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首相、賃上げ要請「やんわり」のワケ 増税と選挙控え にじむ深謀遠慮 下振れに傾斜する日米欧 日銀は現状維持で耐えきれるか
http://www.asyura2.com/18/senkyo255/msg/836.html
投稿者 うまき 日時 2019 年 1 月 08 日 05:39:48: ufjzQf6660gRM gqSC3IKr
 

nikkeibp ニュースを斬る

首相、賃上げ要請「やんわり」のワケ

増税と選挙控え にじむ深謀遠慮

2019年1月7日(月)
山田 宏逸

 経済3団体主催の新年祝賀会が7日、都内のホテルで開かれた。安倍晋三首相は経団連の中西宏明会長らを前に、春季労使交渉での賃上げを要請した。ただ例年になく柔らかな印象を受けるのは、亥年の2019年に重大な政治日程を控えていることと無関係ではないだろう。


経済3団体の新年祝賀会であいさつする安倍晋三首相(写真:時事通信)
 政界では今年、統一地方選と参院選が重なる。12年前、24年前はともに自民党は苦戦を強いられ、結果として総裁はその座を追われている。また10月には消費税10%への引き上げを控えるが、安倍首相はこれまでに2度延期した。

 
 首相は7日のあいさつで、消費増税が控えていることを念頭に「経済の足腰を強化していくことが求められる」と指摘。経済界に対しては「これまで5年連続で賃上げが続いた。今年も恐らく上がっていくのだろう」と述べた。今後本格化する春季交渉での賃上げを求めたが、これまでのように具体的な数字の例示をはじめ、踏み込んだり、強い口調で求めたりする姿は最後までなかった。

 
 こうした姿勢は政治日程と深く絡んでいる。無論、中西経団連との関係は良好で「さほど言わなくても賃上げしてくれるだろう」という思いはある。むしろ見据えるのはその先の政治日程で、統一選や参院選での経済界の協力は欠かせず、官製春闘の色を出しすぎて無用な反発を招きたくない事情が透ける。

 また地方の中小企業には、人手確保につなげようと「無理に賃上げをしている所も少なくない」(日本商工会議所)とされ、こちらも介入しすぎて反発や自民離反を招く事態を避ける狙いがあると言える。

 もっとも、賃上げ動向自体にも黄信号がちらつく。18年末からの不安定な株価や為替相場、不透明な世界情勢が経営者心理に水を差す懸念は増す。経団連は交渉の指針となる経労委報告を1月下旬にまとめるが、従業員の給与を一律に底上げするベースアップ(ベア)はあくまで経営側の「選択肢の1つ」と位置付ける方向だ。


このコラムについて
ニュースを斬る
日々、生み出される膨大なニュース。その本質と意味するところは何か。そこから何を学び取るべきなのか――。本コラムでは、日経ビジネス編集部が選んだ注目のニュースを、その道のプロフェッショナルである執筆陣が独自の視点で鋭く解説。ニュースの裏側に潜む意外な事実、一歩踏み込んだ読み筋を引き出します。
https://business.nikkeibp.co.jp/atcl/report/15/110879/010700922


 

「下振れ」に傾斜する日米欧のリスクバランス
上野泰也のエコノミック・ソナー
日銀はこのまま現状維持で耐えきれるのか?

2019年1月8日(火)
上野 泰也


市場の「緩和策修正願望」は実現するのか?(写真:Rodrigo Reyes Marin/アフロ)
 昨年12月13日に開催されたECB(欧州中央銀行)理事会は、市場のコンセンサス通り、年内で量的緩和を終え、年明けから再投資政策によりバランスシート規模を維持していくことを決定。政策金利のフォワードガイダンス(将来の金融政策運営に関するコミットメント)は「少なくとも19年夏まで据え置き」が維持された。

 そうした中で1つ注目されたのは、ユーロ圏の景気減速がかなり明確になっており、物価の上昇力も弱い中で、ECBがリスクバランスをどうするかという点だった。結果は、景気・物価見通しの数字は一部下方修正しつつも、リスクバランスは「おおむね均衡している」のまま据え置き。ただし、ドラギ総裁が声明文でいくつかの要因を挙げつつ「リスクバランスはダウンサイドに向かって動いている」と表明するという、妥協色の強いものだった。

