対策に携わったダニエル・ベンジャミンは言う。「忘れていないというメッセージになるからだ」
だが容疑者の殺害に時間を要したことで、アメリカが国外で行うテロ対策が難しくなっている現実が浮き彫りになった。最も問題を抱える地域でのアメリカの「友人」は、9.11同時多発テロ当時よりも減っている。
「イエメンなどの状況が悪化しているのは間違いない」と、レオン・パネッタ元米国防長官は本誌に語った。「効果的なテロ対策には地元当局との良好な関係が欠かせない。だが今は、行き当たりばったりだ」
■米軍には最も危険な場所
バダウィを長いこと捕らえられなかったことから分かるのは、「アルカイダ指導者たちの追跡が、イエメンだけでなく、パキスタンやシリア、アフリカの北部・東部でも難しくなっている」という現実だと、元FBI特別捜査官のマーティン・リアドンは言う。「アルカイダの活動が最も活発なイエメンやパキスタン、シリアなどでは、無法地帯が広範囲にわたって彼らの支配下に置かれている」
パキスタンはアルカイダの指導者ウサマ・ビンラディンを長くかくまった上、アメリカが支えるアフガン政府と戦うタリバンなど反政府勢力の支援を続け、スパイの敵味方を分かりにくくしている。昨年10月には米軍およびNATO軍のオースティン・ミラー司令官が、タリバンに銃撃されている。
イラクでは、シーア派民兵組織がイランの後押しを受けている。トルコは、米軍の支援の下にテロ組織ISIS(自称イスラム国)と戦うクルド人の掃討作戦を発表した。ヨルダンではトランプ政権が取る親イスラエル政策をめぐり、不満が広がっている。
ヨルダンの諜報機関がアルカイダに潜入させるために雇った人物が、アフガニスタンのCIA基地で自爆攻撃を行ったのは、もう9年前のことだ。実はアルカイダの二重スパイだったのだ。
米軍がビンラディンを捕らえようと、アフガニスタンに侵攻してから17年以上。イラクの独裁者だったサダム・フセインと(存在しない)大量破壊兵器を排除しようと、イラクに侵攻してから約16年。これらの地域は今、米軍にとってかつてないほど危険な場所になった。
バラク・オバマ前米大統領は前任者たちと同じく、「パートナーシップを大切にして、米軍が役割を果たさずに済むよう同盟国軍を訓練し、武器供与をして最前線を守らせた」と、オバマ政権下で国家安全保障会議の報道官を務めたエドワード・プライスは言う。
だが米政府にとっての戦略的問題は、エジプトなど諜報活動に重要な同盟国の多くが、国民への弾圧や蛮行、腐敗で悪名高いことだった(現在も同じだ)。
反体制派や人権活動家、ジャーナリストが送り込まれる刑務所は、ジハード(聖戦)に関わる者にとって学びの場になった。カイロ近郊のトラ刑務所に入れられたアイマン・アル・ザワヒリはその後、アルカイダの指導者になっている(現在もパキスタンで存命中とされる)。
サウジアラビアやイエメン(アリ・アブドラ・サレハ前大統領が2017年に暗殺された)は以前から、アメリカと表面上のパートナーシップを結ぶ方法として、イスラム過激派を裏で支援しながら彼らを逮捕してきた。バダウィを拘束していたのは「イエメンにとってイデオロギーの問題ではなかった」と、米国務省のベンジャミンは言う。「サレハが私たちをだましたかっただけだ」
■新しい友人もできない
オバマ政権のリサ・モナコ元大統領補佐官(テロ対策担当)は最近、中東におけるアメリカの暗い見通しを憂えた。「アルカイダが根付き、ISISが拡大して過激派を勢い付かせた条件全てが、現在も中東やその他の地域に存在している」と、モナコは言う。「この問題は消え去るどころか悪化している。イエメンを見れば、それが分かるはずだ」
トランプのイスラム教徒入国禁止令で、新たな友人づくりも難しくなっていると、モナコは言う。「イスラム圏とは関わらないという絶縁状のようなメッセージで、ISISの勢力拡大の動きに火を付けた」
パネッタのみるところ、米軍をシリアから90日以内に完全撤退させ、2020年までにアフガニスタン駐留軍も大幅縮小するというトランプの決定は、同盟国を不安にさせている。「米軍がいつ消えるか分からないからだ」
アメリカはパキスタン、ヨルダン、レバノン、ソマリアなど、軍や警察と共同作戦を公然と行えない国で、CIAや国防総省のチームに秘密裏に諜報活動を行わせてきた。だが活動は困難で危険であり、発覚すれば国家間の関係を揺るがしかねない。
プライスは「一貫して(パートナーとして)信頼できる国はあまり存在しない」と言い切る。だが「ソマリアやナイジェリア、西アフリカ、北アフリカ」では状況は好転しているとも言う。
米海軍犯罪捜査局(NCIS)に30年間勤務したロバート・マクファデンは、2007年にイエメンで拘束されたバダウィに2カ月にわたり接見した。彼はプライスほど楽観的ではないが、バダウィの殺害自体は評価している。
「空爆でテロを絶つことはできないが」と、マクファデンは言う。「ジハードに身をささげる人間には、いずれその暴力が跳ね返ってくる」
「公正な裁きは遅れても、執行されないよりはましだ」と、マクファデンは付け加えた。
<2019年1月29日号掲載>
投稿コメント全ログ コメント即時配信 スレ建て依頼 削除コメント確認方法
スパムメールの中から見つけ出すためにメールのタイトルには必ず「阿修羅さんへ」と記述してください。
すべてのページの引用、転載、リンクを許可します。確認メールは不要です。引用元リンクを表示してください。