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【正論】ロシアに領土問題解決の意思はない 新潟県立大学教授・袴田茂樹/産経新聞
2018.9.17 11:00
https://www.sankei.com/column/news/180917/clm1809170006-n1.html
ロシアのフォーラムでプーチン大統領から、一切の条件なしで年内に平和条約を締結し、領土問題などはその後討議との提案があった。日本政府は大いに困惑し、国民も驚いた。ただ私自身はついにプーチン氏は本音を述べたな、と思っただけだ。この提案の意味、背景、日本はどう対応すべきか−3点について述べたい。
≪プーチン氏の姿勢は明確だ≫
まずこの発言では、領土問題解決といった条件を付けずに平和条約を締結し、その後全ての問題を解決しようと述べている。「四島の帰属問題を解決して平和条約を締結」という、プーチン氏自身がかつて認め、日本が今も忠実に守ろうとしている日露両国の合意を真っ向から否定するものだ。
この合意は、彼が署名した2001年の「イルクーツク声明」、03年の「日露行動計画」に明記された東京宣言の基本命題だ。国会による批准の承認なしでも有効な宣言ということも、彼は十分承知して署名した。
平和条約が本来「領土問題など基本的な戦後処理の終了」を意味する以上、平和条約締結後の領土交渉はあり得ないし、日本側の期待を繋(つな)ぐための言葉の綾(あや)だ。わが国が1956年に平和条約を結ばなかった唯一の理由は領土問題の未解決である。今回のプーチン氏の提案は、四島の帰属問題解決という(これは強硬論ではなく中立的表現だからこそ彼も認めた)平和条約締結の前提条件を、ひいては過去の条約交渉を全否定するもので、現実には領土問題解決の意思はない、と言ったに等しい。
≪本音を理解し幻想を捨てよ≫
発言の背景であるが、彼自身「シンゾウがアプローチを変えると言ったから」と述べた。2016年5月に安倍晋三首相はソチで、従来の領土交渉の発想に捕らわれない「新アプローチ」を提案した。露側の首脳は例外なくこれを「領土問題を棚上げして経済協力を中心に」と理解しているが、日本側は是正してこなかった。
また今回のフォーラムでプーチン氏の発言直前に安倍首相は、経済協力などに多く触れながら平和条約にも4度言及した。しかしその際に「四島の帰属問題を解決して」という基本的条件を付していない。さらに、首相は平和条約に関して「今やらないで、いつやるのか、われわれがやらないで、他の誰がやるのか」と述べた。プーチン氏の発言は、これらに対する反応とも言える。
プーチン氏は前々日の日露首脳会談の際、数十年続いた平和条約交渉が短期間に決着すると考えるのは稚拙だと述べた。また昨年11月のベトナムでの記者会見では、平和条約締結のとき「誰が両国の首脳か、安倍とプーチンか、その他の者かは関係ないし重要でもない」と断言した。これは、自分の任期中に平和条約を締結するつもりはない、と言ったに等しい。これらの発言は、「年末までに平和条約締結を」という提案と全く逆に見えるが、そうだろうか。
実はこれまで日露が平和条約というときは、北方領土問題を意味していた。だから「任期中に結ぶ意思はない」「長期的問題」という意味の発言となったのだ。しかし今回はあえて「一切の条件なしで」と述べて、平和条約の意味を全く変えた。結局、領土問題解決の意思はない、という意味ではプーチン氏の態度は一貫している。
だからこそ05年9月の国営テレビで「第二次世界大戦の結果南クリール(北方四島)は露領となった」と初めて発言して以降、その主張を繰り返し、日本側を歴史の「修正主義者」としているのである。プーチン氏の対日姿勢は柔軟で露外務省が強硬派というのは神話で、単なる「分業」だと私は述べてきたが、彼の本音をしっかり理解し、幻想を捨ててほしい。
≪日本の考えを世界に発信せよ≫
では、わが国としてどう対応すべきか。今回のようなフォーラムや日露共同記者会見の時、プーチン氏は露側の論理や日本批判の言葉を、間違っていても平然と述べる。今回彼は、日ソ共同宣言の領土条項は、1960年にソ連側が日米安保条約改定を口実に破棄したのに「日本側が実行しなかった」と虚偽を述べた。2016年12月の日露共同記者会見では、北方領土問題の歴史について露側の歪曲(わいきょく)された論理を縷々(るる)述べた。
このような時、日本側は冷静に「露側の考えは興味深く伺った。この機会に、われわれが確信している考えを述べたい」と理路整然と日本の見解を述べ、それを政府サイトから日本語と主要言語で世界に発信すべきだ。「大統領発言にいちいち反応しない」との日本首脳の言は客観的には卑屈で、露側の論理の容認と拡散を招く。
露上院議長が来日したときも、勝手放題に日本側見解を否定する論を述べた。伊達忠一参議院議長が7月に訪露した際、上院での講演で露側の誤解を正す発言は一切していない。露人はすり寄ってくる相手は喜んで利用するが見下す。逆に緊張感を与える相手は、時に不快に思っても一目置く。露人は敬意を抱かない相手とは絶対に本気で交渉はしない。(はかまだ しげき)
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