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来年の消費増税、見送りの可能性(1)…安倍首相、再び選挙のカードに利用
https://biz-journal.jp/2018/10/post_25182.html
2018.10.19 文=荻原博子/経済ジャーナリスト Business Journal
安倍晋三首相(写真:AP/アフロ)
「安倍晋三首相が、予定通りに来年10月から消費税率を10%に引き上げる方針を固めた」というニュースが、日本中を駆け巡りました。10月14日に読売新聞が一面で報じ、遅れて15日に各紙が報じました。
実際に、15日の臨時閣議で安倍首相は消費税を引き上げる方針を示し、自ら「あらゆる施策を総動員し、全力で対応する」と述べています。これを見て、誰もが「やはり消費税は上がる」と思ったことでしょう。しかし、私は安倍首相は消費税を上げないと思います。以下は、私が「消費税引き上げはない」と思う3つの理由です。
(1)来年は、大きな選挙が2つある
(2)消費税引き上げには、アメリカのドナルド・トランプ大統領が大反対する
(3)反対倍増で、政府の増税対策が裏目に出そう
この3点が、私が「安倍首相は消費税を上げない」と思う論拠ですが、この理由が妥当かどうかの判断は、読者のみなさんに委ねたいと思います。
■2つの選挙で起きた「地方の反乱」
まず、ひとつ目の「来年は、大きな選挙がある」から見てみましょう。
2019年には、4月に統一地方選挙、7月に参議院議員選挙という、2つの大きな選挙があります。国政選挙では負け知らずの安倍政権ですが、ここにきて地方に弱い状況が露呈しています。
9月に行われた自民党総裁選挙は安倍首相vs.石破茂氏の一騎打ちとなり、当初は安倍首相の圧勝と見られていました。しかし、蓋を開けてみると、山形、茨城、群馬、富山、三重、島根、鳥取、徳島、高知、宮崎の10県で石破氏が安倍首相の得票数を上回り、地方票の45%を獲得する結果になりました。
さらに、選挙中に斎藤健農林水産大臣(当時)が「石破さんを応援するんだったら辞表を書いてからやれ」と圧力をかけられたと発言。安倍陣営が全力で締め付けをしているにもかかわらず、こうした結果が出たことで、「地方の安倍離れが鮮明になった」という印象を内外に与えました。
続く沖縄県知事選挙では、名護市辺野古新基地建設反対を貫いた翁長雄志前知事の遺志を継ぐ玉城デニー氏が大勝。安倍政権は、ヒト・モノ・カネを注ぎ込み、菅義偉官房長官をはじめ、人気者の小泉進次郎議員に至っては3度も沖縄入りさせたにもかかわらず、大差で敗れました。
さらに、10月14日の豊見城市長選挙では、同様に翁長氏の遺志を継ぐ「オール沖縄」で新人の山川仁・前豊見城市議会議員が、自民党、日本維新の会、希望の党が推した前市長を大差で破って市長の座を獲得。那覇、南城、豊見城と、玉城県政を支える勢力が拡大しています。
こうした選挙を通して、安倍首相も、地方では今までの選挙のように、ヒト・モノ・カネ・圧力の4点セットが効かなくなっていることを痛感しているのではないでしょうか。そうなると、来年の選挙に勝つためには“サプライズ”が必要ということになります。
■消費税に関与した首相は選挙で大敗の歴史
安倍首相が来年の選挙で繰り出すサプライズは、「消費税の先送りカード」しかありません。なぜかという説明の前に、これまでの経緯を見てみましょう。実は、消費税に関与した歴代の首相は選挙で惨敗する運命をたどっています。
1979年1月、大蔵省(現・財務省)出身の大平正芳首相は消費税導入を閣議決定し、同年の衆議院議員選挙では自民党が過半数割れに陥っています。89年4月に3%の消費税を導入した竹下登首相は、大蔵大臣(現・財務大臣)を兼務していたことなどから消費税導入に積極的でしたが、リクルート事件で内閣総辞職に追い込まれ、その後の参院選では大敗しました。その後、97年4月に消費税を3%から5%に引き上げたのが、橋本龍太郎首相です。しかし、翌98年の参院選で大敗し、それを受けて首相を辞任しています。
その後しばらく、消費税は5%で推移しましたが、2011年に民主党の野田佳彦氏が首相となり、消費税を10%に引き上げる「3党合意」を自民党、公明党との間で12年6月に交わしました。そして、同年12月の衆院選で民主党は大敗し、政権を失います。
このように、歴代首相は消費税に関与した後に悲惨な末路をたどっています。しかし、安倍首相だけは、消費税を5%から8%にアップしたにもかかわらず、国政選挙で大勝し続けています。これは、どういうことなのでしょうか。
