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INF条約破棄は米ロの思惑通り、日本は非核三原則に向き合う時
冷戦後の核秩序の再構築に乗り出した米ロ
2018/12/12
秋元千明 (英国王立防衛安全保障研究所アジア本部所長)
米国のトランプ大統領が、冷戦時代に旧ソビエトと結んだ中距離核兵器(INF)全廃条約を破棄することを表明した。ロシアが条約を順守していないことを理由としているが、米国はかねてから地域型の核戦力の保有について関心を持っていた。一方、ロシアが新型のINFを開発しているのもほぼ間違いない。INFを再度保有したいという思惑は、実は米ロ双方にある。
プーチン大統領に米国のINF条約破棄の意思を伝えたボルトン大統領補佐官(右) (REUTERS/AFLO)
1980年代、東側(旧ソビエト)が東欧に配備したINFに対抗するため、米国は急きょ、GLCM(地上発射巡航ミサイル)とパーシングU弾道ミサイルを開発、西欧に配備した。米国はそれまでINFを保有しておらず、もし、東側がINFを使用すれば米国本土の戦略核(大陸間弾道ミサイル)を使うことになり、地域での核攻撃がいきなり地球規模の全面核戦争に発展しかねなかった。INFの配備は、米国にとって全面核戦争を防ぐためのものだったのである。
ところが、90年代、東西冷戦が終わると、旧ソビエトは予想しなかった問題に次々と直面した。まず、連邦の構成国だったバルト海や黒海の沿岸諸国、中央アジア諸国が独立し、国家体制が崩壊した。その機に乗じてNATOが東欧に拡大し、かつての衛星国家が次々とNATOに加盟した。また、欧州以外のユーラシア地域ではイラン、インド、パキスタン、中国、北朝鮮が核兵器の開発に取り組み、結果として、ロシアは冷戦後、核で武装した国家にぐるりと取り囲まれることになったのである。これに対抗する手段としてロシアが関心を持ったのが、ロシアの周辺部を効果的に狙うことのできる地域限定の核兵器、つまりINFであったと思われる。
2007年10月、モスクワで開かれた米ロ会談の際、プーチン大統領はINF条約について、「米ロ以外の国々にまで拡げない限り、ロシアが条約にとどまるのは難しい」と述べ、脱退する可能性を表明した。
そして、ロシアは14年7月、地上発射型の巡航ミサイル「SSC−8」の発射実験を行ったのである。「SSC−8」は、ロシア名で「9M729」と呼ばれる車両搭載型の移動式ミサイルだ。ロシア海軍が配備している海洋発射巡航ミサイル「カリブル」を改良して開発され、射程は2000キロ以上と推定された。ほかにロシアが保有している「イスカンデルM弾道ミサイル」や、開発中の「RS−26ルベーシュ弾道ミサイル」もINF条約に抵触する可能性があると米国などは見ている。
西側諸国がハイテクによる通常戦力の充実とミサイル防衛の配備によって、冷戦後の不安定な地域情勢や核の拡散に対応しようとしているのに対して、ロシアは地域型の核戦力を強化してこれに対抗しようとしているのである。
高まる中国の脅威に
リバランスを図る米国
一方、こうした冷戦後の戦略環境の激変は米国にも難問を突きつけた。米国の当面の脅威はもはやロシアではなく、中国や北朝鮮などアジアに配備された中距離核兵器であるのに、それらに対抗する手段は米国本土に配備してある戦略核兵器しかないという現実である。
これについて、米国は今年2月、報告書「核態勢見直し」を発表し、核弾頭を装着した新型の海洋発射巡航ミサイル(SLCM)を開発して水上艦や潜水艦に配備することや、核爆発の威力を抑えた低出力の潜水艦発射弾道ミサイル(SLBM)を開発、配備する方針を初めて明らかにした。これらのミサイルは地上配備の兵器ではないためINF条約に抵触するものではないが、米国がINFの能力を代替する地域型の核兵器に関心を持っていることを報告書は示唆していた。この背景について、米国の専門家は、条約に拘束されない中国が大量のINFを配備していることを指摘している。
また、今回のトランプ政権の決定について、ある高官は「中国が保有する2000基のミサイルのうち、95%にあたる1900基がINFであり、太平洋地域に展開する米軍部隊や同盟国にとって大きな脅威になっている」と説明した。
また、今年3月、上院軍事委員会の公聴会で、ハリー・ハリス太平洋軍司令官(当時)は、「中国の準中距離弾道ミサイルは、中国軍のミサイルの90%以上を占めている。短距離ミサイルは台湾と米軍の空母部隊を標的とし、準中距離ミサイルは日本国内の米軍基地とグアムを標的としている。それなのに、米国はINF条約のためバランスを欠いた対応しかとれない」と述べた。
