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ヤクザがシャブをやっちゃう理由
日本のシャブ事情(前編)
2019.4.5(金) 廣末 登
気づかないだけで、覚せい剤は身の回りで確実に増えている(写真はイメージです)
(廣末登・ノンフィクション作家)
昨今、覚せい剤の摘発記事に接し、驚かされることがある。それは、摘発される量の多さだ。何グラム、何パケなどのレベルではなく、ハンパない量が摘発されている。
シャブ(=覚せい剤)市場としてオイシイ国ニッポン
たとえば、平成30年2月17日に、成田空港で2人のカナダ人が覚せい剤密輸で逮捕された。
2人は別々の飛行機で来日し、面識はないという。カナダ人の男女が相次いで逮捕され、あわせておよそ47kg、28億円相当である。この日、1日のみの摘発量で、成田税関支署の平成30年の覚せい剤押収量の9割にあたるとのこと。
平成28年に警察が検挙した覚せい剤の密輸入事件(82件)について、その仕出地の内訳を見ると、香港と台湾を除く中国(24件、29.3%)が最も多く、アメリカ(14件、17.1%)、香港(8件、9.8%)、台湾(8件、9.8%)と続いており、カナダというのは珍しい。
現在は、国際的な政治的事情と当局の取り締まり強化を受け、北朝鮮やロシアンルートが無くなったため、南方からのチャイナルートが主な供給源だと言われている。
豪で870億円相当の覚せい剤押収 過去最多、中国からか
オーストラリア西部ジェラルトンで1.2トンのメタンフェタミン(結晶状覚せい剤)を押収後、容疑者らを見張る捜査員ら。このメタンフェタミンは、船からの荷降ろし後に差し押さえられた。当局は同船の出港地を中国とみている。豪連邦警察提供(2017年12月21日撮影、公開)。(c)AFP PHOTO / AUSTRALIAN FEDERAL POLICE〔AFPBB News〕
ちなみに、平成30年、東京税関が摘発した覚せい剤事件の押収量は、およそ493kgにのぼり、昭和60年の統計開始以来最多となったそうである。
一方、全国の情勢をみると、覚醒剤密輸入事犯の検挙件数は増加し、平成26年以降3年ぶりに100件を超え、いわゆる運び屋による密輸入事犯の検挙が相次いだため、前年比で大幅に増加した。押収量は前年比で減少したものの、洋上取引や船舶コンテナ貨物の利用による大量密輸入事犯の検挙に伴い、前年に引き続き1000kgを超えたと、警察庁の報告にある(警察庁組織犯罪対策部組織犯罪対策課「平成29年における組織犯罪の情勢」)。
筆者が、福岡県更生保護就労支援事業所で最近支援した、ひとりの保護観察対象者の方は、知人に頼まれて、覚せい剤を「体内に隠して」入国を試みたために逮捕。営利犯(販売目的=営利のための覚せい剤所持)未遂で、長期間刑務所に服役していた。
「体内で、シャブ(覚せい剤)の袋が破けなくてよかったね。破けたら、マジであの世行ってたよ」と、筆者が言うと、「そうなんですよ。思い返すと恐ろしいことです。もう、絶対しません」とのこと。彼は、自分で覚せい剤を使用していた人ではないので、その言葉に偽りはないと思う。現在は、日々マジメに働き、雇用主の評判も良い。
この記事を書いている4月2日、同様の手口で覚せい剤を密輸しようとした台湾人が死亡したとの記事が毎日新聞に掲載された。
記事によると「台湾人の60代男性が東京都台東区のホテルの部屋で死亡しているのが見つかり、司法解剖の結果、体内から覚醒剤とみられる薬物が入った小袋約50袋が見つかった」とのこと。筆者の指摘を裏付ける悲劇である。
覚せい剤1トン密輸、台湾人8人に死刑判決 インドネシア
メタンフェタミン(結晶状覚せい剤)約1トンを密輸したとして、インドネシアの首都ジャカルタの裁判所で判決を待つ台湾人の被告ら。裁判所はこの日、彼らに死刑判決を言い渡した。(2018年4月26日撮影)。(c)AFP PHOTO / Ari Firdaus 〔AFPBB News〕
なぜ、このような危険を冒してまで、覚せい剤を日本国に入れようとするのか。読者の皆さんは不思議に思われると思うが、その答えは簡単「儲かるから」。海外の市場で覚せい剤を売っても、それほど利幅はない。しかし、日本の市場は、ハイリスクではあるもののハイリターンであり、間違いなく儲かるカタイ商品なのである。
数字で見るシャブの現在(いま)
