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2023年4月12日 06時00分
https://www.tokyo-np.co.jp/article/243490?rct=national
<連載 この国で生まれ育って 「入管法改正」の陰で>@
「なぜ2歳の子の保険証まで取り上げるのですか」
埼玉県内の古いアパート。両親、3人の妹や弟と暮らすクルド人の中学2年生女子、セレンさん(13)=仮名=は悲痛な声で語る。
2022年10月、2歳の妹が39度の熱を出した。2日たっても下がらず、両親は病院に連れていくことも考えた。しかし、一家は健康保険証がなく、治療費は全額自己負担。市販薬で幸い回復したが、「今度誰かが病気になったら…」。不安は尽きない。
保険証がないのは一家が日本での在留資格がない、違法状態の非正規滞在者のためだ。
クルド人はトルコなどの少数民族。父は10年に来日し「母国で迫害された」と難民申請した。しかし、出入国在留管理庁(入管庁)から不認定とされ、在留資格がないまま申請を繰り返している。別に難民申請をした残りの家族は当初在留資格を与えられていたが、22年8月に不認定が決まり在留資格を失った。
クルド人 独自の言語と文化をもつ民族で推定人口は約3000万人。「国を持たない最大の民族」と呼ばれ、トルコ、イラク、シリアなどにまたがって居住。トルコでは弾圧が激しく多くの人が難民として逃れており、国連(推計)によると2011年から9年で世界各国で約5万人のクルド人が難民認定された。日本でも埼玉県蕨市や川口市に約2000人が住んでいるが、国内では難民認定例はほとんどなく、昨年1人が認定されたにとどまる。
現行制度では、在留資格がない非正規滞在の外国人は入管施設へ収容するのが原則だ。ただ一定の条件を満たす人は「仮放免」として、入管施設外での生活を認められる。一見自由にも映る立場だが「おりのない監獄」(ある仮放免者)と呼ばれるほど制限だらけ。セレンさんの生活も22年8月から一変した。
まず県外に出られない。「夢だった東京ディズニーランドはあきらめました」
何より働いて収入を得ることが禁止だ。同郷の親戚の援助に頼らざるを得ない生活。「高校生になったらアルバイトで家族を助けたいけどそれもできない」。生活保護も受けられない。
厳しい制限を設けることについて、入管庁は「そもそも退去すべき人に労働などを認めるのは不適当」と正当性を強調するが、収入手段を全て奪うのは憲法違反との指摘も識者から出る。入管難民法改正案でも条件緩和はない。
セレンさんは問う。「私は日本で育ち、弟妹は日本で生まれた。みんなと同じ人間なのになぜ何の権利もないのですか。私たちに死んでほしいのでしょうか」
近藤敦・名城大法学部教授の話 憲法は13条で個人の尊厳や生命に関する権利を保障し、25条で「健康で文化的な生活を営む権利」として生存権を保障する。入管庁が強制送還できない外国人を仮放免しながら、働くことも生活保護受給も認めないのは、尊厳ある人として生存する権利を脅おびやかし、憲法に違反する疑いがある。日本が批准する国連自由権規約も「何人なんびとも品位を傷つける取り扱いを受けない」としており、これにも抵触する。
◆仮放免とは?近年急増
入管庁は、在留資格がなく違法状態の在留外国人について、入管施設への収容を原則としているが、難民審査が長期化したり子どもだったりする場合などは「仮放免」として施設外生活も認める。ただし労働の禁止など厳しい制限がある。
仮放免者は2019年6月には2303人だったが、新型コロナ禍で施設収容が難しいことなどが影響し、21年末には4174人(いずれも退去命令を受けた人)に急増。20歳未満は19年6月時点で304人で、さらに増加しているとみられる。
難民不認定への異議申し立てや再申請などで仮放免生活が長期に及ぶ人も多く、19年6月時点の仮放免者のうち4割が「5年以上」だった。
◇
在留資格のない外国人の強制送還を促進する入管難民法改正案の国会審議が13日から始まる。その陰で、日本で生まれ育ちながら在留資格がなく「仮放免」という立場に置かれた外国人の子どもたちの過酷な実態が置き去りになっている。小さな苦悩の声を4回にわたり緊急報告する。(池尾伸一)
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