さらに、ジョン・ボルトン大統領補佐官は11年、ウォール・ストリート・ジャーナルに寄稿し、「INF条約への加盟国を増やすか、条約を破棄して米国が自前で抑止力を再構築するしかない」と述べたことがあった。
このように、トランプ政権のINF条約破棄の決定は表面上、ロシアが条約を順守していないことを理由にしてはいるが、ロシアにとっての本当の理由は安全保障上、条約を守りにくい事態が周辺国で起きているからであり、米国にとってはこの条約のためにアジアに展開している米軍部隊や同盟国に十分な抑止力が提供できずにいるからである。冷戦時代に結ばれたINF条約は現代の戦略環境に適したものではなく、むしろ安全保障の足かせになっているというのが米ロ双方の一致した見解なのである。
それではINF条約が破棄された場合、それは日本の安全保障にどう影響するのだろうか。冷戦時代の西欧で懸念されたのは米国本土の戦略核兵器がどれほど欧州の抑止力になるのかということであった。言い換えれば、米国はミュンヘンを守るためにシカゴを犠牲にするのかということであった。西欧諸国は安心の証しとして、中距離核の欧州配備を望んだのである。
冷戦後の東アジアも今、似たような状況にある。北朝鮮は核とミサイルの開発を強行し、中国は日本を射程に収める核搭載可能な弾道ミサイルを多く配備している。しかし、これに対応する米国の地域配備の核戦力は陸上にも洋上の艦艇にも配備されていない。
もし、将来、米国がINFを配備するとすれば、それは間違いなく太平洋西部を射程に収める中国のINFを意識したものになる。中国は15年、太平洋地域のほとんどの米軍基地を射程に収める射程3000〜4000キロの弾道ミサイル「東風26号」を配備した。
しかし、米国がINFの配備で中国に対抗するのは難しいだろう。INFは地上に配備され、通常、移動式の発射台に搭載されて居場所をさとられないよう時折移動する必要がある。面積の広い欧州ではそれも可能だったが、東アジアではそうした空間を確保するのが難しい。
例えば、グアムは狭く移動できる場所が限られるし、日本の国土に核兵器を配備するのは政治的に極めて困難だ。韓国は北朝鮮の核問題がある上に、あまりに中国に近い。また、フィリピンは現地の政治情勢から、安定した基地の運用が可能かどうか不透明だ。こうしたことから、米国が東アジアに地域型の核戦力を配備するとすれば、米国の報告書が指摘したように、INFではなく、航空機や艦艇、潜水艦に搭載する核巡航ミサイルが最も現実的な選択肢のように思われる。
しかし、それでも米国の東アジアへの核配備は日本の国内で大きな議論を巻き起こすだろう。もし、米国の第七艦隊が、核ミサイルを搭載した艦艇や潜水艦を運用するとすれば、事実上の母港であり、アジア最大の補給能力を持つ横須賀基地の支援なくして考えにくい。その場合、日本の「核兵器をもたず、つくらず、もちこませず」といういわゆる非核三原則をどうするのか。この議論は、米国が核兵器の海洋配備を中止した1990年代前半までしばしば行われた古い議論だが、日本政府はいつも「米国からの通報がないので、核を搭載していないと解釈する」という理屈で切り抜けていた。
しかし、今、中国や北朝鮮の核ミサイルの直接の脅威にさらされているのは日本であり、その抑止力として活動する米海軍部隊についてそのような説明をすることは無責任である。米国の核の傘に依存しながら、一方で非核三原則を維持するのは明らかに矛盾しているからだ。非核三原則のうち、「もちこませず」という部分をどのように扱うのかという具体的な議論が必要になるのではないか。
日本は今、冷戦下のドイツと似た環境にある。米国は東京を守るためにロサンゼルスを犠牲にする覚悟があるのか。この問いかけが、INF再配備の背景に横たわっているのである。
http://wedge.ismedia.jp/articles/print/14624
首相「非核三原則を堅持」 平和記念式典
2018/8/6 8:34
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安倍晋三首相は6日、広島市で開いた平和記念式典で、非核三原則を堅持しつつ粘り強く核兵器国と非核兵器国双方の橋渡しに努めたとし、「国際社会の取り組みを主導していく決意だ」とあいさつした。2017年7月に採択され、日本が参加を見送っている核兵器禁止条約には昨年に続き触れなかった。「核拡散防止条約(NPT)の発効50周年となる20年のNPT運用検討会議が意義あるものになるよう積極的に貢献する」と語った。
https://www.nikkei.com/article/DGXMZO33835760W8A800C1MM0000/
INF条約破棄が非核三原則見直しを日本に迫る?