 理事会終了後、そこで行われた議論の内容をロイター通信が報じた。経済見通しに対するリスクが「下振れ方向に傾いている」といった一段踏み込んだ見方を示すよう、一部の理事会メンバーが求めたという。だが、緩和策実施の用意があることを示すためにECBがこの表現を過去に使ったことがあるため、市場で緩和期待が浮上してしまうという反対意見が出された。一方で、成長鈍化は認める必要があり、メッセージを変えなければECBの信頼性に疑念を生じさせることになると指摘する向きもあったという。

 ユーロ圏の景気減速が今後さらにきつくなる、あるいは物価上昇の鈍さが一段と明確になる場合、ECBはリスクバランスの表現の下方修正に追い込まれるだろう。そうした場合、利上げ開始時期の織り込みが大きく後ずれすることは避けられないだろう。

 ここで、FRB(米連邦準備理事会)、ECBおよび日銀が、景気・物価見通しに対するリスクのバランスをそれぞれどのようにみているかを比べてみたい。

FRB
「経済見通しに対するリスクはおおむねバランスしている(roughly balanced)とFOMCは判断している。しかし、グローバルな経済・金融の展開を引き続き注視し、経済見通しに対する意味合いを評価するつもりだ」(12月19日 FOMC(連邦公開市場委員会)終了後の声明文)
ECB
「ユーロ圏の成長見通しを取り巻くリスクは依然、おおむねバランスしていると評価できる。だが、地政学的要因・保護主義の脅威・新興市場の脆弱性・金融市場のボラティリティーに関連している根強い不透明感によって、リスクバランスはダウンサイドに向かって動いている」(12月13日 理事会終了後のドラギ総裁声明文)
日銀
「次に、第2の柱、すなわち金融政策運営の観点から重視すべきリスクについて点検すると、経済の見通しについては、海外経済の動向を中心に下振れリスクの方が大きい。物価の見通しについては、中長期的な予想物価上昇率の動向を中心に下振れリスクの方が大きい」(10月31日 「経済・物価情勢の展望(展望レポート)」)
先行きの利下げを織り込みに行くか
 昨年12月18、19日に開催されたFOMCでは、大方の予想通り0.25%ポイント幅の追加利上げが決まった(表決は全員一致)。FF(フェデラルファンド)レートの新たな誘導水準は2.25〜2.5%。なお、準備預金への付利金利の引き上げ幅は、FFレートを誘導レンジ内に収めようとするテクニカルな観点から0.20%ポイントにとどめられ、2.40%になった。

 声明文の第1段落にある経済状況認識は11月時点からほとんど変わらなかった。

 一方、FRB理事・地区連銀総裁による最新の経済見通しでは、実質GDPが18・19年について下方修正となり、PCE(個人消費支出)デフレーターは全般に小幅下方修正された。

 声明文の第2段落では、@前回11月の声明文に含まれていたFFレート誘導レンジの「さらなる緩やかな引き上げ(further gradual increases)」がどう変わるか、A11月に「おおむねバランスしているようだ(appear roughly balanced)」となっていた経済見通しに対するリスクバランスがどうなるか、の2点に筆者は注目した。

 結果は、@がFFレート誘導レンジの「いくらかのさらなる緩やかな引き上げ(some further gradual increases)」に変わり、利上げが終盤であることを示唆。

カギを握るのは円高・ドル安進行の有無
 Aは、FOMCは経済見通しに対するリスクが「おおむねバランスしている(roughly balanced)と判断している」と書き換えつつ、「FOMCはグローバルな経済・金融の展開を引き続き注視し、経済見通しに対する意味合いを評価するつもりだ」と記述。下振れ方向への警戒をにおわせた。

 このように、米国の場合「おおむねバランスしている」というリスクに関する表現の基本線は一応維持されたわけだ。だが、金利上昇や株価大幅安による心理面も含めた悪影響、トランプ減税の効果はく落などから、リスクバランスが「下方に傾いている」へと変更される場合には、利上げの休止ではなく利上げ局面の明確な終了、さらには先行きの利下げの開始を、市場が織り込みにいく可能性が高い。

 大きな流れはそちらの方に向かっていると筆者はみている。「マネー」と「実体経済」の両面で、米国を中心とする世界経済は、大きな転換点を越えつつある。

 では、日銀の場合はどうだろうか。

 物価はともかく、経済(景気)についても「下振れリスクの方が大きい」と早々と警戒感を表明してしまっており、これはなかなか巧妙な立ち回り方である。ECBやFRBのように、リスクバランスの変更が政策変更の前触れではないかと、市場から詮索されることがない。

