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集団的自衛権容認・防衛費の闇 税が奈落の底に消えてゆく
https://blog.goo.ne.jp/aibatatuya/e/40032a8e72a0cec2813a1a60eab5825b
2018年11月29日 世相を斬る あいば達也
以下は東京新聞の歯止めなく膨れ上がる、防衛費のお寒い内容についての調査報道だ。前半の4項では、北朝鮮の脅威が全面に出ているので、ピント外れの感があるが、現安倍官邸の考えなら、簡単に“北朝鮮”を“中国”と読み替えて貰って結構と言うに違いない。5項以降はリアリティがある日米貿易摩擦が原因で起きている防衛費増大の事実関係だ。 本日は引用も長いので、多くを語らず、日本の防衛費の中身を理解して貰えば、充分と考えている。しかし、集団的自衛権容認が、これほどまでに、歯止めなき防衛費の増大に繋がるとは、あまり一般には知られていない事実だ。正直、仮想敵国を北朝鮮から中国に読みかえれば良いだけ、などと思う考えも浅はかだと思う。軍事と経済が別次元で動いているわけではないのだから、中国を仮想敵と考えつつ、中国市場で商売がした日本企業の構図を、安倍官邸は、どのように辻褄をあわせるのだろう。 世界的好景気の大きな要因が、中国経済に牽引されているのは周知の事実なのだ。しかし、今後の中国は、生産設備の多くを自前で動かす時代がくるわけで、もう高度な生産装置を日欧米の市場から調達する時期は終わりつつある。つまり、中国が購入するサプライチェーン市場で儲けていた中小零細の日本や米国の企業の冬の時代が、そこまで来ているわけだ。つまり、世界経済の好況の多くは、中国の需要に支えられていたわけで、その需要がなくなると云うことだ。そんな時代に、中国を敵視する米国の尻馬に乗って、防衛装備品を買いまくって、どうなると思うのだろうか。 ≪<税を追う>歯止めなき防衛費(1)かすむ専守防衛 官邸主導で攻撃兵器選定 「いくらか分からないのに、われわれが予算承認しなければならないのはおかしい。国民の税金だということを考えろ」 昨年十二月、自民党本部で開かれた国防部会。数日前に小野寺五典(いつのり)防衛相(当時)が導入を発表した、三種類の長距離巡航ミサイルの単価を答えない防衛省幹部に、議員らが口々に怒りをぶちまけた。 戦闘機F15に搭載する米国製の「JASSM(ジャズム)」と「LRASM(ロラズム)」は射程が九百キロと長く、日本海から発射しても北朝鮮に到達する。F35に搭載するノルウェー製の「JSM(ジェイエスエム)」の射程は五百キロで、最新鋭のF35はレーダーに映りにくい。 昨年八月の防衛予算の概算要求には入っていなかったが、同年十一月のトランプ米大統領の来日後、与党議員への説明もそこそこに導入が発表され、国防族の怒りを買った。 荒れる国防部会。「予算を簡単にもらえると思うなよ。NSCとの関係はどうなんだ。説明しろ」。不満の矛先は、安倍政権で発足した国家安全保障会議(NSC)にも向けられた。 NSCは二〇一三年十二月、首相、官房長官、外相、防衛相を中心に組織された。翌年一月、実動部隊の国家安全保障局(NSS)が内閣官房に置かれると、防衛省からの積み上げで決まってきた兵器選定の主導権は事実上官邸に移った。 巡航ミサイルは相手ミサイルの射程圏外から攻撃でき、離れてにらみ合うという意味から「スタンド・オフ・ミサイル」とも呼ばれる。防衛省は「離島やイージス艦などを防衛するため」と強調するが、敵基地攻撃が可能なため、これまでの政権は専守防衛の観点から導入に慎重だった。 元航空自衛隊空将の織田(おりた)邦男氏は「スタンド・オフ・ミサイルの導入は(自民党と旧社会党の)五五年体制なら絶対無理だった。それを軽々と超えてしまうのは、NSSができたメリットだと思う」と語る。 NSSには防衛、外務、警察の各省庁を中心に約七十人が出向する。元外務次官の谷内(やち)正太郎局長を外務、防衛出身の二人の次長が支える。発足後、兵器調達面でも防衛政策が目に見える形で変化してきた。 