近年の覚せい剤取締法違反(覚せい剤に係る麻薬特例法違反を含む)の検挙人員(特別司法警察員である麻薬取締官や海上保安官が検挙した者を含む)の推移をみると、平成13年以降は減少傾向にあったものの、平成18年以降はおおむね横ばいで推移し、毎年1万人を超える状況が続いている。もっとも、こうした数字は検挙された者を対象としているので、氷山の一角であることを念頭に置いていただきたい。
次に、再犯者に目を転じると、警察が検挙した覚せい剤取締法違反(覚せい剤に係る麻薬特例法違反を含む)の成人検挙人員のうち、同一罪名再犯者(前に覚せい剤取締法違反で検挙されたことがあり、再び同法違反で検挙された者)の人員及び同一罪名再犯者率(覚せい剤取締法違反の成人検挙人員に占める同一罪名再犯者の人員の比率)の推移は、近年上昇傾向にある。平成28年は65.8%であり、平成19年(57.1%)と比べて8.7ポイント上昇している。ウリ(覚せい剤の販売)も使用(自分に服用する)も、シャブで味をしめると、なかなか抜けられないようだ。
なお、平成28年に覚せい剤取締法違反により警察に検挙された者のうち、営利犯(販売目的)で検挙された者及び暴力団構成員等(暴力団構成員及び準構成員その他の周辺者)の各人員を違反態様別に見ると、同年の営利犯で検挙された者の比率は565人(5.4%)であり、その内、暴力団構成員等の比率は48.5%であった(平成29年版犯罪白書)。
これは、暴力団=覚せい剤という見方を肯定する数字である。ヤクザのシノギについて、山口組の顧問弁護士を務めた山之内幸夫氏は、ヤクザの間で、やってはいけない悪事とやっても良い悪事があるという点に言及している。
「窃盗、強盗などはやってはいけないシノギで、賭博、売春は本業、詐欺はやらない方が良いが、恐喝は比較的やっても良いとされる」(山之内幸夫『日本ヤクザ「絶滅の日」――元山口組顧問弁護士が見た極道の実態』徳間書店)。
『日本ヤクザ「絶滅の日」ー元山口組顧問弁護士が見た極道の実態』(山之内幸夫著、徳間書店)
山之内元弁護士は言及していないが、シャブは、ヤクザのシノギの中でもご法度の部類に入る。しかし、それはタテマエであり、実際はグレーゾーン。極道として「薬屋」と言われるのは恰好悪いが、不況時代の裏社会で確実に儲かるのがシャブをはじめとする麻薬ネタである。昨今は、ピエール瀧氏のコカイン事件が世間の耳目を集めたが、世の中には「シナモノ」と隠語で呼ばれるシャブ以外にも、大麻やコカイン、合成麻薬等、薬屋のシノギのネタは様々である。
ちなみに、昨今ではポンプ(注射器)も品薄であり、昭和の時代にみられたように、パケ(覚せい剤の小袋)買ったらポンプが1本もれなく付いてくるなどというサービスは無くなり、1本1000円から1500円で取引されている。
世の中の暴排が進み、シノギが先細りする昨今、ハイリスクであろうと、恰好悪かろうと、ITや金融、合法企業経営などに明るいモダ―ンな組織でない限り、背に腹は代えられないから、薬屋に甘んじないと食えない現実があるのではなかろうか。
ヤクザがシャブをやっちゃう理由
ヤクザがシャブを扱うのは「どうせ、自分の快楽の為でしょ」と思われがちである。そうした見方を筆者は否定しない。しかし、彼らのサブカルチャーを知るにつけ「そりゃ、シャブに走るのも無理ないな」と思われるような、切ないケースも散見されるのである。以下、引退したヤクザの元幹部M氏に聞いた「シャブをやっちゃう理由」につき、紹介する。
確かに、ヤクザでも好奇心からシャブに手を出し「こりゃ超気持ちいいわ」と、ズブズブの関係になる人がいる。彼らの多くは何らかの非行集団に関係していた過去があるから、日常生活において、比較的近いところにシャブがある。だから、つい、好奇心からツマミ食いしたくなるのも首肯できる。しかし、それ以外にも、ヤクザというサブカルチャーの中で生きていると、止むを得ない事情もあるのである。
M氏によると、「ヤクザはね、シャブやんないといけない場面があり、二つの理由から(シャブの使用は)止むを得ないこともあるんだよ」と言う。
「理由の一つは、部屋住みの時(住み込みで雑用をさせられる時期)ね、若い衆は寝る時間がないんだよ。だって、親分が外出するのは夜でしょ(シマ内の店のハシゴなどなど)。車の中で待ってなきゃなんない。この待ってる間は眠たいんだよね。だから眠気覚ましにポンとやっちゃう」
