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室井佑月(むろい・ゆづき)/作家。1970年、青森県生まれ。「小説新潮」誌の「読者による性の小説」に入選し作家デビュー。テレビ・コメンテーターとしても活躍。自らの子育てを綴ったエッセー「息子ってヤツは」(毎日新聞出版)が発売中
イラスト/小田原ドラゴン
室井佑月「あ、雪が降ってきた」 https://headlines.yahoo.co.jp/article?a=20181219-00000017-sasahi-soci&p=1 AERA dot. 12/20(木) 7:00配信 週刊朝日 2018年12月28日号 作家の室井佑月氏は今の日本社会を、猫の世界に喩える。 * * * ブチ猫のサブローがつぶやく。 「なんで、お腹が空くとゴミでも食べちゃうんだろ。なんで、走ってくる車を避けちゃうんだろ。なんで、生きちゃうんだろう」 あたしもたまにおなじようなことを思う。 「なんで、あたしたちは、暖かいところに連れてってもらえないのかって。人間に抱っこされるのなんか死んでも嫌だけど」 ガリガリの三毛婆さんが、教えてくれた。 「それは生まれたところが悪いのさ」と。 窓越しにこちらを見下ろすモフモフは、お母さんもお父さんも、暖かいところで生まれた猫なんだって。 そんなのおかしい。あたしはゴキブリもネズミも捕れる。 自分でいうのもなんだが、真っ白な美猫だ。 でも婆さんは負けない。 「そんなのたくさんいるよ。もうそんなところに価値はないんだよ」 じゃ、どうすれば良いのか。サブローがいう。 「捨て猫が暖かい部屋へ連れていってもらえた、って話があるけど、我々が真面目にネズミを捕ったりするための、おとぎ話かも」 そうそう噂といえば、このところ変な噂が流れている。この街にネズミが増えてきたから、他所から猫を連れて来るらしいって。 「新しいともだちができるといいな」 あたしがそういうと、サブローは馬鹿じゃないの、という表情でこちらを見た。 「みんなでネズミを狩って、街にネズミがいなくなったらどうなる? 俺らの口にするものは少なくなるし、そうなったら他所者ともどもお払い箱さ。今度はネズミじゃなく、俺らが保健所に追われる身になったりね」 「じゃ、人間はあたしらがいらないと思ってるの?」 「やつらにとって、従順なモフモフだけが猫なのさ。そして、モフモフもおなじ猫なのに、俺らのことは眼中に無い」 「寒いな」とサブローが身体をすり寄せてきた。あたしはそれとなく身体を離した。 子どもなんて産みたくない。だって、あたしたちの子は、決してモフモフにはなれない。 「まあまあ、おまえたち」 と三毛婆さんがいう。 「モフモフだって、ほんとに幸せかどうかわからないよ。人間の庇護下で、今ぬくぬくしてるだけ。人間の心変わりに怯えているかもしれない」 「それはないわ」とあたしはいった。「それはない」とサブローもいった。 あいつらなにも考えず、ただぬくぬくしてるだけ。おなじ猫なのに、あたしたちのために頑張ってくれたところを見たことがない。あいつら、あたしたちを、おなじ猫だなんて思っていない。 「でもさ、でも。世の中がひっくり返って、いちばん多数の我々が、いちばん幸せになるなんてこと、起きないかな」 あ、雪が降ってきた。 <クイズ、人間は何の喩えでしょう。答えは複数>
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