本年度四十六億円の研究費がついた「高速滑空弾」や来年度にはエンジンの研究に六十四億円を要求している「極(ごく)超音速ミサイル」は、「いずれも攻撃的兵器と見なされる可能性が高いとして、机上の研究にとどまっていた」。防衛省で航空機開発を担当した元空将の山崎剛美(たかよし)氏はそう話す。 政策の転換は米国の望むところだ。米国務省の元高官は「日本は集団的自衛権を行使できるようになり真のパートナーになった。以前は日本が巡航ミサイルを導入するなんて想像できなかった」と喜ぶ。 NSSのある幹部は「総理や官邸の話を聞きながら防衛省が出す選択肢を示して、日本の安保や外交政策の中で、どれがいいかを考えていくだけだ」と官邸主導の兵器選定を否定した。だが、防衛省の幹部が内情を明かした。 「総理は『敵にやられっぱなしで、日本が守るしかないでは良くない。攻撃的な技術をやった方がいい』という考えだと周囲は受け止めている。NSSで『総理の意』をくんだ議論を重ね、防衛省に提示させたんだ」 ◇ 安倍政権で初めて五兆円を突破し、増大し続ける防衛費。官邸主導で米国から高額兵器を次々と輸入、攻撃型ミサイルの導入計画も進める。聖域化する予算の流れを追い、専守防衛を逸脱するかのように、米軍との一体化を急激に進める政権の内実を報告する。 (この連載は鷲野史彦、原昌志、中沢誠、望月衣塑子、藤川大樹が担当します)≫ <税を追う>歯止めなき防衛費(2)コストより日米同盟 覆った偵察機導入中止 「GHの取得を中止する方向で、政務、関係省庁(NSS、官邸)と調整する」 防衛省整備計画局が昨年六月に作成した内部文書。GHとは当時、米国から輸入を検討していた無人偵察機グローバルホークを、NSSとは国家安全保障局を指す。文書にはGH導入の経緯と輸入中止を検討する理由が記されている。その上で、防衛大臣ら政務三役とNSS、首相官邸と調整するとなっていた。 米政府の提案を受け、防衛省がGHの導入を決めたのは二〇一四年十一月。価格は三機で五百十億円だったが、米側は昨年四月、価格上昇を防衛省に連絡してきた。レーダー部品が製造中止となり、新たな部品の開発に追加費用が発生したとして、計六百二十九億円と23%も高騰していた。 防衛省には装備品の価格が上昇した際の管理規則があり、価格が15%上昇したら事業の見直しを検討、25%の場合は事業中止を検討することになっている。 整備計画局では、GHは今後も部品枯渇による価格上昇リスクがあると判断した上で代替策を検討。「近年の画像収集衛星の進展をふまえると、より安価な手段で相当程度が代替可能」と結論付けた。「日米同盟に与える影響」も検討の結果、「対処が不可能なものではない」と判断。導入中止の方向で、官邸などと調整するとあった。 さらに導入中止に向けた段取りとして「自民党に事業中止の根回しを行った後、対外的に発表する」と記されていた。GHの導入中止へ防衛省の自信がうかがえる内容。ところが、わずか一カ月で覆った。 昨年七月、整備計画局と防衛装備庁が作成した別の内部文書。「GHの価格の上昇リスクは引き続き存在する」としながらも、「能力はわが国を取り巻く安全保障環境に必要不可欠」として「事業を進めることとしたい」とある。正反対の結論を導いていた。 文書は共産党の小池晃書記局長が入手した。整備計画局の幹部は本紙の取材に「外務省やNSSから『安全保障環境や日米同盟をふまえ、さらに検討を深めてほしい』と打診され、省内でもう一度議論した結果、購入継続を決めた」と回答した。導入中止の方針に外務省やNSSから異論が出て、覆ったことを認めた。 ある欧米系軍事企業の幹部は「GHは米空軍でもコストが問題視されたが、政府はコストより日米安保を踏まえ、米国との関係を重視したのでは」と話す。 実際、米空軍はGHの経費高騰などで、調達計画数を六十三機から四十五機に縮小している。ドイツでは一二年にGHの初号機一機を米から導入したが、コスト増加などを理由に追加購入を中止した。 自衛隊の元幹部は「装備品の導入は現場で必要性を詰めることが重要。もともと現場はGHをいらないと言っていたのに、トップダウンで決めてしまうのがNSSの弊害だ」と話す。 