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欧州最大の防衛装備展示会「ユーロサトリ」で痛感、日本の国防に必要な論点
https://diamond.jp/articles/-/173584
2018.6.29 小泉 悠:軍事アナリスト、公益財団法人未来工学研究所客員研究員 ダイヤモンド・オンライン
戦車から移動式調理システムまで
軍隊のあらゆる装備品が大集合
欧州最大の国際防衛・安全保障展示会「ユーロサトリ」から、軍事専門家による会場ルポをお届けする。世界の最新潮流と日本の国防の未来とは
ユーロサトリというイベントがある。フランスのパリ郊外において隔年で開催される欧州最大の国際防衛・安全保障展示会であり、今年は6月11日から15日にかけて開かれた。筆者も今回、「ニコニコドキュメンタリー特集『国防』を考える」という企画で同会場を訪れることができたので、以下、その模様について何点か書き留めてみたい。
欧州最大を謳うだけあり、ユーロサトリの規模は巨大である。
都合3つの展示パビリオンと屋外展示スペースを用いて、国防・安全保障用途の様々な装備品がびっしりと展示されている。それも戦車や装甲車、防空システムといった「わかりやすい」ものから、通信システムや電子妨害システム、ヘルメット、防弾チョッキ、果ては戦場で食事を供給するための移動式調理システム(実際に焼いたパンなどを試食させてくれるところもあった)に至るまで、およそ軍隊が必要とするあらゆる装備品が網羅されている。
こうして様々な装備品を実地に展示して見せることにより、会場を訪れる顧客(各国の政府や軍の高官も含まれる)に売り込みを図ることがユーロサトリの中心的な機能の1つであるようだ。
ところで筆者はロシアを始めとする旧ソ連の軍事・安全保障政策を専門としている。それゆえロシアの武器展示会には何度も足を運んでいるが、欧州のそれは今回のユーロサトリが初めてであった。
その上でまず印象に残ったのは、ユーロサトリは「ビジネス」の色彩が極めて強いということである。ロシアの武器展示会は半ば愛国イベントとしての性格を持っているので、一般人でも入場が容易だが(ただし開催期間の前半はトレード・デイとしてチケットが極端な高額に設定される)、ユーロサトリは事前申請の上、審査を受けた入場者しか受け付けてもらえない。
要するに実際に武器を売買する気がある人、政府関係者、メディア関係者ら以外は「原則としてお断り」ということのようだ。実際、会場内は背広や軍服姿のパリッとした人々ばかりで、普通のお父さんが子連れで見物に来られるような雰囲気ではない。
実はユーロサトリを訪問するにあたり、筆者はニコニコドキュメンタリーを運営するドワンゴを通じて取材許可を受けていたのだが、直前になって許可が突如取り消されるという経験をした。その後、個人資格で再申請してどうにか会場には入ることができたのだが、カメラクルーは入場を拒否され、筆者が1人で会場内をぶらつくという、何ともしまりのない結果になってしまった。
さらに展示品の中には撮影禁止のものが多く、知らずにカメラを向けるとあっという間に警備員が飛んでくる。これもロシアの武器展示会ではちょっと経験したことのないカルチャーだ。「西側」のほうが万事オープンかというと意外とそうでもない、という貴重な教訓であった。
航空機も地上車両も「無人」
驚くべきロボット兵器のいま
もう1つ印象に残ったのは、ロボット兵器の普及が凄まじい勢いで進んでいるという点である。
会場内をちょっと歩いてみるだけでも、無数の企業が無人航空機(UAV)や無人地上車両(UGV)を展示しており、それもかなり大型のものからごく小さなものまで様々だ。しかも、米国、欧州、イスラエルといった先進国だけでなく、トルコやパキスタン、さらには旧ソ連のエストニアやアゼルバイジャンに旧ユーゴスラビアのセルビアまでが、こうした兵器を持ち込んでいる。
ロシアもこれに先立つ5月9日、赤の広場における軍事パレードで新型ロボット兵器群を披露したばかりだ。ロボット兵器はもはや特別なものではなくなりつつあることがよく分かる。
その全てをここで紹介することはもとより不可能だが、ちょっと興味を引かれたのはイスラエルのメーカーが展示していたごく小型のヘリ型UAVである。見た目はありふれた監視・偵察用ドローンという感じだが、撮影した映像を一度人工知能でフィルタリングし、運用者にとって有用な部分だけを選択的に送信してくるという。これによって限られた通信容量でも高速の通信を可能とするという仕組みのようだ。米空軍も近年、偵察衛星に同じような機能を搭載しようとしている。
