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http://tanakanews.com/181228trump.htm
世界から米軍を撤退するトランプ
2018年12月28日 田中 宇
この記事は「トランプのシリア撤退」の続きです
12月19日に米トランプ大統領が、米軍をシリアから総撤退すると発表した後、シリアで米軍から支援されてシリア政府軍側(露イラン・ヒズボラ)と戦っていたイスラム過激派のテロ組織(Mahavir al-Saura)が、シリア政府軍に対して登降したいと申し出てきた。この組織は、米軍が支援してきた反政府軍SDFの一部で、表向きはテロ組織でないが、本性はおそらくサラフィ主義のイスラム過激派で、ISアルカイダの一部だ。シリアの反政府武装組織はISアルカイダ・サラフィ主義者以外の勢力がいないからだ。 (Southeast Syrian Rebels Ready to Surrender After US Pullout From Tanf Base) (Syrian opposition militants ready to lay down arms once US troops leave Al-Tanf base)
米軍は、シリア南東部のヨルダン・イラクとの3か国の国境沿いのアルタンフに基地を持ち、ヨルダン・イラクとシリアを往復するISカイダのテロリストたちに軍事訓練をほどこし、武器弾薬や食料などを支援してきた。ISカイダが中東や欧州などで勧誘したイスラム主義の志願兵は、ヨルダンからアルタンフ経由でシリア各地のISカイダの拠点に送られてきた。米軍が、シリア内戦を激化させ、何十万人ものシリア市民を殺す役割を果たしてきた。こうした構図は、イラクやアフガニスタンも同様だ。マスコミはこれらを報じず、911以来の20年近く、殺戮に加担してきた。まさにマスゴミだ。 (いまだにシリアでテロ組織を支援する米欧や国連) (シリア政府は内戦で化学兵器を全く使っていない?)
今回、トランプがシリアからの米軍撤退を決め、アルタンフの米軍基地を閉鎖するので、米軍がシリアのISカイダを支援して殺戮を続けてきた構造がようやく終わる。米軍に支援されてきたシリアのテロ組織は、すでにほとんどが露イランアサドの軍勢によって潰され、投降したテロ組織とその家族たちは、トルコ国境沿いのイドリブ周辺に集められ、トルコが面倒を見ている(トルコは米軍に協力して北からシリアにテロリストを入れていたので、その後始末をイドリブでやっている)。前出の投降したがっているテロ組織(Mahavir al-Saura)も、イドリブに移動したいと言っている。 (シリア内戦 最後の濡れ衣攻撃)
米軍は、中東各地でテロリストを支援し、内戦を抑えると称して激化させてきた。トランプはシリア撤退によって、この構図を破壊している。米軍は最近、シリアで敗退したISのテロリストたちをアフガニスタンの対イランや対中央アジアの国境地帯に移送し、イランや中央アジア、中国といったアフガンと隣接する地域をイスラムテロによって不安定化させる戦略を進めてきた。トランプはアフガニスタンからも米軍を引き揚げていくことを決めたが、これが米軍によるアフガンの「IS化」に歯止めをかけることが期待される。 (What Is Left for the US To Do in Afghanistan? The Answer: Lose.)
アフガンで最も強い勢力は、米傀儡のアフガン政府でなく、米国が敵視してきたタリバンだ。アフガンにおいて、ISとタリバンは仇敵どうしだ。タリバンはISと似たイスラム主義だが、土着の勢力であり、民族主義勢力である(汎アフガンでなくパシュトン人の民族主義だが)。根無し草(というより米軍産・諜報界の産物)であるISとは相反する存在だ。 (US losing ground to militants in Afghanistan despite long occupation)
アフガンにおけるトランプの代理人をしているカリルザドやカルザイは、タリバンと交渉すると同時に、中国やロシアがアフガン復興に協力することを大っぴらに歓迎している。米国は表向きイランを敵視しているが、イランがアフガンの安定化に協力していることは静かに歓迎している。以前の米国は、タリバンを敵視すると同時に、中露イランがアフガンに関与することを拒絶し、米軍の軍事力のみに依拠する単独覇権的なやり方でアフガンを平定しようとして失敗し続けてきた。トランプはそれと正反対の、米軍撤退プラス多極化のやり方でアフガンを安定化しようとしている。 (US Should Not Deal With Pakistan On Afghan Peace: Karzai) (3rd round of U.S.-Taliban talks start without Afghan government reps.)