GH三機の年間の維持整備費は計百二十億円余り。かつて一時間飛ばすのに三百万円かかるという米側の試算もあった。日米同盟の名の下、兵器ローンのツケが国民に重くのしかかる。≫ <税を追う>歯止めなき防衛費(3)進む日米一体化 軍事戦略の一翼担う 四回目の核実験、続く長距離弾道ミサイルの発射。二〇一六年二月、北朝鮮の挑発行為に半島情勢は緊迫の度合いを増していた。 その頃、海の向こうの米連邦議会では、地上配備型迎撃ミサイルシステム「イージス・アショア」の日本導入が話題に上っていた。「アジア太平洋に配備されているわれわれのイージス艦の任務を軽減するのではないか…」 議員から日本配備による米国のメリットを問われたハリー・ハリス米太平洋軍司令官(当時)は、質問を途中で遮り断言した。「もちろんだ」。まるで米国のミサイル戦略の一角を日本が担うと言わんばかりだった。 昨年末、日本は地上イージスの導入を決めた。トランプ米大統領が日米首脳会談で、安倍晋三首相に大量の防衛装備品の購入を迫った翌月のことだ。 ハリス氏は今年二月の米下院軍事委員会でも日本の地上イージス導入の効果を聞かれ、「私や海軍、太平洋艦隊の負荷の一部を軽減することになるだろう」と明言した。日本国内では今も、「トランプ氏に買わされた」との声がくすぶる。 地上イージスを運用する陸上自衛隊でトップの陸幕長まで務めた冨澤暉(ひかる)氏は、日本で先にミサイル弾道を探知すれば米国は迎撃しやすいと分析。日米一体の運用を見据えた配備とみる。「日本にとってミサイル防衛はあったほうがいいが、米国は日本を守るためだけに売るわけではない」 政府が配備候補地に挙げるのは、陸自の新屋演習場(秋田市)とむつみ演習場(山口県萩市、阿武町)。北朝鮮から秋田、山口に向かう延長線上には、それぞれ米軍基地のあるハワイとグアムが位置する。 もし、北朝鮮がグアムを狙ってミサイルを発射したらどうするのか。防衛省の答えは「地上イージスで対応することも理論上は考えられる」。日本を守るための兵器が米国を守るために使われる可能性を認めた。 「地上イージスだけでなく、どんどん日米の軍事一体化が加速している」。民主党政権で防衛相を務めた北沢俊美氏は、第二次安倍政権下での日米同盟の変貌ぶりに目を見張る。 転機は一五年九月、他国を武力で守る集団的自衛権の行使に道を開いた安全保障関連法の成立だ。自衛隊の戦闘機や護衛艦が、米軍機や米艦を警備するケースが増えている。日米安保政策に長年かかわってきた米国務省の元高官でさえ、「五年前にはあり得なかった光景だ」と言う。 官邸で安保政策を担当する薗浦健太郎首相補佐官は「今や日米同盟は、かつてないほど強固。揺るぎない絆により、同盟の抑止力・対処力は大きく向上し、日本の安全はより確固たるものになった」と主張する。 今年九月、海上自衛隊は中国が進出を強める南シナ海で潜水艦の訓練を実施したと発表した。「極秘であるはずの潜水艦の行動を公表することは、本来ありえない」。北沢氏は異例の公表に、米国にすり寄る日本の姿を重ねて続けた。「集団的自衛権が容認された証しとして世界にアピールする。おもねってるんだ、米国に」≫ <税を追う>歯止めなき防衛費(4)レーダー商戦 しのぎ削る米メーカー 九月二十八日、東京都内のホテル。サイバーテロやミサイル防衛(MD)のセミナーが開かれ、国内外の防衛企業の幹部や自衛隊OBら約三十人が出席した。主催したのは旧防衛庁長官や初代防衛相を歴任した久間章生(きゅうまふみお)氏が会長を務める一般社団法人・国際平和戦略研究所。久間氏は二〇〇九年の衆院選で落選後、政界を引退したが、日米の防衛分野に広い人脈を持つ。 「これからの戦争はミサイルの時代になってきた」 久間氏のあいさつの後、海上自衛隊OBの坂上芳洋氏が講演した。環太平洋合同演習の際、指揮官としてイージス艦を運用した経験があり、退官後は米軍事メーカー・レイセオンのシニアアドバイザーも務めた。講演のテーマは政府が導入を決めた地上配備型迎撃ミサイルシステム「イージス・アショア」。坂上氏はシステムに搭載されるレーダーに米ロッキード・マーチン製の「SSR」が選ばれたことに疑問を呈した。 