UAVにせよ人工衛星にせよ、無人で運用される兵器と人工知能という組み合わせは必然的なものであろう。ロボット兵器がその場で判断を下すことができるならば、いちいち遠くのコントロールセンターに指示を仰ぐ必要はなくなるし、コントロール電波を妨害される恐れも低い(実際、ユーロサトリではUAV用の電子妨害システムも多数展示されていた)。そして、こうした流れが進んで行けば、いつかは人間が介在せずとも人工知能の判断でフルオート攻撃を行う兵器も登場してくるに違いない。
しかし、人工知能が決断した武力行使の結果として民間人の巻き添え被害などが出た場合、その判断は誰が取るのか。あるいは、人間の命を奪う決定を完全に機械任せにしていいのか。こうした問題は近年、国際法上のホットトピックになっているものの、依然として結論は出ていない。
欧米のメーカーだけでなく、アジア勢の進出も目立った。特に勢いがあったのは、すでに活発な武器輸出国となっている中国と韓国で、パビリオンの中心部にかなり大規模なブースを構えるメーカーが多かった。
中国の大手軍需企業であるNORINCO(中国北方工業公司)のブースを覗いてみると、戦車や装甲車、ミサイルなどの模型をずらりと並べ、制服姿の軍人たちに対して盛んに売り込みを行っている。欧州諸国が中国製兵器を導入する可能性は低いにしても、世界中から視察団が訪れる会場内には潜在顧客が少なくないのだろう。韓国からは火器や銃砲弾のメーカーが出展し、こちらもそれなりに賑わっていたようである。
日本の防衛装備庁のブースは
センスがちょっと残念……
日本からは防衛装備庁と数社の日本企業が出展していたが、こちらはいまひとつ活況とは言えないように見受けられた。会場のやや外れのエリアを割り当てられたためという事情もあろうが、防衛装備庁のブースは役所のパワーポイントをそのまま貼り付けたような文字だらけの展示で、遠目からのインパクトに欠けたようである。サンプルや模型の展示が乏しいことも、人目を引きにくかった要因ではないかと思われる(何といっても人間の視線はわかりやすいものへと向かう)。
もちろん、防衛装備庁という組織の性格上、直接のセールス活動を行うことを目的するわけではないのだろうし、文字だらけの展示も玄人が読めば意義深いものではあろう。
ただ、展示会という場に出展する以上は、それなりの体裁というか見栄えは考慮してもよかったのではないか。前述したセルビアやエストニアなどは、小国ながらも国防省自身がデザイン性の高いブースを構え、そこに各メーカーが最新製品を工夫を凝らして展示することで、かなり存在感を発揮していた。このあたりは専門のコンサルタントを入れるなどして、もう少し改善を図ることができそうである。
反戦団体の妨害行為も発生
日本にとって他人事ではない
最後に、ちょっと毛色の違う話をしておきたい。
ユーロサトリの会場にはデモ展示エリアがついており、装甲車などが障害物を乗り越えてみせる様子が実演される。中には芝居仕立てのものもあり、難民を襲うテロリストを機関銃付きロボット戦闘車が撃退してみせるなどというストーリーもあった。
ところがその最中、デモ展示エリアに7、8人の男女が乱入し、警察官がこれを押さえつけ始めた。さっきは難民を助けていたのに今度は難民を捕まえるストーリーなのだろうか、と思っていると会場内にアナウンスがあり、これは反戦団体の妨害行為であるという。
そういえば会場の最寄り駅前では、武器輸出に反対する団体がイスラエルへの武器輸出反対などを訴えるデモ活動を行っていた。彼らが警備を突破して会場内に乱入してきたということらしい。帰り際にふと会場の隅の方を見ると、全員が手錠を掛けられて拘束されており、なかなかに生々しい光景であった。
ただ、日本が武器輸出三原則を緩和して武器輸出や共同開発に道を開いた以上、こうした事態も日本にとって他人事ではなくなっていくだろう。武器輸出の重点を商業的利益に置くのか、より政治的な影響力の拡大などに用いるのか。その際に生じる摩擦はどこまで許容でき、どのレベル以上になると負担し切れないのか……。
日本が武器輸出国となるのであれば、こうした点まで含めての総合的な武器輸出戦略のようなものを検討してみてはどうだろうか。
(取材・文・撮影/軍事アナリスト、公益財団法人未来工学研究所客員研究員 小泉 悠)
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