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10代読書女子が「無気力・溺愛男子」を好む理由
好まれる男子像は一変、性描写も控えめに
飯田 一史 : ライター 2019年04月02日
ケータイ小説発の書籍の帯に並ぶ「涙する」「泣いた」「超号泣!」のキャッチコピー。読後の感情を全面にアピールすることで10代女子を引きつけている(東洋経済オンライン編集部撮影)
2000年代に起こった“ブーム”のあとも“ジャンル”として定着し、書籍化されるとコンスタントに10万部以上のヒット作が出続けているケータイ小説。しかし、そこで描かれる男性像や書籍化されたときに好まれるパッケージはかつてとは大きく変わっている。そこから今の10代女子のニーズが見える。
前回記事(ブーム後の「ケータイ小説」が今も読まれる必然)に続き、ガラケー時代からこのジャンルをけん引しヒット作を送り出してきた最大手、スターツ出版の小説投稿サイトを手掛かりに、ライターの飯田一史氏が解説する。
スターツ出版が運営する会員数89万人の小説投稿サイト「野いちご」のランキング上位作品や書籍化されたヒット作を読むと、恋愛ものでは「キスまで」のものばかりで、それ以上の性描写はほとんどない。2000年代のケータイ小説ではレイプシーンは珍しくなかったことを考えると、大変化である。
もっとも、そもそも「野いちご」では子どもも読むことに配慮し、展開上必要のない性描写は利用規約で禁止しているが、そういったサイト側の規制だけでは説明がつかない。読者側のニーズが変化していると考えるべきだろう。
「ケータイ小説が広まったのは、携帯でネット接続が可能になってすぐの頃。ネットの利用の仕方自体が『あやうい世界を見に行く』ような感覚から始まっていたので、刺激的な物語が求められたのかなと。でも今の中高生にとってネットは身近なもので、危ないものをのぞき見したいという感覚ではないんだと思います」(ウェブサイトグループ編集長・森川菜々氏)
性描写のソフト化は当然のなりゆき
また、1974年から約6年おきに実施されている日本性教育協会「青少年の性行動全国調査」を見ても、第1回調査以来、中学生〜大学生まで性別を問わずデート、キス、性交経験率は総じて上昇傾向にあったが、2011年調査ではついに反転し、最新2017年調査でもおおむね下落傾向にある。
経験率だけでなく性的行動への関心自体が減退していることを思えば、10代向け恋愛小説における性描写のソフト化は当然のなりゆきなのだろう。
「『野いちご春のファン祭り』などのファンイベントで直接姿を見ていても、あるいはサイト上でのやりとりを見ても、ほとんどの読者はちゃんと勉強をして、将来を考えているような素直な子で、息抜きに読んでいるという印象です。非行に走りそうなタイプの子は見かけません。
昔はサイト内の掲示板で揉めごともありましたが、最近では非常に少なくなっていますし、仮に起こったとしても、ユーザー同士でなだめあって収束していくことが多いです」(森川氏)
「以前、新潮社のジュニア向けファッション誌『nicola』のモデルさんに、『野いちご』ユーザーと同世代ということでゲスト審査員をお願いしたんですが、彼女がある作品の作中で主人公がお母さんとケンカして『ババア』と呼ぶシーンに拒否感を抱いて、年長世代である弊社編集部員と価値観のギャップを感じたことがありました。今の30代、40代が思春期だった頃と比べると、今の子たちは親と仲がよくて反抗的ではなく、明るくていい子が多い印象があります」(第1編集グループ 野いちご書籍編集長・長井泉氏)
性的関心・行動や反抗心の減退といった、いわば「若年層のクリーン化」に伴って性描写はソフト化し、それと並行して暴力描写も減り、好まれる男性像もかつてのオラオラな「俺様」キャラから変わってきている。