SSRは一基百七十五億円ほどとされるが、坂上氏は「まだ構想段階で、ミサイル射撃試験などをしていない。日本が試験費の負担を強いられ、価格がさらに膨らむ可能性がある」。 会場からは「それは国会が止まるくらいの話だな」という発言も出た。斉藤斗志二(としつぐ)元防衛庁長官だった。 北朝鮮は一六年以降、核や弾道ミサイルの実験を繰り返した。防衛省の幹部は「誰もがミサイル防衛強化が必要と考えていた。官邸は高高度(こうこうど)防衛ミサイル(THAAD)も地上イージスも米国製なので、どちらでも構わないという立場だった」と明かす。 地上イージスに決まったことで、防衛省は米ミサイル防衛庁からSSRと米レイセオン製のレーダー「SPY−6」の提案書を受け取り、レーダーの選定に入った。 イージス艦にロッキード社製の「SPY−1」を搭載している米海軍が今後、レイセオン製のSPY−6に更新するため、日本の防衛業界でも「レイセオンが有利」とささやかれた。だが今年七月、ロッキード社に軍配が上がり、業界に驚きが広がった。 ロッキード社と関係が深いコンサルタントで、元航空自衛隊空将の山崎剛美(たかよし)氏は「日本製の窒化ガリウム半導体を組み入れるなどして大きさを変えないで性能を向上させた」と勝因を分析する。お膝元の米国で失った商機を日本で取り返した格好だ。 「今回のレーダー選定は単にイージス・アショアのレーダーを決めるというだけではない」。そう指摘するのは元米陸軍大佐で、レイセオンに勤めたことがあるスティーブン・タウン氏。次のレーダー商戦は海上自衛隊のイージス艦だ。 海自は保有する六隻のイージス艦のミサイル防衛能力を向上させながら、二〇年度までに八隻に増やす計画だ。レーダーはロッキードのSPY−1が搭載される予定だが、「近い将来、レーダーの更新が始まっていくだろう」と海自OB。レーダー更新は一基百億円を超す一大ビジネスだ。 今や米国製を中心に高額兵器を次々と導入するようになった日本。世界の軍事メーカーや商社が虎視眈々(たんたん)と商機をうかがう。≫ <税を追う>歯止めなき防衛費(5)貿易赤字解消図る米大統領 「兵器買え」強まる流れ 「武器」と「カジノ」。 今年の夏以降、訪ねてくる旧知の米国関係者たちから、何度この言葉を聞いたことだろうか。 「彼らに訪日の目的を尋ねると、用件は必ずこの二つの利権だ」。日本総合研究所の寺島実郎会長は、急速に矮小(わいしょう)化している日米関係を肌で感じている。 訪ねてきた人の多くは、知日派の元政権スタッフや元外交官ら。「日本通であることで米国の防衛やカジノの関連企業などに雇われた彼らが、対日工作のため動き回っている構図が、ここに来てくっきり見える」と明かす。 一基で一千億円以上する迎撃ミサイルシステム「イージス・アショア」に象徴されるように、安倍政権は国難を理由に米国製兵器の購入にアクセルを踏む。 右肩上がりで増える日本の防衛費に、米軍需メーカー幹部は「安倍政権になってビジネス環境はよくなった」と手放しで喜ぶ。 追い風を吹かしているのがトランプ米大統領だ。約七兆円に上る対日貿易赤字をやり玉に挙げ、日米首脳会談のたびに、安倍晋三首相に米国製兵器や化石燃料などの購入を迫ってきた。 通商と安全保障をパッケージにして、兵器を「ディール(取引)」として売り込む。その姿は、さながら武器商人だ。元米海兵隊大佐で、日本戦略研究フォーラムのグラントF・ニューシャム上席研究員は「トランプ氏は、日本が自分の防衛を十分果たさず、米国にただ乗りしていると考えている」と指摘する。 「私は(安倍首相に)『われわれは巨額の赤字は望まない。あなたたちはもっと買わざるを得なくなるだろう』と言った。彼らは今も大量の防衛装備品を買い続けている」。米紙ワシントン・ポストによれば、トランプ氏は九月下旬のニューヨークでの記者会見の際、直前に行われた安倍首相との会談で、そう迫ったことを強調した。 対日貿易赤字の多くを占める自動車は、日本経済を支える基幹産業。トランプ氏が赤字削減のため、日本車の追加関税に手を付ければ、国内経済への打撃は避けられない。 