ロシアは先月、タリバンとアフガン政府の代表をモスクワに集め、アフガンの和平交渉を開始している。この和解交渉には、米国も下級要員を派遣した。中国とロシアがつくる上海協力機構は、アフガンをオブザーバー参加させ、印パやイランも加盟しており、今後は米国でなく上海機構がアフガン問題の解決役になっていく。(これは数年前から予測されていた) (Russia Hosts Taliban And Afghan Officials For Peace Talks; U.S. Diplomat In Attendance) (Karzai Sees Moscow Summit As A First Step Towards Peace) (中国がアフガニスタンを安定させる)
イランも、すでにタリバンと協力し、自国に近いアフガン西部に入ってきているISを潰すことに注力している。トランプが今後、米軍をアフガンから撤退していくほど、中露やイランがアフガン問題の解決役になり、ユーラシアにおける米国の影響力が下がっていく。トランプ政権は、米軍撤退の前提として、来年4月までにタリバンと和解(停戦)することを目標にしている。 (Confirmed: Iran talking to Taliban ‘to aid Afghan security’) (US special envoy hoping for peace deal with Taliban by April: report)
▼「大人」の言うことなんか聞かない方が良い
トランプは16年秋に当選した時から、シリアやアフガンからの米軍撤退を公約に掲げていた。だが当選してから最近までの2年間、トランプはシリアやアフガンからの撤退に着手できないでいた。その理由は、米国の上層部を牛耳っている軍産複合体(諜報界、軍部、外交筋、議会、2大政党、マスコミ、学界など)がこぞって撤退に反対し続けたからだ。トランプの側近の中にも、マチスやケリー、マクマスター、ティラーソンといった「大人」と称する軍産系の高官たちが陣取り、トランプを抑止し続けた。軍産は、自分たちの特権を維持するため、米国が軍事的に世界を支配し続ける単独覇権体制を必要としていた。反戦リベラルを気取るマスコミや米民主党が、シリアやアフガンでの戦争をやめようとするトランプの撤兵策に猛反対するという馬鹿げた構図が、今回も展開されている。リベラル派(うっかり軍産)の化けの皮がはがれている。 (軍産の世界支配を壊すトランプ) (We Know How Trump’s War Game Ends)
トランプは就任後2年かけて、軍産支配の構図を破壊した。軍産系の「大人」の側近を辞めさせて、代わりにボルトンやポンペオといったネオコン(隠れ多極主義)系の人々を入れた。彼らは、軍産の戦略を過激にやって無効化する策略を展開した。ボルトンは9月、それまで「IS退治(と称するIS支援)」だけが柱だった米軍のシリア駐留の目的に「シリアでイランと戦って追い出すこと」を付け加えた。米軍がシリアでイランと戦うと、それは米イラン間の本格戦争になってしまう。軍産は、イランを何十年も封じ込めたい(=何十年も中東に駐屯したい)だけで、米イランの本格戦争には強く反対だ。だがプロパガンダ的には「イランを潰せ」なので、ボルトンの本格戦争案に、軍産は正面切って反対できない。 (シリアで「北朝鮮方式」を試みるトランプ) (米朝会談の謎解き)
