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20世紀後半に見つかった不思議なネットワーク/日経ビジネス
島田 太郎 他 1名
東芝執行役上席常務・最高デジタル責任者
2021年1月5日
https://business.nikkei.com/atcl/gen/19/00232/122400002/
スケールフリーネットワークはなぜ必要か
なぜDXを起こすためにスケールフリーネットワークが必要なのか。順を追って説明します。まず前提となるのが「未来は予測できない」ということです。
未来は決まっているのか、我々はそれを正確に予測できるのか。これは人類が昔から追及してきた問題です。「この世の中のすべてのモノの状態を知ることができ、それを分析する能力を持つ知性があれば、未来は正確に予測できる」と考えたのは、18世紀のフランスの数学者、ピエール=シモン・ラプラス。科学の発達により、様々な現象のルールやメカニズムが解明されつつあった時代のことでした。
このまま科学が発展し続け、いずれ自然界の法則がすべて分かれば、世界で起こるすべての事象を予測できるようになるはずだ、とラプラスは考えました。未来を予測する人間を超越した知性は「ラプラスの悪魔」と呼ばれ、この考え方は当時広く信じられていました。
ところが20世紀初頭、量子力学が生まれると、状況が変わります。不確定性原理によって、原子の位置と運動量を同時に観測することはできないことが明らかになったのです。いくらラプラスの悪魔のような超越的な知性ができたとしても、世界の状態を正確に把握することは原理的に不可能なのです。
さらに1960年、米国の気象学者、エドワード・ローレンツが従来の常識を覆すような発見をしました。ローレンツは当時登場したばかりのコンピューターを使って、気象予測を試みていました。コンピューターの処理能力がまだまだ低かった時代、ローレンツは気象に影響を与える数多くの変数の中から、わずか3つだけを取り入れた簡易な計算モデルを作り、シミュレーションを行いました。
変数に少しずつ違う数値を代入してグラフ化すると、驚くべき結果が現れました。たった3つしか変数がないシンプルな方程式なのに、ほんのわずか数値を変えるだけで、計算結果がまったく違う値となったのです。計算結果をグラフ化した複雑な図形は、後に「ローレンツ・アトラクタ」と呼ばれ、カオス現象のひとつとしてよく知られることになります。
ローレンツは、初期値のほんのわずかな違いが大きな結果の違いにつながることを発見しました。変数がわずか3つしかない単純な方程式ですら結果を予測できないのに、無数に変数が存在する現実世界の予測ができるわけがありません。ローレンツはこのことを、「ブラジルで1匹の蝶(ちょう)が羽ばたくとテキサスで竜巻が起こる」という劇的な言葉で説明しました。これがいわゆる「バタフライ効果」です。
樹形図という考え方の限界
このように世の中は予測不可能なカオスの世界ですが、人間は複雑な状況に対応するのが苦手なので、つい分類したがる性質があります。
例えば世の中の企業組織に目を向けてみましょう。ほとんどの組織は、社長をトップとした樹形図型の組織構造になっています。ところが現実の世の中はこのように整然と構造化されていません。このため、組織というのは、できたときから古くなっていきます。そして、現実に合わせて組織を変えていかないと、すぐに現実にそぐわなくなってしまいます。
生物進化の系統樹も樹形図として描かれます。この系統樹を見ると、ひとつの原始的な生物から様々な種が枝分かれし、現在の多様な生物群を形作っているように見えるでしょう。ところが、実際は生物はこのように整然と進化してきたわけではありません。新たな生物が生まれては淘汰され、その中で環境に偶然適応したごく一部の生物だけが生き残りました。現在の生物の多様性は、生き延びられなかった多くの種がいたからこそできあがったものなのです。
このように、未来は予測不可能で、整然と分類することもできません。これはビジネス環境も同じです。特にインターネットの登場とデジタル化により、ビジネス環境の変化は加速しており、ますます正確な予測が難しくなっています。10年、20年の精密な長期計画を作ったとしても、あっという間に前提条件が崩れて通用しなくなるかもしれません。
では、私たちはそんな世の中で、一体どのように行動すればいいのでしょうか。事業計画を作るのは諦めた方がいいのでしょうか。そんな問題を解決するヒントが、20世紀の終わりに見つかりました。それがスケールフリーネットワークです。
(以下、略)
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