「米国装備品を含め、高性能な装備品を購入することが日本の防衛力強化に重要だ」と応じた安倍首相。大統領の得意のせりふ「バイ・アメリカン」(米国製品を買おう)への抵抗はうかがえない。 「TPP(環太平洋連携協定)交渉で、自動車の輸出と農産物の輸入をてんびんに掛けられている農協の気分だ」。国内の防衛産業は、自分たちの食いぶちを奪われかねないと戦々恐々だ。ある大手メーカー幹部は、自民党の国会議員から「自動車を守るためのバーターとして、米国から高い武器をどんどん買えという流れになっている」と打ち明けられたという。 小切手を切ってくれそうなところに請求書が行くように、増大する日本の防衛費に米国が群がっている。「今や米国にとって日本は草刈り場だ」という寺島氏は、対米交渉に警鐘を鳴らす。 「日本に東アジアの安全保障に対するしっかりした構想がないから、米国に武器を売り込まれる。トランプ政権の期待に応えるだけでは利用されるだけだ」≫ <税を追う>歯止めなき防衛費(6)対外有償軍事援助 米優位 もの言えぬ日本 いつ電話してもつながらず、留守電に要件を吹き込んでも連絡がない。らちが明かずワシントン郊外の米国防総省から一キロ先の米軍のオフィスに乗り込んだ。中に入ると、あちこちで電話が鳴っていた。それでもスタッフらは構わずに目の前の業務を続けていた。 これは二十年ほど前、米国駐在だった防衛省職員が目にした「対外有償軍事援助」(FMS)を巡る米側の対応だ。米国から兵器を輸入する際、FMSでは米政府が窓口になる。 職員は「米軍の担当者は高飛車というか、売ってやっているという、上から目線を感じた」。防衛装備庁有償援助調達室の森伊知朗室長は「今も状況はほとんど変わらない」と語る。 FMSは米国に有利な取引で、価格や納期は米側が主導権を握る。昨年十月、会計検査院が装備庁に注文を付けたFMS取引の不備は、米国にもの言えぬ日本の立場を物語るものだ。 パーツ番号が合わない、数量が異なる、空欄のままになっている…。検査院が調べたところ、早期警戒機など二〇一四〜一五年度の六十四契約(総額六百七十一億円)すべてで、米側から届いた納品書と精算書の記載に食い違いがあった。検査院の担当者は「官の会計処理としてありえない」とあきれる。 しかも、食い違いは常態化していた。原因は米側にあるというのに、森室長は「こういうものだと思って米政府には改善を求めてこなかった」と釈明する。 契約金額は高額で、一歩間違えば日本に大きな損失が出る。米側に請求ミスがあっても、一年以内に通知しなければ補償してもらえない。にもかかわらず、確認を求めても回答は遅い。 検査院によると、米政府から「あまりに問い合わせが多いので、もっと絞ってくれ」と言われた職員までいたという。 食い違いを米側に問いただすのは最終手段で、米軍サイトで照合したり、書類の別の記載で類推したりしていたという。結果的にチェックは甘くなる。検査院は「十分に疑義を解明しないまま、装備庁は精算していた」と指摘する。 「日本は足元を見られている」。そう語る元航空幕僚長の田母神俊雄氏も、かつてFMS取引の理不尽さを味わった一人だ。 空幕装備部長だった約二十年前のこと。「リンク16」と呼ばれる米軍の情報共有システムの導入を決めた途端、米国は価格を一億三千万円から二億五千万円に引き上げてきたという。 「米軍幹部に直接、『信義にもとる』と抗議すると一カ月後、元の価格に戻った」と田母神氏。「なぜ価格が上がったのか、なぜ元に戻ったのか説明もない。FMSって常に米国の勝手なんですよ」。今も米国の言い値であることに変わりはなく、FMSへの依存度を強める日本の将来に危機感を抱く。 昨年十二月、検査院に背中を押されるように装備庁は、米政府に納品書と請求書の食い違いがないように求めた。だが米側の対応は鈍い。今年一〜八月の六十六契約のうち、食い違いは実に七割超の五十契約(総額二千百八十億円)で見つかっている。≫ <税を追う>歯止めなき防衛費(7)国内防衛産業 機関銃価格 米の7倍 「日本は米国の七倍の値段で買っている」 今年四月、財務省で開かれた財政制度等審議会の分科会。