 日銀は、物価目標である2%が遠いために金融緩和が長期化せざるを得ないことを18年7月の金融政策決定会合で認めた上で、そのことによる弊害・副作用の大きさを前面に出すことによって追加緩和を求める声をかわし、効果と副作用を慎重に見極めながら現在の緩和を粘り強く続けていくのが一番望ましい、という論理構成をとっている。

 だが、この手法でいつまで持ちこたえられるだろうか。カギを握るのは円高・ドル安進行の有無である。

 市場ではほとんど話題にならなかったが、英紙フィナンシャル・タイムズ(FT)が12月17日に掲載した社説は興味深い内容だった。「物価上昇率は頑固なまでに低いままだが、実体経済は健全な」日本の状況に関し、この海外有力紙はどのような政策対応をすべきだと提言したのか。答えは日銀による金融緩和継続さらには緩和強化である。

金融緩和強化と消費増税放棄を提言したFT
 この社説は、異次元緩和に乗り出した日銀は成功したのか失敗したのかという問いへの答えは「両方」だと整理。失業率が低下したことは成功を示しているが、物価が目標である2%を大幅に下回ったままである点は失敗であり、「金融引き締めはまだ正当化されない」「追加の政策の選択肢が考慮される必要がある」と主張。物価の上がり方が弱い原因として、@金融緩和が景気過熱につながっていないこと、Aドル/円相場が15年以降は円高・ドル安に動いたこと、Bインフレ期待が0%に近い水準に貼りついていること、以上3点を指摘した。

 この社説によると、たとえさまざまな障害があっても日銀は資産買い入れと金利コントロールの組み合わせを続けていなければならず、短期金利をマイナス領域でさらに引き下げなければならないかもしれないという(マイナス金利深掘りの提唱)。

 政府の財政政策の協力も必要であり、今年10月実施予定の消費税率引き上げは物価目標が達成されるまで放棄される必要があると、この社説は主張した。増税の対象としては、個人消費よりも企業の余剰資金の方がはるかに望ましいという。その上で、デフレではないがインフレが起こっていない状況を打破する手段として、「ヘリコプターマネー」を明示的に行うことが要求されることもあり得るとした。

 上記の主張は日本のリフレ派のそれと非常に似通っており、海外投資家の間で共有されている考え方かどうかは疑問である。だが、金融政策の正常化を一度決めたスケジュール通りに急ぎがちなECBに対し柔軟な政策運営を促すなど、FTの社説は市場の動き方(最初の利上げのタイミングの織り込み先送り)と連動することもある。

「正常化願望」実現の可能性は大幅低下
 筆者以外の日銀ウオッチャーの多くは、7月末に決めた緩和策修正のいわば続きとして、日銀が金融政策のさらなる正常化に動くのではないか、あるいは動くはずだという一種の固定観念に沿って予想を提示してきたのではないかという印象がある。

 そうした「正常化願望」、なんとか金利を引き上げておいて今のうちに「のりしろ」をつくっておきたいという考えは日銀内にもあるのだろうし、市場参加者の側では金利水準が上がってくれないと困る向きが少なからずいる。

 だが、そうした願望が現実に結び付く可能性は、海外経済・マーケット状況の悪い方向への大きな変化によって、明らかに大幅低下した。

 日銀の追加緩和観測(あるいは政治サイドからの追加緩和要請)が出てこないで済んでいるのは、ドル/円相場が足元でなお居心地の良いレンジ内にあり、一種の「つっかい棒」の役割を果たしているからである。

 したがって、この「つっかい棒」が今後、米国の利上げ局面終了説の広がり、さらにはその先にある米国の利下げ観測の浮上によって外れてしまう場合、日銀の「次の一手」を金利引き上げなど政策正常化の方向で予想することは、きわめて難しくなるだろう。

 日銀はETF(株価指数連動型上場投資信託)買い入れの柔軟化(暦の区切りを気にせずに集中的な日本株の買い入れが可能になった)というカードを7月末に手にしており、すでにこれをフル活用している。だが、これは株価対策にはなっても、為替の円高対策にはならない。ほかの手を考えていく必要がある。今年はこの問題が市場の関心を集めるだろう。


このコラムについて
上野泰也のエコノミック・ソナー
景気の流れが今後、どう変わっていくのか?先行きを占うのはなかなか難しい。だが、予兆はどこかに必ず現れてくるもの。その小さな変化を見逃さず、確かな情報をキャッチし、いかに分析して将来に備えるか?著名エコノミストの上野泰也氏が独自の視点と勘所を披露しながら、経済の行く末を読み解いていく。
https://business.nikkeibp.co.jp/atcl/opinion/15/248790/122700173/  

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