「ここ3、4年は、クールまたは無気力系で、ガツガツしてなさそうに見えるんだけれどもヒロインに対しては一途で優しいというギャップがある男子に溺愛される、という感じが人気です。昔のように強引だったり、突き放すタイプではないですね。実際の男の子の変化に合わせて変わってきているのかな、と。ほかのサイトやジャンルと比較したわけではないのですが、少なくとも『野いちご』の読者は、女の子が大事に扱われていないものは受け付けていないんだと思います」(長井氏)
ハッピーエンドの「溺愛」ものが人気に
切ない読後感を重んじ、病気などで男女どちらかが死別するような展開をするタイプの作品群もあるものの、明るい学園恋愛ものに関してはいわゆるヒーロー、ヒロインだけではなく、女の子を奪い合う「当て馬」的な男の子がいる場合でも、その男子も悪くは描かれずに、みんながハッピーに終わるものが多い。
同じくスターツ出版が運営する大人の女性向け小説サイト『ベリーズカフェ』では当て馬的な存在は最後まで悪役なことも多いが、「『野いちご』は平和な世界観なんです」(長井氏)。
ハッピーエンドの徹底、という意味で興味深いことはほかにもある。恋愛もので女子視点から描いて好きな男子と両想いになることを描いたあとで、男の子側の視点からもヒロインとの出会いからの心情を短くたどり直すような「男子側の視点」を挿入するパターンが確立されていることだ。
しかも多くの場合、男子も出会ったときから主人公の女子のことが好きだった、ということがわかるのである。
好まれるのは読む前に読後感がわかるもの
「読者が作家さんに送る感想を見ても“男の子の気持ちが知ることができて良かったです”というものが多く、読者が好むポイントのひとつです。
マンガではモノローグのかたちで登場人物みんなの気持ちが描けますが、小説だと一人称で書くと視点人物以外の気持ちは描けません。だから男子側の視点でも描くことで、確実に両想いであること、お互いの真意が確認できるのがよいのだと思います。“両想いな2人が、ハッピーエンドになるまでのすれ違い”が読みたい、という感じでしょうか」(長井氏)
お互いの気持ちが「わからない」のはイヤ、「わかる」もののほうがよい――それも、読む前からわかるほうがなおのことよい、ということのようだ。
「あらすじの時点で登場人物の気持ちが見えないものは好まれません。ですから書籍化するときは、カバーからも男女の関係性がどんなものかわかるようにしています。タイトルやパッケージを見るだけで話の全貌がわかるものが人気です。送り手としては、読者に想像力を働かせて楽しんでもらいたい気持ちもありますが、作品を受け取る側は、よりイメージしやすいもの、すぐに伝わるインパクトがあるもの、自分の気持ちに瞬間で共感できるものを求めているのかな、と」(第1編集グループ部長兼スターツ出版文庫編集長・篠原康子氏)
ケータイ小説文庫の中でも中学生向けの恋愛ものを手がける『ピンクレーベル』では3年ほど前から表紙イラストの人物が「顔あり」になった。
実はそれまでは読者それぞれがキャラクターを思い描けるようにあえて顔の表情を描き込まない「顔なし」イラストにして人物の構図だけを見せていたのである。
しかし、キャラクターがしっかり立つものが人気になってきたため、表情までしっかり描いたほうが読者が求める「甘さ」などがより伝わると判断し、現在の少女マンガ風のイラストが主流となった。
読む前に「感情の高ぶり」が感じられるか
高校生・大学生・新社会人層向けのスターツ出版文庫では、ピンクレーベルほどははっきりと人物の表情を描かないが、帯に大きく「号泣」と入れるなど、読者に訴求する感情がパッと見で伝わるように工夫しているという。
2000年代半ば頃までは作品にキーワードを付けるという文化はあまりなかったが、ある時期から小説サイトに限らず動画サイトでもSNSでも「タグ」を付けるようになった。ユーザーは作品に触れる前からタグを見て「あ、“泣ける”作品なんだ。読もうかな」と判断材料にする。
情報過多な時代ゆえに、アプリ上でも書籍でも、わかりやすくキーワードを提示し、ビジュアルでも訴えることで、読者も自分が読みたい作品を探しやすくなる。