葛西敬之・JR東海名誉会長や永易(ながやす)克典・三菱UFJ銀行特別顧問ら経済界の大物委員の前で、主計局防衛係の内野洋次郎主計官が説明した。 やり玉に挙がったのは住友重機械工業がライセンス生産する軽機関銃「MINIMI(ミニミ)」。ベルギーの銃器メーカー「FNハースタル」が開発、一分間に七百五十〜千発撃つことができる。住友重機はハースタル社にライセンス料を払って設計図を購入、部品製造から組立まで行う。 自衛隊はMINIMIを一九九三年度から購入し始め、陸・海・空で約五千丁を保有する。以前は毎年二百丁前後調達していたが、二〇一三年に機関銃の試験データ改ざんが発覚した以降は大幅に減少。一七年度は四十八丁だった。 調達数の減少に伴い、単価が高騰した。同じライセンス生産をしている米国が一丁四十六万円、オーストラリアが四十九万円なのに対し、日本は三百二十七万円と七倍前後だ。 「さすがに納税者は許さないでしょう」。日本の防衛産業界に広い人脈を持つ関係者はため息交じりに漏らす。住友重機の担当者は財務省の指摘にはコメントせず、「今後も企業努力を重ねていく」と話した。 日本の防衛装備品が高額になる大きな要因の一つが「原価計算方式」。装備品は市場価格がないため、メーカー側が材料費や加工費などの原価を積み上げ、そこへ防衛省が一定の利益を上乗せして価格が決まる。利益率は製造業の平均を基にしており、関係者は「おおむね6%弱」と言う。 「原価が増えれば利益も膨らむ構造になっており、企業が自主的に原価を下げる方向には向きにくい。そうした問題点は以前から認識していた」。防衛装備庁の担当者はそう話す。 コスト意識が働きにくいだけでなく、原価を水増しして過大請求する事件も後を絶たない。最近十年間の主な事例でも、三菱電機の二百四十八億円など十三社で計四百九十五億円の過大請求が発覚。国庫に返納するとともに多額の違約金を支払っている。 装備庁は抜き打ち調査を増やしたが、一六年度の契約実績は約六千七百件、二兆円近くに上り、別の担当者は「検査する人がとても足りない」と言う。 防衛産業は専門性が高く自衛隊との関係は深い。防衛省と契約実績のある企業には毎年、自衛隊の一佐以上と本省課長相当以上の幹部だけで六十〜八十人で天下る。自衛隊のある元幹部は「再就職先の企業が仕事を取るためにOBを連れて来ることはある」と話す。 防衛産業界から政界への献金も毎年多額に上る。防衛省の契約上位十社のうち八社は一六年、自民党の政治資金団体「国民政治協会」に計一億三千二百八十万円という多額の献金をしている。八社の一六年度の受注額は地方分を除いて八千八百五十一億円と、全体のほぼ半分を占める。 改善されない高コストや繰り返される水増し請求。財務省幹部は「防衛産業というムラ社会で、競争力が落ちている」と指摘する。 その背後に政界と業界、防衛省・自衛隊のもたれ合いが浮かび上がる。≫ <税を追う>歯止めなき防衛費(8)中期防兵器リスト 「八掛け」で詰め込む 「機動戦闘車、九十九両」 「ティルト・ローター機(輸送機オスプレイ)、十七機」 「戦車、四十四両」…… 二〇一三年十二月に閣議決定した現行の中期防衛力整備計画(中期防)。一四〜一八年度の防衛費の総額を二十三兆九千七百億円程度と定め、購入する兵器の名前がずらりと記してある。中期防は五年ごとに策定される、いわば兵器の「買い物リスト」だ。 各兵器の防衛省の見積額は、企業との取引に影響があるとして非公表だが、財務省が実際の購入額と比較すると、見積もりのずさんさが浮かび上がった。 機動戦闘車は一両四・八億円の見積もりに対し、購入額は七・一億円(48%増)。オスプレイは一機六〇・五億円→七四・六億円(23%増)、戦車は一両十億円→一一・五億円(15%増)など、二十二品目のうち十五品目で見積もりより高騰していた。 価格が高騰すれば数量を減らす必要が出てくる。国産の機動戦闘車は十二両、戦車は四両減らした。C2輸送機(一機二〇六・四億円)も当初の十機から七機に。計九品目で目標を達成できないという、ちぐはぐな結果だ。一方、オスプレイは計画通り十七機を米国から輸入する。