冷戦期の最前線に置かれたドイツとの相似
森 永輔森 永輔
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2018年10月26日(金)
ドナルド・トランプ米大統領が10月20日、INF(中距離核戦力)廃棄条約を破棄する意向を明らかにした。米国と旧ソ連が1987年に調印した、初めての核軍縮条約だ。しかし、核戦略に詳しい川上高司・拓殖大学教授は「米国の真の狙いは中国への対抗にある」と見る。その先には、日本が、非核三原則の見直しを迫られる可能性が浮上する。
(聞き手 森 永輔)
トランプ大統領は、先人が築いた平和の礎を破棄する意向を表明した。写真左はソ連トップのゴルバチョフ氏、右は米大統領のレーガン氏(写真:AP/アフロ)
トランプ大統領が、米国がロシアと交わしているINF(中距離核戦力)廃棄条約を廃棄する意向を示しました。狙いはどこにあるのでしょうか。
川上 高司(かわかみ・たかし)氏
拓殖大学教授
1955年熊本県生まれ。大阪大学博士(国際公共政策)。フレッチャースクール外交政策研究所研究員、世界平和研究所研究員、防衛庁防衛研究所主任研究官、北陸大学法学部教授などを経て現職。この間、ジョージタウン大学大学院留学。(写真:大槻純一)
川上:この条約は、米国とロシアがともに、核弾頭の搭載が可能な射程500〜5500km(中距離)の陸上配備型弾道ミサイルおよび同巡航ミサイルを開発、発射実験、生産、保有しないと約束したものです。しかし、米国の真の狙いは中国との軍事バランスを米国優位で保つことにあるとみています。
中国は、米軍が中国沿岸に近づくのを阻止すべくA2AD*と呼ぶ戦略を推進しています。これは1996年の台湾海峡危機で得た教訓から導かれた戦略。台湾総統選挙に中国がミサイル演習で介入した際、米国は空母2隻を派遣し、これを抑え込みました。
*:Anti-Access, Area Denial(接近阻止・領域拒否)の略。中国にとって「聖域」である第2列島線内の海域に空母を中心とする米軍をアクセスさせないようにする戦略。これを実現すべく、弾道ミサイルや巡航ミサイル、潜水艦、爆撃機の能力を向上させている。第1列島線は東シナ海から台湾を経て南シナ海にかかるライン。第2列島線は、伊豆諸島からグアムを経てパプアニューギニアに至るラインを指す。
A2ADの一環として中国は、弾道ミサイルを東シナ海や南シナ海に向けて1400〜1800発配備しています。このため、米軍の空母が東シナ海で活動しづらくなる可能性が高まっているのです。
米国は、中国が配備するこれらのミサイル群とのバランスを保つため、中距離の核戦力を東アジアに展開したい。しかしINF廃棄条約があるため、これがかないませんでした。
「ツキディデスの罠」が現実化
なぜこのタイミングなのでしょう。
川上:中国の経済成長は著しく、そのGDP(国内総生産)は遠からず米国を追い抜くと予想されています。それが軍事費にも反映される。今を逃したら、米国の軍事的優位性が維持できなくなると考えたのだと思います。
トランプ政権においてこの2〜3カ月の間に対中強硬派が発言力を増しています。マイク・ペンス副大統領が10月8日に講演し、「中国が(世界中で)政治・経済・軍事的な手段を総動員して影響力を拡大しようとしている」と発言したのはその象徴です。軍事に関しては「(編集注:中国は)海洋や宇宙などで米軍の優位性を揺るがすための軍事力増強を最優先している」と主張しました。
かつて中国の専門家が「ペンスが大統領になるよりトランプの方がまし」と語っていたのを思い出します。
国家安全保障問題担当の大統領補佐官を務めるジョン・ボルトン氏も対中強硬派の一人です。今年3月、H.R.マクマスター氏に代わって就任しました。
オバマ政権の末期に国防総省が応用科学研究所に委託して、金融市場を舞台にした“戦争”のシミュレーションを行いました。現在進行中の対中貿易戦争はこれを実行に移したものとみられます。米国は新たな覇権国を目指す中国を、経済・金融を総動員して抑え込む考え。そして、当然、軍事力でも抑え込む意向です。INF廃棄条約の破棄はその一環だと考えられます。“ハイブリッド型”の戦争が米中間で始まったと見るべきでしょう。
「ツキディデスの罠」がまさに進行しているのですね。古代ギリシャの歴史家ツキディデスがペロポネソス戦争を描く中で、新興国が台頭し強力になると、既存の覇権国の不安が増し、戦争が起こる、と記しました。
川上:おっしゃるとおりです。
タイミングについては、中間選挙が近づき、トランプ大統領がロシアに対して強硬な姿勢を示したかったという事情もあるでしょう。ロシアゲート疑惑の捜査が依然として続いています。
次ページ「ロシアの方がINF廃棄条約の順守に消極的だった」
https://business.nikkeibp.co.jp/atcl/interview/15/230078/102500167/
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