2000年代のケータイ小説は性的・暴力的にわかりやすい“過激さ”が求められたが、読者がクリーン化した2010年代末では出来事の過激さは求められなくなった。代わって「溺愛」「号泣」などの“感情の高ぶり”が読む前からわかりやすく伝わることがかつて以上に求められるようになった、と言えるのかもしれない。
https://toyokeizai.net/articles/-/272282
ブーム後の「ケータイ小説」が今も読まれる必然
ガラケー時代から進化、ジャンルとして定着
飯田 一史 : ライター 2019年03月30日
ケータイ小説から書籍化されたヒット作。表紙デザイン、帯コピーから内容がおおよそわかるのが特徴的だ(写真:編集部撮影)
「ケータイ小説」のイメージが、2000年代半ばに大ヒットした『DeepLove』『恋空』あたりから更新されていない人も多いだろう。しかし実は「ブーム」が去ったあとも、10代女子に支持される「ジャンル」として定着していることを、ほとんどの大人は知らないのではないか。
そして、ガラケーのiモード上のサイトからスマホのアプリ/ウェブへと拠点を移した2010年代後半のケータイ小説は、かつてのイメージとはまったく異なる物語の内容や書籍パッケージに変貌し、ヒット作がコンスタントに生まれている。
ジャンル創生から20年が経過しようとしているなか「ケータイ小説」はいかなる進化をとげたのか。「ガラケー時代」から女性向け小説投稿サイト人気を牽引してきた最大手、スターツ出版の事例を手がかりに、ライターの飯田一史氏が2回にわたって解説する。
例えば会員数89万人の小説投稿サイト「野いちご」を運営し、人気作品を書籍化しているスターツ出版からは、沖田円『僕は何度でも、きみに初めての恋をする。』が25万部、櫻井千姫『天国までの49日間』が18万部、櫻いいよ『交換ウソ日記』17万部。いぬじゅん『いつか、眠りにつく日』14万部、小鳥居ほたる『記憶喪失の君と、君だけを忘れてしまった僕。』はデビュー作ながら半年で5万部等々、近年に限ってもヒット作が続いている。
人気作品の変化で10代女子の今が見える
その昔の書籍化されたケータイ小説といえば、風景やハートマークなどを使ったイラストを表紙にしたハードカバー、物語内容は実話をうたい、レイプや暴力、ドラッグ、水商売の世界などを配しながら恋愛の切なさを描くようなもので、横書きで改行が多いもの、というイメージが強いだろう。
だが今では、それらは大きく変化している。少女マンガテイストのイラストが表紙のソフトカバー単行本か文庫、ローティーン向けの一部作品を除けば、ほぼ横書きではなく縦書きで書籍化されている。内容的にはホラーを除けば性・暴力に関する過激な描写はほとんどなく、キスまでの作品が大半だ。
世の中には「ファン/ユーザーの平均年齢が毎年1歳ずつ上がっていく」というジャンル/サービスもあるが、「野いちご」はつねに新しく10代の読者を迎え、送り出してきた。そうした人気作品の変化を見れば、10代女子の「今」が見えると言っても過言ではない。
アプリを見ると、トップページに表示される作品のカテゴリーは「切ない ピュア」「溺愛 日々」「涙 感動」「学園ホラー」「暴走族 元姫」の5つ。これが人気作品のカテゴリーである。
同社でのケータイ小説の書籍化の始まりは、単行本サイズで刊行した『恋空』をはじめとする実話系から。そこからリアルというより、やや妄想度の強い少女マンガ風のものが人気が移り変わる2009年頃にケータイ小説文庫を立ち上げる。これは現在「ピンクレーベル」と呼ばれている。
その後「甘いだけじゃないものが読みたい」という読者の声が増え、サイト上でも作品を分類するタグに「泣ける」が目立つようになってきたため、2011年に『ブルーレーベル』を創刊した。
さらにホラーがつねに一定の人気があるということで2013年に「ブラックレーベル」を、中高生向けというより高校生・大学生・新社会人層向けのライト文芸レーベルとして、2015年に「スターツ出版文庫」を、ピンクレーベルよりも少しリアル寄りの、中学生が「先輩の先輩くらいにいそう!」と思えるような恋愛ものを好む読者のために2017年に「野いちご文庫」を創刊した。
人気ジャンル「恋愛」「泣ける」「怖い」「暴走族」!?