その分、他の兵器を減らした格好だ。 「こんなに購入単価が上がってしまっては(購入する)数量が達成できないのは当たり前だ。コスト管理ができていない」。財務省幹部は指摘した。なぜ取得価格は上がったのか。 防衛省の末永広防衛計画課長は「消費税率が5%から8%に上がり、装備品によっては加工費や材料費も上がった」と説明。為替レートが円安になり、米国から兵器を調達するコストが増えたことも原因に挙げたが、財務省は為替の影響額を除いて計算しているので理由にならない。 現場からは、別の声が聞こえる。「『ポツハチ』を掛けたりするんだよ」。十年ほど前に退官した元自衛隊幹部が明かした。ポツハチとは「見積もりを0・8倍する」という意味だ。 「中期防のリストに(兵器の)アイテムが載っていないと、絶対に事業化されない。だから、見積額を八掛けにして無理やり入れている、というのが実態だ」 このため調達の際には当然価格が上がり、逆に数量が減る事態が起きる。会計部署を経験したことがある現役自衛官の一人は「中期防に詰め込むだけ詰め込むやり方は、今も変わっていない」と証言する。 「F35戦闘機や無人偵察機グローバルホーク、(ミサイル防衛に使う)イージスシステムなど、日本は高価な装備品を好むようだ」 そう指摘するのは元米海兵隊大佐で日本戦略研究フォーラム上席研究員のグラント・ニューシャム氏。例に挙げた兵器はいずれも米国製だ。政府は来月、一九〜二三年度の新しい中期防を決定するが、ニューシャム氏は戦略的視点が欠けているとする。 「必要なものが何か。包括的・体系的に評価しないまま兵器を購入している。買うだけでなく、金額に注意を払い、必要に応じてお金を使うべきだ」 ≫ <税を追う>歯止めなき防衛費(9)米軍再編費、要求ゼロ 膨らむ予算「裏技」駆使 「要求額を見掛け上、小さくしていると批判が来ることは分かっていた。でも、そうせざるを得ないほど、後年度負担がのしかかっている」。防衛省の幹部が正直に打ち明けた。 二〇一九年度予算の概算要求は、本年度当初予算から2・1%増となる過去最大の五兆二千九百八十六億円。防衛費の概算要求上限のぎりぎりの額だが、実はそれでも足りず、本来盛り込むべき費用を外していた。本年度二千二百億円を計上した米軍再編関係費だ。 原因は後年度負担と呼ばれる国産・輸入の兵器ローンにある。安倍政権による米国製兵器の輸入拡大に伴い、一九年度の返済は二兆七百億円に。同時に返済額より四千四百億円多い新たなローンが発生する。まさに自転車操業。ローン残高はわずか六年間で二兆一千億円も増え、来年度は五兆三千億円を超す。 幹部は「概算要求に米軍再編関係費を入れるとパンパンになる。そこで上の判断でゼロにした」と言う。毎年発生する経費のため、通常は前年度と同額を仮置きするが、今回は額を示さずに項目だけ入れ、判断を政府に投げる異例のやり方にした。例年通りに盛り込んでいれば総額は五兆五千億円を超え、6・3%の伸びとなる。それを「小さく見せた」のだった。 防衛費は北朝鮮情勢や中国の海洋進出などを理由に六年連続で増加している。第二次安倍政権発足後、毎年1%超と伸びているのは他に社会保障費だけだ。 戦闘機F35や輸送機オスプレイ、早期警戒機E2Dなど、米国の対外有償軍事援助(FMS)に基づく輸入兵器のローン残高は、一三年度の千九百十九億円から本年度は約六倍の一兆一千三百七十七億円。そこへ機動戦闘車や潜水艦など高騰する国産兵器が輪を掛ける。 ある幹部自衛官は「予算は増えても全然足りない。もっとつけてもらわないと日々の活動費を削らなければならない」と言う。 増え続ける本予算だけでは足りず、防衛省は補正予算にもローン返済を組み込む「裏技」を使うようになった。 補正は災害対応などが本来の趣旨だが、一四年度以降は艦船やミサイルの取得費の計上が常態化している。政府ぐるみでなければ、とてもできない。予算編成に詳しい防衛省の元幹部は「かつて補正で装備品を買うことは考えられなかった。何でもありになっている」と懸念している。 見た目以上に膨張している防衛費。