「もう一つの理由。それは、兄貴分から勧められるんだよ。でもね、嫌とは言えないでしょう。だって、ヤクザは親(分)のために命を捨てる覚悟がいるんだからね。そこで、もし断ったらりしたら、『何やお前、われの命、組に預けたんちゃうんかい。死ぬんが怖いんか』って言われるよ。だから、ヤクザになると嫌でもシャブやんなきゃなんないんだよね」
こうなると一種の踏み絵である。
このM氏の話は、とても説得力があった。平成18年、彼と出会って以降、筆者は多くのヤクザの方と会うこととなるが、同様の体験を経て、シャブの常習者になった方は複数存在した。しかし、一方で、次のような理由でシャブに手を出したレアな方も居るのである。
「(シャブに手を出したんは)現役の頃や・・・。ちょっとこれには訳があるんや。実はな、わしの現役の頃に友人が居った。新聞社の人でなあ、いい人やった。この人が子どもの育て方をわしに教えてくれたんや。わし自身、子ども時代不遇やったから、その人の話聞いてな、わし、次第に(ヤクザの)組を抜けたいと考えるようになったんや。方法をいろいろ考えたんやが、一番いい方法がシャブやった。わしら博徒や、シャブでボロボロになったら、博徒は務まらん。それで(親分に)破門してもらったんや」
この話をしてくれたO氏は、博徒系ヤクザで、常盆の胴師(常に開催されている盆=すなわち常設賭場の札を繰る役を担当し、本引き博打の親側席の真ん中に座る。世話役である合力が両脇に座る)であり、腕が良かったため、引っ張りだこであったとのこと。
本引き博打は、誰でもが胴師になれるわけではないから「組を辞めるためにシャブでヨレた」体を取る以外に方法は無かったのだろう。
ちなみに、このO氏は、そのままツネポン(覚せい剤の常習者)になることなく、組抜けしたら直ぐにシャブとはキッパリと縁を切り、猛勉強をして牧師となり、刑務所に収監されている元同胞たちの相談役になっていた。
日本社会から麻薬が無くならない理由
筆者は覚せい剤、大麻、合成麻薬など、様々な中毒者の方と、公私共にかかわってきた。「公的かかわり」とは更生保護就労支援であり、「私的かかわり」とは、アングラ社会の取材である。
筆者がフィールドで感じたザックリとした感想で申し訳ないが、ツネポン(覚せい剤常習者)も、タマポン(タマにポンする使用者)も、社会生活上で何らかの不安や問題を抱えているように思える。
もっとも、女性の場合は、男性から影響を受けるケースが散見される。なぜなら、シャブの販売促進担当には女性が利用されることが多い。悪い奴は、まず、女性をシャブ漬けにする。そうしておいて、彼女を通して寄ってくる男性に広めてゆく。これは一般的なシャブの販売方法である。だから、同時に、性病なども抱き合わせ販売されているのではないかと、密かに危惧するところである。
『組長の妻、はじめます。: 女ギャング亜弓姐さんの超ワル人生懺悔録』(廣末登著、新潮社)
一般の方の使用者に関してみると、未来への希望の有無、慣習的な社会や人とのつながりの濃淡、強弱と関係があるように思える。現代社会では、人は容易に孤立する。人生で一度つまずいたら再起は難しく未来への希望も色あせる。会社員だから、学生だから、主婦だからといって、社会的居場所があり、万事オッケー問題なしと考えるのは、ちょっとばかし早計ではないか。
彼らは、そうした形式的な帰属集団で、日々苦痛を感じながら、必死になって自分の役割を演じているのかもしれない。苦痛は、やがて希望を蝕みながら厭世観へと成長し、社会的逃避の一環として覚せい剤に手を染めるのかもしれない。
『組長の娘―ヤクザの家に生まれて』(廣末登著、新潮文庫)
就労支援の現場で、調査フィールドで、筆者は幾度となくこうした事例を目にしてきた。人間は社会的動物である。ひとりでは生きられない。現代社会を侵食する社会的孤立などの問題は、人にとって、日本社会にとって、覚せい剤よりも問題視すべき根本的な社会病理であるように思えるのである。
次回は、筆者がアングラな取材現場で見聞きしたシャブの魔力について、拙著『組長の妻、はじめます。:女ギャング亜弓姐さんの超ワル人生懺悔録』(新潮社)、『組長の娘―ヤクザの家に生まれて―』(新潮文庫)の主人公たちの証言をもとに、生々しくリポートする。
http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/56013
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