毎日新聞社と全国学校図書館協議会が毎年行っている「学校読書調査」を見ると、小学生女子が読んだ本の上位は『ヘレン・ケラー』『アンネ・フランク』『ナイチンゲール』『赤毛のアン』といった世界の偉人・女性編および児童文学のクラシックが並ぶ。
しかし中高生になるとそうした「親や教師が推薦した本」の存在感は薄れ、「自分で選んだ本」が上位に来るようになる。
中高生女子には、ジャンルで言えば、HoneyWorksの『告白予行練習』をはじめとする「恋愛もの」、住野よる『君の膵臓をたべたい』をはじめとする「泣ける」話、いしかわえみによる「りぼん」連載のホラーマンガのノベライズ『絶叫学級』などの「怖い」話が鉄板だ(『学校図書館』2018.11号)。
「野いちご」の人気カテゴリーは「切ない ピュア」「溺愛 日々」「涙 感動」「学園ホラー」」「暴走族 元姫」であり、こうした傾向とおおむね合致している。
大人から見て違和感があるとすれば「暴走族 元姫」だろう。「暴走族 元姫」なる単語だけを見て「なんだ、やっぱりケータイ小説ではヤンキーが出てくる過激な作品が人気なんじゃないか」と思う人もいるかもしれないが、それは違う。
ケータイ小説には、小説投稿サイト「魔法のiらんど」で連載され、2000年代後半から爆発的な人気を博したユウ『ワイルドビースト』などが作り出した様式美(お約束の設定)が連綿と続いている。
「暴走族には集団を率いる『総長』とその下に『幹部』がおり、さらには総長が見初めた『姫』と呼ばれる女性が1人だけいる」(「元姫」はかつて姫だった存在で「現姫」と対比される)、「倉庫にたむろする」といったものだ。
「暴走しない」暴走族も登場
しかしそうした様式美を維持しつつも、近年の作品では、中身が10年前とはだいぶ変わっている。そもそも「暴走族」が登場するのに、バイクやクルマで暴走するシーンがほとんどない。暴走族同士の血で血を洗う抗争で死傷者が続出、といったハードな展開もほぼまったくないのである。
「バイクに乗ってすらいない人気作品もあります。作品に出てくる暴走族の男の子たちはちゃんと学校にも行っていて、悪いことをしているわけではないんです。無免許運転だとか未成年の飲酒、喫煙、シンナー、ドラッグ使用といった、法を犯すような描写はほぼありません」(ウェブサイトグループ編集長・森川菜々氏)
「“ヤンキー”ではなくて“暴走族の総長”なんですよね。暴走族は、今の子たちにとってはリアルな存在ではなくて空想でつくりあげる非日常の存在になっている。倉庫にたまって、幹部がいて……というのは、女の子1人の周りにイケメンがたくさんいるという、生徒会ものの少女マンガにあるような“逆ハーレム”のイメージに近いと思います。
また、家庭にも学校にも居場所のない女の子が、仲間を見つけて生きる希望を取り戻す、というテーマで描かれることも少なくなく、読者は人とのつながりや絆を無意識に求めているのかもしれません。」(第1編集グループ 野いちご書籍編集長・長井泉氏)
近年の野いちごでは、主人公の女子と男子が一緒に住むはめになるという「同居もの」も人気だが、現実にそんなことがあるかといえば、ほぼまったく起こりえないだろう。ただ、物語のパターンとしてはわかりやすく、盛り上がりも作りやすい。「暴走族 元姫」も同居もの同様に、使いやすかったがゆえに独自の発展を遂げた恋愛ものの中の1ジャンル、フォーマットの一種と言えるのかもしれない。
「妄想を作り上げている」という点では大人の側も変わらないように筆者には感じられることもある。
全国の小中高校で朝の10分、生徒が自由に選んで本を読むという「朝の読書」運動があるが、学校によっては「朝読では横書きの小説は禁止」としていたり、一部の学校図書館では司書の判断から「横書きの小説は入れない」という方針を取っているという。
過激な表現・描写はほとんどない
「おそらく中身を検閲して禁止しているのではなく、先生や司書の方には昔のケータイ小説のイメージがあって『過激なものを読んでほしくない』という善意から、そうされていると思うんです」(長井氏)
しかし、ここまで見てきたように、現在のケータイ小説は、ホラーだけはジャンルの性質上、一部激しい表現があるものの、それ以外の恋愛ものなどは健全な作品がほとんどだ。「横書き禁止」とまでいくと過剰な自主規制だろう。
若年層は現実には存在しない「暴走族」のイメージを膨らませ、教師や司書など大人の側はやはり現実にはもう存在しない「過激なケータイ小説」のイメージを膨らませている――それが昨今のケータイ小説をめぐる状況だと筆者は考えるが、個人的には後者のほうが問題ではないかと思う。
今の10代を理解したければ、偏見を捨てて実際に手に取り、時代の変化に目を向けることからしか始まらないのではないか。
(後編に続く)
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