安倍晋三首相は年末に策定する新しい「防衛大綱」と、向こう五年間の「中期防衛力整備計画(中期防)」に向け、ことあるたびに「従来の延長線上ではない防衛力」を強調してきた。防衛費拡大の布石は至るところに打たれている。 「今のような政策を続け、中期防で予算を積み増していけば、どこかで財政的にパンクする。専守防衛で許される防衛力とは何か。根源的な議論が必要だ」。軍事ジャーナリストの前田哲男さんは、なし崩しの防衛費増大に危機感を覚える。 予算増大の圧力が国の内外で強まり、専守防衛が揺らぐ。財政が危機的状況の中で、軍備増強を進める北朝鮮や中国と競うように、日本は軍拡へと転換するのか。来月示される政権の結論を注視する必要がある。≫ <税を追う>歯止めなき防衛費(10)辺野古新基地建設 県民抑え 際限なき予算 ボートの舳先(へさき)に座る黒ずくめの乗員が威嚇するように、抗議船にビデオカメラを向けている。サングラスに黒のマスクで顔を覆った乗員は拡声器を手に、ひっきりなしに警告する。「ここは臨時制限区域です。速やかに退去してください」 沖縄県名護市辺野古(へのこ)の米軍キャンプ・シュワブから約五百メートルの沖合。今月二十日、海上で新基地建設に抗議する小型船に同乗した。工事区域への立ち入りを規制するフロートの内側にいたのは、防衛省沖縄防衛局から警備業務を請け負った民間警備艇だった。 一日から海上工事が二カ月ぶりに再開。美(ちゅ)ら海(うみ)は再びフロートで仕切られた。基地反対運動を撮り続ける名護市の写真家、山本英夫さん(67)は「国はカネがないと言いながら、ここでは基地反対の民意を抑えるために毎日二千万円も使っている。モリカケ疑惑なんかの比じゃないよ」と、警備艇に怒りをぶつけた。 新基地建設が本格化した二〇一四年度以降、海上保安庁の警備に加え、民間の警備艇が二十四時間態勢で監視している。海上警備の予算は一五〜一七年度で計百六十一億円。座り込みが続くシュワブ・ゲート前での陸上警備の予算を合わせると、三年間の総額は二百六十億円に上る。 「一日二千万円の警備費」は、新基地に反対する「沖縄平和市民連絡会」メンバーで元土木技術者の北上田毅(きたうえだつよし)さん(72)が防衛局への情報開示請求で暴いた。「一日の人件費が一人九万円で積算されており、あぜんとした。国策だったら何でもありなのか」と嘆く。 その後、会計検査院が海上警備費を調べると、防衛局は「業務の特殊性」を口実に国の単価ではなく業者の見積もりをそのまま採用していたことが発覚。一五〜一六年度で計一億八千八百万円を過大発注していた。 コスト意識の乏しい防衛局。それが、かえって県民の反感をあおっている。名護市の自営業、島袋正さん(58)は訴える。「ヤマト(本土)の人は、辺野古は沖縄だけの問題と思ってるかもしれないが、自分たちの税金が無駄に使われているわけさ。国民一人一人にしわ寄せが来てるんよ」 そもそも政府は当初から「禁じ手」を使っていた。 一三年十二月、当時の仲井真弘多(なかいまひろかず)知事が辺野古埋め立てを承認すると、政府は一四年七月、建設費百四十二億円を予備費から支出した。国会審議を経ずに閣議決定だけで支出できる予備費は、災害などの緊急時に限られる。沖縄では当時、建設反対の大きなうねりが広がっていた。 「野党の追及を避け、基地建設を強行したい政権の姿勢が表れている」と分析するのは新藤宗幸・千葉大名誉教授(行政学)。「予算は国会の議決が必要という財政民主主義に反する姑息(こそく)な行為」と批判する。 埋め立てすら手付かずなのに、辺野古には既に千二百七十億円が支出されている。政府が当初、想定した総事業費は三千五百億円以上。巨額の税金を垂れ流しながら、今後いくらかかるのか、見通しさえ国民に明らかにしようとしない。 沖縄選出の赤嶺政賢衆院議員(共産)は金に糸目を付けない政府のやり方に憤る。「辺野古で予算なんてあってないようなもの。県民を黙らせることが予算の最大の要件なんだ」 =おわり (鷲野史彦、原昌志、中沢誠、望月衣塑子、藤川大樹が担当しました) ≫(東京新聞) |
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