トランプとボルトンは、シリアでの米イラン本格戦争を標榜して軍産をビビらせて弱体化しておき、11月の中間選挙で共和党をトランプ化して自らの政治力を強めた後、今回のシリアとアフガンからの撤退、マティスの首切りをやって、軍産の戦略を一気に破壊した。過激な好戦策をやって軍産をビビらしておいて一気に反転するのは、北朝鮮問題でトランプがとったやり方と同じだ。マティスは、トランプ政権中枢に残った最後の「大人(=軍産)」だった。マティスが辞任に追い込まれたことで、軍産はトランプ政権中枢での足場を失った。「戦争をやめたくない」軍産の勢力はトランプ政権から一掃された。政権に残っているのは「戦争を拡大するふりをしてやめていく」要員だ。軍産を無力化したので、トランプは来年、さらに反軍産的な独自の軍事外交戦略を打ち出すと予想される。 (好戦策のふりした覇権放棄戦略) (中東大戦争を演じるボルトン)
中東において、米軍の恒久駐留という軍産の戦略を後ろで操ってきたのはイスラエルだ。米軍がいる限りイスラエルは安泰だったが、トランプのシリア撤退により、イスラエルは後ろ盾を失った。米国の軍産はイスラエルに対し、今こそシリアのイラン系の拠点を空爆してイラン・イスラエル戦争を引き起こし、撤退しようとしている米軍を引っ張りこんで撤退不能にしろとけしかけている。この線上で米国はハイテク(ポンコツ)戦闘機のF35をイスラエルに売りさばき、それを使って12月25日、イスラエルがシリアの軍事拠点を空爆した。だがこの空爆は全くの裏目に出た。 (US to give Israel more F-35s to face S-300s, deploy a squadron in Emirates) (Russia and Syria threaten to fire SA-5 missiles into central Israel if IAF air strikes continue)
シリアの軍事的な後ろ盾となっているロシアは、イスラエルの違法行為に激怒し、イスラエルに隣接するシリアとレバノンの防空体制を大幅に強化する宣言した。シリア軍は12月25日、イスラエル軍の空爆を受けたとき、反撃の意味を込めてイスラエル本土にミサイルを撃ち込んだ。この戦闘の後、露シリアは、次にイスラエルがシリアやレバノンを攻撃したら、もっと本格的にイスラエル本土を反撃すると宣言した。シリアがイスラエル本土を攻撃したのはほとんど初めてで、イスラエルの迎撃ミサイルは一部しか迎撃できなかった。イスラエルはロシアにかなわない。ロシアの警告を無視して、次にイスラエルがシリアを空爆する時は、本土を破壊されることを覚悟する必要がなる。イスラエルは、シリアレバノンを攻撃できなくなっている。 (Moscow: Israeli air strike hazarded Beirut, Damascus civilian aircraft, weighs extending Syria’s missile shield to Lebanon)
(私は前回の記事で、もうイスラエルはロシアに配慮してシリアレバノンを空爆しないだろうと書いたが。その後、12月25日の空爆があり、私の予測はまたもや「外れ」た。しかし、米国がイスラエルに空爆をけしかけ、イスラエルが空爆を挙行してロシアが激怒し、イスラエルがシリアレバノンを空爆できない状態がさらに確定したことを考えると、私の予測は長期的な構造として「当たって」いる。短期的な当たり外れなど、どうでもいいことだが) (トランプのシリア撤退)
ロシアは1月に、パレスチナで分裂している西岸のファタハとガザのハマスを和解させる試みを開始する。これは今までエジプトが試みて失敗してきたことで、エジプトが失敗したのにロシアが成功するはずない、みたいな分析が出ているが、それは間抜けな見方だ。エジプトは米イスラエルの傀儡国で、米イスラエルはファタハとハマスの和解を望んでいない。エジプトの失敗は、当然の結果だ。ロシアは、米イスラエルに批判的だ。1月の和解交渉は成功する可能性がある。 (Can Russian succeed with Palestinians where Egypt has failed?)
