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「虐待」の濡れ衣、もし着せられそうになったら
揺らぎはじめた「揺さぶられっ子症候群」の科学的根拠
2019.4.11(木) 柳原 三佳
赤ちゃんが大好きな「たかいたかい」が、脳損傷の原因として疑われることも(写真はイメージです)
(柳原三佳・ノンフィクション作家)
4月10日、NHKニュースで、『虐待疑いの子ども “退院できない”去年は399人』というタイトルの報道が流れました。
https://www3.nhk.or.jp/news/html/20190410/k10011878771000.html
内容を大まかにまとめると、昨年、親からの虐待を疑われて医療機関に入院した子ども1781人のうち、治療が終わっても受け入れ先が見つからず退院できなかった子が、399人(22.4%)いたというのです。
不慮の事故や病気なのに「虐待」を疑われることも
これは、厚労省が全国の医療機関を対象に調査した結果で、被虐待児を受け入れているすべての医療機関が回答したわけではありません。しかし、多くの子どもたちが親から虐待を受け、そして、完治してもなお、受け入れ先がないまま病院で長期間過ごさなければならないという現実は、あまりに過酷です。
一方、このニュースに触れて、私はある点に大きな不安を感じました。それは、「『虐待疑いの子ども』の中に、『本当は虐待などされていない子ども』が混ざり込んでいないか?」という問題です。
私はこの2年間、不慮の事故や突然の病気の可能性が高いにもかかわらず、虐待を疑われ、不本意なかたちで子どもと引き裂かれた複数の保護者に直接会い、取材を重ねてきました。そして、その中で出会った数多くの家族の実例を、『私は虐待していないー検証 揺さぶられっ子症候群』(講談社)にまとめました。
その中から、ごく一例をあげてみます。
「生後7か月でつかまり立ちから後ろへ転倒し、突然、痙攣をおこしたため、すぐに救急病院へ運んだが、脳に出血がみつかり、緊急手術となった。心配でたまらず、病院で待機していたら、虐待の可能性もあると言われ、子どもはそのまま、児童相談所によって一時保護され、1年以上親子分離が続いている。その上、妻は傷害で逮捕されてしまったが、かろうじて疑いが晴れ、不起訴処分となった」
「生後2か月の赤ちゃんが、いつものようにお昼寝をしていたところ、突然顔面が蒼白になったため病院へ運んだ。検査の結果、脳に出血が起こっていることがわかり、2カ月後に亡くなった。そして、約1年後、孫の面倒を見ていた祖母が虐待をした疑いがあると言われ、傷害致死の容疑で逮捕され、1審では懲役5年半の実刑判決が下されてしまった」
可愛いわが子や孫が、突然、重篤な状況に陥いる・・・、普通であればその状況は、身を切られるほど辛いことです。子どもを守ってやれなかった自分を責め、苦しむ人もいることでしょう。にもかかわらず、ふと気づけば、そんな自分たちが「虐待をした張本人」として疑われているのです。
信じられないかもしれませんが、今の日本では、日々の子育てのなかで、ほんのわずか目を離した瞬間にケガをしてしまった、また、お昼寝中に突然容体が急変してしまったといった場合、いくら保護者が病院で事実を説明しても、まず信じてはもらえないのです。それまでの発育状態がどれだけ良くても、ほかに傷ひとつなくても、いざ赤ちゃんの脳に出血などの異常が見つかると、即座に虐待を疑われ、「被疑者」として扱われることがあるのです。
その根拠となっているのは、『揺さぶられっ子症候群』という診断です。
「揺さぶられっ子症候群=虐待」の怪しい科学的根拠
厚労省のサイトでは、赤ちゃんを激しく揺さぶる様子が動画とともに解説されており、英語では「Shaken Baby Syndrome(シェイクン・ベイビー・シンドローム)」、頭文字をとって「SBS(エスビーエス)」と呼ばれています。
厚労省の助成金で作成されたマニュアルによると、赤ちゃんの頭部に、
(1)硬膜下血腫/頭蓋骨の内側にある硬膜内で出血し、血の固まりが脳を圧迫している状態
(2)眼底出血(網膜出血)/網膜の血管が破れて出血している状態
(3)脳浮腫/頭部外傷や腫瘍によって、脳の組織内に水分が異常にたまった状態
という3つの症状があれば、『揺さぶられっ子症候群(SBS)』=虐待の可能性が高いと診断されるようです。マニュアルによれば、つかまり立ちのように低い位置から転んだ程度では、脳に出血は起こらないとされているのです。
しかし、取材をする中で、私は国内外の脳神経外科医たちから、現在の日本における『揺さぶられっ子症候群(SBS)』の診断のあり方について、厳しい批判の声を多数聞いてきました。彼らは豊富な臨床経験から、「つかまり立ちからの転倒事故でも硬膜下血腫が起きることはある」とはっきり述べており、機械的に「虐待」と判断する診断のあり方に警鐘を鳴らしています。
国際シンポジウム『揺さぶられる司法科学』では、「揺さぶられっこ症候群仮説の信ぴょう性を問う」と題して、弁護士や医師らがパネルディスカッションを行った(2018年2月)
拙著『私は虐待していないー検証 揺さぶられっ子症候群』の中に詳細にまとめていますが、諸外国では既に「SBSに科学的な根拠はない」という意見が主流となり、刑事訴追しない方向に進んでいます。日本でも弁護士や法学者が中心となって「SBS検証プロジェクト」が立ち上がり、刑事弁護に力が注がれ、昨年から今年にかけて、揺さぶられっこ症候群に関する事件に対して、無罪判決が立て続けに下されているのです。
わが子と離れ離れにされた責任は誰が?
冒頭のNHKニュースの中で、厚生労働省は、「病院で長期間過ごすことは子どもの発育を考えると不適切であり、受け皿を拡大させるとともに入院の初期から次の受け入れ先を探すなど対策を徹底したい」とコメントしていました。また、医療現場からも、「子どもの発達の遅れや診療体制への影響を懸念する声」が上がっているそうです。
実際には転倒事故だったにもかかわらず、「揺さぶられっ子症候群」と診断され、1年以上もの親子分離を強いられた経験を持つ男性は、憤りを込めながらこう語ります。
『私は虐待していないー検証 揺さぶられっ子症候群』(柳原三佳著、講談社)
「子どもへの虐待は許されません、子どもの命を守るためにオーバートリアージにならざるを得ないのも理解できます。しかし、科学的根拠が疑問視されているSBS理論を妄信して一方的に揺さぶり虐待を疑い、その結果、親と長期間引き離される子どもの辛さを考えてみてください。それこそ子どもへの虐待といえるのではないでしょうか。間違いだった、では済まされません、親と引き離されたかけがえのない時間、心の傷は、いったいだれが責任を取ってくれるのでしょうか・・・」
事故か、病気か、虐待か・・・。特に、「揺さぶられっ子症候群」と疑われた子どもがいる場合は、病院や警察関係者の方には、ぜひ慎重に調査していただきたいと思います。
http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/56077
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