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犠牲精神を何より求める「星野君の二塁打」のトンチンカン 安倍政権が推進 アブない道徳教育
https://www.nikkan-gendai.com/articles/view/news/242132
2018/11/22 日刊ゲンダイ
謝罪会見にひとり臨んだ日大の宮川泰介選手(C)日刊ゲンダイ 読み物教材の押しつけ教訓話といえば、極め付きは「星野君の二塁打」である。学校図書や廣済堂あかつきが出版する小学校6年生の教科書に掲載されている。 舞台は少年野球チーム。打席の星野君に監督はバントのサインを出した。しかし、打てそうな予感がした星野君が反射的にバットを振ると結果は二塁打となり、この一打がチームを勝利に導く。だが翌日、監督は選手たちに重々しい口調で語り始めるのだった。チームの作戦として決めたことは絶対に守るという監督と選手間の約束を持ち出し、全員の前で星野君の行為をとがめる。 「いくら結果がよかったからといって、約束を破ったことには変わりはないんだ」 そして、星野君は市内野球選手権大会への出場禁止を命じられる。 この教材は、文科省の定めた学習指導要領の「よりよい学校生活、集団生活の充実」に対応している。それを前提にすれば、当然、「集団生活を乱さないことは個人の考えより重要」との結論になるに違いない。しかし、監督の指示が適切でないと思える場合でも、それを100%守らなければいけないのだろうか。星野君はペナルティーを与えられるほど悪いプレーをしたのだろうか。 ■「宮川君のタックル」方がよほどリアル 今年起きた日大アメフト部悪質タックル事件は記憶に新しい。監督の指示に従い、相手選手に反則タックルを仕掛けて大ケガを負わせた宮川泰介選手は、全てを告白してひとりで謝罪会見を行った。タックルで相手を潰さなければ自分は試合に出させてもらえないという葛藤の中で、彼は監督の指示に従ってしまったことを深く悔いたのである。 果たして、監督の指示を忠実に実行した宮川選手はいけなかったのか、もしそうだとしたらどこが問題なのか、自分だったら指示を拒否できるか――。この「宮川君のタックル」の実話の方が、よほど集団の中での自分の役割を考え、議論する材料に適している。 さらに、「星野君の二塁打」には聞き捨てならないセリフがあるのを指摘したい。星野君を叱った監督は言う。 「ぎせいの精神の分からない人間は、社会へ出たって、社会をよくすることなんか、とてもできないんだよ」 え? 犠牲の精神が分からないとダメ? そんなバカな。戦前の大日本帝国憲法下では、特攻隊のように国の犠牲になるのが尊いとされたかもしれないが、現行の日本国憲法は誰の犠牲も求めていない。学習指導要領にだって、「様々な集団の中での自分の役割を自覚」するようにと規定されているものの、犠牲なんていう言葉はどこにも出てこない。 まさか、犠牲の精神の強要? 「道徳教科書が危ない」と訴えたくなるのは、こんなところなのである。 (つづく) 寺脇研 京都造形芸術大学客員教授 1952年、福岡市生まれ。ラ・サール中高、東大法学部を経て、75年に文部省(当時)入省。初等中等教育局職業教育課長、大臣官房審議官、文化庁文化部長などを歴任し、2006年に退官。ゆとり教育の旗振り役を務め、“ミスター文部省”と呼ばれた。「危ない危ない『道徳教科書』」など著書多数。
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