ファタハとハマスが和解して連立政権を再開する流れになると、分裂していたパレスチナが結束し、来年再開される見通しの中東和平交渉においてパレスチナの交渉力が強くなり、イスラエルに不利になる。来年トランプが発表する中東和平案は、パレスチナに最低限のものしか与えていない。これまでの分裂したパレスチナなら、最低限のものでも受け取って和平が成立したかもしれないが、ロシアの仲裁で再結束が成功した後のパレスチナは、最低限だと拒否しそうだ。米国覇権下なら、中東和平におけるイスラエルの優位が揺るがないが、来年の中東はもう米国覇権下でない。 (Netanyahu tries postponing publication of Trump’s peace plan)
イスラエルは4月に総選挙をやって右派連立政権を組み替え、中東和平をやれる政権を作る予定だが、4月までの間にパレスチナが再結束して強化されるだけでなく、トランプの覇権放棄がさらに進展しそうだ。イスラエルボイコットが世界的に広がっている。時間がない。米国は親イスラエルのふりをした反イスラエル(ロスチャイルド)の系統なので、イスラエルに自滅的な戦争をさせたがってきたが、ロシアはもっと現実的なので、イスラエルが自滅戦争に入るのをむしろ防いでいく。しかし半面、イスラエル国内では、イスラエルを自滅させようとする右派(入植活動家)が強い。それらのバランスの中で、最終的にどうなるかわからないが、中東和平も来年が一つの山場だ。 (イスラエルとロスチャイルドの百年戦争)
トランプは就任後、米国の傭兵・戦争下請け会社であるブラックウォーターに、中東各地で米軍がやっている戦闘や治安維持の活動を下請けさせて、米軍が世界から撤退する「戦争の民営化」を検討してきた。従来は、トランプ側近の軍産の「大人」たちが猛反対し、戦争の民営化が見送られてきた。だが、大人たちが全員いなくなった今後は、戦争の民営化がトランプ政権の正式な戦略として出てきそうだ。ブラックウォーターは最近、やる気満々の全面広告を雑誌に出した。 (‘We are coming’: Chilling Blackwater ad triggers fears of Trump seeking to privatize Mideast wars) (Trump, Blackwater, and private war)
戦争の民営化は、軍産が好む究極の形であると思う人が多いかもしれないが、そうではない。軍産(諜報界)は、米政府の財政を牛耳り、どんぶり勘定の巨額の防衛費の中から、自作自演の911テロ事件を起こすための資金や、ISカイダの養育費、ウクライナやグルジアをロシアに噛み付かせるための資金、マスコミやインターネットを通じてプロパガンダをばらまく(そしてそれをロシアにせいにする)ための費用などを出し、世界を支配してきた。国防総省は会計監査不能な領域だ。諜報は、裏金でやらないと正体が暴露されてしまう。戦争は、体質的に使途不明なので、公的な事業として行われる必要がある。覇権運営も、超国家・超法規的な営みであり、戦争と同様、裏金の世界だ。民営化するとコスト計算が必要になり、軍事諜報や覇権の秘密の体質と抵触してしまう。 (米軍の裏金と永遠のテロ戦争) (肥大化する米軍の秘密部隊)
トランプが戦争の民営化をやりたがるのは、まさにこのような軍産による諜報活動や覇権運営をやめてしまいたいからだ。トランプは、世界中の米軍駐留を民営化し、コスト計算を明示して、その金額を同盟国に負担させたい。ブラックウォーターは、イラク占領時などに活動したが、残虐で無駄が多く、とても評判が悪かった。同盟諸国は、米軍の代わりにブラックウォーターが駐留してくるぐらいなら、米国に頼まないで自国の軍隊だけで防衛したくなる。そこが覇権放棄屋であるトランプの戦争民営化の狙いだ。 (Mattis is out, and Blackwater is back: ‘We are coming’)
軍産から解き放たれたトランプは、まず中東の軍事撤退・覇権放棄を進めている。だが来年には中東を一段落させ、欧州や東アジアの軍事撤退に着手するだろう。欧州ではドイツが「米国がINF条約から抜けるなら、欧州への核ミサイルの配備をやめてほしい。欧州は、米露の核の対立に関与したくない」と言い出している。この傾向が進むと、EU諸国がNATOから離脱もしくは距離を起き、EU統合軍を唯一の防衛力としてやっていく新体制に移行することになる。東アジアでは、朝鮮半島の南北の和解、在韓米軍の撤退、そして在日米軍の撤退へと、すでに線路が敷かれている。トランプは来年、米軍の世界支配をさらに壊していく。 (Germany To Trump: Don't Even Think About Stationing Nuclear Missiles In Europe After INF Withdrawal) (Elites United in Panic Over Syria Pullout, Afghanistan Drawdown)
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