■安倍政権が消費税を上げても選挙で勝つ理由
歴代首相が消費税に呪われたように没落しているなかで、なぜ消費税を5%から8%に引き上げた安倍首相だけが国政選挙で全勝の快進撃を続けているのか。それは、次の表を見ていただければ一目瞭然です。
14年4月、17年ぶりに消費税が5%から8%に引き上げられ、国民の税負担は年間で約8兆円増えると予想されました。その予想通りに消費は低迷し、アベノミクスはあっけなく失速してしまいました。
そのため、歴代首相と同じように、安倍政権も選挙の洗礼を受けて没落するはずでした。ところが、ここで出してきたのが、歴代首相は誰も使ったことがない「消費税増税先送り」というサプライズカードだったのです。
景気が良くないことを理由に、15年10月に予定されていた消費税引き上げを17年4月まで先送りすることを表明しました。その表明が11月18日で、5日後の23日には、「消費税増税延期について国民に信を問う」ということで衆議院を解散しました。信を問うも何も、消費税が上がらないことで不平を言う人などほとんどいるはずもなく、14年の衆院選は消費税増税後初めての国政選挙であるにもかかわらず、安倍政権は大勝しました。
さらに、16年6月には、17年4月に行われるはずの消費税引き上げを19年10月に再延期することを表明。この表明が行われたのは、参院選公示の3週間ほど前でした。その際の理由は、「これまでのお約束とは異なる、新しい判断だ。公約違反ではないかとのご批判があることも真摯に受け止めている」というものでした。しかし、新しい判断だろうがなんだろうが増税されないならうれしいということで、参院選は定員242議席中自公で146議席(+11)の過半数を占める大勝でした。
さらに、17年の9月28日解散、10月22日投開票の衆院選では、すでに消費税増税が19年10月に先送りされているので消費税が選挙戦の障害とはならず、安倍政権は再び圧勝しました。
こうして見ると、安倍政権のこれまでの国政選挙の常套手段は「消費税増税先送り」というサプライズカードだったことがわかります。だとすれば、来年の2つの大きな選挙でも、ヒト・モノ・カネ・圧力が効かなくなるなか、このサプライズカードを使わずに安倍政権が負けるというシナリオは考えにくいでしょう。
■弱体化した財務省の涙ぐましい努力
実は、歴代首相が使わなかった「消費税増税先送り」というカードを安倍首相だけが使うことができたのには、理由があります。それは、安倍首相だけが財務省とのしがらみがない珍しい首相だったからです。
大平元首相は、大蔵省出身。竹下元首相、橋本元首相、野田元首相は、そろって大蔵・財務大臣出身。一方、安倍首相は財務省にはなんの義理もないので、選挙のために「消費税増税先送り」のカードを切ることに、ためらいも抵抗もないのでしょう。ちなみに、消費税が17年間も引き上げられずにいたのは、その間に財務省の力が弱まっていたからです。
大蔵省の時代、同省は「官僚の中のキング」と言われ、絶大な権力を持っていました。しかし、1998年に大蔵省を舞台とした汚職事件、俗にいう「ノーパンしゃぶしゃぶ事件」が発覚します。そして、2001年の省庁再編で大蔵省は解体されて財務省となり、金融行政は内閣府の外局として新たに設立された金融庁に移されました。
その結果、「官僚の中のキング」と言われた旧大蔵省の力は著しく削ぎ落とされたのです。時を同じくして首相の座に就いた小泉純一郎元首相は、大蔵省と手を組んで消費税にかかわった首相がことごとく失墜していることを知っていたので、さっさと「任期中は消費税を上げない」と宣言し、増税から逃げてしまいました。
今、財務省は、安倍首相になんとか消費税を上げさせようと躍起です。そのため、公文書の改ざんまでして涙ぐましい努力をしていたことは、本連載でも『森友文書改ざん、裏に財務省の消費増税延期阻止への「執念」』『【森友】財務省、文書改ざんしてまで「安倍昭恵氏の関与」を隠蔽したかった理由』で指摘しています。
いずれにせよ、安倍首相に弱い財務省が、「消費税増税先送り」のカードで政権基盤を強化してきた安倍首相の気持ちを増税に傾けることは、まず難しいでしょう。
残り2つの理由については、次回以降に見ていきたいと思います。
(文=荻原博子/経済ジャーナリスト)
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